魔物になろうズ!

鳥ふみと

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【side超越者たち】

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 帝都コートロードの冒険者ギルド『ティンクトラ』は、最上位の格式を持つギルドで、多数の超越者やフランシア産まれの英雄が在籍している。
 エングラノスト帝国を拠点にする冒険者たちのあこがれのギルドだ。

 
 冒険者はそのレベルや能力によりランク付けされており、ゴブリンを3匹同時に相手にしても何とか勝てる程度の力をもつ者は最低ランクのFランク。

 ドラゴンを単騎で撃破できるくらいの力をもつAランク。
 そして神々の座に挑みうる力を持つと言われるSSランクのなど幅がある。

 上から並べると、SS-S-A-B-C-Ⅾ-E-Fのランクにそれぞれのランク内での上位を示す+がある、かなり細分化された序列だ。
 冒険者ギルド『ティンクトラ』に正規メンバーとして登録されるには最低でもB+ビープラスの能力を要求される。
 

 そんな英雄や勇者の卵ともいえる存在が在籍するギルドには当然、高難易度の依頼が集まり。
 危険な任務などを達成するための情報交換が盛んにおこなわれる。


 超越者ショウ・ナイトストークも次の仕事をどうするか仲間と決めるためにギルドに足を向け情報を集めていた。
 ギルドの入り口を抜けるとすぐに受付カウンターがあり、不審者などが出入りできないようになっている。
 そこを通り過ぎると大きな飲食が出来るホールがあり、いくつも設置されたテーブルなどを自由に使って冒険者たちがくつろいでいる。

 
 いまショウは、そのテーブルの一つを仲間とともに占領して次につける依頼について話をしている。

「基本は魔神狩デーモンハントりでしょー」

 
 どこに遊びにいくかを決めるように、煌びやかな宝石を複数あしらった紫のローブを身につけた少女が元気に言う。
 細身でショートヘアの可憐な外見だが、彼女はSランクの転移者と呼ばれる存在であった。
 彼女の左肩の少し上には、青く輝く金属の球体が一つ浮かび。
 よく見ると、その金属の球体にはディフォルメされた顔が刻まれている。
 
 紫焔のしえんのエリエリと恐れられる彼女は、転移する前は引きこもりのニートで、何か困ったことがあると泣き叫び、衝動的にリストカットしてしまう。
 そんな辛すぎる日々を送っていた彼女は、神の声を受け入れこの世界フランシアにたどり着いた。
 転移前のかげりなど感じさせない明るい笑みは、それ見る者の心を和ませる不思議な力があった。


「前回の魔神将デーモンロードはかなり美味しかったですわねー。また行きたいです」

 エリエリの言葉に相槌をしながら言う長身の女性は、白い輝きを放つ全身鎧フルプレートに身を固めている。

 顔立ち全体が美しくも鋭く、長く伸ばした髪の気が強そうな外見なのだが声は間延びしているような穏やかな丸みのある声がギャップとなり余計に目を引く。
 彼女の名はクレシャ・カノンコート。フランシア産まれの歴戦の聖騎士ホーリーナイトで、ランクはやはりSを獲得している。

 転移者であるショウとエリエリのこの世界フランシアでのガイドとしてエングラノスト帝国から派遣されていた彼女は、ショウたちとの戦いの旅に同行するうちに力を得て英雄と称えられている。
 

 ショウとクレシャの聖騎士ホーリーナイト二人。そして魔導士ルーンマスターのエリエリの三人がSランク冒険者パーティ「フレイロード」のメンバーだ。

 あと、エリエリには神からの贈り物として、万能の魔導兵ゴーレムのマルコが彼女の肩口にいつも浮遊しており。このマルコはパーティのマスコット兼四人目のメンバーとして扱われている。


「うーん。デーモンは報酬は美味いけれど……。なんか最近妙な遺言残して死ぬからウザいなぁ」

 ショウも聖騎士ホーリーナイトなので重厚な鎧を着こみ、いかにも前衛という雰囲気なのだが。
 意外に神経質なところもあり最近の魔神デーモンからのメッセージが気になるらしい。


「あーアレねー。なんか転生者は帰れみたいなヤツ」

「リーダー。我々聖騎士は、汚らわしい魔神の言葉に耳を貸してはいけませんよー」

「気にせず狩りまくろう!」

「……そうだな。そうすっか」

「この前倒した魔神将『俺たちの気持ちがお前にわかるか!』とか泣き叫んでシボーン~ワロスワロス。魔神マジ養分」


 ショウは、パーティの雰囲気を読み。次に受ける依頼の方向性を決める。

 魔族の戯言には耳を貸さない。無視していく事にした。



「ところで噂聞いた? アリエルさんの預言の話」

 エリエリが別な冒険者パーティのSランク冒険者の預言者が、最近になって語りだした預言について話題を振ってくる。

「んー。魔族も転移者を召喚してくるだろう……っていうアレ?」


「そうそう。なんでも魔族は人材の一本釣りが苦手らしいからガチャでランダムで召喚するとかみたいな話でしたよね」

「うーん。枕元に悪魔が現れて異世界に来いって言っても。ちょーっと考えちゃうヨネ?」

 転移者のエリエリは自らに当てはめて考えているらしかった。

「なんか悪魔の契約みたいな落とし穴とかありそうで、警戒しちゃうヨネ?」

「でも、ランダムって何なんだ? あとガチャって謎すぎるな……。とはいえアリエルさんも神からもらった力で予言してるから。その通りの内容なんだろう」

「それって。私から見れば凄まじい脅威なんですが……ええ。帝国にとっても無視できないです」


 転移者ではないクレシャは転移者である超越者たちの力を十分に理解している。

 人間種の敵である魔族が、超越者を迎えることになればこちらの被害も無視できない。

 なのだが、その声に緊張感はないように聞こえてしまう。



 エリエリがふと、気がついたように言う。

「リア充の人とかも来るのかな?」

「……ランダムって預言なら、来る可能性大だな」

「えー。そういう人ってこっちで俺TUEEEになるのかな?」

「わからん。リア充ならではの真っ当な選択をして、結果クソ雑魚とか期待したいが……」

「80代のお爺ちゃんとか、リアルで自衛官とか、ヤンキーとか……来るよ!」

「……そこは、笑う所なのか? エリエリ」

「んへ~。だって考えてもわかんないし。敵ならダマしてヌッコロしちゃうしー」

「ともかく。果てしなく面倒だな。アリエルの預言は、当たるとかのレベルではないからなー」

 心底嫌そうに、ショウがうなるように言う。

「確定ですかー。本当に面倒ですねー」


 ショウの言葉に相槌を打ちながらも、クレシャはそういう話は初耳だった。

 世界にとって重要な結果に発展しかねないので。皇帝に報告しつつ、後日時間を作って知人に魔族が転移者を召喚する可能性について意見を求めることにした。


 冒険者たちを、帝都の夜が包んでいく。
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