ド平凡少年は異世界テンプレを知らない

琴浦まひる

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第1章 風の大都市

嵐を呼ぶ宝剣

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「そこの小娘はあまりにも幼く生きている状態で少しずつ血を出さないと儀式には全く量が足りなかったんですよ。それが偶然にももう1人血族が現れた!私は間違いなく幸運の神に愛されているのだろうね。」

両手を広げて恍惚とした表情をする大司教。
それを見たプリオルが苦々しい顔で語りかける。

「大司教様。まさか民に慕われる貴方がマエベールの人間だとは思いもしませんでした。いいえ、家の問題じゃない。貴方はあそこの教会の主という立場では満足できなかったのですか?」

「満足するだとかそういう問題ではないのですよ。これは我が一族代々の悲願なのです。大司教としての日々はあくまで目的達成までの手段でしたしね。」

「マエベール復権以外のものは全てただの手段でしかなかったと。ならばタルファを使うだなんていう大胆なことはせずに自分の血で儀式をすればよかったではないですか。1番手軽な手段でしょう。」

静かに彼女の話を聞いていた俺はスザンナの話を思い出し、大司教が話す前に彼女に伝える。

「それがマエベール家は血が薄くてもう封印を解く力にはならないんだって。」

「まあ、確かに家系図では遠い方ですものね。」

その会話が彼の地雷を踏んでしまったのかぴたりと表情を固め、目を吊り上げた。

「黙れ!貴様らセレスが姑息な真似をしなければこの地の主は我らマエベールのものだったのだ。」

「妄言も程々にするといいわ。きっと前回儀式を執り行った奴らも貴方と同じような考えだったんでしょうね。追い出されて当然よ。」

「なんとでも言えばいい。大蛇が復活し、この都市が破壊されればセレスの血族などもうなんの意味もなさないのですからね。そして混乱に乗じて私がこの土地を支配するのだ。」

ハハハ、と大声で笑う彼に俺とタルファちゃんは恐怖で足がすくんでいた。
ただ笑っているだけなのにとてつもない威圧感を感じる。
指輪の力で魔力の捩れを解消できているからなのか、以前と違って彼の発する強大な魔力を認識できる。
プリオルはどうだろうか?と横を見ると以前倒れた時に見たような冷たい無表情をしていた。しかしさっきのように即座に殺そうとしないのを見るに、彼の実力を理解して安易に手を出すべきではないと考えているのだろう。

「話はそれだけですか?」

「セレスの人間は変わらんな。そうやっていつも私達を見下してきた。母親そっくりの冷徹女め。」

そもそもマエベール家が都市を破壊しようとしなければ追い出されなかっただろうに……。

「母も私も冷たいのは悪人に対してだけですわ。」

それと初対面の田舎者の俺ね。
いや、でもなんだかんだ聖エメラルディアの話のとっかかりをくれたのは彼女だし不器用なだけか?

「ああ、貴様と話していると本当に虫唾が走るよ。幼くても流石はセレス。もういい、すぐに貴様を大蛇の贄としよう。」

大司教が種のようなものを蒔き、呪文を唱えるとあっという間に伸びた蔓が俺たちの体を縛り付ける。

「そういえば君、世にも珍しい全属性の使い手だったね。どうだい?こんな娘など見捨てて私の元に来ないか。」

思いついたかのように俺の方を向いた彼は、さっきまでの態度が嘘のように猫撫で声で話しかけてくる。

「考えてもみなさい。君の力は完全になれば世界だって征服できるんだ。私が使い方を教えてあげよう。魔法の組み合わせに関しては詳しい自信があるからね。」

「断る。そう言ってただ力の強い俺を支配しているアピールがしたいだけだろ?もしくは世界を征服した俺を裏から自由に操るつもり……とかね。」

「……全く残念だ。それにしても君もなんだか年相応じゃない話し方をする時があるよね。なんでだろう。」

彼は笑顔のまま首を傾げるがその眉はピクピクと動いており、全く怒りを隠せていない。

「それじゃあ君は大蛇が目覚めた時の1番目の食事に決定だ。君を食べたらどれだけの力を得られるのだろうね。」

「そうはさせないわ。」

大司教が俺に話しかけている隙にプリオルは風の力で蔓を切り裂き、どこに隠し持っていたのか美しい緑の装飾が施された短剣を彼に突きつけていた。

「そんな短剣で私が殺せるとでも?」

「いいえ全く。」

無表情を貼り付けたプリオルは短剣を持たない方の手をくるりと回して風の力を使い、俺たちの拘束も解く。
そしてそのまま素早く別の呪文を唱え、短剣を地面に突き刺すと、地上の方から物凄い轟音が鳴り響いてきた。嵐か雷鳴か、地下まで響くその音にタルファがひっ、と声を漏らす。
俺は彼女を安心させようと震える体をしっかり支える。

「ごめん、すごくしんどいし怖いだろうけどもう少し我慢していてね。」

「うん……じゃなくて、はい!私頑張ります。」

大司教もこれは想定外のようで明らかに動揺している。

「何をした?」

「さあ、もうすぐわかるかと。」

「もし今ので助けを呼んだのであれば無駄だ。ここの兵は既に私が撤退させたからね。」

「それは困りましたわね。」

プリオルは肩をすくめたが、その顔は全く困っていなさそうに、いやむしろ好都合だというようだった。
そして彼女は俺の元にさっと近づき早口で囁く。

「少し長い呪文を唱える必要があるの。これが完成すれば一瞬で勝ちが決まるわ。5分時間を稼いで。」

「わかった。」

「何をこそこそ話しているのかわからないがすぐに何も起こらないのなら全く意味がないね!」

5分もあいつの気を引けるのか。
口調は軽やかだが今の得体の知れない魔法で奴はかなり警戒を強めている。
会話は意味がなさそうだ。

だが、俺には今まではリスクの方が高くて取れなかった方法がある。

「勝ち確、信じるからな。」

そう言って俺は黒の指輪を引き抜いた。
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