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トラウマを克服したと思ったら新たな問題発生しそう
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その日も午前の授業を終え、先輩達の待つ化学室に向かおうと、お弁当の入ったバッグを持って席を立つ。
「森夜さん」
突然の声に振り向くと、そこには桜坂さんが。この間のことを思い出し、思わず後ろに下がると、がたりと机にぶつかった。
けれど彼女は以前の揉め事なんて忘れたかのように無邪気な笑顔を浮かべる。
「ねえ、よかったら一緒にお弁当食べない?」
「え?」
「この前は仕方なくとはいえ断っちゃったでしょ? 悪いことしちゃったなーと思ってたんだよね。だから今日こそ一緒に食べたいなーって」
何を言いだすんだろう。私たちの間にはあんな事があったばかりなのに。けれど、桜坂さんは何事もなかったように振舞っている。
もしかして、また私を利用する気なんだろうか? 頭の中で警報が鳴り渡る。
「ええと、ご、ごめんね。せっかくだけど、他の人と食べる予定があるから……」
「今日くらいいいじゃん。ね、こっちおいでよ。森夜さんのためにお誕生日席用意してあるから」
強引に腕を掴まれぐいぐいと引っ張られる。
「や、本当にいいから……!」
できればもう桜坂さんとは関わりたくない。あんな事があったとはいえ、かわいい女子に優しくされたら、わたしのぼっち脳が再び反応してしまうかもしれないではないか。そしてまた傷ついたり落ち込んだりとややこしくなるのだ。そんなのもうやだ。ともかく早くここから逃げ出したかった。
引っ張る桜坂さんに抵抗する私。暫く揉み合っていると
「やめなよ」
という声がした。
見れば、同じクラスの女の子が数人。この状況を見ていたらしい。
「森夜さん嫌がってるじゃん。桜坂さんも空気読んだら?」
なんと、ぼっちのわたしにではなく、桜坂さんに対して意見してくれたのだ。
「私はただ、一緒にお弁当食べようって誘っただけだもん。森夜さんは遠慮してるだけだよ。ねー、そうだよね? 森夜さん?」
「わ、私は別に遠慮なんて……お弁当だって他の人と食べる約束してるし……」
慌てて首を振ると、仲裁に入った女子は桜坂さんに迫る。
「ほら、やっぱり嫌がってるじゃん。早く放してあげなよ。森夜さん、こっちおいで」
女子達に囲まれて一転気まずそうな桜坂さんは、しぶしぶと言った様子で私から手を離すと、仲裁してくれた女子を軽く睨んでから自分のグループへと戻っていった。
「大丈夫だった? 森夜さん。しつこくされてたみたいだけど」
そう声をかけてくれたのは、先ほど間に入ってくれた女子、野々原さんだった。栗色の長い髪をゆるふわにしている、桜坂さんとは違うタイプのおしゃれ女子。このクラスはおしゃれ女子しかいないのか。
「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「いいのいいの。あいつらの行動、最近目に余るようになってきたから、つい我慢できなくて」
野々原さんは冷たい視線を桜坂さん達の方へと向ける。
どうやらこのクラスには、ぼっちの私が知り得ない派閥のようなものが存在するらしい。桜坂さんと野々原さんのグループは対立しているんだろうか。
そもそも彼女達のようなおしゃれ女子というものは、砂糖菓子のように甘くて繊細で、物語の中に出てくるような愛らしい存在だと思っていた。マカロンが好物だったりするような。桜坂さんの件でそれは違うのだと思い知ったつもりだが、それでも底知れない女子間のドロドロした部分に触れたような気がして慄いていると、
「さ、森夜さんも約束あるんでしょ? 早く行きなよ」
先ほどとは打って変わって優しげな笑みを浮かべながら、野々原さんが私を送り出してくれる。
その変わりように密かに恐れを抱きながらも、私は再度お礼を言って教室を後にした。
化学室でお弁当を食べながら、私は先ほどの出来事を先輩達に話す。
「どうして桜坂さんはあんな事があった後なのに、私をお昼に誘ったんでしょうか? 理解できません」
私が素直に疑問を口にすると、小田桐先輩が口を開く。
「うーん……それはたぶん、森夜さんのネイルアートに関係あるんじゃないかな。実は僕も女子から色々事情を聞かれてさ」
「え?」
「あ、もちろん余計な事は何も話してないよ。でもほら、あれから森夜さんは女子相手のネイルアートをやめる宣言をしたでしょ?」
そう。確かにあの後、私は自分のぼっち脳を猛省して、どんなにネイルアートを希望されても断腸の思いで断ってきたのだ。日比木先輩で発散できるからと言い聞かせながら。
「どうもその原因が、その桜坂さんにあったって事が、どこからか広まっちゃったらしいんだよ。それで彼女、森夜さんのネイルアートを楽しみにしてた女子達からはちょっと疎ましがられてるみたいでさ。それを挽回したくて強引にお昼に誘おうとしたんじゃないかな。形だけでも仲のいいところを周囲に見せつければ、二人の間のいざこざも誤解だったとアピールできるでしょ?」
……もしかして、さっき野々原さんが助けてくれたのもそのため? 桜坂さんに利用されそうになってる私を見かねて。そういえば、桜坂さん達の行動が目に余るとか言ってたし……
まさかこれがきっかけで教室内の女子間の空気がギスギスしたりしないよね……?
とは思ったものの、どちらにしろぼっちの私には教室内がどんな空気でも影響ないか。いつも通り本でも読んでればいいのだ。
って、あれ? 今までは休み時間にお喋りするような友達が欲しいと思っていたはずなのに、こんな事を考えるなんて……
「ところでさ」
小田桐先輩が話題を変える。不穏な空気を打ち消すように。
「あと1ヶ月ほどで文化祭だけど……うちの部も何かやるべきかな? 去年はまだ短歌部自体が存在しなかったし。何かするならそろそろ予算の申請しないとね」
「ああ? そうだっけ。めんどくせえな」
文化祭……! この間もクラス会でそんな議題が出た。たしか「お化け屋敷風カフェ」なるよくわからないものをやりたいとか言ってたような……
私の話を聞いた小田桐先輩は考えるそぶりをする。
「カフェかあ。いいね。僕らもそうしようか? メガネ短歌カフェとか。短歌に囲まれた空間で、メガネを着用したスタッフが接客するんだ」
「お前はいい加減メガネから離れろ」
「それにカフェなんて、たった三人じゃとてもお客さんを捌けませんよ!」
私たちの抗議の声に、小田桐先輩は小さくなる。
「うーん……それじゃあ、今まで作った短歌の中から、いくつか抜粋したものを冊子にして販売とかが妥当かなあ」
「そんな地味な活動じゃ短歌をたくさんの人にアピールできません!」
「え……地味かな……」
小田桐先輩はますます肩を落とす。
そこに日比木先輩の声が割り込んできた。
「それじゃあ森夜。お前はなんかいい案でもあるのかよ」
「そうですね……たとえば、パフォーマンスとか!」
「パフォーマンスぅ?」
「ほら、一時期路上で筆と色紙を使って、即興でポエムを書く人とか流行ってませんでした? それの短歌版とかどうでしょう?」
「客の悩みを聞いて、それにぴったりの短歌を短時間で捻り出せってか? 難易度高すぎるだろ」
「あ、それじゃあ、お客さんにお題を出してもらって、それに即した短歌を各自で作るっていうのは? 前にカフェでやったみたいに」
その言葉に日比木先輩は考える様子で腕組みする。
「それならなんとかなるか……? けど、森夜、お前の作る短歌の傾向からして、オチ要員としての未来が待ってるとしか思えねえ」
「えっ、ひどい」
私の短歌ってそんなイメージ!?
「そ、それなら、私は参加せずに、先輩たちの横でお題を書いた紙を持つ係でも……」
必死に訴えると、日比木先輩が眉をひそめてじろりと目を向ける。
「ていうか、なんでお前はそんなに部活動に拘ってんだ? クラスの出し物だってあるだろ? 文化祭で盛り上がりたいなら、そっちに力入れたらいいんじゃねえの?」
「そ、そんなの無理に決まってます! ぼっちの私にとっては文化祭なんて名ばかりの地獄祭。ヘルズフェスティバルですよ! 一緒にあちこち見て回ってくれる友達もいないし、かといってクラスの出し物でもひとりで浮くだろうし、それよりも居場所のある部活動に打ち込みたくなるのも当然でしょう!?」
身を乗り出しながら続ける。
「おまけに桜坂さんにはなんだか目をつけられているような気がするし……それに文化祭って、みんなで和気あいあいと準備したりするものでしょう? ぼっちの私にはハードル高すぎますよ! 絶対ぽつん確定ですよ! なんの作業していいのかもわからずにおろおろするだけの未来が見えてます! それでまた変なあだ名をつけられるんですよ! そんなのいやー!」
「変なあだ名って……どんなの?」
まずい。興奮して余計な事を口走ってしまった。尋ねてきた小田桐先輩に曖昧な笑顔を向ける。
「それは、その、ご想像にお任せします……そ、それより、部活の出し物のためという建前があれば、クラスの出し物の準備とか、当日の手伝いはしなくて済むでしょう?」
ふたりの先輩は納得がいったように頷いた。
「だからそんなに部活の出し物に熱心なんだね」
「ここを都合のいい隠れ家にしてんじゃねえよ」
「お、お願いします! ぼっちは嫌なんですよう。なんだったら、メガネ短歌カフェでも構わないので! 私、頑張りますから!」
「……その言葉、本当だね?」
小田桐先輩のメガネが妖しく光る。まさか本気でメガネ短歌カフェをするつもり……?
私の内心の慄きを感じたのか、小田桐先輩はすぐに笑顔に戻ると首を振る。
「さすがにカフェとまでは考えてないけど……でも、森夜さんが文化祭当日にメガネをかけてくれるなら、僕は協力してもいいかな」
それでもメガネ優先なんだな……
「も、もちろんです! 先輩おすすめの赤いフレームのやつで!」
と、そこで日比木先輩が会話に加わってきた。
「そういう事なら当然俺にも権利はあるよな? 部活の出し物に協力する代わりに森夜に命令できる権」
「え、命令って、どんな……」
なんだか嫌な予感しかしない。
「それは後々のお楽しみって事で。おい小田桐、生徒会に文化祭用の予算の申請頼むぜ。それを全部ぶち込む勢いでいくぞ」
一体何をする気なんだろう……一抹の不安がよぎったが、元は私の我儘から始まった事であるからして、何も言えない。
「でもな、森夜。いくらぼっちが嫌だからって、逃げるような真似はすんな。クラスの手伝いをまったくしないってなれば、ますます孤立すんぞ」
「う……」
確かに先輩の言うとおりかもしれない。でもどうせぼっちだし……私なんかが手伝ったところで何か変わるかな……ますます孤独で惨めな思いをするだけのような予感も拭えない。
「1日30分だけでいい。それまではクラス出し物の手伝いをする事。わかったな? でないとお前の計画をクラスの奴らにバラすぞ」
「え!? ひ、ひどい……」
「それが嫌なら言う事聞け」
ぼっちのまま手伝いをするのは嫌だ。でもそれをみんなにばらされるのはもっと嫌だ……
考えた挙句、私はしぶしぶ頷いたのだった。
「森夜さん」
突然の声に振り向くと、そこには桜坂さんが。この間のことを思い出し、思わず後ろに下がると、がたりと机にぶつかった。
けれど彼女は以前の揉め事なんて忘れたかのように無邪気な笑顔を浮かべる。
「ねえ、よかったら一緒にお弁当食べない?」
「え?」
「この前は仕方なくとはいえ断っちゃったでしょ? 悪いことしちゃったなーと思ってたんだよね。だから今日こそ一緒に食べたいなーって」
何を言いだすんだろう。私たちの間にはあんな事があったばかりなのに。けれど、桜坂さんは何事もなかったように振舞っている。
もしかして、また私を利用する気なんだろうか? 頭の中で警報が鳴り渡る。
「ええと、ご、ごめんね。せっかくだけど、他の人と食べる予定があるから……」
「今日くらいいいじゃん。ね、こっちおいでよ。森夜さんのためにお誕生日席用意してあるから」
強引に腕を掴まれぐいぐいと引っ張られる。
「や、本当にいいから……!」
できればもう桜坂さんとは関わりたくない。あんな事があったとはいえ、かわいい女子に優しくされたら、わたしのぼっち脳が再び反応してしまうかもしれないではないか。そしてまた傷ついたり落ち込んだりとややこしくなるのだ。そんなのもうやだ。ともかく早くここから逃げ出したかった。
引っ張る桜坂さんに抵抗する私。暫く揉み合っていると
「やめなよ」
という声がした。
見れば、同じクラスの女の子が数人。この状況を見ていたらしい。
「森夜さん嫌がってるじゃん。桜坂さんも空気読んだら?」
なんと、ぼっちのわたしにではなく、桜坂さんに対して意見してくれたのだ。
「私はただ、一緒にお弁当食べようって誘っただけだもん。森夜さんは遠慮してるだけだよ。ねー、そうだよね? 森夜さん?」
「わ、私は別に遠慮なんて……お弁当だって他の人と食べる約束してるし……」
慌てて首を振ると、仲裁に入った女子は桜坂さんに迫る。
「ほら、やっぱり嫌がってるじゃん。早く放してあげなよ。森夜さん、こっちおいで」
女子達に囲まれて一転気まずそうな桜坂さんは、しぶしぶと言った様子で私から手を離すと、仲裁してくれた女子を軽く睨んでから自分のグループへと戻っていった。
「大丈夫だった? 森夜さん。しつこくされてたみたいだけど」
そう声をかけてくれたのは、先ほど間に入ってくれた女子、野々原さんだった。栗色の長い髪をゆるふわにしている、桜坂さんとは違うタイプのおしゃれ女子。このクラスはおしゃれ女子しかいないのか。
「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「いいのいいの。あいつらの行動、最近目に余るようになってきたから、つい我慢できなくて」
野々原さんは冷たい視線を桜坂さん達の方へと向ける。
どうやらこのクラスには、ぼっちの私が知り得ない派閥のようなものが存在するらしい。桜坂さんと野々原さんのグループは対立しているんだろうか。
そもそも彼女達のようなおしゃれ女子というものは、砂糖菓子のように甘くて繊細で、物語の中に出てくるような愛らしい存在だと思っていた。マカロンが好物だったりするような。桜坂さんの件でそれは違うのだと思い知ったつもりだが、それでも底知れない女子間のドロドロした部分に触れたような気がして慄いていると、
「さ、森夜さんも約束あるんでしょ? 早く行きなよ」
先ほどとは打って変わって優しげな笑みを浮かべながら、野々原さんが私を送り出してくれる。
その変わりように密かに恐れを抱きながらも、私は再度お礼を言って教室を後にした。
化学室でお弁当を食べながら、私は先ほどの出来事を先輩達に話す。
「どうして桜坂さんはあんな事があった後なのに、私をお昼に誘ったんでしょうか? 理解できません」
私が素直に疑問を口にすると、小田桐先輩が口を開く。
「うーん……それはたぶん、森夜さんのネイルアートに関係あるんじゃないかな。実は僕も女子から色々事情を聞かれてさ」
「え?」
「あ、もちろん余計な事は何も話してないよ。でもほら、あれから森夜さんは女子相手のネイルアートをやめる宣言をしたでしょ?」
そう。確かにあの後、私は自分のぼっち脳を猛省して、どんなにネイルアートを希望されても断腸の思いで断ってきたのだ。日比木先輩で発散できるからと言い聞かせながら。
「どうもその原因が、その桜坂さんにあったって事が、どこからか広まっちゃったらしいんだよ。それで彼女、森夜さんのネイルアートを楽しみにしてた女子達からはちょっと疎ましがられてるみたいでさ。それを挽回したくて強引にお昼に誘おうとしたんじゃないかな。形だけでも仲のいいところを周囲に見せつければ、二人の間のいざこざも誤解だったとアピールできるでしょ?」
……もしかして、さっき野々原さんが助けてくれたのもそのため? 桜坂さんに利用されそうになってる私を見かねて。そういえば、桜坂さん達の行動が目に余るとか言ってたし……
まさかこれがきっかけで教室内の女子間の空気がギスギスしたりしないよね……?
とは思ったものの、どちらにしろぼっちの私には教室内がどんな空気でも影響ないか。いつも通り本でも読んでればいいのだ。
って、あれ? 今までは休み時間にお喋りするような友達が欲しいと思っていたはずなのに、こんな事を考えるなんて……
「ところでさ」
小田桐先輩が話題を変える。不穏な空気を打ち消すように。
「あと1ヶ月ほどで文化祭だけど……うちの部も何かやるべきかな? 去年はまだ短歌部自体が存在しなかったし。何かするならそろそろ予算の申請しないとね」
「ああ? そうだっけ。めんどくせえな」
文化祭……! この間もクラス会でそんな議題が出た。たしか「お化け屋敷風カフェ」なるよくわからないものをやりたいとか言ってたような……
私の話を聞いた小田桐先輩は考えるそぶりをする。
「カフェかあ。いいね。僕らもそうしようか? メガネ短歌カフェとか。短歌に囲まれた空間で、メガネを着用したスタッフが接客するんだ」
「お前はいい加減メガネから離れろ」
「それにカフェなんて、たった三人じゃとてもお客さんを捌けませんよ!」
私たちの抗議の声に、小田桐先輩は小さくなる。
「うーん……それじゃあ、今まで作った短歌の中から、いくつか抜粋したものを冊子にして販売とかが妥当かなあ」
「そんな地味な活動じゃ短歌をたくさんの人にアピールできません!」
「え……地味かな……」
小田桐先輩はますます肩を落とす。
そこに日比木先輩の声が割り込んできた。
「それじゃあ森夜。お前はなんかいい案でもあるのかよ」
「そうですね……たとえば、パフォーマンスとか!」
「パフォーマンスぅ?」
「ほら、一時期路上で筆と色紙を使って、即興でポエムを書く人とか流行ってませんでした? それの短歌版とかどうでしょう?」
「客の悩みを聞いて、それにぴったりの短歌を短時間で捻り出せってか? 難易度高すぎるだろ」
「あ、それじゃあ、お客さんにお題を出してもらって、それに即した短歌を各自で作るっていうのは? 前にカフェでやったみたいに」
その言葉に日比木先輩は考える様子で腕組みする。
「それならなんとかなるか……? けど、森夜、お前の作る短歌の傾向からして、オチ要員としての未来が待ってるとしか思えねえ」
「えっ、ひどい」
私の短歌ってそんなイメージ!?
「そ、それなら、私は参加せずに、先輩たちの横でお題を書いた紙を持つ係でも……」
必死に訴えると、日比木先輩が眉をひそめてじろりと目を向ける。
「ていうか、なんでお前はそんなに部活動に拘ってんだ? クラスの出し物だってあるだろ? 文化祭で盛り上がりたいなら、そっちに力入れたらいいんじゃねえの?」
「そ、そんなの無理に決まってます! ぼっちの私にとっては文化祭なんて名ばかりの地獄祭。ヘルズフェスティバルですよ! 一緒にあちこち見て回ってくれる友達もいないし、かといってクラスの出し物でもひとりで浮くだろうし、それよりも居場所のある部活動に打ち込みたくなるのも当然でしょう!?」
身を乗り出しながら続ける。
「おまけに桜坂さんにはなんだか目をつけられているような気がするし……それに文化祭って、みんなで和気あいあいと準備したりするものでしょう? ぼっちの私にはハードル高すぎますよ! 絶対ぽつん確定ですよ! なんの作業していいのかもわからずにおろおろするだけの未来が見えてます! それでまた変なあだ名をつけられるんですよ! そんなのいやー!」
「変なあだ名って……どんなの?」
まずい。興奮して余計な事を口走ってしまった。尋ねてきた小田桐先輩に曖昧な笑顔を向ける。
「それは、その、ご想像にお任せします……そ、それより、部活の出し物のためという建前があれば、クラスの出し物の準備とか、当日の手伝いはしなくて済むでしょう?」
ふたりの先輩は納得がいったように頷いた。
「だからそんなに部活の出し物に熱心なんだね」
「ここを都合のいい隠れ家にしてんじゃねえよ」
「お、お願いします! ぼっちは嫌なんですよう。なんだったら、メガネ短歌カフェでも構わないので! 私、頑張りますから!」
「……その言葉、本当だね?」
小田桐先輩のメガネが妖しく光る。まさか本気でメガネ短歌カフェをするつもり……?
私の内心の慄きを感じたのか、小田桐先輩はすぐに笑顔に戻ると首を振る。
「さすがにカフェとまでは考えてないけど……でも、森夜さんが文化祭当日にメガネをかけてくれるなら、僕は協力してもいいかな」
それでもメガネ優先なんだな……
「も、もちろんです! 先輩おすすめの赤いフレームのやつで!」
と、そこで日比木先輩が会話に加わってきた。
「そういう事なら当然俺にも権利はあるよな? 部活の出し物に協力する代わりに森夜に命令できる権」
「え、命令って、どんな……」
なんだか嫌な予感しかしない。
「それは後々のお楽しみって事で。おい小田桐、生徒会に文化祭用の予算の申請頼むぜ。それを全部ぶち込む勢いでいくぞ」
一体何をする気なんだろう……一抹の不安がよぎったが、元は私の我儘から始まった事であるからして、何も言えない。
「でもな、森夜。いくらぼっちが嫌だからって、逃げるような真似はすんな。クラスの手伝いをまったくしないってなれば、ますます孤立すんぞ」
「う……」
確かに先輩の言うとおりかもしれない。でもどうせぼっちだし……私なんかが手伝ったところで何か変わるかな……ますます孤独で惨めな思いをするだけのような予感も拭えない。
「1日30分だけでいい。それまではクラス出し物の手伝いをする事。わかったな? でないとお前の計画をクラスの奴らにバラすぞ」
「え!? ひ、ひどい……」
「それが嫌なら言う事聞け」
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考えた挙句、私はしぶしぶ頷いたのだった。
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