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7月のそれから
7月のそれから 1
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古い革のトランクに収まるだけ。それがわたしの荷物の全てだった。
あれから三年後。
わたしはドイツにいた。地面に置いたトランクに腰掛けながら、片手にスケッチブックを抱え、近くの屋台で買ったリンゴ飴を齧っている。どこか懐かしい味のするそのお菓子を噛み砕きながら、周囲に目を向ける。昼下がりの街は暖かな光に包まれ、どこかのんびりとした時が流れている。
遠くの広場に噴水が見えた。少しあの街に似ている。そう思った。
暫くすると、前方の建物から一人の男性が出てくるのが見えた。中で買い物を済ませたようで、手には包みを抱えている。
わたしは慌てて残りのリンゴ飴を口に押し込むと、トランクを携えて男性を追いかける。慌てたせいか、スカートが足に絡まり転びそうになってしまった。
「あの」
追いついた男性に声を掛けるも、わたしの声に気付かなかったのか、どんどん行ってしまう。
「あのう、すみません……!」
先程より大きな声を出すと、男性はやっと気付いたようにこちらを振り向いた。
けれど男性は何も言わない。わたしの言葉の先を促すように無言でこちらを見ている。その雰囲気に躊躇いながらも口を開く。
「ええと、突然ですが、あなたの似顔絵を描かせていただけませんか?」
男性の顔に微かに困惑の色が浮かんだのを見て取って、慌てて付け加える。
「その……あなたの目が印象的で髪も綺麗だし、守護天使が良い上にオーラが並じゃないという百人に一人の逸材なので、是非描かせていただきたくて。お願いします」
頼み込むと、男性は少しの間迷うように視線を彷徨わせたが、やがて「わかった」と言って頷いた。
近くのベンチに移動し、わたしたちはなるべく向かい合うように斜めに腰掛ける。
わたしはスケッチブックを開き、早速鉛筆を走らせる。
あまり時間を掛けないように、それでいて特徴を捉えるように。そうは思っても、なかなか上手く描けずに焦ってしまう。あ、線が曲がった……
それでもなんとか描き上げると、わたしは手元の絵と男性の顔とを見比べる。思わず溜息が漏れそうになり、慌てて咳払いで誤魔化す。
……困った、似ていない……
とはいえ描き直すわけにもいかず、スケッチブックからそのページだけをびりびりと切り離した。
「あの、お願いがあるんです」
破り取った紙を裏返しにして男性に差し出しながら、わたしは躊躇いがちに告げる。
「この似顔絵ですけど……わたしがいなくなってから見てもらえませんか? その、わたし、絵が下手なので、目の前で見られるのが恥ずかしいんです……」
男性が絵を受け取ったのを見て、返事も待たずにそそくさと荷物を纏める。
「それでは失礼します。モデルになって下さってありがとうございました」
そう告げて立ち上がったその時
「待ってくれ」
不意に男性の手が伸びてきて、わたしの腕を掴んだ。わたしは足を止める。
ゆっくり振り向くと、男性の金色に輝く瞳がこちらを捉える。
「君は――君は、ユーリだろう?」
目の前の男性――ヴェルナーさんは躊躇いながらもそう口にした。
あれから三年後。
わたしはドイツにいた。地面に置いたトランクに腰掛けながら、片手にスケッチブックを抱え、近くの屋台で買ったリンゴ飴を齧っている。どこか懐かしい味のするそのお菓子を噛み砕きながら、周囲に目を向ける。昼下がりの街は暖かな光に包まれ、どこかのんびりとした時が流れている。
遠くの広場に噴水が見えた。少しあの街に似ている。そう思った。
暫くすると、前方の建物から一人の男性が出てくるのが見えた。中で買い物を済ませたようで、手には包みを抱えている。
わたしは慌てて残りのリンゴ飴を口に押し込むと、トランクを携えて男性を追いかける。慌てたせいか、スカートが足に絡まり転びそうになってしまった。
「あの」
追いついた男性に声を掛けるも、わたしの声に気付かなかったのか、どんどん行ってしまう。
「あのう、すみません……!」
先程より大きな声を出すと、男性はやっと気付いたようにこちらを振り向いた。
けれど男性は何も言わない。わたしの言葉の先を促すように無言でこちらを見ている。その雰囲気に躊躇いながらも口を開く。
「ええと、突然ですが、あなたの似顔絵を描かせていただけませんか?」
男性の顔に微かに困惑の色が浮かんだのを見て取って、慌てて付け加える。
「その……あなたの目が印象的で髪も綺麗だし、守護天使が良い上にオーラが並じゃないという百人に一人の逸材なので、是非描かせていただきたくて。お願いします」
頼み込むと、男性は少しの間迷うように視線を彷徨わせたが、やがて「わかった」と言って頷いた。
近くのベンチに移動し、わたしたちはなるべく向かい合うように斜めに腰掛ける。
わたしはスケッチブックを開き、早速鉛筆を走らせる。
あまり時間を掛けないように、それでいて特徴を捉えるように。そうは思っても、なかなか上手く描けずに焦ってしまう。あ、線が曲がった……
それでもなんとか描き上げると、わたしは手元の絵と男性の顔とを見比べる。思わず溜息が漏れそうになり、慌てて咳払いで誤魔化す。
……困った、似ていない……
とはいえ描き直すわけにもいかず、スケッチブックからそのページだけをびりびりと切り離した。
「あの、お願いがあるんです」
破り取った紙を裏返しにして男性に差し出しながら、わたしは躊躇いがちに告げる。
「この似顔絵ですけど……わたしがいなくなってから見てもらえませんか? その、わたし、絵が下手なので、目の前で見られるのが恥ずかしいんです……」
男性が絵を受け取ったのを見て、返事も待たずにそそくさと荷物を纏める。
「それでは失礼します。モデルになって下さってありがとうございました」
そう告げて立ち上がったその時
「待ってくれ」
不意に男性の手が伸びてきて、わたしの腕を掴んだ。わたしは足を止める。
ゆっくり振り向くと、男性の金色に輝く瞳がこちらを捉える。
「君は――君は、ユーリだろう?」
目の前の男性――ヴェルナーさんは躊躇いながらもそう口にした。
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