再現魔法の転生者~小説に存在する魔法を使って異世界を満喫する~

銀雪 華音

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第1話 テンプレに遭遇これは助けなければ…

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まぶたを打つ陽光。
頬を撫でる風の温度。
そして、肺いっぱいに満ちる、土と草の匂いを含んだ大気。
「……すぅー、はぁー……」
俺はこれ以上ないほど深く深呼吸をして、その感覚を全身の細胞で味わった。
生きている。
肉体がある。
10億年もの間、概念だけの存在として漂っていた俺にとって、ただ「立っている」という事実だけで、涙が出そうなほどの感動だった。
「重力がある! 酸素がある! そして何より――」
俺は自分の手を見る。
16歳の、若々しく健康的な掌。
神様との約束通り、最高のコンディションだ。
周囲を見渡せば、そこは鬱蒼とした森の中だった。木漏れ日が揺れ、鳥のさえずりが聞こえる。
まさに、異世界ファンタジーの開幕に相応しいロケーションじゃないか。
「さて、と。まずは現状確認からいくか」
俺は軽く足踏みをし、体のキレを確認する。
魔力回路は……良好どころの話ではない。
血管の代わりに奔流のような魔力が全身を駆け巡っている。
出力調整を間違えれば、くしゃみ一つでこの森を更地に変えてしまいそうだ。
慎重にいかなければならない。俺は世界を滅ぼしに来た魔王ではなく、世界を満喫しに来たただの旅行者なのだから。
その時だった。
「――きゃあああああっ!」
空気を切り裂くような、少女の悲鳴。
続いて、怒号と金属がぶつかり合う音が風に乗って聞こえてきた。
俺の動きが止まる。
普通の人間なら恐怖で足がすくむ場面かもしれない。
だが、俺の口元は、自然と三日月形に吊り上がっていた。
「……来た」
到着して数分で、これだ。
森、悲鳴、戦闘音。
これ即ち、『テンプレイベント』の発生である。
「素晴らしい! 神様、アンタの采配は最高だ!」
俺は地面を蹴った。
加減したつもりだが、足元の土が爆ぜ、景色が後方へと置き去りになる。
身体強化魔法を使うまでもない。10億年の修行で練り上げられた魂が肉体を引っ張り、音速に近い速度で森を駆け抜ける。
          ◇
現場は、森を抜けた街道沿いだった。
視界に入ってきたのは、典型的な襲撃の光景。
豪奢な装飾が施された馬車が一台。それを守るように剣を構える数人の騎士たち。
そして彼らを取り囲むのは、薄汚い布を纏った数十の武装集団――いや、人間ではない。緑色の肌、尖った耳。
ゴブリン、あるいはオークの類か。
「グギャギャ! 女ハ殺スナ! 男ハ食ッテイイゾ!」
下品な笑い声を上げる巨体の魔物が、棍棒を振り上げる。
騎士の一人が盾で受け止めるが、その衝撃に吹き飛ばされ、鮮血を撒き散らして倒れた。
「くっ、ここまでか……! 姫様だけでもお逃げください!」
「い、嫌です! 私だけ逃げるなんて!」
馬車の窓から顔を覗かせているのは、金髪の美少女。
はい、確定。
王族、あるいは高位貴族の令嬢だ。
騎士たちは満身創痍で、魔物の包囲網じりじりと狭まっている。絶体絶命のピンチ。
完璧だ。
これ以上ないほど、俺が介入するための舞台が整っている。
俺は茂みから飛び出し、戦場のど真ん中、馬車と魔物の間に着地した。
「――そこまでだ」
ドォォォン! と土煙を上げて着地する。
静まり返る戦場。
騎士も、魔物も、馬車の中の少女も、突然現れた俺に目を丸くしている。
「あ? なんだテメェ、人間か?」
魔物のリーダー格らしき個体が、不快そうに鼻を鳴らした。
俺は彼らを冷ややかな目で見回す。
近くで見ると、その造形は実に粗い。
皮膚の質感も、筋肉の動きも、まるで数世代前のゲームグラフィックのように解像度が低い。
これがこの世界の「魔物」か。
俺が知る「物語」の緻密な描写に比べれば、あまりにもお粗末な作りだ。
「悪いが、このイベントは俺が引き継ぐ。お前たちの出番は終わりだ」
「ハッ! ガキが粋がってんじゃねェぞ! すり潰してや――」
魔物が棍棒を振り上げ、俺の頭蓋を砕こうと迫る。
遅い。あくびが出るほど遅い。
俺は一歩も動かず、脳内の書架にアクセスする。
10億年の間に読み漁り、記憶した数億冊の物語。
その中から、今の状況に最も相応しい**「一文」**を検索する。
選んだのは、かつて熱中したハイファンタジー小説『聖銀の守護者』第3巻、クライマックスのシーン。
(イメージしろ。文字を現象へ。描写を現実へ)
俺は魔力を練り上げ、その「文章」を脳内で詠唱した。
『――その障壁は、慈悲なき絶対の拒絶。神の息吹すら及ばぬ、聖域としての境界線である』
再現魔法・構築――《聖銀の拒絶(アブソリュート・リジェクト)》
カァァァッ!
俺の目の前に、空間そのものが凍りついたかのような、白銀に輝く光の壁が出現した。
それは単なる魔力の壁ではない。
小説内で描写された通りの「絶対的な拒絶」の概念を具現化したものだ。
「ギャ!?」
振り下ろされた棍棒が、光の壁に触れた瞬間。
音もなく、消滅した。
弾かれたのではない。触れた部分から先が、素粒子レベルで分解され、光の粒子となって霧散したのだ。
物理法則を超えた、物語(フィクション)による理不尽な防御。
「な、なんだ!? 俺の棍棒が……!」
「驚くには早いぞ」
俺はニヤリと笑う。
守るだけじゃ、物語は終わらない。
悪を討ち、姫を救ってこそのヒーローだ。
次は攻撃魔法。
派手で、美しく、一撃で終わらせるやつがいい。
選んだのは、復讐劇を描いたダークファンタジー『冥界の断頭台』より。
俺は右手を天にかざす。
『空が裂け、無数の断罪が降り注ぐ。それは逃げ場なき雨。罪人の魂を串刺しにする、氷の荊棘(けいきょく)』
再現魔法・構築――《氷葬の雨(ニブルヘイム・レイン)》
瞬間、森の上空がパキパキと音を立てて凍結した。
夏の陽気は一瞬で極寒へ。
見上げれば、空を覆い尽くすほどの、煌めく氷の槍が無数に生成されている。
一本一本が、まるで芸術品のように繊細な彫刻が施された、美しくも残酷な死の雨。
「ひ、ひぃぃ……!?」
「逃げろ! なんだコイツは!?」
魔物たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
だが、物語の結末は変えられない。
「降り注げ」
俺が手を振り下ろすと同時。
無数の氷槍が、一条の光となって地上へ殺到した。
ドドドドドドドドドッ!
轟音と共に、魔物たちだけが正確に貫かれる。
地面を穿ち、肉を貫き、瞬く間に魔物の群れを氷のオブジェへと変えていく。
その間、わずか数秒。
静寂が戻った時には、そこには俺と、呆然とする騎士たち。
そして、氷漬けになった魔物の群れだけが残されていた。
馬車や騎士たちには、氷の欠片ひとつ当たっていない。完璧なコントロールだ。
「……ふぅ」
俺は軽く息を吐き、残心。
これだ。
この圧倒的な「やったった感」。
前世で画面越しに憧れていた光景が、今、俺の手によって現実になっている。
俺はゆっくりと振り返り、腰を抜かしている騎士たちと、馬車の窓からこちらを凝視している少女に向けて、極上の営業スマイルを向けた。
「怪我はないかな? 名もなき通りすがりの冒険者だが、助太刀させてもらったよ」
決まった。
これぞ、様式美。
10億年の修行の成果は、この瞬間のためにあったと言っても過言ではないだろう。
俺の異世界生活は、最高のスタートダッシュを切ったのだった。
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