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互いの武士道 

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 私は咄嗟に刃なき椿姫日輪刀で、焔の凄まじい紅蓮の刃を受ける!

 当然刃はついていない……が、何か不思議な力が働き、そのせいか焔の紅蓮の刃は宙で動きを止めてしまう!

 不可視の不思議な力……。

 それがそこには確かにあった。

「おおおっ!」
「ぬううっ!」

 焔は気合をいれ、それを力技で何とか破壊しようとする!

 焔の持つ刃に収縮された、まるで地獄の業火のような凄まじき炎神気……。

 私もそれに負けないように光気を普段使っている感覚で何とか……何とかそれをしのいでいる感じだ!

(な、なんて熱量……それに……)

 そう、焔の炎神気のせいか熱くて熱くて私の肌は焼けるようにひりついているし、喉も焼けるよう呼吸しずらくとても苦しい。

 なんとか火傷していないのは、おそらくこの不可視の不思議な力のお陰だろうが。

 いや……よく見るとそのあまりの熱さに火傷してただれていた。

 だが、即不思議な力でそれが再生されているのだ!

 その時、ピシリと……何か鈍い音が近くから聴こえた。

(ま、まさか……?)

 私はその音がした場所をおそるおそるそっと見つめる……。

 何と驚いた事に椿姫日輪刀の柄にヒビが入っているではないか。

(あ……ああ……私の……形見である椿姫日輪刀が……! で、でもこれは神の力が宿った国宝、さ、流石に壊れはしないよね?) 

 そんな事を考えているうちに、椿姫日輪刀の柄のヒビは残酷な事に次第に広がって行く。

(あ、ああ……そ、そんな……⁈ い、いや、やめて!)

 私のそんな願いも虚しく椿姫日輪刀の柄は、凄まじい異音と共に遂に粉々に砕け散ってしまう!

「ぐあああっ!」
「あ、あああっ!」

 その砕け散った凄まじき衝撃で私と焔はそれぞれ吹き飛ばされ、地に伏してしまう!

(わ、私の椿姫日輪刀が……か、形見の品が……。ああ……ど、どうして? これは神の神器じゃなかったの……?)

 私は深い深い悲しみと絶望にくれ、椿姫日輪刀の柄のあったその場所をぼんやりと見つめる……。

「な、なんだあれは?」

 その時、城内から領主代理の驚く声が聞こえて来た。

「あ……ああ……」

 声なき声で呻く私……。

 目の前にぼんやりと光輝くもの。

 それはよく見ると私の親指大の大きさの透き通る透明な勾玉……。

 そう、柄の中には驚いた事に水晶で出来た勾玉のネックレスが入っていたのだ……。

 それは不思議な事にゆっくりと宙を漂い、私の首に自然にかかる。

 それがさも当然と言わんばかりに。

『陽葵さん! 《《それはこの世界で、天鈿女命が持っていたとされている八尺瓊勾玉《やさかにのまがたま》》》です。椿姫日輪刀の柄に代々隠されていた物、それこそが貴方の神器であり国宝なのです!』
「そ、そうなんだ……よ、良かった……。ああ……本当に」

 私はあまりの嬉しさに目に涙をにじませ、その勾玉をそっと優しく掴み握りしめる。

 まるで、喜びを嚙み締めるように……。

 ……私は目の前に焔が起き上がって来る姿を見て、気持ちを素早く切り替える。

(……おっと、感傷的になるのはまだ早いし、なんにせよ焔と決着つけないとね!)

 そう、私は焔に勝ってのちには優勝して、自由を手に入れなければならない!

 今は一人の剣士として前進あるのみだ!

「お、おお……!」

 焔は刀を大地に差し、何とか立ち上がり、気合と共に炎気を刃に通していく!

 見た感じ先程の勾玉の不思議な力で焔の纏っていた炎神気、即ち火之迦具土神の力は消しとんだみたいだしね!

 それにしても流石は焔、何という勝負への執念……敵ながら天晴である。

「おおおおっ! 勝負だ! 焔ッ!」

 私も気合と共に、残りの光剣気を愛刀に注いでいく。

 そうと分かれば私も一人の侍として、全力で答えるまでだ!

 それが……【武士道】というものだから……。

「おおおっ!」
「はああっ!」

 練り上げられた気合と共に、私達は刃を交える!

 ……ふと気が付くと、空と周囲はすっかり淡いオレンジ色に染まっていた……。

 夕焼けの空を数匹のカラスが静かに飛んでいく最中、周囲にはすっかり観客がいなくなり、遠目で先生が見守る中、ただ二人だけの世界がそこにはあった……。

 先生も城内の領主代理達も無言でそれを見つめていたであろうと思う。

 この戦いに言葉は無粋であるが故に……。

 いくつもの刃が交わり、心地よい澄んだ金属音が周囲に鳴り響く……。

 そんな最中よく見ると、焔はとても楽しそうに笑っているように見えた。

 きっと私もだろうな。

 私はきっとこの事を一生忘れないと思う。

 最高の実戦の一死合しあい……。

 勝っても負けても、そんな思い出になるだろうと思いつつ……。

(生きていたら、だけどね!)

「……は、はあっ!」
「……い、居えっ!」

 お互い、文字通り限界を超え、精も根も尽きかけている。

 その証拠に、お互いの刃に剣気はもう覆われていないし、声も枯れかけている……。

 肩で息をし、体がふらつきよろけながらも、私達は刀を振り刃を交える……。

 私達はお互いを見つめ、直感的に感じ合う。

 きっとこの一振りが、最後の一振りになるという事を!

「焔ッ!」
「陽一ッ!」

(勝負だッ!)

 お互い口数が少なかったのは、思えばもう体力が限界だったんだと思う。
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