7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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7月と兄弟

7月と兄弟 2

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「おい、そこで何してるんだ!」


 飛んできた鋭い声に、はっとして目を開けた。見れば、ひとりの少年がハンスの肩を掴んで引き離し、なかば強引に割って入ると、わたしを背に庇うようにして立ちはだかる。

 その少年は、クルトだった。
 彼のおかげでハンス達の拘束から解放されたわたしは、反射的にクルトの背中に隠れるようにして、その上着にしがみつく。


「なんだよクルト、邪魔すんなよ。ちょっとふざけてただけさ。なあユーリ。そうだろ?」

「ち、違います。この人達、無理矢理わたしの服を脱がそうと……」


 それを聞いたクルトは、わたしをハンス達の目から遮るように片手を広げる。


「ハンス、くだらない事をするのはやめろ。子どもじゃあるまいし」

「うるせえな。お前こそ、優等生ぶるんじゃねえよ。鬱陶しい」


 ハンスがクルトを睨みつけ、二人の間には張り詰めた空気が流れる。
 ハンスは今にもクルトに掴みかかりそうだ。はらはらしながらも、非力なわたしは何もできずになりゆきを見守る。
 やがてクルトが静かに口を開いた。


「いいのか? みんなが見てるぞ」


 その言葉に視線を巡らすと、いつのまにか教室中の生徒がわたし達の動向に目を向けていた。背が高くて目立つクルトが行動した事で、さすがにこの事態に気付いたらしい。
 その様子にハンスはばつの悪そうな顔をしたが、やがてこちらを睨みつけると舌打ちを残してわたし達から離れていった。





「こ、怖かった……」

「だから包帯なんて目立つって言っただろ。まったく、気をつけろよ」


 教室から連れ出され、人通りの少ない廊下の片隅で、クルトはじろりとこちらを睨む。


「そんな事言ったって、わたしは何もしてないのに、あっちが絡んできたんですよ」

「それでも対応策はあるはずだろう? ひとりで行動するのを避けるとか。ただでさえ、お前みたいなのは目を付けられやすいんだからな」

「目を付けられやすいって……どうして?」


 言っている意味がわからず尋ねると、なぜかクルトは口ごもる。


「だからその……当たり前だが、お前の見た目が男っぽくないというか……」 

「そんな理由で? うそ。孤児院にいた頃は、そんな事で苛められた男の子なんていなかったのに」

「……それは、この場所が『男子校』だからだ」

「男子校だから……? あ、わかった。さては、可愛い子の気を引くために、つい苛めたくなってしまうという、情緒面で未発達な男子にありがちなあれですね。でも、ここには女子がいないから、代わりに女の子みたいなわたしに対してその欲求のはけ口を求めてしまった。つまり、わたしの異常なまでの愛らしさが原因だと。いやあ、参ったなあ」

「能天気におかしな分析をしてる場合じゃない。お前はもっと危機感を持つべき。これから先、また同じようにあいつらに絡まれる可能性があるんだぞ。さっきだって、もう少しでお前が女だって事がばれてたかもしれなかったんだ」


 その途端、先ほどの事を思い出して、改めて血の気が引く思いがした。


「ど、どうしようクルト。またハンス達に同じような事されたら、次こそわたしの秘密がばれて退学になっちゃうかも……! そんなの困る!」


 思わず取り乱しながらクルトの上着の袖を引っ張る。


「わかった。わかったから引っ張るな……仕方ない。暫くの間は俺の近くにいろ。簡単に手を出せないとわかれば、そのうちあいつらも諦めるだろ」

「ほんと? ありがとうクルト! さすが紳士! 貴族!」

「だから妙な賛辞の仕方はやめろ。とにかく教室に戻るぞ。授業が始まる」


 ハンス達の事は心配だったが、クルトが協力してくれるというのなら暫くは大丈夫かもしれない。さっきだって、わたしの異変に気付いて真っ先に助けてくれたのだから。とりあえず胸を撫で下ろす。


「でも、男子校ってめんどくさいなあ。思ったより疲れる……」


 溜息を漏らすわたしだったが、クルトに腕を掴まれ、そのまま教室まで引っ張られていった。

 結局その日はハンス達の件に加えて、何かのはずみで包帯が解けるんじゃないかと気が気でなく、神経をすり減らして過ごすはめになってしまった。
 夕方、これ以上絡まれまいと一目散に部屋に戻ったわたしは、気疲れからかぐったりしてしまい、ひとり自室のソファに寝転がる。暫くそうしていると、ドアの開く音がして


「行儀が悪いぞ」


 というクルトの声が降ってきた。
 しぶしぶ起き上がると、彼が何か放り投げてきたので、反射的に受け止める。柔らかな感触に手の中を確かめると、そこにあったのは真新しい白いマフラー。


「お前のマフラー、穴が空いてもう使い物にならないんだろう? だったらそれをやる」

「……これ、どうしたんですか?」

「さっき街で買ってきた」

「え? 日曜日じゃないのによく外に出られましたね。どんな言い訳を使って外出の許可を貰ったんですか?」

「別に何も言ってない。敷地内を散歩している時に、いい枝振りの木をみつけたから、それを伝って塀を乗り越えたんだ」

「すごい。ずいぶん大胆な事しますね……あれ? でも、それで出るのはいいとして、どうやってまた中に戻ってきたんですか? 塀の外にもちょうどよく木が生えてるとか?」


 問うと、なぜかクルトは目を逸らした。


「それは……別にどうでもいいだろ」

「ええー、教えてくださいよ。わたしも普段から街に行きたいです。お菓子屋さんに行きたいです! いーきーたーいーでーすー!」


 手足をばたつかせて聞き出そうとするも、呆れたような眼差しが返ってくるのみ。
 まるで聞き分けのない駄々っ子のようだと気づくと、途端に自分が大まぬけに思えてきて、慌てて居住まいを正す。


「お前には真似できない方法だ。だから知ったとしても無理だろう。やめておけ」


 一体どんな方法なんだろう。気になったが、クルトは教えてくれるつもりはないらしく、話題を戻すようにマフラーを指差す。


「とにかく、今朝も言った通り、お前の結んだ変な形のリボンを見てると美意識が傷つくんだよ。かといって、俺が毎日結び直すわけにもいかないだろ? だからそれを買ってきたんだ」


 また美意識が顔を出した。そんな些細な事で傷つくようでは、そのうち何かの拍子に粉々に砕け散ってしまうんじゃないだろうか。

 それにしても――と、手元のマフラーに目を落とす。白いマフラーは今まで使っていたものとは段違いに柔らかい上に軽くてふわふわしている。こんな高そうなもの、本当に受け取っていいのかな……。
 その白い塊を手にしたまま戸惑っていると、クルトが不思議そうな顔をする。


「どうしたんだ? 気に入らないのか?」

「いえ、そうじゃなくて、なんだか申し訳ないというか……このマフラー、ほんとにわたしが貰ってしまっていいんですか?」

「お前がそれを身につけないと、これから毎日俺の美意識が傷つけられる事になるんだぞ。それに対しては申し訳ないと思わないのか? それとも少しもそんな気持ちがないと?」

「えっ? 別にそういうわけじゃ……」

「それなら決まりだな。素直に受け取れ」


 強引に話を纏めるとクルトは満足げに頷く。
 なんだか前にも似たような事があったような気がする……そうだ。確かパンの耳を食べる食べないの話になったときも、こんなふうに納得させられてしまった。

 でも、早いうちに新しいマフラーを用意しなければと思っていたから正直嬉しい。せっかくだし貰っておこうかな。クルトの美意識に感謝して。後で鈴も付けておこう。今度は大事に使うのだ。 
 首元にぐるりとマフラーを巻くと、それを見たクルトが頷く。


「うん。まあまあだな」


 そこはお世辞でも「似合ってる」だとか言うべきじゃないのかな。

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