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こんな時だからこそ

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 ……はい、ということで今日は1人ではなく3人で寮近くの公園に来ましたと!

「お! 3人ともよく来たねー!」

 力丸さんの声を追うと、今日はスベリ台のテッペンで電子タバコを吸って待機していた模様。

 俺らが来たことに気が付いた力丸さんは、ズリズリとスベリ台を滑っていくが。

「……ゴメン、なんかハマっちゃったんで、助けてくれるかな?」

 子供用に作ってあるサイズなので、ガタイがいい力丸さんは当然そーなる。

「うんしょ、うんしょ!」

 俺達は左右に別れ、両脇を持ち力丸さんを引っ張り上げる。

(し、しまらないな。ここら辺は、流石と言うべきか?)

「いやー悪いね! 力丸です。アルカディアアドベンチャー以来かな? 2人ともよろしく!」
「あ、あはは、よ、よろしくお願いします」

 そんな力丸さんに対し、引き笑いしている優と桃井さん。

「お、おいっ! この人本当に大丈夫なのか?」

 小声でボソボソと俺の近くで、何やら不満をあらわにする優。

「あ、うん、でもまあ、剣術の腕は確かだから……」

 ……ま、まあね。

 2人ともアルカディアアドベンチャーのアレと、今の体たらくしか見ていないから力丸さんの評価は低くなるわな。

 仕方ない、ここで力丸さんに借りを返しておくか。

「力丸さん! 今日の索敵状況はどうですか?」

 敢えて大声で質問する俺。

「あ、うん。今のとこ異常ナシだってさ!」
「えっ! 何でそんなこと分かるんですか?」

 お! 桃井さんが話に食いついてきたぞ!

「あ、俺の嫁さんも陽菜ちゃんと一緒で天使ちゃんなんだよね。陽菜ちゃんが回復出来るように、うちの嫁さんも索敵に特化してるってわけなんだよ」 
「あ! じゃあの時に隣にいたのって?」

「そ! 俺の奥さん!」
「わあ! そうなんですね!」

 この話題になり、途端に明るくなる桃井さん。

 そりゃそうだ自分達のお仲間がいて、しかも結婚までしてるんだ。

 嬉しいに決まっている。

「ただ、現在は身重なのでコンビニで索敵してもらいながら待機してもらっているんだよね」
「ええっ⁈ すっ、凄い。お、おめでとうございます!」

「ははっ、いやー照れるなー! でも、ありがとう!」

 これは、桃井さんには色々朗報だったかもしれない。 

 ちなみに優はこの話の内容に耳を傾けており、少し嬉しそうに微笑んでいる。

 ……てな感じで、すっかり打ち解けた2人はしばらく長話をする。

 ……で、数十分後。

「じゃ、優君と陽菜ちゃんはそこのブランコで仲良く俺らの特訓を見といて。暇なら雑談しててもいいし」

 お、力丸さん、ナイスゥ!

 さて、問題は優がどう動くかだが。

「わあ! 私ブランコなんて久しぶり! ね! せっかくだから優君、一緒に遊ぼうか!」
「……えっ! あ……ハイっ!」
 
 何やら機嫌がいい桃井さんと一緒に、ブランコをキコキコ漕ぎだす優。

 どうやら俺の気優だったようで。

(ああ、良かったな優……。お前の思いとひたむきな努力が報われて)

 その、なんだ、はた目から見ると小学生と高校生がキャッキャウフフしてるようにしか見えないのが玉に傷ではあるが。

 とても楽しそうにブランコを漕いでいる桃井さんと優の姿が、俺には微笑ましかった。 

 あの2人の事だから、いつくっつくか分からないし、もしかしたらそうじゃないかもしれない。

 ただ、願わくばペアになって欲しいかなと俺は思っているから。

(……だからこそ、今後の参考に今日の俺達の修行を見ていて欲しいんだよな)

「良し! じゃ、次も最小の刻印いってみようか!」
「ハイ!」

 ……最早、千本ノックよろしく淡々と修行をこなしていく俺と力丸さん。

 そして次々と生産されては破壊されていく、レッドサンデク人形達。

(前回のと合わせて、今ので10、いや11体目かな?)

 ……それから数時間後。

 砂場の近くにそのまま座り込む、俺と力丸さん。

 力丸さんは休憩の合図とばかりに、電子タバコを吹かす。

「ふう、無紅君、お疲れ様……。ちなみに今日は何回発動出来たか覚えているかい?」
「は、はい。えっとですね、最小の刻印が7回、中の刻印が1回の計8回の発動ですね」 

 ……ってアレ? 確か前回って計6回の発動だった気が?

 その事に気が付き、ハッとする俺。

「うん、自分で気が付いたみたいだね? その通り、刻印の使用上限値が増えているんだ」
「や、やったあ!」

 俺は嬉しくて、思わずガッツポーズを取ってしまう!

「今は小・中・大・極の4段階しか使いこなせないけど、このまま続ければ1から5段階のレベル調整も可能になるからね」
「はい! ありがとうございました!」

 使用上限値が増えれば戦略の幅が広がるだろうし、今まで出来なかった長期戦も可能になる。

(よしよし! 何だか楽しくなってきたや!) 

「おーい! 無紅君ーーーーーー!」

 元気に手をブンブカ振りながら、こちらに走ってくる桃井さんと優。

 良く見ると、優の手にはコンビニ袋が?

「お疲れさまー! ハイ! これ、力丸さんの奥さんから貰って来た差し入れ―」

 なるほど、いつの間にか2人の姿が見えなくなったから、何処ぞに行方を眩ましたのかと思ったけど納得。

 丁度小腹が空いていたから助かる。
 
「スイマセン、力丸さんご馳走になりまーす!」
「遠慮せずに、どうぞー」

 という事で皆で仲良く、お菓子とジュースを有難く頂くことに。

「ねね! 力丸さんの刀から蛇とかが出るあの技凄いですよね!」
「ん、陽菜ちゃん、ありがとう!」

「あのところで、あの刻印の技って、どうやって覚えたんですか?」

 優もどうやら、刻印の技に興味を持ったようだ。

「あれはな、そうだな。元々俺の先生がいてな。その人が剣の達人でな」

 ……こうして楽しい時間が今日も過ぎていき、翌日……。

「……え、ええっ! お、奥さんが負傷した?」

 俺は早朝からの力丸さんの電話と、その内容にしこたま驚き、思わずフトンから飛び起きる。

「ああ、相手が分裂タイプだったから、俺の目の前で分裂してな。結構な猛者だったから、1人倒すのに手間がかかって……」

 なるほど、力丸さんの場合どっちかというとタイマンタイプだから、実力が近い相手に足止めされるとキツいわけか。

「ただ、命に別条が無いのは不幸中の幸いだったかな」
「そ、そうですか。本当によ、良かったあ」

 俺は安堵し、ホッとする。

「心配してくれてありがとう無紅君。てことでな、今からはうちの天使ちゃんの索敵は学校内まで届かないから、そちらも気つけてな……では」
「は、はい、お大事に」

 ……何でも俺達が帰って数時間後の出来事だったらしいが。

 丁度俺達がいない時間を狙ってくるとか果たしてこれは偶然なのだろうか?

 何だか嫌な予感がする……が、願わくば外れて欲しいと願う俺だった。
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