SATAN-サタン-〜モモカと悪魔〜

夜羽

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#01【二つの世界】

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薄暗くつめたい冷気が漂う。
空は黒くランタンを照らさないと何も見えない程の道を進む。
ミシミシと小枝や雑草を踏む音だけが響く。

ここは魔界の西側に位置する最奥の森。
黒いマントを被った悪魔の行列が森の奥へと
突き進んでいる。
人数は十数人といったところ。
その列の2番目を俺は歩く。

「ここか…。」

先頭の悪魔が止まった。
前を覗き込むと石碑がたっている。
これが噂の裏世界へ通じる門…。

今から行われるのはこの魔界から別の次元の世界に行くための儀式。
俺たち調査隊悪魔はこの儀式を通して裏世界に侵入するのだ。
「裏世界」は人間の多く住む世界といわれている。
そこに住む人間達は無論だが魔界に住む人間とは全くと言っていいほど異なる文明を築いる。
そして裏世界へ行くことが成功した暁には
特攻隊を送り込み征服する。
そう 我々悪魔は魔界を制した。
だから次の目的は裏世界の人間達を奴隷にすること。そして悪魔の移住範囲として確立するのだ。

コトっ

調査隊長の悪魔が石碑に転移の鍵を置く。
転移の「鍵」といっても見た目は手で握れるほどの大きさの石だ。
この石にはまじないがかけられていてこれを石碑の上に置き行きたい場所を言う…
と別次元への入り口ができるらしい。

「裏世界へ」

ググググググ!

隊長が唱えると石碑の奥の空間が歪み始めた。そして見る見るうちに空間に裂け目がはいり大きな穴となった。
初めてみたがこれが裏世界への入り口なのか…。

「まずは様子見だ。行けラル。」

隊長が言う。上がったのは俺の名前だ。

「はっ はい。」

俺は返事する。
いや。正直怖い。なんでこう言う時に限って俺なんだ。自分で行けばいいだろ…。
まぁでも上に逆らったら重い処分は免れないからやるしかないんだけど…。

「そこまでだ!全員手を挙げろ…。」

なんだ?

「ガァっ…」

「グハッ…」

後ろを見ると列の悪魔が数人倒れている。
何が起きてる!?

「ネズミが一体まぎれてたとはなぁ…。」

隊長がドスの効いた重い声で言う。

よく見ると列の1番後ろの黒マントが拳銃を
突きつけている。俺に。

何がどうなってやがる。

すると黒マントを脱ぎ捨てた。
悪魔じゃない…。
人間の女だ。

「転移の鍵を渡せ!」
俺に拳銃を向けながら続けた。

ヤツはスパイか?
なんで今まで気づかなかった。
悪魔に姿をかえていたとでもいうのか!?

「さもなければそいつを撃つ」

はっ 人間なんかに殺されるわけねぇだろ…。

「ふっ」

隣で隊長が笑った。

「死ね!!!」

隊長が言うと同時に懐から拳銃を取り出す。

ドン!!

「グァあああぁぁ!!!」

隊長の悲鳴が上がった。
撃たれたのは隊長の方だ。
手に血を流しながらひざまずく。

「次はお前だ」

なんだこれ…ヤバイって。
こいつ隊長の早撃ちを見切ったっていうのか?!
しかも普通の弾丸じゃなかった。
あれは魔導銃だ。
あいつ 魔導使いなのか!?

「早く行けラル!!任務を遂行しろ!!」

隊長が倒れながら俺に叫ぶ。

俺の真後ろには裏世界への入り口があり
足元には転移の鍵がある。

どうする…。

いやもう正直任務がどうなんてどうでもいい。魔導銃相手に俺がかなうはずがない…。
このまま後ろに逃げ込もうとすれば確実に撃たれる。いやそもそも逃げ込むことに成功しても追ってくるだろう。

俺だけが裏世界に逃げ込むにはこの入り口を
閉める必要がある。
そのためにはおそらくこの足元の石を拾わなければいけない…。

「何をしてるぅ!!」
隊長がうめきながら叫ぶ。
恐ろしいが今は任務どころじゃない。

賭けだ。今思いつく方法はコレしかない。
この方法で決着をつけよう。

「ん!?」
女が反応した。

俺は両手をあげた。

「なにをしてるぅキサマぁぁ!!」

隊長が叫ぶのを無視して俺は女に向かって言う。

「石は足元にある。これが欲しいんだろ!」

「ふっ」

すると 女が用心深くこちらに近づいてくる。

「キサマ自分が何をしているのかわかっているのか!!」

コツコツコツ。
徐々に女が迫ってくる。
そして石の前で止まる。

腕一本分ほどの距離で俺と女は睨みあう。

一呼吸したあとに俺は決心して言う。

「拾えよ。」

女が俺を警戒しながら沈黙する。

しかし5秒ほど経ってから女は動いた。

女がかがんで石を手に取った。

今だ!!

俺はすかさず女の後ろに回り込んだ。

すると女は拳銃を構え後ろを向こうとした。

だがそれはもう遅かった。

「うおぁぁぁ!!!!」

「なに!?」

俺は女ごと背中から押し倒し裏世界の入り口に押し込んだ。

ググググググ!

次元の裂け目が閉じていく。

「何をする!!」

女は必死で拳銃を構えようとするが
バランスを崩して身動きがうまく取れていない。
俺は後ろから女の腕をしっかり抑える。

やってしまった…。

俺の思うようにはいったが。
この後一体どうなるんだ…。

今更ながら このまま本当に裏世界へ行くのか…!?

こいつと一緒にか!?

その時掴んでいた女の腕が異次元空間の強風によって離れてしまった。

しまった。
石を持ってかれる!!

「何してくれるんだ この悪魔め!!」

それはこっちのセリフなんだよ!!

女は魔導銃を構え銃口を俺に向ける

やばい。

「らぁぁ!!」

ドン!!!

銃弾は俺の耳横をカスッた。

強風に煽られうまく狙いを定められないんだな!

でもあぶねー 死ぬかと思った!!

「次は外さない!!」

ビキ ビキ…。

何かにヒビの入る音が聞こえる。

その時だった。俺を外して飛んでった銃弾が
異次元空間に穴を開けた。

「え!?」

俺は後ろを振り返った。

ゴォオオオオオオ!!

穴に風がものすごい勢いで吸い込まれている。

「なんだこれ!!?」

もう次から次へと…。

そしておれは穴に吸いよせられた。
穴の縁につかまり 穴に落ちるのをギリギリで耐える。

「何してくれてんだよ!!?」

「しっ知らないわよ!!」

女も少しうろたえてる。

もう どうにでもなれ。

正直もう疲れた。

思えば今日は散々な1日だった。

そして俺はこの穴に吸い込まれ死ぬのか。

こんな意味不明なやりとりなんかで…。

まーでも生きて帰っても酷い処分が決まってるのは確実だろうし。

このまま死ねるなら。

死んだ方がマシか。

だが …してやられたよ。

魔界の人間は全員奴隷となり監視されていると聞いていたが。動けるやつが残っていたとはな…。

まぁ 今となってはどうでもいいこと。

どうせ俺はもう死ぬんだから。

パッ

握力に限界が来たわけじゃないがこのままいてもたっても状況は変わらない。

俺はゆっくりと手を離した。

ズオオォオオオオオオ。

俺は穴に吸い込まれていく。

一瞬だったが俺が生を諦めたことに驚く
女の顔が見えた。

まあ もう どうでもいいか…。

真っ暗な空間へと俺は吸い込まれていった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  

チュン チュン。

鳥の鳴き声が聞こえる。
音がこもって聞こえるからきっと外で鳴いているんだ。

外?

俺は今室内にいるのか?

記憶が…飛んでいる。

俺は寝ていたのか?

そうだ。俺は裏世界の入り口に飛び込んで…。

異次元空間の穴に吸い込まれて気を失ったんだ。

でも…。生きてたのか。

ここはどこだ…。

布団の中? 

すごくあたたかい。

そして甘い良い香りがする。

なんの香りかはわからないが…。

石けんのような香り。

俺はゆっくりと瞼を上げる。

…。

なんだ?見たことない天井…。

見たことない形の机。

イスも。

部屋なのか!?ここは!?

下は!?

ん?

何か聞こえる。

スゥ…スゥ。

吐息!?

俺は少し起き上がり下方向を見た。

「!?」

すると横からベットに腕を乗せまくらにして
寝ている子供がいる。

「わっ!!」

俺は思わず叫んでしまった。
人間の子供だ。

なに!?

どういう状況!?

とにかく逃げよう!!

俺はベットから出ようとした。

その時だった。

「んぅん? あれ…気がついた!?」

俺のことを言っているのか!?

「あのっ身体大丈夫ですか?」

ドタっ!!

「わっ!?」

俺はベッドから這い出た。

部屋のドアを開け廊下の様な場所にでる。

部屋がいくつかある。

でも複雑な迷路ではなさそうだ。

ここは家なのか!?

階段だ。

ここは二階?

ガチャ!

「ちょっと…まって!逃げないで下さい!」

後ろから声が聞こえてくる。

まずい。捕まったらどうなるか分からんぞ。

俺は急いで階段を駆け下りる。

その先にドアがある。

ガチャ!

俺は勢いよくドアを開けた。

すると光がさし込む。

俺は何歩か駆け抜けると立ち止まった。

「なんだ…ここは。」

遠くまで続く青い空。
見たことのない形状の家がたくさん。
そして遠くには長方形をした塔みたいなものもちらほら見える。
そして灰色の石の壁が 道に沿って長く続く。
俺は戸惑い一歩引いた。

…とにかくどこかに姿を隠そう。

俺は進もうとする。

ガチャ!

「まっ…まって!逃げないで!」

追ってきたか!

「まっ…ごほっ ごほっ。うっ」

「!?」

俺は少し後ろを振り返った。
すると追ってきた人間の子供が立ち止まり咳をしている。

ふっ残念だったな。
なんだか分からないが撒けそうだ。
俺は前を向き直しまた走り出そうとする。

ドッ!!

「あー!!イッテーー!!」

「おい どこ見て歩いてんだ コラ。」

また後ろでなにかが起きた。
次はなんだ!

また俺は振り返る。
すると俺を追いかけてきた子供が
男二人に囲まれている。

「ごっ ごめんなさい…。」

「はぁー!?お嬢ちゃん謝れば済むとおもってんの!お嬢ちゃんのせいで腕ケガしちゃったんだけど!」

「慰謝料払ってもらわないと~!!」

なんだ?人間同士で揉め事になってる。
こんな光景初めてみたぞ…。

「おっ…お金は い…今持っていなくて…。」

子供のほうが完全に怯えてやがる。
なんだこれ…。
俺を追ってきたんだろ?
なんか俺が悪いみたいじゃん…。

「はぁ!?なめてんじゃねーぞ?」

男が子供の肩に手を掛けた。

まずいぞコレ…。

「金ねーなら 身体で払ってもらおうか!」

ここは初めてくる世界だけれど分かる。
どう見てもこいつらは当たり屋じゃないか。
ここは人通りが少ないのか?
だれも通りがからない。

「ごっ ごめんなさい!ごめんなさい!」

子供の方がもう泣き出しそうだ。
どうする…。でも俺には関係ない。
俺だって危険な状況だ。
こんなところにいる暇なんてない。

「わかった わかった!
じゃーお兄さんと遊んでくれたら許してあげるから!」

「あれよく見たら結構かわいいじゃん。
お嬢ちゃん名前なんていうの!?」

「ぐすっ ご…ごめんなさい。」

あーもう見てらんね…。

「早く名前言えやコラ!!」

「あのーすみません。」

「あ!?」

男2人は振り返った。

「ケンカは良くないですよwケンカはw」

「んだ!?テメーは!!」

「ジャマすんの?あれ?見ろよ!
こいつコスプレしてるぜ!」

「うわ!ホントじゃん!耳ながw」

何言ってんだ?コイツらは。

「なぁ あんちゃん!悪いこと言わないから
こっから引いてくんないかな。」

「じゃねーとあんちゃんボコボコにしちゃうよ?」

「こっ この人は!関係無いんで!」

「!?」

すると目を真っ赤にして半泣きの子供が俺の前に立ち言う。

「お前うるさい。
ねーコイツ黙らせといて。」

「おっけー!
お嬢ちゃん。うるさいってよ!!」

ボコォ

「うっ」

その時男の一人が子供の腹部を殴った。

「げほ げほっ」

子供が苦しそうに咳をしている。

俺は呆然としていた。

「お嬢ちゃん。うるさいとこうなるよw」

「まっ 俺も怪我させられたしこのくらいは当然だけどね。」

俺には全く持って関係無いことはずなのに。

何故だろう。

帰る場所を失ったからだろうか。

俺もこの世界に取り残されたかと思うと

同情という気持ちを超えて胸から熱い何かががこみ上げてくる。
これはきっと怒りの感情。

俺は自分を庇った子供の方をみた。
苦しそうな顔をしてもがいている。

「おい…。」

「あ!?」

「そのガキ放してやれ。」

「何お前wなめてんの?」

男の一人が俺の胸ぐらを掴む。

「悪魔に喧嘩を売ったな?
お前ら全員地獄行きだ!!!」

(魔力解放!!!!!)

(…。)

(魔力解放!!)

(あれ…)

「地獄行きはテメェなんだよ!!」

「おらっ」

ボコォ!!

「ぐはっ!!」

俺はぶっ飛ばされる。

魔力がでない!!

なんで!!?

続いて相手の蹴りが来る。

いたっ!!ちょ 痛た!!痛いって!!

「痛たっ…すみません!すみませんでした!」

「今さら謝ってもおせーんだよ!」

「コスプレしてんじゃねーぞ!!」

俺は2人に蹴られ続ける。

両腕で頭を抑えうずくまる。
みっともない。
他の悪魔たちがこの姿を見たらなんて言うだろう。
きっと笑いを通り越して引かれる。

地面と腕の隙間から子供が手で口を押さえ
涙を流している。
まるで自分が悪いとでも言わんばかりに。
やめろ。
勝手に泣かれると俺が惨めじゃないか。

でも俺はここから先この人間たちにひれ伏せながら生きていくのか。
コレじゃ逆じゃ無いか。
奴隷は俺になる。

「おい!!キミ達!!なにしてるんだ!」

だれかの声が聞こえる。

「ちっ 警察じゃん」

「おい 逃げるぞ」

男2人は俺を蹴るのをやめて逃げていく。

「大丈夫かキミ!!」

俺は声をかけられ起き上がる。

もうプライドも何もない。

喋る気すら起きない。

「殺せ」

「はい?」

「このまま奴隷になるの方が辛いんだ…。」

俺は半泣きになりながら言った。

「何言ってるかわかんないけど ケガとか無い?何が原因かしらないけどケンカはダメだよ?それじゃ気をつけるんだよ」

チャリンチャリーン。

男は見たことない乗り物に乗ってどこかへ行った。

「…。」

すると子供が近づいてきた。

「あのっ 大丈夫ですか?」

子供の目が赤くなってる。

頰に垂れていた涙が乾ききってない。

俺はどうしていいか分からない。

なんだこの状況。

どう返せばいい。

ただ一つわかったことがある。

この人間達は俺が手をつけなければ敵視はしてこないようだ。

そのことがわかったのも含めて
なんだか気分が良くない。

助かったはずなのに気分は最悪。

俺が一人でわめいてボコボコにされて助けられて心配されて。

惨めだ。

「うるせぇ」

俺は子供の手を弾いて歩きはじめる。

「えっ!?ちょっと!!」

とにかくこの地域の探索を…。

「まっ まって!!」

子供がついてくる。
俺はそれを無視して歩き続ける。

「あっ あのぉ 助けてくれてありがとうございます!」

無視。

ていうかなんだ。
なんでこのガキはついてくる。

だが次に吐く子供の言葉で俺の心臓は止まりかけた。

「あのっ もしかして!!
本物の悪魔さんだったりするんですか!?」





                                            【二つの世界】 終






















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