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世界は変わる

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 それから数週間後……。

 地下都市は……いや、世界は劇的に変化していった……。

「一部の人間や、星天文明を伝えてくれた恩人である天使達に負担を強いてはならない! 少しずつだが、地上は住める場所になってきている! 私達レッドサンも実際に何回も地上にいけている事実もあります!」

 国津アルカディアの社長兼、レッドサン特殊研究部大将である国津那岐は、今日もTV番組で熱弁を振るう!

 一期生の日野明の内部告白……。

 そして、特殊研究部大将である国津アルカディアの社長がそれを全面的にバックアップしたのだった。

 というか、その案を日野明と社長に提案したのは俺だけど……。

 社長は実は【シックスワイズマン】の末裔の1人、天使と婚約している身。

 世界も一枚岩ではなく、『天使と仲良くやっていこう派』と『人が主導権を握るべき派』に別れていたらしい。

 何というか、社長の先祖は他の【シックスワイズマン】達に嵌められていたっていう……。

 社長はレッドサンの組織から、『人工太陽の件は失われた星天文明で作られた』と教えられていたらしいけど……。

 全く持ってとんでもない話……まあ、世界規模でのハメなのでしてやられたらしい……。

 という事で、日野明とレッドサンは和解と言う形で丸く収まった。

 フタを開けて見れば、して嵌められてレッドサン内部で、同士討ちしたと言う事実だったしね。

 日野明率いる感染部隊は、日野明を除き、ほぼ壊滅……。

 それに対し、社長含む、現役レッドサン部隊もかなりの痛手を負ったらしい。

 ちなみに人口太陽の制御は、某大国でやっているらしく、その為、レッドサンは某大国と険悪なムードになってしまったけど……。

 そこはやむなし……という事で。
 
「我が国は、一期生のレジェンド日野明と共に早急に地上を浄化し、快適な居住地として開発していく事をここに宣言します!」 

 という事で社長は責任を持って、自ら今日も地上特派員として活動していく。

 当然、レッドサンの隊員及びアルカディア社員である俺達もだ。

 ……それから数日後、ここは日本のとある地上……。

 所々にビルが見え隠れする森林の中、俺達はコアモンスターの隠れ巣を見つけ、絶賛掃討作業中だ。

 俺達がアルカディアクエストで続きをやりたいと言っていた、場所をリアルで探索しているという全く持って皮肉な話である。

「おーい! 豪山パイセンそっち大量にコアモンスターいったから!」
「おう! 無紅君! 例の集団睡眠の歌で頼むな!」

「はーい!」
「……あの無紅君? 今度は私達を巻き込んで寝かせないようにな?」

「はーい!」

 瑠璃さんの厳しいツッコミに元気よく返事する俺。

 うーん……何時間か前に範囲睡眠の歌を試したら、俺以外皆おねんねしてしまったっていう……。

 ゲームと違って、味方も眠らせちゃう歌だから、自分の立ち位置が超重要になってくる歌なんだよなー……。

 だからこそ、今までこの歌は怖くて使わなかったワケで。

「無紅……その返事だと、また容赦なく俺達を巻き込みそうだな? 桃井さん、急いでこの馬鹿から離れましょう!」
「う、うん!」

 ……こんな感じで、俺達はゆるーく頑張っている感じだ。

 また、最近分かった事だが、人工太陽のエネルギーにコアモンスターのコアを使って補充出来ると言う事実が最近判明した……。

 何でも、誰かがスーパーコンピューターをハッキングして【シックスワイズマン】の記録書に勝手に書き込んだらしいけど、星天文明に詳しい人って、【シックスワイズマン】の末裔の誰かか、始まりの天使しかいないんだよね……。

 俺の予想じゃ、妹を助ける為に姉が動いた……即ち、あの人が暗躍したんじゃないかと思ってるけど……どうなんだろう?

(もし、そうだとしたら会いたいなあの人に……) 

   ♢

 それから数か月後……。

 俺達は無事高校3年生になり、偶然かそれとも何かの計らいか知らないけど、3人とも同じクラスになれた!

 正直とても嬉しい! 学校内で飛び上がる程喜んだ!

 そして、遂に……遂に俺と優はVtuberとしてデビューする事に!

 しかも、あのアルカディアアドベンチャーが正式に販売され、その宣伝に俺達もVtuberで宣伝として出ることになった!

 なんと! バックミュージックは俺の【導きの歌】。

(嬉しくて嬉しくて涙が止まらない……うん) 

 そのお陰で、俺のV動画サイトの登録者数は、初日からあっという間に数万を超えた……。

 理由は、俺のオリジナルソング【導きの歌】がアルカディアアドベンチャー効果で、初日から100万回以上の再生数を突破したためだ!

(あ、ありがとう……ありがとう……うう……本当にありがとう)

 問題はこの歌が俺しか歌えない事をレッドサンのメンバーが知っていた為、即身バレした事だけど、開き直って、優と同じく実名系Vとして頑張って行くので特に気にしていない。

 なので俺のV名は白野無紅! うん……まんまやな。

 あ、で、そのアルカディアアドベンチャーの宣伝の続きなんだけど、力丸さんや豪山パイセンとテストプレイしてた内容がそのまま使われていたりする。

 当然例のポンコツキメラとの戦闘も入っていた。

 で、今は瑠璃さんの自宅でその宣伝内容を録画したものを皆で見ていたりする。

「これ懐かしいね! 私この時の力丸さんのセリフがホントに面白くて……」
「な、何気に、宣伝に組み込まれているしね……」

「これだけ見ると、力丸さんただのフラグキャラだしな……」
「力丸……色々と美味しい奴……」

 俺達Vメンバーと瑠璃さんは、居間のソファーに座り、その宣伝を面白おかしく見てゲラゲラ笑っていた。

 ちなみに力丸さんは、奥さんが身重になっている関係で、現在は休職して奥さんと仲良くイチャコラ生活中らしい……。

 ……超頑張れ! 力丸さん! おそらくこの宣伝収入も入る事だし、しばらくは安泰生活を送れることだろう……。

 それから数十分後……。

「じゃ、無紅……俺達は少しでかけて来るから……」
「いってきまーす!」

 優と桃井さんは仲良く、手を繋いで買い物に出かけて行く……。

(おーおー羨ましいこって……)

「きーつけてな……」

 最も、今はレッドサンの感染者はいないから、何も心配しなくていいんだけどな。

 話は変わるけど……優の父親は相変わらず行方であるが、何処かで生きていると俺は信じているし優もそう思っている。

 だからこそ、今は優に幸せになって欲しいんだよな。

(頼んだぜ桃井さん!)

 人工太陽の問題も少しは解決した。

 あとは……日野明さんの相方の天使ちゃんを開放出来れば、万々歳なんだけど。

 そんな事を考えながら俺はソファーに背を深く預ける。

「ねえ瑠璃さん?」
「……なんだ?」

「瑠璃さんと、俺に【導きの歌】を教えてくれた天使との関係なんだけど……」

 正直いい加減教えて欲しいし、今なら何となく教えてくれるかなって……思えて……。

「ふふ……そうだな。じゃ無紅君、目を少しつぶってくれるかな?」
「あ……うん……」  

 俺はソファーに腰かけたまま、素直に目をつぶる。

 静かに床がきしむ音がし、瑠璃さんがゆっくりと俺の背後に回る気配がする……。

「……だーれだ?」

 俺の背後から、瑠璃さんの優しい声といい香水の香りが立ち込める……。

 更には俺の閉じた目に、瑠璃さんの柔らかくしなやかな両手が優しく覆いかぶさる。

 ……。

 いやいや流石に……子供騙しすぎだろ……。

「この感じ、瑠璃さんに決まってるだろ……」
「……はは、そうだな」

 目を開け確かめると、そりゃまあ当然の瑠璃さん……。

 でも、いつもの凛々しい感じじゃなく、なんというか……こう優しいお姉さんって雰囲気なのだ。

 俺に初めて見せる……ふんわりとした優しい笑顔……。

 正直たまらない……。

「……じゃ、もう1回だ……」
「はいはい……」

(……一体何なんだろうか? 正直意味が分からないけど、何かこんな雰囲気は嫌いじゃないので、俺は乗っかっておくことにした……)

 再度、照れながら目をつぶる俺。

 再び、俺の閉じた目に、柔らかくしなやかな両手が覆いかぶさる。

「だーれだ……?」
「……え?」

 その声に、俺は思わず驚き、呻く……。

(こ、声がさっきと違う……? それに何だか雰囲気も……こ、これは一体……? で、でも……この感じ、何だかとても懐かしい気が……?)  

 俺はおそるおそる、目を開け確かめる……。

「……久しぶりだね? 元気してた?」

 そこには瑠璃さんの姿はなく、白スーツを着た、あの天使が立っていたのだ……。

 実際背中からは6枚の対なる羽根が広がっている……。

 瑠璃さんの羽根は4枚だしね……。

「あ……う、うん」

 思わず気のない返事をしてしまう俺……。

 あまりの出来事に、緊張しすぎてそうしてしまったのだ。

 俺はまじまじと彼女の姿を見る……。

 良く見ると身長と体格は瑠璃さんと同じ……。

 違うのは声と……目の色と……雰囲気……。

(い、一体どうなっているんだろうか?)

 ……とてもとても、気になるけど、それよりも最も気になる事がある。

 それは……。

「あの……名前……貴方のお名前は……?」
「私の名前はクロノ=ルリ……」

(やっと……やっと、この人の名前が聞けた……。って……え? この人の名前がクロノ=ルリ……? 黒野 瑠璃……。ま、まさか……?)

「そうだよ? 私は最初から貴方の側に至ってわけ! ただし、本体は別の所にいるけどね……」
「い、一体ど、どうなっているんですか?」

「えっとね……黒野 瑠璃は私の別の人格なの……。この素体用のね」
「……え?」

 天使クロノの言っている意味が、俺にはさっぱりわからない……。

「んー……分かりやすく説明すると、君と闘夜君と似た関係なんだけど……」
「えっ?」

(? 一体何の話だろう?)

「この体はね、黒野瑠璃の別人格を宿した素体ってわけ! うーん、と言っても星天文明の最新技術を使ったボディだから、君には理解するのが難しいか……」 
「うん、正直さっぱりわからないです……。でも、そんな事より、俺は貴方に再び会えてとても嬉しい……」

 だって、天使クロノと出会わなければ、この全ての出会いはきっと無かっただろうから……。

 俺はその素直な気持ちを込め、クロノを力強く抱きしめる……。

 クロノも、俺の抱擁に答えるように、その華奢な両腕で俺を抱きしめ返してくる……。

 ……しばらく、俺達は再開の熱い抱擁を交わす……そう、まるであの時の儀式のように……。

 時を忘れ、強く、熱く……。

「今日……貴方の前に現れたのはね……お願いがあってきたのよね……」

 ……自然にだけど、天使クロノは真剣な眼差しで俺に語りかける。

「……もしかして、妹さんを助けるため?」

 何となくだけど、俺はピンときた……。

 何故かあの時の日野明さんの涙を俺は思い出したから……。

「……流石私の契約者……そうなの……実は……」

 ……俺はクロノと抱き合ったまま、その内容を聞いて行く……。

「えっ! じゃ、クロノ達が乗ってきた宇宙船が見つかったから、それに乗って故郷に帰るって事?」
「そうなんだけど、私達の故郷って今、ドンパチやってるみたいでね……」

(な、なるほど……。クロノは、妹を人口太陽化から解放する為に、宇宙船をそして戦力を確保したいってわけか……。日野明さんが目覚め、レッドサンの組織改革が行われた今が、絶好の機会だろうしね。しゃーない……クロノは俺の契約者だし、これは瑠璃さんの願いでもありそうだしね……)

「じゃ、優たちが帰ってきたら皆で行こうか! 日野明さんも喜ぶと思うし! それに貴方と一緒ならきっと何処に行っても俺は楽しく冒険出来ると思うし!」
「わー話早いわねー! じゃ、これお礼! んー大好き!」

 彼女はその気持ちを乗せ、柔らかい唇を俺の唇に被せる……。

 瑠璃さんの……いやクロノの色気あるYの字胸ラインが、俺の体にのしかかる……。

 レッドとブルーの潤んだ宝石のような眼が、こちらを熱く見つめているのも、またたまらない……。

 ……。 

 ……さ、さて……今度は宇宙の旅頑張ろうかな……。

 俺はまどろむ意識の中、そんな事を考えるのだった……。
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