7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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7月とクリスマス

7月とクリスマス 9

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「どうして俺があんな事を……」


 発表会が終わって自室に戻った途端、クルトは机に突っ伏してしまった。
 結局あの後、捻挫のために歩くこともおぼつかないわたしに代わり、クルトはしぶしぶ代役を引き受け、ヒロインとして舞台に上がったのだった。


「すみません、余計な事言っちゃって……でも、よく似合ってましたよ。カーテンで作ったドレス」

「やめろ。聞きたくない……」


 わたしが冷やかすと、クルトは沈んだ声で応える。
 カーテンを急ごしらえのドレスにして、クルトがヒロインを務めたお芝居は、ある意味すごく盛り上がった。きっとミエット先生も満足しているのではなかろうか。
 クルトは不本意だったみたいだが。


「いやー、それにしても残念です。わたしが捻挫さえしなければ、完璧なヒロイン姿を披露できたんですけどねー」

「……今ならどうとでも言える」


 クルトが突っ伏したまま恨みがましい声で答える。
 彼の言葉は真実かもしれないが、やっぱりあれだけ練習を頑張った事もあるし、もしかしたらわたしだって無事にヒロイン役を務めることができたかもしれない。そう考えると、こういう結果になってしまったのは少しだけ残念でもある。


「それにしても正直意外でした」

「何が」

「わたしが足を挫いたとき、性別がばれないように庇ってくれたじゃないですか。確かにわたしが女だって事を口外しないという約束はしましたけど、あくまで『口外しない』というだけかと思っていたので」

「……お前が退学にでもなったりしたら、またねえさまから厄介な【お願い】をされた時に解決するやつがいなくなる」


 ああ、なるほど、そういう事か。それなら納得だ。
 するとクルトがはっとしたように顔を上げる。


「おい、俺がヒロイン役を演じたなんて恥ずかしいこと、ねえさまには絶対に言うんじゃないぞ。わかったな!」
 

 むしろいい話の種になると思うのだが、クルトはロザリンデさんに知られるのは嫌みたいだ。
 それなら仕方が無い。庇ってもらった恩もあるし、黙っていてあげよう。




 翌日から休暇に入った。朝早くから大きなトランクを抱えた生徒達が次々と校門から吐き出されていく。
 わたしとクルトもその中に紛れていたが、彼らと違い荷物は持っていない。
 足の痛みも治まったので、これからクルトの別荘へ向かう。宿泊はできなくとも是非遊びに来てくれと、ロザリンデさんに言われていたのだ。

 ――帰る家があるなんて羨ましい。
 帰省する生徒達の姿を横目で眺めながら、そんな気持ちが沸き起こった。


 別荘を訪れると、ロザリンデさんは喜んでくれた。その笑顔を見てわたしは少しほっとした。自分の事を迎えてくれる人の存在を感じて、居場所があることに安心したのかもしれない。
 いつものようにお茶を頂きながら、近況についてロザリンデさんに話す。


「そういえば、発表会は上手くいったのかしら?」


 やっぱり。この話題が出ると思った。


「ええ。盛り上がりましたよ。とっても」


 ヒロイン役の事はクルトに口止めされているので、当たり障りの無い返事をする。


「クルトはプロンプターだったのよね?」


 何気ないロザリンデさんの問いに、なぜかクルトは黙り込んでしまい、部屋には妙な沈黙が漂った。
 見ればクルトは俯いて固まったように動かない。
 どうしたんだろう。具合でも悪いのかな?
 声を掛けようとすると、その前にクルトが言いづらそうにぽつりと口を開く。


「……違うんだ」 

「え?」

「事情があって……その、台詞を全部覚えている俺が急遽ヒロイン役を演じたんだ」


 わたしは思わずクルトを凝視する。
 この人は一体どうしたんだろう。ロザリンデさんには言うなと口止めしておきながら、今はこうして自分から暴露している。わけがわからない。
 でも、自分から告白した割には、クルトは暗い顔をしている。言いたくなかったんだろうか。
 変なの。そんなに言うのが嫌なら当たり障りの無い返事で誤魔化せば良いのに。

 ロザリンデさんが不思議そうな顔をしていたので、わたしが経緯を説明する。クルト自身がばらしてしまったんだから、今更本当の事を言っても許されるはずだ。クルトも制止しなかった。


「それじゃあ本当にクルトがヒロインとして舞台に上がったのね? へえ、それは私も間近で観たかったわ」

「それなら少しだけ……」


 クルトは立ち上がると、ヒロインの台詞の中から一番の見せ場である部分を身振りを交えながら披露しはじめた。
 わたしは呆気に取られながらその様子を眺める。
 ヒロインを演じる事をあんなに嫌がっていたのに、どうして……
 そこでふと思い当たった。
 先ほどのロザリンデさんの、お芝居を「間近で観たかった」という言葉。
 その言葉をロザリンデさんの【お願い】だと捉えて、それを叶えるために……? 

 それ自体はクルトの今までの行動から考えても不思議は無い。それよりも理解できないのは、彼が自らヒロイン役を演じたと告白したことだ。それも渋々といった感じで。
 まるで嫌でも告白しなければならないような、そんな雰囲気にも感じられた。

 クルトが台詞を言い終えると、ロザリンデさんが笑顔で拍手する。


「とっても素敵。本物の役者さんみたいよ」


 そう言われて、クルトが少しはにかむように笑った。
 褒められて嬉しいみたいだ。これなら最初から隠す必要もなかったではないか。一体なんだったんだ。
 わけがわからず、わたしはただクルトの顔を見つめていた。


 それからはいつものようにお茶やお菓子を頂きながらおしゃべりしていたが、帰る時間が近づくにつれわたしの口数は少なくなっていった。これから一人で誰もいないあの部屋に戻らなければならないのだ。それを考えると気が重くもなる。
 そんなわたしの様子を変に思ったのか、ロザリンデさんが気遣わしげな視線を向ける。


「ユーリくん、どうかした? さっきからあまり喋らないみたいだけど。どこか具合でも悪いのかしら?」


 クルトも黙ってこちらを見ている。
 そんなに心配されるほど様子がおかしかったんだろうか? わたしは慌てて首を振る。


「いえ、ええと、そうじゃなくて、さっき食べたお菓子がおいしかったなーと思い返していたら、ぼんやりしてしまったみたいです」


 そう言うとロザリンデさんも安心したように笑顔を見せた。 


「あら、気に入ってもらえた? それなら、まだ残ってるはずだから、少し持って帰る?」

「いいんですか!? それなら是非!」


 沈んでいた気持ちが少し浮上した。

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