7月は男子校の探偵少女

金時るるの

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7月の秘密

7月の秘密 7

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「……どういう意味?」

「女であるわたしがすんなり男子校に入学できたのは、この学校自体があなたの言う『お父様』の息が掛かっているから、というだけでなく、”前例”があったからじゃないでしょうか。おそらく、過去にも女でありながら、この学校に入学した人物がいるのでは? ……わたしは、あなたがその”前例”のひとつではないかと疑っています。つまり――あなたが本当に女なのではないかと」


 イザークはこちらを見たまま瞬きする。


「……何を言い出すんだか。言ったでしょ。僕は小さい頃に女の子の格好をしてただけだよ」

「逆ですよ。あなたは小さい頃は普通に女の子として育てられ、ある程度成長してから男の格好をさせられたんです。つまり、今のわたしと同じ。確かにこれは突拍子も無い推測かもしれません。でも、わたしには引っ掛かっている事があります。いつか林の中の、あのあずまやであなたに会った事がありますよね。ほら、あなたは具合が悪そうに横になっていて……あの時あなたは『頭が痛い』と言いましたけど、わたしには腹部を押さえていたように見えました。それに、あの時飲んだアスピリン……あの薬は頭痛だけではなく、腹痛にも効果があるはず。あの時のあなたは頭痛ではなく、腹痛を抱えていた。そして、その原因は、女性特有の、毎月の身体の変化から来るものだったんじゃありませんか?」


 黙ったままのイザークに、わたしは続ける。


「それだけじゃありません。あの”少女像”の前で会った日。あの日は入浴日だったはずなのに、あなたはあの場所にいた。はたしてあなたが入浴しなかったのは、あの日だけなんでしょうか? もしかしたら、自身の身体を誰かに見られないように、いつも学校での入浴を避けているのでは? あなたが寮の二人部屋を一人で占有しているのも、女性だという事を周囲に知られないようにしているためじゃありませんか? あなたの後見人は随分と力を持っているそうですから、それくらいの便宜は図れるでしょう」

「相変わらず変に妄想が逞しいね。確固とした証拠も無いのに、憶測だけでものを言うのはいい加減にしたら?」

「証拠は――服を脱げば……」

「はあ? 僕にストリップでもしろっていうの? いやだね。絶対にそんな下品なことしないよ」 

「勘違いしないでください」


 イザークが訝しげな視線を向ける。


「服を脱ぐのはわたしです」


 わたしは自身の胸のあたりに手を置く。


「わたしが、この身をもって、自分が女だと公にします。男子校に女子がいたとなれば大変な騒ぎになるでしょう。更に、その女子が『自分の他にも性別を偽っている者がいる』と言い出して、あなたの名前を挙げたとしたら? あなたは自身の潔白を証明しなければならない。あなたの後見人でも庇いきれるでしょうか? たとえその場をしのいだとしても、噂はついて回るものですからね。悪い意味で注目されたら、あなたの『お父様』や機関はどう思うか」

「……そんな事したら、君だってただじゃいられないよ。わかってる?」

「構いません。もうどうなったって良いんです。あなたの一族ではないわたしには、もう帰る家も、家族も無いんですから。でも、このままやられっぱなしというのも癪ですからね。たとえ引っ掻き傷程度であろうと、痛みを与えてから退場したいと思うのは自然なことでしょう?」

「君ってやつは……」


 不意にイザークが恐ろしい目つきでこちらを睨むと、片手を振り上げる素振りを見せた。


「やめろ!」


 その時、クルトの叫び声がし、目の前に飛び出した影が視界を遮る。直後に、イザークの身体が投げ出され、床に固いものがぶつかる音がする。目を向けると、そこには一振りのナイフが落ちていた。わたしは素早くそれを拾い上げる。


「もしもの時のために、クルトに隠れていて貰ったんです。でも、あなたがこんな物騒な物まで用意してたなんて」


 本当ならば、クルトの出てくるような事態にならない事が一番だったのだが、こうなってしまった以上は仕方が無い。
 わたしは天井から垂れ下がっているロープに手を伸ばすと腕に巻きつける。


「今度はわたしたち二人を相手にしますか? あなたの秘密を守るために。でも、もしもまた、わたしたちに危害を加えようとすれば、このロープを引きます。そうすれば鐘の音を聞いた職員がすぐにでも駆けつけるでしょう。その時、あなたはどんな言い訳を使いますか? それとも、誰かが到着するより早く、この塔の長い階段を降りきれるかどうか試してみますか?」


 イザークは立ち上がりながらわたしとクルトを交互に睨みつけるが、先ほどのように危害を加えるような素振りは見せない。その代わりとでもいうように微かに後ずさる。


「取引しませんか?」


 ロープに手をかけたまま、わたしはささやくような声で告げる。


「わたしを自由にしてください。わたしが本物の『ユーリ』ではなかったこと。本物の『お父様のこども』は機関の手違いによってすでにこの世にないこと。その情報をあなたが独自に得たことにすれば、少しは有利に働くんじゃありませんか? あなたからすれば、『お父様』の後継を争う相手が一人減るし、それに『お父様のこども』ではないわたしが、一族の末席にでも加わる可能性を阻止できたというのなら、あなたも、あなたの後見人も、少なからず評価は上がると思いますけど」


 イザークが低く唸るような声を上げる。わたしは真剣な声で続ける。
 

「でも、今後あなたがわたしやクルト、それに関わる人たちに少しでも何かしようとするなら、わたしはどんな手を使ってでも、足掻いて足掻いて、わめき散らして、泥にまみれてでも、あなたや機関、それにあなたの『お父様』を破滅させてみせます。絶対に」


 クルトが庇うようにわたしの前で片手を広げる。 


「ユーリを解放しろ。無関係にも関わらず、妙な事に巻き込んだ上に命まで奪おうとして……こいつはおまえ達の玩具なんかじゃないんだ」


 イザークの激しい憎悪の視線を受け、わたしは足が竦みそうになる。
 ――怖い。こんなところ、早く逃げ出したい。けれどわたしは、わたしのために、ここで踏みとどまらなければいけないのだ。それに、わたしはひとりじゃない。クルトだっていてくれる。
 わたしは片手でクルトの上着にぎゅっとしがみつく。
 やがてイザークが声を上げた。


「なんで、君はいつもいつも、そうやって僕に盾突くんだよ……お父様の血を引いてもいないくせに! 君たちみたいな奴らは、大人しく僕たち上の人間に踏みにじられるのがお似合いなんだよ! それなのに、なんで――」


 今までもそうやって叫び、喚いて自分の思い通りにしようとしてきたのかもしれない。その姿は傍若無人の王子様というよりも、まるで思い通りにならない事に対して癇癪を起こす子供のようだった。
 やがてどうやってもままならないと気付いた子供は、唸り声にも似た声を上げてこちらを睨みつける。
 そしてイザークは微かに震える声で呟いた。


「……わかった、その条件をのむよ」

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