冒険者ホテルの『ホテリエ』でございます~異世界流おもてなしで最強支援?~

蒼乃ロゼ

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8.接客のプロ

 それにしても、だ。
 先程までラルフが座っていた椅子をぼんやり眺めながら、回想する。

「本当に、異世界……なんだよなぁ」

 そのまま背中を椅子に預け、天井を見つめる。

「買ったゲームに転生するって、何か意味があるの? もしかして、転生したのって私だけじゃない?」

 『私』という個が起因したのか、それとも『アルバ・ダスク』というゲームによって引き起こされた転生だったのか。

「悩んでもどうにもならないのは分かってるけど、それなりに驚くわ……」

 職業柄、予想外の出来事というのはつきもので。
 全く同じご案内でも、とても喜ばれることもあれば、逆にお叱りを受けることもあった。
 人というのが、千差万別であるという事をとても実感する仕事であった。

 ある程度驚くことが起きても割と冷静で居られる自信はある。
 ……けど、さすがに異世界はねぇ?

 しかし、夢ではない以上、生きていくには衣食住が必要な訳で。
 稼ぎも求められる訳で。

「いつまでもラルフに頼りきりはダメだよなぁ」

 まだ方法は掴めないが、自身のユニークスキルを生かすのであれば支援職。
 ……冒険者でパーティーとか組むのがベストかなぁ?

 そもそもホテリエってどういうクラスなの。
 クラススキルってのを覚えれば、少しは分かる?

 あぁ、考えれば考える程遠のく……。お腹も空いたけど、眠気も……。


【EXスキル:モーニングコール】


「え”」

 何、クラススキル? 
 寝そうになったらモーニングコールを覚えるなんて、まさか私、ブラックなクラスじゃないよね?

「えーーっと、ステータス」

 どれどれ?

【EXスキル:モーニングコール】
【あなたの呼び声で目を覚まさぬ者はいない】

「私がコールする側かい!」

 まぁ、ホテリエなんでそうでしょうけど!
 私がお客様(?)に掛ける側なんでしょうけど!
 何かユニークスキルみたいに説明ないな?
 あれか、まさか本当に寝そうになったら毎回頭に浮かんでくるんじゃないよね?

 一抹の不安を抱いていると、階下がざわついている気がした。
 夜には食堂を開けると言っていたから、その準備……?
 にしては、人の話し声も聞こえる。

「気になる」

 まさか、女将が居ないことに気付いた泥棒じゃないでしょうね?

 もう少し扉に寄って耳を澄ませると、どうやらエドの声もする。
 ……言い争っているようにも聞こえる。

 ここで余計なことしない方が良いんだろうな……。

「ーーでも」

 一つだけ譲れないことがあった。
 そう、ここが『宿』であること。

 本来ならまだ何かを解決できる力を持たない者がしゃしゃり出るのも良くない。
 だが、クラスのせいなのか前職のせいか分からないが、この場所を守れと、何かが突き動かす。

「ラルフが戻るまでの、時間稼ぎになれば……」

 言い争いの原因は分からないが、話の仲裁はできるかもしれない。
 とにかく、余計な口出しをなるべく控えて時間を稼ぐ。
 それに尽きる。

「よし!」





「だから、知りませんって!」

「とぼけるな! ここに居るのは分かってるんだ、呼び出せ!」

 階段の上から様子を伺うと、どうやら人を探しに来た外来の人のようだ。
 宿、食堂の利用者ではない……と。

「ーーいかがなさいましたか?」

【クラススキル:アピアランス】

(げっ、今?)

 敵意はないのだと丁寧なあいさつを心掛けたところ、何故かクラススキルを覚えてしまった。謎だ。

「ーー、ミレイ、ちゃん……?」

「何だてめーー、!?」

 階段を下りながら声掛けすると、二人同時にこちらを見た。
 ……で、なぜかバツがわるそうにする。何で?

「部屋におりましたら大声が聞こえたものですから……、様子を見に参りました。何か問題がございましたか?」

 首を傾けながら来訪者へ伝えると、あからさまに目を逸らされる。
 来訪者は人間ではない……、元の世界でいうところのリザードマンと称されるトカゲや竜に似通った特徴を持つ人物だ。

「え? あ、あ、いや……その……」

「宿に泊まってる人に会いに来たらしいんだが、特徴は教えてくれるんだけど名前は知らないみたいだし、何なら今居るのは常連さんだけだから、そもそもそんな人居ないんだ」
 
 なるほど。
 知り合いであれば名前は知っているものとして。
 宿の者としては名前が分からなければ本人に取り次ぎもできないし、仮に来訪者が一方的に知っているだけで、宿泊者にとっては知らない者なら……。
 この世界にもその概念があるかは分からないが、個人情報を晒してしまうことになる。

 元の世界で言えば『居ない』って情報を与えるのも個人情報になってしまうが……、まぁこの世界の基準では構わない範囲かもしれない。

 問題なのは、その特徴をもつ人物は実際に『居ない』のに、来訪者は『居る』と決めつけていること。
 さて……。

「そうでしたか……。お客様、そのような特徴をお持ちの方はいらっしゃらないとの事ですが、その方に言われて本日お越し頂いたのでしょうか?」


【クラススキル:接客のプロ】


 仕事モードの自分は、我ながら冷静だ。なんて考えていたら、またクラススキル習得だよ。

「え、あーー。お、オレは代理だ! 実際に約束していた者が別に居るが、そ、そいつが来れないから、お、オレが代わりに此処に来たんだ! 物を受け取る予定だった、んだと!」

「物、でございますか?」

 ふーーん?
 つまり、名も知らない者から、何かを受け取ることが……この者の目的、と。
 わざわざ女将が居ない、この宿で?
 なんか、オーラなのか魔力なのか分からないけど、焦ってる感情がものすごく伝わってくるな……。
 
「左様でございましたか。事情は分かりましたが、私共わたくしどもの宿にはそのようなお客様はいらっしゃらないとの事です。もしこれ以上騒ぎ立てられるのでしたら、人を呼びますが……、いかがなさいますか?」

 実際前世でここまでハッキリということはそうそう無いが、仮に来訪者の目的がであったなら、ここは強気でいかないと。
 何だかいつも以上に使命感に燃えている。

「ぐっ……、い、居ないんだな!? なら仕方ない、ほ、他を当たるか……」

「さっきからそう言ってるってのに……」

「お探しの方が見付かるとよろしいですね」

「ふんっ」

 ちょっと強気で言っただけだが、あっさりと引いてくれた。
 エドも結構強気で言ってたんだけどな。

「……ありがとな、ミレイちゃん。ったく、美人の言うことは聞くってか?」

「あはは……」

 そういう訳ではないと思うが、確かにクラススキルは関係しているかもしれない。

「結局、探し人は誰なんだ?」

「そんな方、恐らくいらっしゃいませんよ」

「え!?」

「彼は第一に、テキトウな特徴を言って名前を聞き出そうとしました。仮にその特徴に当てはまる方がいらしたとして、自分で部屋に訪ねると言ったでしょう」

 某詐欺じゃないけれど、自分の知らない情報を相手に言わせるのは良くある手だ。

「第二に、そんな人物は居ないと言われた場合。普通であれば諦めますよね? 宿を間違えている可能性だってある。つまり、目的はここの宿にあるけれど、人に会うことではないってことです」

 これは前の世界のような、客室の情報ーー宿泊者が部屋に在室であるか等が電子化されていない前提で話している。セキュリティも良く分かっていないが、カードキーのようなシステムはないだろう。
 
 部屋の鍵があったとしてアナログだろうから、その道のプロであればどうにでも出来そうだ。
 さいあく、クラス持ちなら壊せるだろうし。

「それで、相手も焦って思わず言ってしまったのでしょうが、目的は物を受け取ること、と。それは偽りではないでしょう。つまり、宿を仕切っている女将が居ないタイミングで、居たとしてお客様全てを把握している訳ではないエドさん相手ならまかり通るような……まぁ。泥棒、でしょうね」

「な、なんだって!?」

 正直相手があんなにボロを出すとは思っていなかった。
 焦るにしても、あんな分かりやすい態度。
 手慣れていないんだろうか。

「抽象的なことを言って相手に言わせる……、これは用心すべき点ですね」

「アニスが居ないのも分かっていたのか……?」

「恐らく、昼に食堂が空いていなかったのを見掛け、実際に受付に来てみてそれを確信したのでしょう」

「なるほどな……、そこまで思いつかなかった」

「これも想像の域を出ませんが、いないと言ってもゴネたのは、『だったら全室確かめさせろ!』とでも言って脅そうとしたのでは? 冒険者は夜まで基本不在でしょうし、腕が立つ人が居ないことも想定して……でしょうね」

 それに、その腕が立つ人がよりにもよって門番にも尊敬されるような人物。
 名声もあれば、稼ぎもあるだろう。
 RPGで言うところの、秘宝のような物を所持している可能性だって、ある。

 つまり、これまた私の想像ではあるのだが。
 普段からこの宿は高名な冒険者のラルフが利用していて、その他の冒険者も必然と宿を利用し、その冒険者達が出払う時間に、女将も居ない。
 私の見る限り、他の従業員も居ない。

 私が盗賊なら、絶好のチャンスという訳だ。

 あえて居ない人物をあげることで、失敗したとしても『宿を間違えました』で済む。
 さすがにバレたらとんでもない目に合いそうな、ラルフの部屋は狙わないだろうが……。

 それにしても、やはり職業柄気になってしまうのはセキュリティだ。

 冒険者が普段、どのように貴重品を持ち歩いているかは分からないが、女将が居ないところを狙うとなると、この世界でも盗みというのはやはり犯罪に相当するらしい。

 世界が違えば常識も違うかと思ったが、日常生活の域では大差ないようで良かった。
 だが、今私はあやうく死にかけたのかもしれない。

 たまたま上手くいったから良かったが、相手が逆上したらどうなっていたか……。
 宿には他に従業員や、警備の担当の人はいないのだろうか?

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