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第1章 風の大都市

嵐の前

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「……ぃ、…き……。」
ぷにぷにと頬に気持ちいい感触が伝わってくる。その感覚をもっと堪能したくて俺は逆にそのぷにぷにに強く顔を押し付けた。

「意識があるなら早く目を覚まさんか!!」

べしん!とぷにぷににきつい一撃を与えられる。

「ぷにぷに……。」
「はぁ、一言目がそれか。」
「まあまあ、よかったではないですか。さっきまで気が気でなかったのでしょう?」

目を開けると俺の胸の上にのっかかる非常に不機嫌そうなテオと黒い長髪の女性がベッドに横たわる俺を見下ろしていた。

「誰がこんな肉球の事しか考えていないアホの心配などするか。ふん、我は寝るから後のことはこの女に聞け。」

そう言うとテオは部屋の端に置いてあるソファの上で丸まってすやすやと眠ってしまった。

「初めまして、私はここのシスターとして初めて魔力検査をした子に扱い方を教えているスザンナです。あの子ああ言ってるけど貴方が倒れてから起きるまでずっとソワソワしながら見ていてくれたのよ。貴方に少しでも異変があれば人を呼んでいたわ。いい友達を持ったわね。」

へーそうなんだ、素直じゃない奴め。止まらないにやけ顔のままとりあえず現状把握の為に質問をする。

「ところで俺が倒れて何分くらい経ったんですか?」

「何分?いいえ、今日は貴方が倒れてちょうど3日目よ。」

嘘だろ!?魔力が急に出てきた反動ってそんなにヤバかったのか。というかそれならテオは3日も俺を見続けてくれてくれていたということで、
すっとにやけ顔が消える。

「お前本当に素直じゃない……。」
「うふふ、じゃあテオくんはこのまま寝かせておいてあげましょうね。ジョンくんの体調はどうかしら。もし元気なら今のうちにその指輪についてお話ししたいのだけれど。」

「大丈夫です、お願いします。」

「忠告しておくと、その指輪はしばらく外さないでいて欲しいの。貴方の魔力はあまりにも強すぎて放出するだけで体が壊れてしまうわ。だから今魔道具研究所に急ぎで改良版の指輪を作ってもらっているからそれまでは我慢してほしい。」

水魔法を解放した時の記憶が蘇る。あの時の感覚は本当に溺れてしまったかと思うほどリアルで本当に怖かった。もしあれが炎や雷だったら……考えるのはやめよう。

「もちろんです。もう溺れたくないですから。」

「溺れる?なるほど、力が強すぎるとそんな感覚になるのね。興味深いわ。」

「普通の人たちはどんな感覚なんですか?」

「私は炎魔法傾向なのだけれど、そうね常にポカポカしているから暑がりってよく言われるわ。そういえば水魔法が強い友人は冷え性ね。」

「へえ!じゃあ風属性の人はぷかぷか浮いちゃうとか?」

「うふふ確かにそんなそんな子供を何度か見たことがあるわ。といっても数cm程だけどね。」

「まじ!?」

スザンナさんとの話は思いのほか盛り上がり本題からかなり逸れて行ったが、最後に思い出したように彼女は付け加えた。

「もしもの時を考えて今のうちから体を鍛えておくことをお勧めするわ。筋肉もそうだけれどどちらかというと体力をつけてちょうだい。貴方はまだ幼いから、今は力をうまく使えなくても後何年かすればきっと体に馴染むはずよ。」

そしてスザンナさんは日課の運動をいくつか書いた手書きのメモを渡してくれた。

「色々してくれて本当にありがとう。」

「いいのよ、これも私のお仕事だから。それにみんなジョンくんに興味津々でなんとかしてあげたいって思っているの。なにせこんなに小さな子がこの世界始まって以来の強大さを誇るかもしれない力を背負っているのですもの。」

世界始まって以来?俺の力が?確かに6属性はすごいんだろうなとは思っていたけど、てっきりあの儀式の時の少年みたいに〇〇年に一度とかだと。
……もし俺の力がバレたら平凡な人生どころか戦争に駆り出されたりしないよな?いやこの世界で今戦争が行われてるのか全く知らないけどさ。いや、もし戦争がなかったとしても強い力はその存在だけで火種になる。

「あの俺の力ってもしかしてもう都市全体にバレてたりします?」

「それは問題ないわ。あの場にいた一般人には大司教様が記憶操作をしているから。」

大司教すご。

「白魔法ってそんなことまでできるんだ。」

「白魔法をベースにさまざまな属性の魔法を組みわせてるみたいよ。適正ひとつを伸ばす人が多いけれど、適正のある魔法をベースに他の属性を組み合わせて独自の魔法を生み出す人たちもいるの。まあこういうのも一種の才能よねぇ。」

魔法の組み合わせ……もし俺が全ての属性を使いこなせるようになったらどんなことでもできるようになりそうだな。楽しそうだけど、そんな目立つ事をしたらあいつの思う壺だ。

「あら、そろそろ時間だわ。指輪は10日後に届く予定だからそれまでここに泊まっていくといいって大司教様からの伝言よ。」

「それは助かります!」

よかった、泊まるところの話テオはああいってたけど実は半信半疑だったんだよな。



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