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第1話【折りこまれし広告】
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勇者ラウルの朝は早い。
王都シバイタロカを拠点としている勇者一行であったが、本日は関所の工事の為休日としていた。
しかし勇者たるもの毎朝の鍛錬は怠らないものだ。年頃の男の子が持て余す煩悩を剣を振り回すことで体力に変換しているのだ。
「ラウル!大変よ!」
そこに薄着の女性が駆け込んで来た。
勇者一行の紅一点、魔法使いのドロシーだ。
普段のローブ姿とは違う露出の多い姿にせっかく消費した勇者の煩悩ゲージはまた蓄積した。
「今、宿に投げ込まれた広告見てたんだけど、ゴーゴンマートで今日、朝からたまごの特売があるみたいなのよ!」
ゴーゴンマートと言えば、王都御用達・市民の味方・はるばる大陸の隅からでも客の訪れる、スーパーセンターなのである。
「ゴーゴンの目の数ほどに行き届く品揃え」がキャッチコピーと言うだけに、無い物の方が少ないと言っても良い品揃えの良さである。
「え?俺も行くの?」
普段パーティの調理担当はラウルかドロシーである。
買い出しも普段はその日調理するどちらかが行くのだが。
「ここ見て」
広告でも黄色で縁取られた目を引くたまごの特売。
なるほど10個入り1パックが10Gといつもの1/10の価格。これは安い。
その中の小さな一文をドロシーが指差す。
「おひとり様1パックなのよ、2人で行って2パック買いましょう!」
いつも遅くまで寝ているドロシーがたまに早く起きて、朝から目を輝かせていると思ったらこれだ。
お金と食べ物にに関しては普段から非常に敏感なのだが、今日の特売はその要素を両方満たしている。
そりゃ寝巻で外に飛び出したくなるのもわかるが
「とりあえず着替えたら?俺も汗流して着替えるし。」
ハッとなるドロシー。
勇者一行で宿は貸し切りなのでエントランスまではまだ良い。
だが勇者が鍛錬していた宿の前の広場は割と大通りだ。
寝巻状態で薄着の女性がピョンピョン跳ねるのは少しマズい。
ドロシーは顔を真っ赤にして、早めに準備してね!らしい事を叫びながら戦闘中でも見たことの無いスピードで宿屋に引っ込んだ。
鍛錬の時間は予定の半分くらいなのに、なんだかいつもより疲れたラウルは深呼吸だか溜息かわからないものをひと息しぼり出し、ゆっくり宿屋に歩みを進めるのだった。
半刻程して、お出かけ用の軽装と念の為の剣を背にさした勇者が宿の前で待っていた。
ゆっくりシャワーを浴びたつもりだったがドロシーより準備は早かったようだ。
「あら、早いのね」
先ほどよりも落ち着いた口調で、いつものローブを身にまとったドロシーも遅れて出てきた。
一行の資金管理はもちろんドロシーな訳で、財布はドロシーが持っている。
「さあ、ゴーゴンマートに向かうわよ。」
冷静さは取り戻したが、未だ目は煌々と輝いていた。
ラウルは先日死闘の末倒した火竜の燃え盛る瞳を思い出して、少し身震いした。
「あらラウル、武者ぶるいかしら?いい心構えね。」
普段の戦闘よりも臨戦体制のドロシーだ。
なんだかいやな予感しかしない。
そう思うラウルであった。
王都シバイタロカを拠点としている勇者一行であったが、本日は関所の工事の為休日としていた。
しかし勇者たるもの毎朝の鍛錬は怠らないものだ。年頃の男の子が持て余す煩悩を剣を振り回すことで体力に変換しているのだ。
「ラウル!大変よ!」
そこに薄着の女性が駆け込んで来た。
勇者一行の紅一点、魔法使いのドロシーだ。
普段のローブ姿とは違う露出の多い姿にせっかく消費した勇者の煩悩ゲージはまた蓄積した。
「今、宿に投げ込まれた広告見てたんだけど、ゴーゴンマートで今日、朝からたまごの特売があるみたいなのよ!」
ゴーゴンマートと言えば、王都御用達・市民の味方・はるばる大陸の隅からでも客の訪れる、スーパーセンターなのである。
「ゴーゴンの目の数ほどに行き届く品揃え」がキャッチコピーと言うだけに、無い物の方が少ないと言っても良い品揃えの良さである。
「え?俺も行くの?」
普段パーティの調理担当はラウルかドロシーである。
買い出しも普段はその日調理するどちらかが行くのだが。
「ここ見て」
広告でも黄色で縁取られた目を引くたまごの特売。
なるほど10個入り1パックが10Gといつもの1/10の価格。これは安い。
その中の小さな一文をドロシーが指差す。
「おひとり様1パックなのよ、2人で行って2パック買いましょう!」
いつも遅くまで寝ているドロシーがたまに早く起きて、朝から目を輝かせていると思ったらこれだ。
お金と食べ物にに関しては普段から非常に敏感なのだが、今日の特売はその要素を両方満たしている。
そりゃ寝巻で外に飛び出したくなるのもわかるが
「とりあえず着替えたら?俺も汗流して着替えるし。」
ハッとなるドロシー。
勇者一行で宿は貸し切りなのでエントランスまではまだ良い。
だが勇者が鍛錬していた宿の前の広場は割と大通りだ。
寝巻状態で薄着の女性がピョンピョン跳ねるのは少しマズい。
ドロシーは顔を真っ赤にして、早めに準備してね!らしい事を叫びながら戦闘中でも見たことの無いスピードで宿屋に引っ込んだ。
鍛錬の時間は予定の半分くらいなのに、なんだかいつもより疲れたラウルは深呼吸だか溜息かわからないものをひと息しぼり出し、ゆっくり宿屋に歩みを進めるのだった。
半刻程して、お出かけ用の軽装と念の為の剣を背にさした勇者が宿の前で待っていた。
ゆっくりシャワーを浴びたつもりだったがドロシーより準備は早かったようだ。
「あら、早いのね」
先ほどよりも落ち着いた口調で、いつものローブを身にまとったドロシーも遅れて出てきた。
一行の資金管理はもちろんドロシーな訳で、財布はドロシーが持っている。
「さあ、ゴーゴンマートに向かうわよ。」
冷静さは取り戻したが、未だ目は煌々と輝いていた。
ラウルは先日死闘の末倒した火竜の燃え盛る瞳を思い出して、少し身震いした。
「あらラウル、武者ぶるいかしら?いい心構えね。」
普段の戦闘よりも臨戦体制のドロシーだ。
なんだかいやな予感しかしない。
そう思うラウルであった。
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