7月は男子校の探偵少女

金時るるの

文字の大きさ
16 / 145
7月の入学

7月の入学 15

しおりを挟む
 正直なところ、まさかという思いもあった。そうであって欲しくないとも。けれど、目の前の少年は、確かに自らの行いを認めたのだ。
 衝撃と同時にどうして? という気持ちがこみ上げる。それをわたしの顔から読み取ったのか、テオが続ける。


「フランツはね、僕の蝶のコレクションを捨てろって言ったんだ。それも全部。気持ち悪いからって。でも、そんな理由じゃ納得できるわけもないでしょ? だからフランツがいない時にこっそり標本を眺めてたんだけど……ある日、急に彼が寝室に入ってきてさ……慌てて隠そうとしたけど間に合わなかった。彼は蝶を見るなり激昂して、僕の手から標本箱を叩き落したんだ。ガラスが割れて標本もばらばらになっちゃった……その時、彼が苦しそうに咳き込んだのを見て、アレルギーなんだと思った。でもさ、それならそうと正直に言えばいいじゃないか。なのに自分の体質を隠して、虫集めなんて子どもっぽいとか、そんなもの集めてるやつの気が知れないとか、まるで僕のほうがおかしいような言い方をするんだ。何度も、何度も。挙句の果てに処分しろだなんて。ずるいと思わない? もう、うんざりしちゃったんだよ」

「うそ……そんなことで……?」


 わたしが呆然と呟くと、テオの瞳が険しさを増す。


「そんなこと……? 蝶は僕にとっては特別なんだよ? それなのにあいつは、僕の大切なコレクションを台無しにして、馬鹿にして、取り上げようとしたんだよ!? 一方的に自分の主張を押し付けてさ! それよりも僕のほうがおかしいって言うの!?」

「おかしいに決まってるじゃないですか! あなたのした事で、フランツは死んでしまうかもしれないんですよ!? あなたが蝶にどんな思い入れがあるのか知りませんけど、そんな事絶対に間違ってます!」

「……やっぱり、君もあいつと同じ側の人間なの?」


 静かで、それでいてぞくりとするような冷たい声。


「そんなに僕が悪いの? 好きな事をしていただけだよ? これまで誰かに迷惑かけた事なんてないのに。責められるのは僕よりもあいつのほうでしょ? 変な体質を持って生まれてきたくせに、勝手な事ばかり言ってさ。僕があいつと同じ立場だったら、周りに申し訳なくて家から出られないよ。よくもこの学校に通おうなんて思ったよね。ずうずうしい。まあ、それができるくらいだから、あんなに無神経な上に身勝手でいられたんだろうね。僕ね、コーヒーを飲んだ後、あいつの様子をずっと見てたんだ。最初は苦しそうに咳き込んでた。それからどんどん顔が赤くなって、喉からヒューヒュー変な音させてさ。何か喋ろうとしたのか口をぱくぱくさせてた。それが金魚みたいでおかしくて、笑いそうになったのを必死に我慢したよ」


 ――ひどい。なんて事を……。
 けれど、そう思ってもわたしは口を開く事ができなかった。
 口調こそ静かだが、ゆっくりとこちらに迫ってくるテオの顔は青白く生気に欠け、しかし目だけは変にぎらぎらと、まるで憎しみをぶつけるようにこちらを睨みつけている。その中に狂気を感じたような気がしてわたしは身をすくめる。


「でも、まさか君が気づくなんてね。誰にもばれずに邪魔なやつを排除できたと思ったのに。まあいいか。今ここで、何もかもなかった事にしちゃおう。そうしたら、また元通りだよね」


 何もかも? なかった事に?
 その意味を問うより先に、異様な雰囲気のまま、彼は唇を歪めるように笑みを浮べる。
 瞬間、全身の毛が逆立つような気がした。

 ――怖い。

 本能的に後ずさるが、すぐに背中があずまやの柱にぶつかってしまう。その間にもテオは奇妙に歪んだ笑みを顔に張り付けたまま、ゆっくりと近づいてくる。
 ここから――ここから離れなければ――

 咄嗟に踵を返して駆け出すが、直後に背後から強い力で引っ張られる。首元を締め付けられる感覚から、マフラーを掴まれたのだとわかった。そのまま草の上に仰向けに倒れこんだところに、テオの身体が覆いかぶさってくる。


「残念だなユーリ。君ってば、せっかく探偵みたいな才能があったのに、もうそれが発揮される事はないんだ。だって君はここで死んじゃうんだから。そうだなあ。表向きには行方不明にでもなって貰おうかな。学校での生活に耐えられなくて脱走したっていう、よくある理由でさ。でも、全部君が悪いんだよ。本当の事に気づかなければ、これからも平穏に生きていられたのに。幸いこの学校は広大だからね。人間ひとり隠す場所なんていくらでもあるさ。そこで少しずつ朽ちてゆくのを毎日見に行ってあげるよ。そのかわいい顔も全部崩れ去って、君という存在がこの世界から完全に消え失せるまで。あ、部屋の絨毯は処分しておくから安心して」


 わたしの瞳をのぞき込み、まるでなんでもない事のように囁きながら、マフラーの両端を握り締め、ぎりぎりと締め上げてくるテオ。その瞳はあきらかに常人のそれではない。
 息ができない苦しさで、叫ぼうにも声が出せない。必死にテオを叩き、押しのけようとするが、その身体はびくともしない。彼の血走った目を見つめながら、薄れゆく意識の中、ふと、フランツもこんなに苦しかったのかなという思いがよぎる。
 その時、テオの身体がわたしの目の前で吹っ飛んだ。


「大丈夫か!?」


 聞き覚えのある声と共に、紫色の瞳がこちらを覗き込んでいた。
 クルト……? どうして……? どうしてここに……? 
 その疑問が浮かぶと同時に目の前がふっと暗くなり、わたしは意識を手放した。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...