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第0話 序章
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真っ白な空間。上下左右の感覚すら曖昧なその場所に、俺は漂っていた。
目の前には、光り輝くおっさんが一人。いや、神様か。
「あー、ごめんごめん。君、死んじゃったわ! 手違いで!」
開口一番、これである。
俺の死因は不明。気付いたらここにいて、この軽いノリの神様に土下座されていた。
まあ、死んでしまったものは仕方がない。現世に未練がないわけではないが、抗議して生き返れるシステムでもなさそうだ。
「でね、お詫びと言ってはなんだけど、異世界転生させてあげる! 願いも二つまでなら叶えるからさ、それで許してくれない?」
「……随分と話が早いな」
「善は急げってね! さあ、何でも言ってみたまえ」
俺は少し考え、前世で一番の心残りだったことを口にする。
仕事に追われ、生活に追われ、読むことすらままならなかった数多の物語。
「一つ目。『小説に出てくる魔法を使えるようにしてほしい』」
そう、俺が欲しいのは既存の魔法じゃない。
作者たちが魂を削って生み出した、あの美しい描写、胸踊る詠唱、圧倒的なカタルシス。あれをこの手で再現したいのだ。
「ふむ、再現魔法か! 面白いねえ。でもそれ、膨大な魔力と演算能力が必要になるよ? 今の君の魂じゃ、一発撃っただけで蒸発しちゃうかなぁ」
「……そこを何とかするのが神様の仕事だろ?」
「痛いところを突くねえ! 分かった。じゃあ、使えるようになるまでここで修行していってよ。時間の流れは外とは違うから、どれだけ掛かっても大丈夫!」
神様は親指を立ててウィンクした。
まさか、その「どれだけ掛かっても」が、文字通りの意味だとは思いもしなかったけれど。
◇
「――はい、合格! いやー、長かったねえ!」
「……ああ、長かったな」
俺は重く息を吐き、自分の掌を見つめる。
神界での修行。神級魔法を含む、あらゆる事象の習得。
体感時間にして、およそ10億年。
普通の精神ならとっくに摩耗して塵になっているだろうが、俺はどうにか正気を保っていた。
全ては、異世界で「物語」を満喫するために。
その執念だけで、神ごときが設定した修行カリキュラムを完走してやったのだ。
「まさか全クリするとはねぇ。これでもう、君の魂は神格級だよ。再現魔法どころか、世界そのものを書き換えられるレベルだ」
「……あぶねぇ。途中で飽きてたら危なかった」
10億年分の記憶と技術が、俺という存在に圧縮されている。
だが、俺の心は不思議と軽かった。ようやく、スタートラインに立てたのだから。
「じゃあ、二つ目の願いをどうぞ! 今の君なら大抵のことは自分でできそうだけど?」
「いや、これは必須だ。……『16歳の姿で転生させてくれ』」
「そこはこだわるんだ?」
「当たり前だろ! 異世界を満喫するには、若さが一番の武器なんだよ。10億歳のおじいちゃんボディじゃ、青春も冒険も楽しめないからな」
俺の力説に、神様は呆れたように笑う。
「オッケー! そのメンタルなら、向こうでも楽しくやれそうだ。それじゃあ、いってらっしゃい! 新しい人生を、存分に満喫しておいで!」
視界が白く染まる。
10億年の準備期間は終わった。
ここから始まるのは、俺が紡ぐ、俺だけのための物語だ。
目の前には、光り輝くおっさんが一人。いや、神様か。
「あー、ごめんごめん。君、死んじゃったわ! 手違いで!」
開口一番、これである。
俺の死因は不明。気付いたらここにいて、この軽いノリの神様に土下座されていた。
まあ、死んでしまったものは仕方がない。現世に未練がないわけではないが、抗議して生き返れるシステムでもなさそうだ。
「でね、お詫びと言ってはなんだけど、異世界転生させてあげる! 願いも二つまでなら叶えるからさ、それで許してくれない?」
「……随分と話が早いな」
「善は急げってね! さあ、何でも言ってみたまえ」
俺は少し考え、前世で一番の心残りだったことを口にする。
仕事に追われ、生活に追われ、読むことすらままならなかった数多の物語。
「一つ目。『小説に出てくる魔法を使えるようにしてほしい』」
そう、俺が欲しいのは既存の魔法じゃない。
作者たちが魂を削って生み出した、あの美しい描写、胸踊る詠唱、圧倒的なカタルシス。あれをこの手で再現したいのだ。
「ふむ、再現魔法か! 面白いねえ。でもそれ、膨大な魔力と演算能力が必要になるよ? 今の君の魂じゃ、一発撃っただけで蒸発しちゃうかなぁ」
「……そこを何とかするのが神様の仕事だろ?」
「痛いところを突くねえ! 分かった。じゃあ、使えるようになるまでここで修行していってよ。時間の流れは外とは違うから、どれだけ掛かっても大丈夫!」
神様は親指を立ててウィンクした。
まさか、その「どれだけ掛かっても」が、文字通りの意味だとは思いもしなかったけれど。
◇
「――はい、合格! いやー、長かったねえ!」
「……ああ、長かったな」
俺は重く息を吐き、自分の掌を見つめる。
神界での修行。神級魔法を含む、あらゆる事象の習得。
体感時間にして、およそ10億年。
普通の精神ならとっくに摩耗して塵になっているだろうが、俺はどうにか正気を保っていた。
全ては、異世界で「物語」を満喫するために。
その執念だけで、神ごときが設定した修行カリキュラムを完走してやったのだ。
「まさか全クリするとはねぇ。これでもう、君の魂は神格級だよ。再現魔法どころか、世界そのものを書き換えられるレベルだ」
「……あぶねぇ。途中で飽きてたら危なかった」
10億年分の記憶と技術が、俺という存在に圧縮されている。
だが、俺の心は不思議と軽かった。ようやく、スタートラインに立てたのだから。
「じゃあ、二つ目の願いをどうぞ! 今の君なら大抵のことは自分でできそうだけど?」
「いや、これは必須だ。……『16歳の姿で転生させてくれ』」
「そこはこだわるんだ?」
「当たり前だろ! 異世界を満喫するには、若さが一番の武器なんだよ。10億歳のおじいちゃんボディじゃ、青春も冒険も楽しめないからな」
俺の力説に、神様は呆れたように笑う。
「オッケー! そのメンタルなら、向こうでも楽しくやれそうだ。それじゃあ、いってらっしゃい! 新しい人生を、存分に満喫しておいで!」
視界が白く染まる。
10億年の準備期間は終わった。
ここから始まるのは、俺が紡ぐ、俺だけのための物語だ。
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