7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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7月の入学

7月の入学 11

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「ねえクルト、今日のテオの様子、なんだか変じゃなかったですか?」

「と、いうと?」


 自分の机で本を読んでいたクルトは、顔も上げずにこちらに問い返す。


「根拠もなく誰かが自分のデッサンを隠したとか言い出したり、その上フランツを疑ったり……普通なら、どこかに紛れたのかもしれないとは考えるでしょうけど、誰かが隠した――しかもそれがフランツの仕業だなんて発想には、すぐに辿り着かないと思うんですが」


 クルトは持っていた本を閉じ、身体を捻るようにして椅子の背に腕を乗せると、ベッドに座るわたしを見る。


「それは俺も気になった。それに、あの時は騒ぎを収めるためにフランツに引いてもらったが、彼が納得できないのもわかる。さすがにテオの謝罪には誠意が感じられない。確かに最近は傍から見ていても、あの二人の間には妙な隔たりのようなものを感じるが、かといってあんな態度を取るか?」

「実はあの時わたし、テオに変な事を言われたんです。『君も、僕の敵なのか?』って……」

「敵?」


 頷きながら、美術室での出来事を思い返す。


「わたしの聞き間違いかもしれませんけど……でも、君『も』ということは、他にもテオにとっての『敵』が存在するって事ですよね」

「それがフランツだと……? もしかすると、あの二人の間で俺たちの知らないやりとりがあったのかもしれないな。お前は何か心当たりはないのか?」


 わたしは黙ったまま首を振る。


「そうか……しかし、何も事情を知らない人間が下手に口を挟むのもな。暫くはこのまま放っておいていいんじゃないか?」

「……それってちょっと冷たくないですか? 何かわたし達にもできる事があると思うんですけど」

「お前こそ干渉しすぎだと思うけどな」

「でも、困ってる人がいたら、助けるのが当たり前でしょう?」

「誰か君に言ったのか? 助けて欲しいって」

「それは……」


 確かに彼らにはそんな事ひとことも言われていない。いないけれど、あの二人の様子を見てこのまま放っておくというのも躊躇われるのだ。


「そういうの、なんていうかしってるが? 『でしゃばり』、『おせっかい』、『余計なお世話』」

「え……?」

「他人を助けたいっていうその姿勢は立派だとは思う。だが、同じ考え方を周囲にまで求めるのはやめたほうがいい。それに、あの二人だってそこまで子どもじゃないんだ。自分の事くらい自分でなんとかするだろう。もし、どうにもならなくて助けを求めてきたのなら、その時は手を差し伸べればいい」


 そう言い置くと、クルトは本を持って寝室を出て行ってしまった。
 ひとり残されたわたしは、ベッドに座ったまま考える。


「うううん……」


 おせっかい……前にも言われたけれど、そんなに酷いのかな? 急に不安になってきた。今までよかれと思って行動していた事が、他人にとっては煩わしいだけだった? もしそうなら、わたしがあれこれするのはフランツとテオにとっても鬱陶しいだけ? クルトの言う通り、放っておくのが正解なのかな?
 答えが見つからないまま、ベッドに倒れこむように寝転がる。
 ごろごろと寝返りを打っているうちに、いつのまにか眠ってしまった。
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