ド平凡少年は異世界テンプレを知らない

琴浦まひる

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第1章 風の大都市

月に叢雲花に風

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「これは、どういう……」

「今のセレス家はエメラルディア・セレスの兄の血筋よ。遥か未来で偶然同じ姿の子が生まれることだってあるでしょう。」

「そ,それもそうだね……じゃなくてなんでご遺体がこんなに綺麗に?というかどうしてあんなに若いんだ。あの絵本の物語の後何かあったとか?」

疑問が次から次へと湧いてきて、混乱する。
スザンナさんはそんな俺を見ていえーいドッキリ大成功!というように笑顔でダブルピースをしていた。

「絵本の後じゃなくて絵本の時に死んだのよ。あの大蛇は黒魔法を操る上位存在だったの。流石に女の子1人じゃ倒せるわけがなくてね、彼女の血……生命力を全て使ってやっと封印に成功したの。」

いやある程度脚色されてるだろなとは思ってたけど重いよ!!
ぜんっぜん笑顔でピースしながらやる話の明るさじゃないんですけど。

「それで当時たまたま彼女が死んだ直後にセレスを訪れた魔女達が、こんなにみんなに愛されていて可愛らしい女の子が干涸びて骨になるのは可哀想だなぁ。と思ったらしくて保護魔法をかけたんだって。」

「魔女ってみんないい人たちなんだね。そういえばあの店主さんもなんだかんだ無料で本くれたし。」

「どうかしら。」

「でもこうして聖女様は自分を犠牲にしてまで戦ったって知った後に絵本の結末見るとなんかもやっとするなぁ。」

絵本だと楽々と倒せて、しかもなんか殺せるけど優しいから封印しました~みたいなノリになってて、書いたのは俺じゃないけどなんだかエメラルディア様に申し訳なくなってくる。

「彼女が死んだ後大蛇を復活させようとする勢力がいたの。ちなみに、封印の解除は封印した時と同じ条件で呪文を一字一句間違えずに逆さまに読むことが条件なのよ。実行者のマエベール家はセレス家の血筋とはいえかなり薄くなっていたから儀式は失敗したんだけどね。」

つまり理由は色々あるけどおおまかには大蛇復活の条件を悟らせない為ってことか。
復活なんかして何の意味があるのかわからないけど、純粋に破壊の力が魅力的な人はいつの時代だっているもんだし仕方ないのかな。

「あと、絵本の畑のシーンとか今聞いた封印の話で思ったんすけどエメラルディア様の魔法の適正って緑魔法じゃなくて白魔法なんですか?」

「良い質問ね!彼女は緑と白両方に強い適性を持つダブルホルダーよ。その代わりに他の属性は普通の人より使えなかったらしいわ。」

「白ということは何か別の種族の血が?」

「ええ、聖獣ペガサスの血が入っているとか。」

「ペガサス?聖獣ってことはあの昼に会った羽の生えたサモエド達の仲間ってこと?」

「うふふ、惜しいわ。サモエドはよくわからないけどペガサスはそうね、簡単に言えば羽の生えた馬……かしら。今聖獣と呼ばれている子達はペガサスの眷属ってところかしらね。」

羽の生えた、馬?全然想像つかないけど絶対可愛いんだろうなぁ。

「あーだから聖獣は何かあった時に都市を守ってくれるっていう伝説があるんですね。血が混じってるだけとはいえ自分の主の土地だから。」

「ジョンくん察しいいわね、説明する側として助かるわ。このままもっともっと察してここに来た理由とかも察してほしいなっ。」

スザンナさんがちらりちらりと俺の目を見る。
察し……ここに来た理由。

そういや今回プリオルの妹が連れ去られた場所も旧マエベール邸って言ってなかったか?

「あの、マエベール家が大蛇復活の儀式をした場所って地下だったりします?あ、いやそんな詳しいことスザンナさんが知るわけないですよね、はは。」

「そうよ。そしてあの一族は追放されて苗字を変えざるを得なくなった。セレスを逆恨みしている彼らは都市を破壊する野望を持っていて、今も何処かでその機会をうかがっている。」

「え?」

「彼らが都市を破壊するか、それともセレスの血族が再びこの土地を守り新たな伝説を生み出すか。どちらにしても歴史に名を残す事件になるわ。そして私はその一連の成り行きを100年前から特等席で見ているの。」

にこにこと笑うスザンナさんの表情に狂気が混ざる。
よく思い出したら店主さんもスザンナさんと100年前から連絡とれないとか言ってたっけ、うわこの人絶対ただのシスターじゃないじゃん!
何で俺いつもいつも重要な話ばっかり頭から抜けてるんだよ……。
今からでもこの人から距離を取るべきか、でもなんとなく勘がこの人は味方だって言ってるんだよな。
スザンナさんのおかげでプリオルの妹の場所が見つかったようなものだし、いろいろなことを教えてくれたのも彼女だ。

「ふふ、私のこと怖がってるわね。安心して、私はただ面白いものを見たいだけなの。それでどう?何か思いついたことはあるかしら。」

思いついたこと。
もし旧マエベール邸で儀式が行われていて誘拐されたのがプリオルの妹なら目的は一つ。
そういえばプリオルは、妹とはいえたった1人の人間の救出にほぼ全勢力を投入していた。当主の娘であるあの子がかつてのマエベールの事件を知らないはずがない。
もしかしてあの瞬間に大蛇との戦闘を想定していたのか。

「プリオルちゃんは昔の復活の儀式事件は知ってるけど、そのさらに昔の歴史については知らないわ。エメラルディアが亡くなった日に隠蔽の策としてマエベール家の得意な記憶操作魔法をセレス全土にかけちゃったから。」

「……じゃあどうして教会の人はこの旧聖堂とか歴史をことを知っているんだ?

「いいえ、この教会の人だって知らないわよ。知っているのは私だけ。私の本来所属している組織は歴史的な事件やそれを起こしそうな人物やものを見つけると報告する義務があって、その内容は全て組織の人間に共有されるの。」

「けれど当時セレスにいた人は……んっ」

スザンナさんが急に俺の口に人差し指を押し付ける。

「今私のことはどうでもいいのよ。ずっとここでその話をしていたらせっかく100年も特等席で待っていたのにフィナーレに間に合わないじゃないの。そうね、一つヒントをあげる。」

スザンナさんは俺から指を離し流れるような仕草でポケットからハンカチを出して拭いた。俺の口そんなに汚いかな!?

「白魔法が使えて、更に使用難易度の高い記憶操作魔法を大規模に行える人間。あなたは覚えがあるはずだけれど。」

途端、魔力検査の時の一連が脳裏を駆け巡る。

「そういえばプリオルちゃん教会の代表として個別に呼んでいる人がいたよね。」

青ざめていく俺に、スザンナさんはいつものにこにこではない口元を歪めたニヤリとした笑顔を浮かべて、俺の耳元で囁く。

「プリオルちゃん、大丈夫かしら?」






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