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しおりを挟むどうしてこうなった…
「いつも、いつも邪魔ばかり。リ、リリーはわたくしのものですわ!!」
「邪魔をしているのはお前の方ではないか。だいたい、リリーは誰のものでもない!!」
現状の説明をしよう。
悪役令嬢のオリビア様と攻略対象キャラの王太子殿下アダム様が、ヒロインであるリリーの取り合いをしている最中なのだ。
「セレス!貴方からも言ってやってちょうだいな!」
お馬鹿オリビア様、巻き込まないで下さいよ…
しかし、ふられた以上答えないわけにもいかず渋々口を開いた。
「恐れながら殿下、ここは一度身を引いては頂けないでしょうか?オリビア様のご性質は幼馴染の貴方様ならよくご存知でしょう。このままでは平行線を辿るばかりか、学園の騒ぎとなります。生意気にも口を出した私は罰して構いませんので、どうかご考慮下さい」
「わ、わたくしの性質って何よ!というか、セレス、貴女また自分を犠牲にして!貴女に罰などこのオリビアが許しません」
よし、もう一息。完璧な茶番劇にしなければ
「ですがたかが一介の貴族の分際で殿上人に口出しなど罰が下っても仕方ありません…石打ちであろうが、鞭打ちであろうが耐えてみせますゆえ。オリビア様…私の事はお気になさらず。ご自身の信念をお曲げにならぬ様。オリビア様の幸せこそ、私の幸せなのですから」
「セレス…貴女そこまでわたくしのことをっ。分かりました、貴女の強い意志、たしかに受け取ったわ」
あ、まって…本当にお気にしない感じですか??
やっぱりプライド重視で本人の意思を一番に重んじる女王様気質のオリビア様に中途半端な漬け込みは良くないな。ここは徹底して
「はい…例え、水に沈められ、火炙りにされ、陵辱され、皮を剥がされ、串刺しにされ、磔にされ、獣に喰われ、死体を街中に晒され、見世物にされようと、どんな惨い刑や屈辱にもオリビア様の為なら耐えてみせます。ですから…気にせず…ッゴホ!ゴホッ!」
「セレス!…ぐぬっ、今日はここまでにしてあげます。精々覚悟しておく事ですね!」
その悪役令嬢セリフはヒロインに対して吐くものでは…?まぁ、とにかくこの場をしのぐ事には成功したので良しとしよう。
呆気にとられたままのアダム様に一礼して、オリビア様に手を引かれるまま歩き出す。
「貴女、身体が弱いのに無理しないでちょうだい。私を心配させるなんて生意気だわ」
無理させたのは誰ですか?という言葉をのみ込んで、口を開いた。
「ご迷惑を掛け申し訳ありません。ですが、あの様な場所で殿下と言い合ってはなりませんよオリビア様。不服でしょうが殿下とオリビア様は婚約者同士。不仲とあっては、誰に付け込まれるか…反王政派の動きも近頃活発になって来ておりますし」
だいいち、婚約者がいるのにも関わらず恋人にしたい女性がいるのなど、外聞が悪過ぎてオリビア様の今後に響く。まぁ、殿下の方もヒロインに恋情を抱いているようですし…
「……分かってるわよ、それぐらい」
子供っぽく口を尖らせるオリビア様に呆れながらも、微笑ましさもおぼえてしまう。
「で、でも、自分でも自制が効かないのよ…彼女の事になると、些細な事でも気になって、暴走してしまうし…そ、その、恋とはこういうものなのかしら…」
「さぁ、私には縁遠いものです」
「嘘おっしゃいな。セレス、貴女にも婚約者がいるではない」
「……婚約者と言いましても名ばかりで御座いますし、オリビア様同様、良好な関係とは言えません」
「痛いとこを突くわね…で、では、知識としてで良いわ。こ、恋というものを教えて下さる?」
上目遣いで恥ずかしげにチラチラと返答を待つ可愛らしいオリビア様を好きにならない殿下は男として問題があるのでは? そう思いざる終えない。
確かにオリビア様は高飛車で、思い込みが激しくて、傍若無人なところはあるけど、素直で優しくて、意外にロマンチストというギャップ持ちのツンデレさんなのだ。
「…ス…レス…セレス!セレスティアったら!」
「ああ…少々ボーッとしておりました」
「体調が悪いのなら医務室へ行くわよ。キビキビ歩きなさいな」
手から腕に掴む手をかえ、医務室の方へ足を進めるオリビア様に迷惑はかけられない。私は、急ぎ足のオリビア様に首を振った。
「私は大丈夫です。それに次の授業は魔法学です。皆の模範であるオリビア様が遅れてはなりません」
「多少の遅れごときで、わたくしの優秀な成績は傷一つつかないわ。だいたい、隠したってわたくしの目は誤魔化せないのだから。何年の付き合いだと思っているのかしら?黙って医務室へ行くわよ」
オリビア様はフンっと身体を翻して歩き出す。
彼女は十年前からなんら変わらない。
オリビア様に救われた命。オリビア様に与えられた優しさ。私の世界はオリビア様中心に回っている。
だから私は、彼女の幸せを守ってみせる。敵も味方も、常識も、正義も悪も関係ない。
「オリビア様」
「なによ」
「有難うございます」
私がフワリと微笑むと、オリビア様の目が少し見開いた気がする。しかし、すぐにそっぽを向かれてしまった。
「ふ、ふんっ!当たり前の事をするまでよ。感謝されるいわれは無いわ」
それから私は医務室で寝かされ、魔法学の授業を欠席した。オリビア様のペアは私であったから申し訳ないが、あの授業はリリー様もいるから、努力次第でもしかしたら、もしかするかもしれない。
寝たからか、随分と体調が回復した為、私は医務室をあとにして、学園の長い廊下をゆくりと歩く。
そこに後ろから声を掛ける人がいた。
「よぉ、セレス」
銀髪に紅い瞳…彼は、
「ハイメ様…。と、先程は失礼しました殿下」
振り向いた先に居たのは、殿下の護衛兼、幼馴染ハイメ様と…なんと殿下ご本人
「いや、僕達の仲じゃないか。堅苦しいのはやめてくれセレス」
殿下相手に敬語を捨てろと…?
「そうだそうだ。昔はもう少し愛想あったのに、セレスときたら成長するにつれ表情筋が死んでゆく」
「ハイメ様は、成長するにつれ軽い人間になっておりますね」
「オリビア以外に辛辣なのは相変わらずか」
昔のような言い合いを繰り広げていると、殿下が、すまないが、と口を挟んだ。
「その…オリビアの事で話があるのだが、少しだけ時間をもらえるだろうか?」
苦い顔を見せる殿下の言いたい事が手に取るようにわかった。
あいにく断る理由などない私はコクリと頷く。
「はい、もちろんです」
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