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リア充の極みともいえるイベントがまさか自分に起こるだなんて
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文化祭から数日。いつものような生活が戻ってきた。
あれからクラスメイトと挨拶や、時にはちょっとした雑談くらいは交わすようになった。一応は出し物の準備を手伝ったおかげだろうか。それでも、親しいと言える友人は相変わらずいないが。
休み時間になったので、鞄から読みかけの文庫本を取り出してページを捲る。
「何読んでるの?」
不意に頭上から男子の声が聞こえた。
驚いて目を向けると、そこには文化祭でお化け屋敷の主である吸血鬼役をやっていた男子――確か、関君だっけ……? まあ、とりあえずその吸血鬼君がいたのだ。
ていうか今、私に話しかけた? それとも私の机越しに隣の席の人に声をかけたのかな?
いまいち確信が持てないでいると、関君は
「だからさ、森夜さん、何読んでるの?」
再度問う。長めの前髪を指でくるくると弄びながら。間違いない。確かに私の名前を呼んだ。そしてその視線は私に注がれており、微笑みまで浮かんでいる。
もしかして本に興味あるのかな?
「えっとね、斎藤道三と織田信長の生涯を描いた大河小説なんだけど……」
わたしは表紙を見せながら説明する。
「へえ、それ、面白いの?」
「まだ途中だけど面白いよ。特に斎藤道三が油を売るときにお金の中心の穴の中に……あ、これ以上はネタバレになっちゃうから自重するね」
「ふうん。そうなんだ……ところでさ、今日の放課後ちょっと時間あるかな? 体育館の裏に桜の木があるだろ? そこまで来て欲しいんだけど。できればひとりで」
「え? なんで……?」
「いや、ちょっと話があるっていうか……ここでじゃ言いづらい内容でさ。ともかくよろしくな。約束だよ」
「え、ちょ……」
言うだけ言って関君はさっさと離れて行ってしまった。思わずその行く先を目で追うと、関君は友人たちの輪の中で小突かれたり背中を叩かれたりしている。けれど当人はなんだかうれしそうだ。友人達もなぜか時折こちらを見ている。
一体なんだというのか。本に興味あったわけじゃないのかな……? それにしても話ってなんだろう……まさか――
「カツアゲとかだったらどうしたらいいですか!?」
その日のお昼、先輩達に例の関君の不可思議な言動を説明しながらも、わたしは不安を訴える。
だって、そんな場所にひとりで来るようにだなんて、絶対ろくな用件じゃないに決まってる!
しかし先輩たちは最初こそ驚いた様子をみせたものの
「良いんじゃないかな。行ってみれば。たぶん森夜さんが思ってるような物騒な事じゃないと思うよ」
「……しかし物好きな奴もいるもんだな」
などと妙に楽観的だ。まさか他人事だと思って適当に言ってるんじゃ……
心配で箸も進まない私のお弁当から、日比木先輩がいつものようにから揚げをかっさらってゆく。代わりにピーマンの肉詰めを置いて。
本来ならばネイルアートをさせてもらえるお礼として、先輩にから揚げを献上するわけだから、おかずの交換なんて必要ないはずなのだが、それでも先輩は律儀におかずを私のお弁当箱に押し込んでゆく。まあ、私もそれを遠慮なく頂いているわけだが。
それにしても関君は一体どういうつもりなんだろう。カツアゲじゃないのなら「パシリになれ」とかそういう系かな……でも、先輩たちは全然気にしてないみたいだし……
もう何が何だかわからない。ともあれ、一方的とはいえ「約束だよ」とか言われてしまったわけだし、ここは大人しく行くしかないのかな……なんだか気が重い。
そうしてついに訪れた放課後――
私は足音を立てないように、慎重に例の桜の木へと近づく。今の季節は葉も全部落ちて寂しいものだが、春になれば見事な花を咲かせる立派な木だ。
それにしてもなんだか今日はやけに冷える。コートを着こんでいるにも関わらず、冷気がどこかから服の中へと染み込んでくるようだ。
桜の木の傍には誰もいない……と、思ったら、太い幹の影からはみ出した紺のカーディガンが見える。おそるおそる回り込むと、すでに関君がそこにいた。
あちらも私に気づいたようで、はっとしたように姿勢を正す。
「来てくれたんだな」
その言葉に多少の緊張感と共に頷く。これから何が起こるのかと警戒しながら。
「ごめんな。こんなところに呼び出しちゃってさ。今日は寒いな」
「う、うん。寒いね……それはいいけど、その、話って何……?」
「ええと、実は……その……」
言いかけた関君は前髪を弄ったり、目を泳がせたりと落ち着きがなく、なかなか用件を口にしようとはしない。
私はじっと待った。もしもカツアゲだったらすぐに逃げられるようにと、踵をわずかに持ち上げながら。
どれくらいそうしていたか、関君が顔をあげて私をまっすぐにみつめる。その瞳には思いつめたような色が宿っている。
「森夜さん。好きです。もしよかったら、オレとつきあってくれませんか?」
「…………は?」
え? つきあう? つきあうって、あれ? もしかして、いわゆる男女交際の事……?
え? え? という事は、関君は今、私に告白してるって事? いやいや、そんなはずない。だって私はクラス内ぼっちで地味でクラウザーなんだから。
周囲を確かめるようにあちらこちらに顔を向ける。
「えっと、これって罰ゲームかなにか……?」
「え?」
関君は驚いたような声を上げるが、私は自然と警戒してしまう。
「私に告白するっていう罰ゲームなんでしょ? きっと、他の男子達もどこかに隠れてここでの様子を見てるんでしょ? それで私がOKしたらみんなが集まってきて『残念でしたー全部嘘でーすバーカバーカ』っていう……」
「な、何言ってんだよ……罰ゲームなんかじゃないし、誰もいないって。それにオレは本気で……」
本気?
確かに真剣な目を私に向ける彼の様子は、とても嘘をついているとは思えない。これが演技だとしたら主演男優賞ものだ。
それじゃあ関くんは本当に私の事を……?
でも、だとしたら――
「ええと、仮に本気だとして、私達、今までほとんど話した事も無いよね? お互いの事もほとんど知らないのに、どこに本気になれる要素があったの?」
「それは……実はこの間の文化祭での森夜さんの袴姿がすげーかわいくて……それから気になりだしたっていうか……」
前髪を弄りながら目をそらす関君。これが彼が照れ隠しする時の癖なのかもしれない。
「……それじゃあ、あの日私があの恰好をしてなかったら、私は今までみたいに、関君にとってどうでもいい存在だったって事?」
「どうでもいいなんて、そんな事……」
私は関君の言葉を遮る。
「それならどうして今まで話しかけてもくれなかったの? 知ってるでしょ? 私、ずっとひとりぼっちでクラスで浮いてたんだよ? 寂しかった。友達が欲しいってずっと思ってた。どうでもいい存在じゃなかったら、そんな時にも私に手を差し伸べてくれるはずでしょ? だけど関君は何もしてくれなかった。ほとんど喋ったこともないただのクラスメイトのひとりだった。それが今になって突然手のひら返したようにそんな告白されても、悪いけど気持ちが追い付かないよ。仮に関君が本気だとしても、付き合う事なんてできない」
私は思ったままの感情を吐き出す。もしかすると本能からの言葉だったかもしれない。
「それなら、今から友達としてでも……!」
「……最初にそう言ってくれたらよかったのに……確かに友達からだったら私もそんな事思わなかったかもしれない。友達として仲良くなって、お互いの事をよく知って、それからだったら違う結論を出してたかもしれない。でも、関君の告白を聞いちゃったからには、それ以上の関係になるのは無理だよ。どんなに仲良くなっても、どうしてもその事が心のどこかで引っかかり続けると思う」
その刹那、関君の顔が哀しげに歪んだかと思うと、ぽつりと呟く。
「……そうか。オレは今まで無意識に森夜さんの事を傷つけ続けてたんだな。それなのにいきなり付き合ってくれだなんて、確かに虫が良すぎるよな……」
関くんは気まずそうに顔をうつむかせながら前髪から手を離す。
「関君。好きだって言ってくれたのは嬉しかったよ。それは本当。可愛いって言ってくれた事も。でも、関君とはつきあえない……ごめんね」
関君は弱々しく首を振る。
「いや、気にしないで。でも、今はちょっとひとりきりにして欲しいかな……」
早く立ち去ってくれという事なんだろう。俯く関くんを再度ちらりと見やると、私はその場を後にする。
暫く歩いてから振り向くと、いまだ桜の木の下でひとり俯く彼の姿が見えた。胸がちくりと痛んだ。
「おう、どうだったよ。愛の告白は」
部室に入るなり日比木先輩の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「な、な、なんで知ってるんですか!?」
「そりゃなあ、放課後にひとけのない場所に呼び出されたら、大抵は告白かいじめと相場が決まってるだろ。けど、お前の話ぶりからするといじめはありえないと思ったからさ」
そ、そういうものなのか。だから先輩達はあんなに楽観的だったんだ。
「ええと、それで結果を聞いてもいいのかな? あ、嫌なら無理に話さなくもいいけど。でも、僕たちにも一応好奇心ていうものがあるわけだし」
小田桐先輩の問いに、私は首を横に振る。
「お断りしました」
「は? なんでだよ。クラス内ぼっちから一気にリア充へとランクアップできる大チャンスだったのに」
驚きの声を上げる日比木先輩にことの次第を告げる。
「前も言ったでしょう? 私のクラスには精神的イケメンがいないって。今日呼び出してきた人、文化祭での私の袴姿が可愛かったからとかいう理由で告白してきたんですよ。今までほとんど話した事もないのに。そんな軽薄な人は信用できません」
「辛辣だなあ……まあ、その言い分もわからないでもないけど。それって森夜さんの内面を含めて好きになったとは言えないしね」
さすが小田桐先輩。私の心の内をわかってくれた。
「だいたい好きになったきっかけだって、あの格好と文化祭という特殊な状況下だったからに違いありません。ハロー効果みたいなものですよ。仮に付き合ったってそのうち破綻するのが目に見えてます」
「へえ、お前、意外と冷静だな。脱ぼっちするためには何でもするかと思ってたのに」
確かに昔の私ならそうだったかもしれない。ぼっちから抜け出すために、関君の告白を受け入れていたかもしれない。
でも、今の私には先輩達がいる。たとえクラスでぼっちだとしても、短歌部という居場所があるのだ。その事実が私を踏みとどまらせてくれたのかもしれない。
でも、関君にはちょっときつい事を言いすぎちゃったかな……理由はどうであれ、初めて私に好意を持って告白してくれた人なのに。きっと勇気がいっただろうなあ……いつかちゃんと話せるようになれるといいな。友達みたいに……
あれからクラスメイトと挨拶や、時にはちょっとした雑談くらいは交わすようになった。一応は出し物の準備を手伝ったおかげだろうか。それでも、親しいと言える友人は相変わらずいないが。
休み時間になったので、鞄から読みかけの文庫本を取り出してページを捲る。
「何読んでるの?」
不意に頭上から男子の声が聞こえた。
驚いて目を向けると、そこには文化祭でお化け屋敷の主である吸血鬼役をやっていた男子――確か、関君だっけ……? まあ、とりあえずその吸血鬼君がいたのだ。
ていうか今、私に話しかけた? それとも私の机越しに隣の席の人に声をかけたのかな?
いまいち確信が持てないでいると、関君は
「だからさ、森夜さん、何読んでるの?」
再度問う。長めの前髪を指でくるくると弄びながら。間違いない。確かに私の名前を呼んだ。そしてその視線は私に注がれており、微笑みまで浮かんでいる。
もしかして本に興味あるのかな?
「えっとね、斎藤道三と織田信長の生涯を描いた大河小説なんだけど……」
わたしは表紙を見せながら説明する。
「へえ、それ、面白いの?」
「まだ途中だけど面白いよ。特に斎藤道三が油を売るときにお金の中心の穴の中に……あ、これ以上はネタバレになっちゃうから自重するね」
「ふうん。そうなんだ……ところでさ、今日の放課後ちょっと時間あるかな? 体育館の裏に桜の木があるだろ? そこまで来て欲しいんだけど。できればひとりで」
「え? なんで……?」
「いや、ちょっと話があるっていうか……ここでじゃ言いづらい内容でさ。ともかくよろしくな。約束だよ」
「え、ちょ……」
言うだけ言って関君はさっさと離れて行ってしまった。思わずその行く先を目で追うと、関君は友人たちの輪の中で小突かれたり背中を叩かれたりしている。けれど当人はなんだかうれしそうだ。友人達もなぜか時折こちらを見ている。
一体なんだというのか。本に興味あったわけじゃないのかな……? それにしても話ってなんだろう……まさか――
「カツアゲとかだったらどうしたらいいですか!?」
その日のお昼、先輩達に例の関君の不可思議な言動を説明しながらも、わたしは不安を訴える。
だって、そんな場所にひとりで来るようにだなんて、絶対ろくな用件じゃないに決まってる!
しかし先輩たちは最初こそ驚いた様子をみせたものの
「良いんじゃないかな。行ってみれば。たぶん森夜さんが思ってるような物騒な事じゃないと思うよ」
「……しかし物好きな奴もいるもんだな」
などと妙に楽観的だ。まさか他人事だと思って適当に言ってるんじゃ……
心配で箸も進まない私のお弁当から、日比木先輩がいつものようにから揚げをかっさらってゆく。代わりにピーマンの肉詰めを置いて。
本来ならばネイルアートをさせてもらえるお礼として、先輩にから揚げを献上するわけだから、おかずの交換なんて必要ないはずなのだが、それでも先輩は律儀におかずを私のお弁当箱に押し込んでゆく。まあ、私もそれを遠慮なく頂いているわけだが。
それにしても関君は一体どういうつもりなんだろう。カツアゲじゃないのなら「パシリになれ」とかそういう系かな……でも、先輩たちは全然気にしてないみたいだし……
もう何が何だかわからない。ともあれ、一方的とはいえ「約束だよ」とか言われてしまったわけだし、ここは大人しく行くしかないのかな……なんだか気が重い。
そうしてついに訪れた放課後――
私は足音を立てないように、慎重に例の桜の木へと近づく。今の季節は葉も全部落ちて寂しいものだが、春になれば見事な花を咲かせる立派な木だ。
それにしてもなんだか今日はやけに冷える。コートを着こんでいるにも関わらず、冷気がどこかから服の中へと染み込んでくるようだ。
桜の木の傍には誰もいない……と、思ったら、太い幹の影からはみ出した紺のカーディガンが見える。おそるおそる回り込むと、すでに関君がそこにいた。
あちらも私に気づいたようで、はっとしたように姿勢を正す。
「来てくれたんだな」
その言葉に多少の緊張感と共に頷く。これから何が起こるのかと警戒しながら。
「ごめんな。こんなところに呼び出しちゃってさ。今日は寒いな」
「う、うん。寒いね……それはいいけど、その、話って何……?」
「ええと、実は……その……」
言いかけた関君は前髪を弄ったり、目を泳がせたりと落ち着きがなく、なかなか用件を口にしようとはしない。
私はじっと待った。もしもカツアゲだったらすぐに逃げられるようにと、踵をわずかに持ち上げながら。
どれくらいそうしていたか、関君が顔をあげて私をまっすぐにみつめる。その瞳には思いつめたような色が宿っている。
「森夜さん。好きです。もしよかったら、オレとつきあってくれませんか?」
「…………は?」
え? つきあう? つきあうって、あれ? もしかして、いわゆる男女交際の事……?
え? え? という事は、関君は今、私に告白してるって事? いやいや、そんなはずない。だって私はクラス内ぼっちで地味でクラウザーなんだから。
周囲を確かめるようにあちらこちらに顔を向ける。
「えっと、これって罰ゲームかなにか……?」
「え?」
関君は驚いたような声を上げるが、私は自然と警戒してしまう。
「私に告白するっていう罰ゲームなんでしょ? きっと、他の男子達もどこかに隠れてここでの様子を見てるんでしょ? それで私がOKしたらみんなが集まってきて『残念でしたー全部嘘でーすバーカバーカ』っていう……」
「な、何言ってんだよ……罰ゲームなんかじゃないし、誰もいないって。それにオレは本気で……」
本気?
確かに真剣な目を私に向ける彼の様子は、とても嘘をついているとは思えない。これが演技だとしたら主演男優賞ものだ。
それじゃあ関くんは本当に私の事を……?
でも、だとしたら――
「ええと、仮に本気だとして、私達、今までほとんど話した事も無いよね? お互いの事もほとんど知らないのに、どこに本気になれる要素があったの?」
「それは……実はこの間の文化祭での森夜さんの袴姿がすげーかわいくて……それから気になりだしたっていうか……」
前髪を弄りながら目をそらす関君。これが彼が照れ隠しする時の癖なのかもしれない。
「……それじゃあ、あの日私があの恰好をしてなかったら、私は今までみたいに、関君にとってどうでもいい存在だったって事?」
「どうでもいいなんて、そんな事……」
私は関君の言葉を遮る。
「それならどうして今まで話しかけてもくれなかったの? 知ってるでしょ? 私、ずっとひとりぼっちでクラスで浮いてたんだよ? 寂しかった。友達が欲しいってずっと思ってた。どうでもいい存在じゃなかったら、そんな時にも私に手を差し伸べてくれるはずでしょ? だけど関君は何もしてくれなかった。ほとんど喋ったこともないただのクラスメイトのひとりだった。それが今になって突然手のひら返したようにそんな告白されても、悪いけど気持ちが追い付かないよ。仮に関君が本気だとしても、付き合う事なんてできない」
私は思ったままの感情を吐き出す。もしかすると本能からの言葉だったかもしれない。
「それなら、今から友達としてでも……!」
「……最初にそう言ってくれたらよかったのに……確かに友達からだったら私もそんな事思わなかったかもしれない。友達として仲良くなって、お互いの事をよく知って、それからだったら違う結論を出してたかもしれない。でも、関君の告白を聞いちゃったからには、それ以上の関係になるのは無理だよ。どんなに仲良くなっても、どうしてもその事が心のどこかで引っかかり続けると思う」
その刹那、関君の顔が哀しげに歪んだかと思うと、ぽつりと呟く。
「……そうか。オレは今まで無意識に森夜さんの事を傷つけ続けてたんだな。それなのにいきなり付き合ってくれだなんて、確かに虫が良すぎるよな……」
関くんは気まずそうに顔をうつむかせながら前髪から手を離す。
「関君。好きだって言ってくれたのは嬉しかったよ。それは本当。可愛いって言ってくれた事も。でも、関君とはつきあえない……ごめんね」
関君は弱々しく首を振る。
「いや、気にしないで。でも、今はちょっとひとりきりにして欲しいかな……」
早く立ち去ってくれという事なんだろう。俯く関くんを再度ちらりと見やると、私はその場を後にする。
暫く歩いてから振り向くと、いまだ桜の木の下でひとり俯く彼の姿が見えた。胸がちくりと痛んだ。
「おう、どうだったよ。愛の告白は」
部室に入るなり日比木先輩の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「な、な、なんで知ってるんですか!?」
「そりゃなあ、放課後にひとけのない場所に呼び出されたら、大抵は告白かいじめと相場が決まってるだろ。けど、お前の話ぶりからするといじめはありえないと思ったからさ」
そ、そういうものなのか。だから先輩達はあんなに楽観的だったんだ。
「ええと、それで結果を聞いてもいいのかな? あ、嫌なら無理に話さなくもいいけど。でも、僕たちにも一応好奇心ていうものがあるわけだし」
小田桐先輩の問いに、私は首を横に振る。
「お断りしました」
「は? なんでだよ。クラス内ぼっちから一気にリア充へとランクアップできる大チャンスだったのに」
驚きの声を上げる日比木先輩にことの次第を告げる。
「前も言ったでしょう? 私のクラスには精神的イケメンがいないって。今日呼び出してきた人、文化祭での私の袴姿が可愛かったからとかいう理由で告白してきたんですよ。今までほとんど話した事もないのに。そんな軽薄な人は信用できません」
「辛辣だなあ……まあ、その言い分もわからないでもないけど。それって森夜さんの内面を含めて好きになったとは言えないしね」
さすが小田桐先輩。私の心の内をわかってくれた。
「だいたい好きになったきっかけだって、あの格好と文化祭という特殊な状況下だったからに違いありません。ハロー効果みたいなものですよ。仮に付き合ったってそのうち破綻するのが目に見えてます」
「へえ、お前、意外と冷静だな。脱ぼっちするためには何でもするかと思ってたのに」
確かに昔の私ならそうだったかもしれない。ぼっちから抜け出すために、関君の告白を受け入れていたかもしれない。
でも、今の私には先輩達がいる。たとえクラスでぼっちだとしても、短歌部という居場所があるのだ。その事実が私を踏みとどまらせてくれたのかもしれない。
でも、関君にはちょっときつい事を言いすぎちゃったかな……理由はどうであれ、初めて私に好意を持って告白してくれた人なのに。きっと勇気がいっただろうなあ……いつかちゃんと話せるようになれるといいな。友達みたいに……
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