再現魔法の転生者~小説に存在する魔法を使って異世界を満喫する~

銀雪 華音

文字の大きさ
3 / 3

第2話 町に到着 とりあえず冒険者になろう!

しおりを挟む
「あ、あの……! あなたは一体……?」
氷漬けになった魔物の群れを背に、馬車から降りてきた少女がおずおずと声をかけてくる。
近くで見ると、その美貌は破壊的だった。
透き通るような金髪に、宝石のような碧眼。ドレスの裾を握りしめる仕草一つとっても、育ちの良さが滲み出ている。
王女、あるいはそれに準ずる身分なのは間違いない。
「俺か? 俺はアラタ。見ての通り、ただの旅人さ」
俺は努めて爽やかに名乗った。
「アラタ様、ですね。私はこの国の第二王女、セレスティア・フォン・アーデルハイトと申します。この度は、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました!」
セレスティア――通称セレス王女は、深々と頭を下げた。
王族に頭を下げられるなんて、前世の俺なら恐縮して心臓が止まっていたかもしれない。
だが、今の俺のメンタルは10億年モノだ。
「美しいお辞儀だな」と感心する余裕すらある。
「礼には及ばないよ。困っている人を見捨てるのは、主人公――いや、男の恥だからね」
「まあ……! なんてお優しい……」
セレス王女の瞳がキラキラと輝く。チョロい。いや、純粋だ。
すると、脇で治療を受けていたゴツい騎士が、足を引きずりながら近づいてきた。
この部隊の隊長、ガルドだ。
「アラタ殿と言ったか。……貴公のその魔法、見たことがない。無詠唱にしてあの威力、それにあの氷の造形……宮廷魔導師団でもあんな真似はできんぞ」
ガルド隊長の視線は鋭い。
当然だ。この世界の魔法は「火の玉を飛ばす」「風を起こす」といった単純な現象が主流。
俺のように「物語の描写」を再現し、芸術的な装飾まで施された魔法など、オーパーツもいいところだろう。
「俺の魔法はちょっと特殊でね。田舎の師匠が厳しくてさ」
「師匠……? 一体どこの賢者だ……」
ガルド隊長は眉間のシワを深くして考え込んでいる。
「10億年修行した神様です」とは言えないので、適当に誤魔化しておく。
神秘性はそのまま実力への評価に繋がるからだ。
「それで、これからどうされるのですか? もしよろしければ、王都までご一緒させていただけませんか? 父上――国王陛下にも紹介したいのです」
セレス王女の提案。
これは非常に魅力的だ。王都へのパスポート、そして王家とのコネクション。
異世界を満喫するための「基盤」としては最高の手札。
だが、俺にはまずやるべきことがあった。
「王都へは行くつもりだが、その前に近くの町に寄りたいんだ。冒険者ギルドへの登録を済ませたくてね」
「冒険者、ですか?」
「ああ。この世界を自由に旅するには、身分証代わりになるライセンスが必要だろ?」
それに何より、「ギルドで因縁をつけられる」「実力を見せて黙らせる」「受付嬢に驚かれる」という一連のテンプレを消化しなければならない。
これは義務ではない。権利だ。
「でしたら、この先の宿場町『ルルト』にギルドの支部があります。私たちもそこで馬車の修理と補給をする予定でしたので、そこまで護衛をお願いできないでしょうか?」
「商談成立だな。喜んで引き受けよう」
俺はニカっと笑い、ガルド隊長と握手を交わした。
          ◇
町への道中、馬車の中でセレス王女と会話を楽しんだ。
彼女の話によると、今回は極秘のお忍び旅行の帰りだったらしい。
どうりで護衛が少なかったわけだ。
「それにしても、アラタ様のお話は面白いですね! 空を飛ぶ鉄の鳥や、遠くの人と話せる板……まるで物語の中の世界みたいです」
「はは、まあ俺の故郷はちょっと変わったところでね」
前世の現代日本の話を「異国の寓話」として語って聞かせると、セレス王女は身を乗り出して食いついてきた。
やはり、この世界には「物語」が不足しているのかもしれない。
俺がこれから再現する魔法の数々は、彼女たちにとって最高のエンターテインメントになるはずだ。
やがて、石造りの城壁に囲まれた町、ルルトが見えてきた。
門番たちはガルド隊長の紋章を見ると、敬礼して道を空ける。
顔パスだ。権力って素晴らしい。
「ではアラタ殿、我々は宿の手配と馬車の修理に向かう。後ほど、ギルドの方へ迎えをやろう」
「ああ、助かるよ」
町の広場で別れを告げ、俺は一人、冒険者ギルドを目指す。
石畳の道。活気ある露店。漂ってくる串焼きの匂い。
どこを見てもファンタジー色が濃厚で、歩いているだけでテンションが上がる。
「さて、ここがお約束の場所か」
目の前に現れたのは、剣と盾の看板が掲げられた大きな建物。
冒険者ギルド『ルルト支部』。
扉を開けると、喧騒と酒の匂い、そして汗臭さが入り混じった熱気が押し寄せてきた。
昼間から酒を飲む荒くれ者たち。
壁に貼られた依頼書の数々。
俺が一歩足を踏み入れると、数人の視線が突き刺さる。
「なんだあのヒョロいガキは」「また死に急ぎが来たか」といった値踏みするような視線。
(……いい。すごくいいぞ、このアウェー感!)
俺は内心でガッツポーズをした。
これぞ冒険者ギルド。新人が洗礼を受けるための神聖なる儀式場だ。
俺はカウンターへ一直線に向かう。
受付には、栗色の髪を束ねた愛想の良さそうな女性職員――ネームプレートには「ミナ」とある――がいた。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録を頼みたい。新規だ」
「はい、新規登録ですね! それではこちらの用紙にご記入をお願いします。代筆も承っておりますが……」
「いや、自分で書ける」
俺はペンを受け取り、羊皮紙に向かう。
名前、年齢、そして使用可能な魔法(スキル)。
ここで何を書くか。
「全知全能」「神級魔法」なんて書いたら面倒なことになるし、何より風情がない。
俺は少し考え、ニヤリと笑ってペンを走らせた。
【使用可能魔法:再現魔法(物語の再現)】
「……再現魔法、ですか? 聞き慣れない魔法ですね」
用紙を受け取ったミナさんが首を傾げる。
「ああ、ちょっと特殊な家系でね。実技試験とかはあるのかな?」
「はい、ございます! ちょうど訓練場が空いておりますので、そこで実力を見せていただけますか? 試験官は……」
ミナさんが奥を覗き込むと、ギルドの奥から、身の丈2メートルはあろうかという巨漢の男がヌッと現れた。
顔に大きな古傷があり、背中には巨大な戦斧を背負っている。
「おう、新入りか。俺が試験官のバッカスだ。五体満足で帰りたきゃ、全力でかかってきな」
完璧だ。
絵に描いたような「新人をシメるための強面試験官」の登場である。
俺の胸が高鳴る。
10億年の修行の成果を、手加減しつつ、しかしド派手に見せつける時が来た。
「よろしく頼むよ、試験官殿。……手加減はできないけど、死なないでくれよ?」
俺の挑発的なセリフに、ギルド内の空気がピリリと凍りつく。
さあ、楽しい実技試験の始まりだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

RPGのストーリー開始前に殺されるモブに転生した俺、死亡フラグを回避してラスボス助けたら女主人公が現れてなぜか修羅場になった。

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
――死亡フラグのあるモブに転生した。なぜか男主人公の姿で。 王国に孤児院の子供達を殺された少女ミュライトがラスボスのRPG『プリテスタファンタジー』。 物語後半でミュライトと主人公は互いに孤児院出身であることが分かり、彼女を倒した主人公がその死を悲しむ絶望的なエンディングからいわゆる「鬱ゲー」と呼ばれているゲームでもある。 そして、そんなゲームの物語開始前にミュライトと同じ孤児院に住んでいた子供に転生したが…その見た目はなぜか男主人公シュウだった。 原作との違いに疑問を抱くものの、このままストーリー通りに進めば、ミュライトと主人公が戦って悲惨なエンディングを迎えてしまう。 彼女が闇落ちしてラスボスになるのを防ぐため、彼女が姉のように慕っていたエリシルの命を救ったり、王国の陰謀から孤児達を守ろうと鍛えていると、やがて男主人公を選んだ場合は登場しないはずの女主人公マフィが現れる。 マフィとミュライトが仲良くなれば戦わずに済む、そう考えて二人と交流していくが― 「―あれ? 君たち、なんか原作と違くない?」 なぜか鉢合わせた二人は彼を取り合って修羅場に。 こうして、モブキャラであるはずのシュウは主人公やラスボス達、果ては原作死亡キャラも助けながらまだ見ぬハッピーエンドを目指していく。 ※他小説投稿サイトにも投稿中

処理中です...