ボディジャック

ドライフラワー

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第1章 乗っ取られた分身を取り戻せ!

4.魔術師の少年

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少年は川で洗濯をしていた。
濯いだローブを川から引き上げる。
それを絞って、引き延ばし、チェックする。

「まあ、こんなもんか」

元は白いローブだったが、修行の旅に出てから茶色へと変色していた。
洗濯しても元の真っ白には戻らない。
だが、少年はこのローブを気に入っている。
少年は魔術師だった。
淡い茶色の髪に赤茶のつぶらな瞳が可愛らしいが、一人前の魔術師だ。
僧侶ならともかく、魔術師に白のローブは似合わない。
年季の入った茶色がちょうどいい。
少年はローブを乾かす為に、焚き火のすぐそばの大きな岩に広げた。
乾くのを待つ間、食事を取る。
焚き火には川で取った小魚を串焼きにしていた。
香ばしい匂いが食べ頃であることを示していた。
少年は一本取って、一口食べた。

「おいしい!」

少年は唸って魚を取った川に目を馳せる。
もう少し取って焼いて食べようと思ったのだ。
魚影はたくさん見えた。
その中に大きな影が流れてきた。

「え、人!?」

少年は慌てて、上流から流れてきた人間を捕まえて、担いで上がった。
焚き火の近くまで運び、息を確かめる。

「良かった、生きてる」

少年はホッとして、助けた人間の顔を見た。
歳の頃は15、6ぐらいで、自分と同じくらいの黒髪の少年のようだ。

「君、大丈夫?」

少年が声を掛けると、腹の虫が答えた。

「腹減った・・・」
「お腹が空いているんだね、待ってて」

少年は焼いていた魚を2、3本持ってきた。
すると、素早く手が伸びて、あっという間になくなってしまった。
しかし、腹の虫は泣きっぱなしだ。
少年は残りの魚も助けた少年に食べさせた。

「美味かった、ありがとう」

黒髪の少年は、立ち上がって礼を言った。
その姿はガリガリだった。
何日も食事を取ってないようだ。

「悪い、もう行かないと」
「え、もう行くの!?さっきまで、君、川で溺れてたんだよ!」

少年は引き留めようとしたが、黒髪の少年は首を振る。

「人を追ってるんだ。モタモタしてたら逃げられる」

事情を聞いたら止められない。

「名前は?」

黒髪の少年が行く前に聞いてきた。

「僕はマリクだよ」
「マリクか、助かった。この借りは必ず返す」
「君の名前は?」
「リードだ。じゃ、またどこかで」

リードは颯爽と走り去った。
マリクは心配でリードの姿が見えなくなるまで見送った。
しかし、またすぐに再開するとは夢にも思わなかった。



***



マリクは地図にある秘境の温泉へ向かっていた。

「なんか、秘境って感じがしないな・・・」

落石注意の看板はあるが、崖は低くなだらかで、落石が落ちてくるような感じはしない。
道はにとても綺麗だった。
最近整備されたように見える。

「まあ、いいか、安全そうだし」

マリクは気にすることなく道を進んだ。
少し距離はあったものの、目当ての温泉宿に難なくたどり着いた。

「秘境温泉へ、ようこそ。体をゆっくり休めていってください」

番台の老店主に宿代を先払いして、中へ入った。
まずは温泉だ。
昨日まで、川で水浴びをするだけで、温かい湯には浸かってない。
温泉に入って、ゆっくり体を温めたい。
マリクは着替えを持って、すぐ、男湯へと向かった。
他の客とすれ違う。
ほぼ男、女は少ない。
いても、男の連れがほぼ確実にいる。
女の1人客、特に若い女は皆無。
温泉で運命の出会いなど夢のまた夢。
そう思って、ため息を吐いて、下をむいて歩いていた。
金の糸がマリクの体を掠めた。

「ごめんなさい」

若い女の声、いい匂い漂わせていた。
顔を上げると、浴衣を着た女神がマリクに微笑んで去っていった。
マリクは目が離せなくなった。
浴衣の女神は1人、女湯へと入っていく。
他の男たちも彼女に釘付けになっていることに気づいた。

『さっき話したんだけどさ、あの子、1人旅してるんだってさ』
『え、マジか!?あんなに可愛いのに』

若い男のグループが、彼女を誘ってみようかと、話している。
友人や男もいない。
マリクにもチャンスがある。
自分も彼女にアッタクしてみようと心に決めた。
なぜなら、彼女に一目惚れしてしまったのだ。
マリクも1人旅の身、人恋しさを感じていた。






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