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魔物って
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ゴブリンたちは、夜も元気に活動していた。
昼夜関わらず活発で、寝たいときに寝るらしい。
月も無い真夜中で、ようやく気がついたが。俺も夜目が効くようだ。
というか暗視というレベルか。さすがヴァンパイア……
知識で知る能力と、実体験で経験する能力はやはり認識に差があるなー。
勉強も大切だけれど、経験も重要とは良く言う事だね。
村のゴブリンたちは、俺もゴブリンヒーローの従者と思っているのか。
俺を見ても、ニタニタ笑っているだけで干渉してこない。
まぁ、話しかけられても困惑するだけだが。
俺がデスナイトの鎧の中に消えてから。しばらくゴブリンの集落で暮らしていた吉田さんが言うには。
ゴブリンも色々大変だそうだ。
まぁ、腰巻一丁で弱者のままファンタジーっぽい世界でサバイバルとかムリだな確かに。
しかし。ゴブリンの日常とか正直いまの俺はどうでも良かった。
森山さんに会いたい。
そういう気持ちが強く働いている。
最初は、吉田さんの事を解体しないようにお願いするためにデスナイトの姿を探していたはずだが。
しだいにそれとは関係なく、森山さんと話したくなる。
森山さんは、俺を鎧の中に放り込んだ場所にまだ居た。
この集落に来てから、森山さんはほとんど場所の移動がなかった
デスナイトになった森山さんは飲食不要、睡眠不要、中身は女子でも化粧とかしなくても良いというか出来ないし。たぶん生理とかも無いだろう。移動も不要であればしなくても良いのか。
それにしても、デスナイトのあの日とか
……あるのか?
怖くて聞けないが。いつか笑って聞けそうになる気がするような、しないような……。
「佐嶋君、こんばんは」
俺は動くときにほとんど音が出ない。ヴァンパイアとはそういうものらしい。
しかし俺が近づく前から、森山さんは動きに気付いていたようだ。
デスナイトのヘルムの中は、闇の塊が敷き詰められているように暗く。そしてその闇の中に赤く輝く光が二つ。目のように浮かんでいる。
視界を共有するとわかるのだが、この目のような輝きは確かに目の役割もするが。鎧全体に散らして、全周の視界も得られる。便利なのだが、人間の知覚を超えて人外を実感できる。
「こんばんは」
笑顔でこたえ、おれは森山さんに視線を合わせるために少し浮遊した。
森山さんの正面に浮かび、兜の中を覗き込むように近づけると。
兜の闇の奥から、森山さんの顔が実体化されてくる。
俺は美しく思う彼女の顔は、鎧の中で実体化するときよりかなり大きくそして戦闘的な表情をしている。
「……佐嶋君。ギュッとして」
「うん」
彼女の鎧をハグしようと手を回すが、まわり切らない。身長も凄いが胸囲も凄いのだ。
「うーん。鎧の上からだとやっぱりハグしてもらっても、あんまりわからないな」
森山さんの声に悲壮感が無いのは、お互いに鎧の中でなら感じ合えるのをすでに知っているからだろう。
2メートルを優に超える鎧の騎士にへばりつくヴァンパイアという良くわからない絵のまま、俺たちは話し続けた。
「佐嶋君はどうしてリアルに帰ろうとか言ったり、今の状況への不安とか無いの?」
「まぁ、めったにない経験なので。楽しもうかな……という気持ちがあるのかな」
まぁ、リアルの方がどうでも良いことが多い気がする。
気がついたら生きていて、笑い泣き。学び、成長して大人になっていく。
そしていつか確実に死ぬ。
ただそれだけ。
そういう当たり前のルールから突然はじき飛ばされたような現状は、たしかによく考えると不安になりそうな気がするが。今のところ、俺は深く考えていない。
「ふーん。私は、ここに来てから、たくさん生き物を殺したくなったよ」
「うおお。凄いなそれは……」
いきなり森山さんが怖い事を言ってきた。
「生き物をぷちって殺すと、なんかじわっと幸せな気持になる……」
デスナイトの幸せは、そういう所にあるのか。
まぁ、俺もヴァンパイアなのだから。そのうち吸血衝動とかに駆られて、人間を襲いはじめたりするのかもしれない。
でも、今はまぁ。どうでも良いかな。
「でも佐嶋君といるともっと幸せ」
「ありがとう」
「佐嶋君はなんだろう。私が生きてた頃の、公園のベンチでほっこりしているときの安心感がある」
「え? 俺たち死んでるのか?」
「佐嶋君はわからないけれど。私は多分死んでいると思う」
「ええ?」
なにか。
なにか重要な話をしている気がしたが、俺はどう言えばいいかまとまらなかった。
こういう時は、よく考えてタイミングを見て後で話した方が良い気がする。
忘れないようにしよう。
「あ、ごめんねいきなり変な話をして」
「もうすぐ夜が明けるから、佐嶋君は私の中に入る?」
森山さんの胸甲開かれ。鎧の中の闇から、白い手がヒラヒラと俺を招いてくる。
「うん。おじゃましまーす」
俺が入ると、すぐにブレストプレートは閉じられ。
闇の中で森山さんに包まれるような感覚が訪れる。
「ふふふ、私は佐嶋君専用の棺桶だね」
「よく吸血鬼が入っているやつ?」
「そそ」
たしかに俺は森山さんがいないと。昼間困るな。
「これからも、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
やっぱり森山さんは、鎧の中の顔の方がカワイイ。
「あ!」
俺は、肝心な要件を伝えそびれていたことを思い出した。
森山さんに、吉田さんの言っていたゴブリン勇者の下僕の件をざっくり伝えると。
「うん。わかった! 吉田さんはミンチにするね」
と笑いながら言った。
……たぶん冗談だよね。
昼夜関わらず活発で、寝たいときに寝るらしい。
月も無い真夜中で、ようやく気がついたが。俺も夜目が効くようだ。
というか暗視というレベルか。さすがヴァンパイア……
知識で知る能力と、実体験で経験する能力はやはり認識に差があるなー。
勉強も大切だけれど、経験も重要とは良く言う事だね。
村のゴブリンたちは、俺もゴブリンヒーローの従者と思っているのか。
俺を見ても、ニタニタ笑っているだけで干渉してこない。
まぁ、話しかけられても困惑するだけだが。
俺がデスナイトの鎧の中に消えてから。しばらくゴブリンの集落で暮らしていた吉田さんが言うには。
ゴブリンも色々大変だそうだ。
まぁ、腰巻一丁で弱者のままファンタジーっぽい世界でサバイバルとかムリだな確かに。
しかし。ゴブリンの日常とか正直いまの俺はどうでも良かった。
森山さんに会いたい。
そういう気持ちが強く働いている。
最初は、吉田さんの事を解体しないようにお願いするためにデスナイトの姿を探していたはずだが。
しだいにそれとは関係なく、森山さんと話したくなる。
森山さんは、俺を鎧の中に放り込んだ場所にまだ居た。
この集落に来てから、森山さんはほとんど場所の移動がなかった
デスナイトになった森山さんは飲食不要、睡眠不要、中身は女子でも化粧とかしなくても良いというか出来ないし。たぶん生理とかも無いだろう。移動も不要であればしなくても良いのか。
それにしても、デスナイトのあの日とか
……あるのか?
怖くて聞けないが。いつか笑って聞けそうになる気がするような、しないような……。
「佐嶋君、こんばんは」
俺は動くときにほとんど音が出ない。ヴァンパイアとはそういうものらしい。
しかし俺が近づく前から、森山さんは動きに気付いていたようだ。
デスナイトのヘルムの中は、闇の塊が敷き詰められているように暗く。そしてその闇の中に赤く輝く光が二つ。目のように浮かんでいる。
視界を共有するとわかるのだが、この目のような輝きは確かに目の役割もするが。鎧全体に散らして、全周の視界も得られる。便利なのだが、人間の知覚を超えて人外を実感できる。
「こんばんは」
笑顔でこたえ、おれは森山さんに視線を合わせるために少し浮遊した。
森山さんの正面に浮かび、兜の中を覗き込むように近づけると。
兜の闇の奥から、森山さんの顔が実体化されてくる。
俺は美しく思う彼女の顔は、鎧の中で実体化するときよりかなり大きくそして戦闘的な表情をしている。
「……佐嶋君。ギュッとして」
「うん」
彼女の鎧をハグしようと手を回すが、まわり切らない。身長も凄いが胸囲も凄いのだ。
「うーん。鎧の上からだとやっぱりハグしてもらっても、あんまりわからないな」
森山さんの声に悲壮感が無いのは、お互いに鎧の中でなら感じ合えるのをすでに知っているからだろう。
2メートルを優に超える鎧の騎士にへばりつくヴァンパイアという良くわからない絵のまま、俺たちは話し続けた。
「佐嶋君はどうしてリアルに帰ろうとか言ったり、今の状況への不安とか無いの?」
「まぁ、めったにない経験なので。楽しもうかな……という気持ちがあるのかな」
まぁ、リアルの方がどうでも良いことが多い気がする。
気がついたら生きていて、笑い泣き。学び、成長して大人になっていく。
そしていつか確実に死ぬ。
ただそれだけ。
そういう当たり前のルールから突然はじき飛ばされたような現状は、たしかによく考えると不安になりそうな気がするが。今のところ、俺は深く考えていない。
「ふーん。私は、ここに来てから、たくさん生き物を殺したくなったよ」
「うおお。凄いなそれは……」
いきなり森山さんが怖い事を言ってきた。
「生き物をぷちって殺すと、なんかじわっと幸せな気持になる……」
デスナイトの幸せは、そういう所にあるのか。
まぁ、俺もヴァンパイアなのだから。そのうち吸血衝動とかに駆られて、人間を襲いはじめたりするのかもしれない。
でも、今はまぁ。どうでも良いかな。
「でも佐嶋君といるともっと幸せ」
「ありがとう」
「佐嶋君はなんだろう。私が生きてた頃の、公園のベンチでほっこりしているときの安心感がある」
「え? 俺たち死んでるのか?」
「佐嶋君はわからないけれど。私は多分死んでいると思う」
「ええ?」
なにか。
なにか重要な話をしている気がしたが、俺はどう言えばいいかまとまらなかった。
こういう時は、よく考えてタイミングを見て後で話した方が良い気がする。
忘れないようにしよう。
「あ、ごめんねいきなり変な話をして」
「もうすぐ夜が明けるから、佐嶋君は私の中に入る?」
森山さんの胸甲開かれ。鎧の中の闇から、白い手がヒラヒラと俺を招いてくる。
「うん。おじゃましまーす」
俺が入ると、すぐにブレストプレートは閉じられ。
闇の中で森山さんに包まれるような感覚が訪れる。
「ふふふ、私は佐嶋君専用の棺桶だね」
「よく吸血鬼が入っているやつ?」
「そそ」
たしかに俺は森山さんがいないと。昼間困るな。
「これからも、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
やっぱり森山さんは、鎧の中の顔の方がカワイイ。
「あ!」
俺は、肝心な要件を伝えそびれていたことを思い出した。
森山さんに、吉田さんの言っていたゴブリン勇者の下僕の件をざっくり伝えると。
「うん。わかった! 吉田さんはミンチにするね」
と笑いながら言った。
……たぶん冗談だよね。
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