タマゴが安い

えんたくぅ!

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第2話【開店の時は来た、ドアは開かれる】

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ゴーゴンマートは既に行列ができていた。
開店30分前だ。
「うそぉ!もうあんなに…!」
ドロシーの声はもう涙声だ、負けず嫌いだが泣き虫で、感情の浮き沈みが激しい。
こういう時はいつも勇者の適切な指示と判断が必要となるのだ。

「ドロシー、卵売り場から少し遠い西口はまだ人が少ない。あっちに並ぼう。」
勇者が正面玄関の脇にある、一回り小さい入り口を指差す。

「でもあそこじゃ間に合わないよぉ…」
半ばあきらめ気味のドロシーは下向き加減で目に涙を浮かべていた。

「大丈夫」
ラウルはドロシーの手を引き、耳打ちする。
「開店と同時にドロシーが僕に倍速の魔法をかける。それで僕は市民の平均数値の4倍の素早さになれる。
ドロシーを抱えて走っても約3倍、ほぼ全員を追い抜いて売り場に着けるハズだ。」

勇者はその特性として、自分の周囲のモノのステータスが数字として目視できるのだ。

「ふわぁ…!さすがはラウル…!」
ドロシーはラウルの戦略に感心しながらも、自分を道具に換算した時のウェイト値も計算されていることに気付く。

「え、ちょっと、ラウルって私の体重も数字で見えてるの?」
ラウルは出てきた選択肢「はい・いいえ・無視する」で無視するを選んだ。

「ちょっとラウルまって!ちゃんと答えて!」
ラウルは静かに西口の列の最後尾に並んだ。
この人数なら間を縫って走れそうな密度だ。

ドロシーが列に着き、ふと正面玄関の先頭の方を見ると、ひときわ目立つ黒い大きな影が見えた。
「ラウル、あの人って…」

ラウルも目をやる。
「え?」とつい声が出る。

その声に反応して黒い影もこちらに頭を向けた。
「おーぅ!」知り合いのごとくその黒い影は大きな黒い手を上げた。

勇者の倒すべき最大の敵
[魔王アーノ]の姿がそこにあった。
旅立ちの日の夜に幻影として巨大な姿を見せ、勇者を震え上がらせた恐怖の魔王が今、
目の前でスーパーの特売に並んでいるのだ。
しかもフレンドリーに手を振っている。

思わずラウルは目を見開き背中の剣に手をやる。
「どういうつもりだ魔王アーノ。ゴーゴンマートを支配して世界を困窮させる気か。」

「ちがうちがうこれだよ」
アーノは手を振っていた方と逆の手を上げる。
その手にはしっかと今朝の折り込み広告が握られていた。

「たまご特売じゃん?側近引き連れて買いに来たのよ。」
よく見れば魔王の奥には黒いローブの神官や体の大きな獣人のような魔物がグヒヒと笑いながら同じように広告を握っている。
「ここを魔族が征服しても、ゴブリンとかバカが多いし仕入れとかの知識とか交渉とか無理だもん。
それにトロルとかデーモンとかご飯メチャクチャ喰うのよ!こういう特売で大量に仕入れないとマジで世界征服とか採算合わなくてやってらんないのよ!」

そんな子だくさんの主婦みたいな愚痴とか人間界の征服は若い魔王の就職試験だからホントはやりたくないとかいう文句をベラベラ喋り出す魔王の言葉にラウルはめまいがして来たので、ひとまず選択肢[にげる]を選択して西門のドアに集中するのだった。

「お客様!本日は当店にお越しいただきましてありがとうございます!」
拡声器からの声が、まだ静かな王都にこだまする。
ゴーゴンマート店主とおぼしき人が正面玄関に出てきたのだ。
時計塔は9:59を指し示し、秒針が来店客の気持ちに押し上げられ天頂に近付く。
ドロシーはラウルに身を寄せ、限りなく静かに杖のタリスマンを光らせながら呪文を詠唱し始めていた。

「ゴーゴンマート、オープンです!」
ひときわ大きな声が響き、店の大きな扉がさわやかな音楽と共に開かれた。


闘いは今、始まったのだ。
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