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第三夜 それは悲劇の夜

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第三夜 それは悲劇の夜



「はいはい、イケメンイケメン。と言うか、エルの方が…、」

ビーッビーッビーッ!

「…なんか来たな。」

「コレってレベル高いと鳴るヤツだよね?」

「ああ、多分セーフエリアの防壁に中ボスクラス以上が触れたな。」

 マイルームに鳴る警報音は、俺が設定したレベル以上のを感知するとお知らせするヤツだ。
 ざっとキッチンから飛び出して、アバターと記録してる最強装備に切り替える。
 エルフと狼獣人になり外へするりと気配を消して忍び出た。
 村にはまだ何も起こってはいないが、西の平原から夜より濃い闇が霧のようにじわじわ広がってきていた。…まさに強敵急襲イベって感じだな。ちょっとワクワクしてきた!

「バフと広範囲索敵かけるから、エルは近距離索敵。」

「りょーかい。最初はスピードだけでいいよ!」

 エルが両手の平を合わせ仁王立ちし、敵意を持った気配をさぐる索敵スキルを発動させた。
 エルは所謂いわゆるモンクタイプの近接アタッカーで、気配で敵を捉えるのに特化している。ので露払い係。
 逆に俺はベッタベタの魔法使い。賢者の称号があるので回復も攻撃も補助も何でも来い、だ。ただし物理はゴミ。エルがいないと死んじゃうな!

「任せろ。"風のつかさ"」

 俺の右手の人差し指にはまる翡翠の指輪から淡い光が飛び出して、エルの体を包む。これは風の下位から中位の精霊を使役するアイテム。呼び出しに魔力をほんのちょい食われるが、あとの使役には魔力を使わない素晴らしき手抜き…いや補助アイテムだ。風の精霊達にスピードアップをお任せし、今度は広範囲索敵魔法を発動。西を俯瞰見る。ナイミリだとマップが画面に出るが、実際だと脳内にドローンの空撮ような視界がイメージで出る。ドローンと違うのは、

 敵意が赤く光る。強ければ強い程、赤が強い。

「…ヤッベ。コイツ、強いぞ。」

 多分、これはここの終盤ボスクラスだ。

「サイ、こっちは伏兵ゼロ。そっちは?」

「敵は一体。でも大ボスクラス。…今の勇者パーティーには完全に無理ゲー。俺らは余裕。」

 そう、俺達はボスクラスの重要な戦闘にはメインで参加出来ない。ストーリー修正にきてるフォロー推進課の俺達はあくまでも勇者お助けモブ。大事なクエスト(?)は勇者サマに譲ってさし上げなくてはならない。

「とりあえず足止めして勇者パーティー逃す? 」

「…うう、戦ったらうっかり倒してしまいそうな…。でも、足止めしないとヨワヨワ勇者とエンカウント…。エルぅ、宵闇ドラゴン程度の敵って手加減できる?」

「…自信ない。俺、あの宵闇イベはドロップ周回しすぎて瞬殺するレベル。」

「アカン、ランカー怖い。」

 どうする、俺。
 エルは使えない。ランカーすぎて。
 勇者パーティーも使えない。雑魚すぎて。
 俺は…、

「ハッ!?」

 突然ある事に気づいてしまった。

「サイ、どうかしたの?」

「…エル、俺は大事な事に気づいてしまった。」

「大事な事?」

「ああ、これは、このイベントは、」

 ゴクリとエルが唾を飲み込む。

「村、焼き討ちイベントだーーーッ!!」

「な、あの、伝説のテンプレイベ、村焼かれたイベ?!」

 …そう、あの勇者と言えばこのテンプレの『平和な村が焼き討ち』だ。

 平和な村が寝静まった穏やかな夜に、魔物、特に四天王的なヤツが勇者の村を襲い焼く、それを防ぐどころか弱すぎて見逃された勇者が涙ながらに復讐を誓い強くなる事を決意する、アレ。
 
 まさかこんな所でそんな伝説イベに遭遇するとは…。

 やらかし神、やらかしすぎでしょ!!

「はあ、方針決まったわ。これからエルは全村人を東の川側へ避難誘導、またその護衛。俺は勇者パーティーはスリープかけて身体強化各種耐性無効バフのっけ。その後それは放置。あとは敵に村人不在がバレないよう、青月あおつきの発動。」

「え、青月あおつきってあの最強幻術?! マジ?!」

 んふふ、青月あおつきは俺しか使えない最強クラスの幻術ね。称号についてきたスペシャル魔法。ものすっごく魔力使うけど、回避不可能な幻術でクールタイムが24時間な大魔法。ナイミリだと戦闘中長時間行動不能のバットステータスを与える事ができる。解説に、敵は完全に幻術の世界に囚われ術者による洗脳可能云々とあるので、今回は脳内で焼き討ちしてお帰り頂こうと言う予定である。残酷イベントマイルド修正だ。

「うん。青月あおつき使うとギリギリになるから、後で回収にきて。」

 魔力回復薬を1.5リットルペットボトルくらいカブ飲みしないと、魔力枯渇ですぐ虚弱つくからなあ。腹タプタプで動くのしんどいから回収して貰いたい。

「えー、俺も青月あおつき見たーい! だってアレ、青い月が敵に落ちて青い蝶が一斉に空に飛び立つ超カッコいいエフェクト出るんでしょ? 見たすぎる~!」

 エルの狼尻尾が言葉以上に見たい見たいとブンブン振られている。…犬だ、完全に人懐っこいワンコ化してるぞ、エル君。落ち着け。

「今は仕事中だから諦メロン。ほら、早く村人逃がせ。つーか、時間ないから担いでけ。スピードアップかけてるから2、3人一気に担げば10分かかんないだろ。」

「…うー、青月あおつきぃ…。 今度俺にも見せてね?」

 シューンと尻尾が垂れた。ワンコ…。
 が、すぐエルは仕事モードに入り、村人を担ぎに走り出して行った。

「さ、俺も始めますか。」

 もう一度索敵をかけ敵の位置を確認。どうやらセーフエリアに入るのに苦労しているらしく進んでいない。うむ、なんとかなりそうだ。
 丘から村に降り、勇者パーティーの宿になってる集会所へ小走りで向かう。途中、民家に押し入り気絶させられた村人を担ぐエルとすれ違う。悪の盗賊っぽいなって笑ったら、攫っちまうぞお嬢ちゃんとニヤリと返された。なんかちょい悪カッコ良くてイラッとした。
 集会所前に着くと…、誰も起きてはこない。
 外の異変に気づかない勇者パーティー。お前らセックスばっかりしてないで、ちょっとは危機感持とうな…。
 隠密で中に入り、絡み合って寝てるバカ共にスリープをかけバフ重ねがけ。これでガチの焼き討ちされてもコイツらは死なない。朝までごゆっくり。

「次は敵さんな。まずは顔を拝みに行きますか。」

 まだセーフエリアの壁に引っかかっていると思われる敵を見に、村の西へ向かった。


「マジかよ。」

 イケメンが街道から続く村の道でぼんやり突っ立っていた。
 尚、イケメンは、

「魔王じゃん。」

 魔王でしたって、ええええ、意味わからん。
 黒の長マントに黒のカッコイイ鎧、黒の長髪に黒い巻きツノ、黒一色の中二大好き闇コーデは絵に描いたような魔王です。ありがとうございました。
 そんな魔王様、ポツンとお一人で道端に突っ立っておりますけど…、アレはセーフエリアの壁破ろうと力でも溜めてんのかな? 宵闇ドラゴンレベルだと壁強度MAXでもちょっと力だせば破れるモンな。
 しばらく様子見したが、…何も起こらないし、何もしてこない。

 …どうしよう、これ。なんかのフラグ待ちでもしてんの?

 俺がなんかした方がいいのか…、と、めっちゃ不安になり始めた時、とうとう魔王が動いた! と言うか、喋ったあああ!

「この村にはどうやって入るのであろうか…。ドアはないようだが、やはりノックで…? しかし夜這いに来たのにノックは風情が…、」(ブツブツ…)


 ………なんて?

 いまコイツ、イケボで夜這い言わんかった?

「はあ…、宰相の言う通り村を焼いてしまうか。いや、しかし今更この勇者を求める昂りが治らぬ。うむ、恥を忍んで…、頼もうー、我は通りすがりの平民ー、村に一夜の宿をー、借り受けたいー、開門せよー、」

 ………この魔王、アホの子?
 どこの国にそんな魔王ルックの平民がいるの? 
 頼もうって言ってんのに開門命令しちゃう?
 あと、お前今勃起してのかーいッ!!

 ああああああ! 
 夜這いしてないで黙って焼き討ちイベントしろよおおお!! 
 マジ、このクソBL魔王考えたやらかし神、メッされろおおお!!

「セーフエリア、解除。…エル、聞こえるか? 焼き討ちの阻止完了。敵は保護対象につき放置。そっちに戻る。」

 エルに作戦終了を伝えて現場を離れる。尚、青月あおつきは発動させてない。現状を考慮した結果、必要無しで。夜這いは勝手にして。魔王チンコぶち込まれても勇者死なないから。

 俺、焼き討ちは阻止したからな…。許せ。

『りょ。集めた村人、まだ意識ないけどどーする? 』

「そっち行ったらなんとかする。」

『オッケー。』

 エルとの通信を終え、村の東へ歩みを進め…、

「そこを行く姫、其方はどこの家門か?」

「うぇ?!

 突然魔王に声をかけられた!
 え、隠密バレ? マジ?

「ああ、驚かせてすまない。美しい姫に先触れも出さずつい声をかけるなど…、我の無作法であった。名乗らずともよい。今宵は良い闇夜であるな。搾精さくせい散歩も捗ろう。だが、最近ここらは勇者パーティーなどと言うならず者が横行している。其方は美しいから、夜道には気をつけるのだぞ。」

 魔王は長文ひと息に言うだけ言って、ニッコリ笑って去って行った。

「なんだったんだ、アレ…。」



<次回予告>

闇から出でしモノからの炎の脅威は去った。だが悪夢に微睡む彼の夜明けまでは程遠く…。
次回、相見える。『第四夜 エンカウントエンカウント』
お楽しみに。

「出張、スタンバイ!」

※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
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