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第七夜 炎獄の四天王

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第七夜 炎獄の四天王



 ぼそっとエルが何か小さく呟いたが、祭りのざわめきに遮られ聞こえなかった。

「エ、エルさん?」

「ん、何でない! …確かに座ってばっかりじゃダメだよね。………サイ、俺と踊ろ!」

 ぐいっとエルに引っ張り上げられ、そのまま舞台に向かって歩きだした。舞台前はダンスを踊る人々で賑わっていて、たまに大技を出す者にワアアアッと歓声があがる。

「いや、待って、俺、ダンスなんて踊れないし! あと勇者が…、」

「大丈夫っ。ほら、あそこ。勇者はステージで王子達と踊ってるよ。」

 パッと舞台に目をやると、勇者と王子が主人公っぽくど真ん中で華麗に踊ってた。こっちもいつの間に…。
 つーか勇者君ダンスやたら上手いんだが…? 多分今やってるソロダンス、絶対アドリブだよな? ヤツ、一体何者だ…。
 仲間の神官君と魔法使い君は順番待ちしながら、音楽に合わせて手拍子やステップを踏んで盛り上げている。
 

「つーか、サイも皇国の吟遊ぎんゆう王子クリアしてるでしょ?」

 くいっと掴んだ腕を引かれる。

「うっ…、し、してるけど、」

「じゃあダンスアクション持ってるじゃん。イケる、イケる!」

 ナイミリの『皇国の吟遊ぎんゆう王子』と言うイベをクリアすると、フィナーレの祭り用にダンスアクションが貰えたのだった…。勿論ガチ勢の俺氏、無課金期間限定配布アクションを逃す筈はなく…。

 広場の真ん中まで来ると、エルが向かい合わせに正面へ立ち両手を繋いだ。

「サイ、いくよ!」

 イケメン笑顔全開でエルが一歩近づく。
 
 クッソ!


 ーーーめっちゃ楽しそうじゃんか、エル。


「ああああ、もう!! どうにでもなあれッ!!」

 頭の中で『フィナーレダンス』と唱えると、俺の足が勝手に軽快なステップを踏みだした。
 
 昔の洋画でみたような賑やかな酒場でタップバトルでもするダンスから、手を繋いでクルクルと回るダンス。笑いながら周りと合いの手をいれながらハイタッチし、また二人でステップを軽快に刻む。
 タンッと足を揃えたタイミングでエルを見上げると、エルがふわっと破顔した。
 次のステップは、…エルの腕に支えてもらい背を仰反のけぞるフィニッシュ、

「…んっ、」


 抱きしめられて、


 キスをした。




ジャン♪ジャン♪

 曲が終わるとワアッと歓声と拍手がおき、周りはアンコールと囃し立てた。勿論、ステージの勇者達に向かって。

 そんな中俺達は体を離せずただ突っ立っていた。

「………。」
「………。」

 息がキレる程激しいダンスじゃないのに、トクトクトクトクといつもより早い鼓動が耳にうるさい。

 アンコールに応えた楽団がまた軽快な舞踊曲を奏で出す。周りは再び歓声を上げ踊り出す。

 でも、ここだけ、
 その賑やかな音は届かない。

「…サイ、好き。好きだよ。」

 少し低めだが心地よい声が耳元で小さく囁いた。



「……俺も、すき、」


ドオオォォン!

「あ、花火…!」「おおっ、花火だ」「綺麗ー!」

 夜空に大きな花火が打ち上がって、周りはまた歓声をあげる。本日のフィナーレのようだ。

 だが俺とエルはその美しいフィナーレを見る事はなかった。
 もつれるように雪崩なだれ込んだ狭い路地裏で、花火が終わるまで口付けを交わしていたから…。


 
 そして、今、俺はエルと一緒に物陰に隠れ、

 盛大にブチ切れてた、エルが。

「せっかく! せっかく! サイと恋人になったのに! 今晩は『初夜』なのに! なんで四天王とか雑魚沸きしてんのっ?!」

 …おま、いきなりヤる気満々だったのか。いや、俺も少しは恋人的な触れ合い的なのしたかったけどさ? 

 あの花火の後、突然街中に四天王とか名乗るアホの声が「聖剣を渡せ。渡さなければ万の兵がこの地を蹂躙する。」とアナウンスしたのだった。勿論、祭りにかまけてた勇者はキリッと立ち上がってそんな事は(セリフ長いから略)、王室に乗り込んで聖剣を無事ゲット後、四天王目指して駆けて行ったワケだが。

「聖剣イベってヤツじゃん? とりあえず王様には念の為住民避難させとけって王子が指示したし、この前神殿でゲットした対軍防御アイテム持った神官君も控えてるから…。だいたいさ、広範囲索敵したけど四天王の配下1旅団もいないんだよな。多分小連隊、うーん、300いないくらいか。万は盛り過ぎ。」

「…面倒だから後方から回り込んで無双していいよね? 俺とサイの初夜を邪魔するヤツは滅殺だ。」

 …ダメだこいつ、早くなんとかしないと…。ある意味魔王になってしまうぞ…。

「…エル、後ろに回り込んだら、保護対象の四天王…ええっと炎獄の…ペッパーだっけ? 秒でやっつけちゃうからね? それやっちゃダメなヤツだからね?」

「ペッパーめ…。」

 リアルギリィしたエルさん。
 まあ、後方から数を削るのはありか。
 索敵で見るとペッパー?クンは人数誤魔化しの為、厚さあんまりなしなおう陣を敷いている。所謂いわゆる前衛後衛なしの兵隊さんを横に真っ直ぐ伸ばしただけの形。
 そんな薄っぺらい陣なんで、左翼右翼両端へ恐慌のバットステータス入れて、じわじわと戦線離脱を誘導。残った真ん中、予測なら雑魚と精鋭で一部隊くらいかな? その士気が高いトコを勇者パーティーにぶつけて経験値稼ぎ、ってトコだ。
 あとはペッパー?クンの実力次第で裏からサポでもいれれば、たった4人の勇者パーティーでもイけるって目算。

「よし、まとまった。エル、右翼はじのゴブリン部隊に後ろから威圧かけてビビらせて。逃すの目的だから殲滅はなし。逃げが悪い時はちょいダメージ当てていいよ。俺は逆側のゴブリンをやる。残ったトコとペッパーは勇者用にぶつけるから、終わったらコッチに戻って待機でヨロ。」

 エルにざっくり作戦を伝える。

「…サイはひとりで大丈夫?」

 不安そうな顔でエルが俺の腰を抱く。この子、めっちゃ過保護出してくるな…?

「エル、ゴブリンだぞ…? むしろ負けたら即引退表明レベル。」

 初心者からやり直しするわ。

「だってゴブリンなんてオークの次にクッコロモンスターじゃん。サイがうっかり捕まったらエッチな漫画みたいに…、」

「されないからな! つーか、何でそのエッチな同人誌ネタ拾ったよ! 俺女騎士じゃなく賢者だし?!」

 あほエルのケツを蹴り飛ばし作戦行動に移った。
 
 俺の作戦はバッチリ成功し、いやエルがやり過ぎて戦線崩壊し真ん中の精鋭20体くらいしか残らない接待バトルフィールドを作ってしまい…、ペッパー?クン涙目。すまんな…、こちらにランカー様がいたばっかりに…。成仏せえよ…。


 接待バトルはいい感じに進み、仲間達もバッサバッサとペッパー配下を薙ぎ倒していく。

「炎獄のベイパー! 覚悟ーーーッ! ホーリースラァァァッシューーーッッ!!」

 あ、ペッパーじゃ無かった。

 勇者の必殺技でペッパー改めベイパークン終了のお知らせです。あ、ベイパークンはこのままでは終わらんぞ四天王最弱でした。俺とエルは四天王テンプレに感動し、ベイパークンの最期にエア拍手を贈った。

「いやあ、すごいテンプレだった…。まさか四天王最弱がこんな所で聞けるとは…。」

 さっきまでお怒りだったエルが、まるで一本感動映画を見終えた人みたいな達成感顔でしみじみと感想を述べた。

「ほんとだわ…。ここ創ったやらかし神、ラノベ読み込みすぎでは…? さて、流れからだと次から四天王戦編ってトコかな。」

「そうだね。あー、俺も四天王戦やりたいなぁ。最強四天王と殴り合いしたい。」

「エルの世界の四天王テンプレ、最後って殴り合いなのかよ。どこの世紀末。って、今回は魔法使い君が闇堕ち最強四天王だから。」

 今回の四天王戦ラストは、仲間の魔法使い君が勇者とラブラブな王子に嫉妬して闇堕ちなんだよねー。まあテンプレっちゃテンプレなんだけどさ。

「えー、そうだっけ。」

「そう筋書きにあった。でも、魔法使い君、神官君と相打ちしちゃうから闇堕ち阻止すんよ。四天王戦より攻略難しいから覚悟しろ?」

「えっ、何それ。楽しそう。」

「………楽しくないよ? だってここから四天王戦やりつつ魔法使い君と神官君の恋愛乙女BLゲーだからな…。」

「マジか。無理ゲー。」

 エルの こころ が くじけた!


 それからの旅は辛く苦しい旅だった…。
 まさか乙女ゲーのサポートモブになりきりクエストがここまでしんどいとは…。
 道中各種ステータス異常系魔法を駆使して勇者に手を出さないよう、だが勇者とイチャイチャする王子に対しては好感度を下げないよう気を遣い、街中ではモブに扮して魔法使い君と神官君が二人っきりになるよう細工したり…、そして神官君にキミは本来タチじゃなくネコと仕向ける誘拐イベ…、うっ、思い出すと頭が…っ!(エルに寸止め盗賊役をして貰いました)
 そんな苦行中アホ四天王が襲撃と、ラノベなら2巻分くらいのボリュームだったね…。

「…サイ、次ってなんのイベすんの?」

 今日は久しぶりにマイルームで待機です。
 ソファーでまったり茶をしばきながら寛ぎ中。

「んー、まだ決めてない。今日の結果次第。」

「あー、今日はアイツら流星群みながらイチャイチャするんだっけ。」

「夏の最後の流星群の下で誓いのキスをすればカップルは永遠に幸せになれるって噂、頑張って広めたからな…。」

 色々な街で情報屋雇って流したんだ。めっちゃ金使った。勿論経費。ちゃんと領収書きった。
 おかげで今夜は見晴らしの良い丘はカップルだらけさ! 勿論勇者と王子、魔法使いと神官カップルもそこらで流星群待ちしてる。

「…ねえ、サイ。俺達も流星群見よ?」

「ばーか、それ俺の作り話だって、」

 気づけばエルが俺の肩を引き寄せ、耳元に軽く触れるキスをしてきた。

「キスしたい。…その先も。」




<次回予告>

炎獄は彼の聖剣により退けられ窮地を切り抜ける。
それを祝福するような星の雨。彼らにも心の寄る辺はあるのだ。
次回、触れ合うのは…、『第八夜 昨晩は、』
お楽しみに。

「有休?正しい判断です。」

※次回予告はあんまり本編に関係ありません。
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