7月は男子校の探偵少女

金時るるの

文字の大きさ
113 / 145
7月とある姉弟の事情

7月とある姉弟の事情 5

しおりを挟む
 あたりが夕日に包まれる中、わたしはあのあずまやのそばにいた。
 なるべく陽が当たる草の上を選び、柱にもたれるように座り込んで膝を抱える。

 さっきは我ながら馬鹿げた事を言ってしまった。あんな事を言われてクルトも困惑しているだろう。ただでさえロザリンデさんの事で頭が一杯だろうに、新たな悩みの種を増やしてしまったかもしれない。
 ああ、わたしの馬鹿馬鹿。それとなくクルトに話し合いを勧めて、できれば慰めるつもりだったのに、思わず感情が爆発してしまった。これでは台無しではないか。
 でも、もしもわたしがクルトと同じ状況だったら――わたしだったら――いや、そんなこと、考えても仕方ないか……

 けれど、クルトだって、もしかすると10年前の事故でロザリンデさんを失っていた可能性だってあったのに。それを考えればわたしの言っている事だって大袈裟ではないと理解できるはずではないのか。
 後悔と怒りに似た気持ちがぐるぐると頭のなかで混ざり合う。


「やあ、子猫ちゃん」


 突然頭上から降り注いだ声に顔を上げる。すぐ近くにイザークが立っていて、わたしの心臓は跳ね上がる。


「あれ? 今まで気付かなかった? 相変わらず鈍くさいなあ」


 からかうような口調だったが、わたしの頬に残る涙の跡に気付いたのか、眉をひそめる。


「もしかして泣いてるの? みっともない。まさかホームシックだとか幼稚な理由じゃないよね。それとも誰かに苛められた? 貧相だからって」


 ああ、そうだ。この人はこういう人だった。誰かが落ち込んでいれば更に追い討ちをかけるような人なのだ。


「……ちがいます」


 憮然としたまま答える。
 わざわざ嫌味を言うくらいなら、最初から放っておいてくれたらいいのに。本当にいい性格してる。
 その時、遠くで微かな音がした。鈴の音だ。だんだんとこちらに近づいてくる。と、唐突に木々の間から白いものが飛び出してきてイザークの足元にまとわりついた。

 よく見れば白いものは学校で飼っている猫のブランだった。
 イザークはブランを抱き上げて、その白い身体を撫でてみせると、ブランは気持ち良さそうにごろごろと喉を鳴らす。
 わたしは泣いているのも忘れて、その様子をぽかんと見つめてしまった。
 信じられない。ミエット先生にしか懐かないと噂されているはずなのに、イザークにやすやすとその身体を触らせているなんて。誰が呼びかけても無視するあの猫が。
 わたしが呆気にとられているのに気付いたのか、イザークが唇の端を吊り上げる。


「僕、動物に好かれやすいんだ」

「え、うそだ」

「は? どういう意味?」

「いえ、べつに……」


 こんな人に懐くなんて、動物たちも見る目が無いな……
 それとも、イザークって動物に対してだけは優しいとか? 棄てられている猫を拾ってしまったりするタイプ? しかし目の前で泣いている下級生を放置して動物と戯れるというのはいかがなものか。その優しさを少しでも人間に向けてくれたらいいのに。


「ところでいつまでここにいるつもり?」

「え?」

「ああ、もう察しが悪いなあ。他人がいると気が散るんだよね。どこか別の場所に行ってくれない? ここ、僕のお気に入りの場所なんだよ」

「は?」


 そんな理由で先客を追い払おうというのか。話しかけてきたのもそのため? なんという暴君ぶりだろう。
 しかし、今のわたしにはやりあっている気力は無い。少しだけ落ち着いた事でもあるし、しぶしぶ立ち上がると無言でイザークに背を向け、あずまやを後にした。
 それにしてもイザークはこんなところで何をするんだろう。前ここで逢ったときみたいに昼寝でもするつもりなのかな。こんな寒い季節なのに。

 歩きながら頭が冷えるにつれ、別の問題が頭をもたげてきた。
 今度は寮の入り口付近をうろうろしながら考える。
 あんな事を言った後で部屋に戻るのはかなり気まずい。でも、このまま外にいるのも辛い。寒いし、お腹もすいた。いっその事、ここはアルベルトに頼み込んで、少しの間部屋にお邪魔させてもらおうか……
 そう考えながら建物に入った瞬間、誰かに腕を掴まれた。


「ひっ!?」


 突然のことに悲鳴を上げかけるが


「落ち着け。俺だ」


 聞き覚えのある声に目を向けると、腕を掴んでいたのはクルトだった。


「ここで待っていれば、いつかはお前が来るだろうと思って……」

「え……」


 もしかして、ずっと待ってたのかな。廊下だって寒いだろうに。
 先ほどの気まずさから何も言えずにいると


「とにかく部屋に戻るぞ」


 と、腕を引っ張られる。そのまま無言で後をついていくと、前を向いたままクルトが話し出す。


「明日、ねえさまと話してみる」


 その言葉にはっとした。


「……本当ですか?」

「あれから考えた。お前の言うとおり、ここでねえさまと向かい合わなければ俺はこの先後悔するかもしれない。その時気づいても遅いんだろう。そもそも後悔だったら10年前に散々したはずなのに、どうして忘れていたんだろう。またあんな思いをするのはごめんだ。だから――だから明日は俺ひとりで行く。これは、俺たちきょうだいの問題だから」


 そう決意を口にする彼が、どんな顔をしているのかは見えない。


「それと、お前に俺の家族は譲れない。悪いな」

「……そんな、真面目に答えないでください。本気で言ったわけないじゃないですか」

「……そうか」


 真面目に答えられると泣きたくなる。最初から叶わない事だとわかっていても。
 ああ、本当に、わたしって本当に馬鹿……
 クルトが前を向いているうちに素早く目元を手の甲で擦った。




しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...