冒険者ホテルの『ホテリエ』でございます~異世界流おもてなしで最強支援?~

蒼乃ロゼ

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 美青年ラルフリードことラルフに連れられて、森を後にする。
 到着後の喧噪が嘘のように、森を抜ける道中は何の危険も感じなかった。
 
 まさか、魔物にも美青年に対する耐性がないのか……?

「ところで、ミレイ」

「っはイ!?」

 しまった。
 変なところで魔物に共感を抱いていたら、突然声をかけられ声がうわずってしまった。
 お恥ずかしい限り。

「話は街にて、とは言ったが……。さすがに魔力はどうにかしてもらえないだろうか?」

「? と言いますと?」

 魔力……、ですって?
 特別何か変化を感じてはないのだが、ラルフには思う所があるらしい。

「やはり無意識なのか。先程貴女自身や私に、強化魔法すら使っていたと思うのだが」

「ええええ!?」

 いつ、どの、タイミングですか!?
 いや、まぁ確かにいつもより体が軽いな~とか、疲れにくいな~とかは思ったけれども。

 魔法だった……?

「わ、わたくしには全く身に覚えがなく……」

「なるほど。記憶を失った影響か? では、自身の魔力自体も感知していないのだな?」

「え、ええ。それはもう、いつも通りと言いますか。何の変哲もない日常と言いますか……」

 目が覚めた瞬間から非日常のオンパレードだったが、『魔力』という点に関してだけ言えば、何の自覚もなく以前の自分と変わらない。

「ふむ。正直そのまま魔力を垂れ流した状態だと、魔族と勘違いされても仕方ない。少し、抑えれるか?」

「ど、どのようにして抑えるのでしょうか」

 魔族だなんて、一体今自分は、どれほどの魔力を垂れ流しているんだ?
 あれか、転生特典ってやつか?

「深呼吸で精神を研ぎ澄ませ、まずは自身に流れる魔力を感じるところから始めよう。魔力とはすなわち己。血肉であり、記憶でもある。それが、魔力」

 魔力とは、自分。
 なるほど。

 教えられた通り、深く呼吸を整える。
 自分が何者か、回想しやすいように目も閉じてみる。


 『私』は『安住礼やすみれい』、この世界では『ミレイ』と名乗っている。

 『私』は三十歳で、『ホテリエ』。

 人と接することが好きな反面、そもそもは人見知りで気力の消耗が激しい。

 仕事は『天職』だが、消耗が激しいためプライベートはゲームや漫画といった一人遊びが多い。

 あとは……何だ?

 やだ、自分で思ってた以上に薄っぺらい人間なのかしら。


「ふむ、さすがだな」

「え”?」

 目を開けて、ラルフを見るとどこか感心したようにこちらを見ている。
 うっ、眩しい。

 何だか言われてみれば、自身の内側から出でる何かが、自分という存在を形作るようにピタリと留まっている気がする。
 気がするだけなのだが、それだけで安心できるような。そんな感覚がある。

「お、おお」

「人は十八歳になるまで意外と自分のことは理解していないものだが、ミレイは自分の性質を良く理解しているのだな」
 
「そ、そうでしょうか……ね」

 十八歳になると、何かあるの?

「しかし、クラスが判明しているならミレイは十八歳以上だろうが、魔力の制御は教わらなかったのだな」

 ……んん?

 ちょっと待て。私、三十歳ぞ?
 そんな見た目若く見える?

「まぁ、宿の用心棒であるなら冒険者相手が多かったんだろう。魔力より肉体的な力が必要だったのかもな」

 ……んんんん!?

「や、宿の”用心棒”とは?」

「? おかしなことを言う。クラスは間違いなく『ホテリエ』だ。クラス持ちであればアルバ・ダスクにも参戦するだろうし……、あぁ。記憶が無いのだったな。……すまない」

 その、クラスが間違いなくホテリエっていうあなたの確信だとか。
 クラス持ちは『参戦』っていう物騒なワードとか。

 聞きたいことが多すぎて早いところ街に行きたい……!

「分からないことが多すぎて不安にさせたな。貴女が忘れたことを、街で詳しく説明しよう。……もう少し辛抱してくれ」

「はい……」

 今はただ、落ち着ける場所でこの世界の説明を受けること。
 それに尽きる。
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