ボディジャック

ドライフラワー

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第1章 乗っ取られた分身を取り戻せ!

5.温泉宿の逃走劇

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ライカは女湯の、暖簾をくぐった。
女性客は誰もいなかった。
まるで貸切のようだ。
旅の汚れ綺麗に落とし、湯船に足を入れる。
少し熱い。
足から入れて、慣れてから体を沈める。

「ああ、極楽~」

木でできた湯船は良い香りがした。
誰もいないことをいいことに、湯船の湯に体を仰向けで浮かせる。

「なんて、贅沢なの・・・」

ライカは心ゆくまで温泉の湯を楽しむ。

「ああ、温まった。1人で入ってるのが勿体無いわ」

この気持ちを誰かと分かち合いたい、と浴場のドアを見つめるが、誰も入ってこない。
急につまらなくなって、曇った窓に目を向けた。
滝が見える。
桜の季節だったら絶景だ。
よく見ると、曇った窓は外へ出るガラス戸だった。
開けると、滝を望む露天風呂があった。
誰もいないと思っていたのに、先客が1人いた。
ライカの心がパッと明るくなった。
ガラス戸を開け、外へ出た。
冷たい風が温まった体に心地よい。
露天風呂のお湯もちょうど良い。
岩で作られ、滝が見れる、とても風情がある。
ライカは滝を見ている先客へ、ゆっくり近づいていく。
湯煙の向こう、先客は滝を眺めている。

「いい景色ですね」

ライカはできるだけ穏やかに話しかけた。
湯煙の中、先客がこちらを向いた。

「ええ、まるで極楽です」

言葉を返してくれた。
ライカは話を続ける。

「そうですよね!こんなに大きな滝、初めて見ました」
「ええ、とても荘厳な滝です」
「あの、お1人ですか?」
「ええ、1人です」
「私もなんです!」

話し相手が欲しかったライカは飛びついた。

「こんな景色1人で見るのもったいないと思ってたんです。ご一緒してもいいですか?」
「ええ、もちろん…」

湯煙の中、先客が振り返った。

「だって、ずっと、お前を待っていたんだよ!!」

身の危険を感じたライカはとっさに身を引いた。
伸びてきた手が空振りし、ものすごい水しぶきが上がる。
水しぶきが納まり、恐る恐る目を開けると、短い舌打ちが聞こえた。
お湯が減った岩風呂に、赤鬼が立っていた。
よく見ると見知った顔だ。
ライカの温まった体が一気に凍る。

「ゴ、ゴキブリ女ああああああ!!!!!」
「ふふふふ、女同士、ゆっくり語り合おうか…魔女‥‥素っ裸じゃ、簡単に逃げられないだろうしな」
「きゃああああああああ!!!!」

勝ち誇った天敵の顔を見たライカは一目散に建物の中に逃げ出した。

「え、おい、こら、そんな恰好で逃げんな!!魔女!!」

リードの慌てた声が追いかけてくる。
ライカは取るものもとりあえず、走った。



***



「ああ、いい湯だったな…」

マリクは男湯から着替えて出てきたところだった。
温泉で疲れた体を癒した後は、ちょっと豪華な夕食で腹を満たす。
その時に、美女と一緒に食べれたらいいな…とマリクは妄想を膨らませる。
そして、期待を込めて、女湯の入り口をちらっ見する。

『あの子、ちょうど出てこないかな…』

周囲にはマリクと同じように考えている男達が少し離れたところから女湯の入口を伺っている。
ライバルは多い。
だが、心の中に芽生えた恋の灯を簡単に消すつもりはない。
マリクはゆっくりと女湯の前を歩く。
目当ての彼女が出てくることを祈って。
その願いは、すぐに叶う。


『きゃああああああああ!!!』


けたたましい悲鳴が女湯から響いてきた。
彼女だ。
一番近くにいたマリクは誰よりも先んじて、女湯へ走った。

「どうしました、大丈夫ですか‥‥!!!?」

暖簾をくぐって、ばったり、意中の彼女と遭遇した。

「きゃあ!!」

マリクの鼻から血が流れ出る。
それを見て、彼女は自分の姿を見て真っ赤になる。

「こ、これを…」

マリクは慌てて着ていた浴衣を彼女に差し出した。

「‥‥あ、ありがとう‥‥」

彼女はマリクの着ていた浴衣を着こむ。

「こら、待て、魔女!!!!!」

背後から追いかけてる人影を見ると、

「ごめんなさい!追われているの!」

そう言い残すと、彼女はマリクの横をする抜けて、駆けだした。
後を追い駆けたかったが、彼女を逃がすために追っ手を食い止める。
男マリクの魔術師としての腕の見せ所だ。


『シールド!!』


突進してくる追っ手がマリクの魔法障壁に激突した。

「いてぇ‥‥」

ずぶ濡れの軽装の少年が頭を押さえて顔を上げた。

「君は、あの時の…リード…!!」
「あ、マリク!魔女はどこに行った!?」
「魔女?君が追ってるのって、さっきの女の子?」
「そう!あいつ、盗人なんだ!!捕まえるの手伝ってくれ!!」
「盗人って、本当なのかい?」

マリクは顔をしかめた。

「本当だ!信じてくれ!」
「だって、君、女湯に忍び込んで彼女を襲ったじゃないか」

リードは痛いところを突かれた顔をした。

「悪い、今は説明している暇はないんだ。そこをどいてくれ!魔女に逃げられる!」
「それはできないよ!」

マリクは立ちふさがったが、リードに懐に入られて、腹に強烈な一撃を食らった。
マリクは成す術もなく崩れた。

「悪いな!」

リードは暖簾をくぐって外へ出た。

「おっと、ここから先は通さねぇぞ!!」
「このドスケベ野郎!!」

男たちの威勢のいい声が響いた。
多勢に無勢、リードを止めてくれると、マリクは思った。

「誰がドスケベだって!!」

リードの怒気を含んだ声が響いた。

「私は女だ!!女が女湯から出てきて何が悪い!!」

始め威勢が良かった男たちの声が悲鳴に変わった。

『え、リードって、女の子だったんだ‥‥全然気付かなかった…強過ぎるし…』

マリクは床に伏したまま、リードの前に立ち塞がった男たちがやられるのを見ていた。







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