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闇天使
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どうしてこうなった? どういうことだ!
ノアとルナに確認しようと思ったが、この件については絶対に回答など得られないのを思い出す。俺は、記憶を辿って、自分自身の頭で考えなければならなかった。
奴は中原へ質問した。「波動を殺したか?」と。
中原は何も反応していない。にもかかわらず、次の瞬間「ビンゴ!」と確信めいたように……。
表情だけでは、あれほどの確信は得られないはずだ。つまり奴は、その短い時間になんらかの方法で中原から情報を得たことになる。
仮に、ゼウスとの通信を「神の力」によって保護している俺たちから確証を引き出したのだとしたら、それはシステム管理者の力ではないはず。つまり、「アーティファクトとしての能力」ということになる。
考えられることは────
「中原! 奴が質問した時、何を思い浮かべた!」
「え? なんすか、いきなりそんな……」
「いいから早く!」
「え、えーと……血だらけの、ミーさんを、波動の前で抱きしめているところ……ですかね。……えっ? まさか」
敵に、こちらの正体がバレてしまった。
しかし、今後のことについて検討するのは後!
最優先されるべきは、誰一人として死なせず、この状況から生きて逃げ延びることだ。戦闘配置としては、さやは中原に任せ、俺はミーを助けなければならない。
「ミーっ! おい、返事しろ!」
「…………うん」
ようやくミーは、俺の呼びかけに反応する。
「あれは、何? 誰? 羽、付けとる。仮装?」
「逃げるんだ! あいつはお前を殺しにくる!」
「え……。なんで? どうして?」
「説明してるヒマ、ないんだっ! 早く……」
「はあ? なに慌てて……」
ボケッと答えるミーの前で、「天使」は音もなくスラっと剣を抜く。
俺たちの視覚で捉えたそれは、まさに「剣」。
現実世界において、果たして本物の剣というものを美術館以外で見たことがある人間は、どのくらいいるだろうか。それも、自分に対して抜かれた剣を。
剣は、敵自身の翼が放つキラキラと輝く光を反射して、眩いほどにチカチカと瞬く。
その形は、日本刀とは異なる外国のもの。赤い柄の端には黄色いヒモのようなものがぶら下がっていて、刀身は太い。パッと見た印象では、中国の剣のように思えた。
その天使の背後の闇から、黒いスーツを着た二人の男たちが現れる。
この二人もまた、両目を赤く光らせていた。二人は、どちらも手に銃を握っている。
「えっ……なに? なにっ?」
目の前で大きな刃物を携える、目を赤く光らせた、得体の知れない翼の生えた、見ず知らずの女。
その女の両脇に立つ、屈強そうな、まるでボディガードのような、銃を手に持つ二人の男。
これを見て、ミーもさすがに後ずさる。
もう迷ってる暇はない。
俺は、ポケットの中の睡眠薬……二錠以上は命に関わるという魔薬、ヒュプノスを手に取った。
「ミー、頼む……。お願いだから逃げてくれ。……じゃないと、間違いなく、死ぬ!」
「……うんっ」
返事したミーの視界はグルッと向きを変え、視界は大きく上下動しながらすぐ近くにある階段を降りた。同時に、チュイン、チュインと何かが当たるような金属音がする。
俺はそれを確認した後、水なしで薬をグッと飲み込んだ。
真っ暗な長野の路地で、俺は、身体を丸めて地面に横たわったまま、ぐるぐる回るような感覚に身を任せた。
────…………
意識を回復させた時、いつも思う。
薬を飲んでから、いったいどれだけの時間が経ったのだろうか? 俺の意識が無くなってから、すぐなのだろうか? 感覚的にはまさにそうなのだが。
眠りに落ちてから起きるまでの間に、時間があったような記憶はない。だから、俺は、その間にどのくらいの時間があったのかわからない。
それを俺に教えるようゼウスへ問いかける。俺の問いに答えたノアの言葉は、具体的かつ明瞭だった。
「五秒間」。
それがノアの回答だった。
今、俺の光るアバターがいるのは、紅蓮の光がそこかしこに走る例の子供部屋。このアバターがどこに現れるかについて、自分の意思は介在していないのだろうか、と疑問が湧いたが余計なことを考えている場合ではないのですぐさま雑念を振り払った。
間を置くことなく、俺はすぐさま「思う」。
神の名において命ずる……ゼウスよ、ミーの前に現れたこの天使の能力を教えろ!
俺は、ダメもとで敵情報の取得をゼウスへ命令した。
案の定、俺の発した命令は、水道管が詰まって行手を阻まれる水のように滞り、一向にゼウスへ伝わることはなかった。
俺の頭の中にある仮想映画館には、すでにミーと中原の視界映像スクリーンが上映中だったので、これにさやのを強制的に追加するよう俺はノアとルナへ命ずる。
中原とさやの視界映像は、長野にある夜の温泉街。
中原は、さやを路地に隠したまま敵と向かい合っている。
「中原! ミーが敵に襲われてる。俺はそっちを助けなきゃなんねえ! ……さやのこと、絶対に。絶対に、護ってくれ!!!」
「……了解です。センパイこそ、俺のミミさんを死なせたら、承知しませんから」
「ああ。絶対だ」
「ええ。絶対です」
中原と約束した俺は、中原とさやのいる長野のバトルフィールドから意識をそらし、都内にいるミーのマンションへと意識を向ける。
懸命に走るミーの視界映像は、未だ激しく縦揺れし、屋外階段をすごい速度で駆け降りていた。そういや、中学、高校・大学とバスケをやっていたミーは、確かダッシュ力には自信があったはず。
と……
七階程度のマンションから見える夜の街並みに、突如キラキラと輝く光の群れが舞い降りてくる。
まさに「天使」というのがふさわしい。敵は、自らの翼を優雅に羽ばたかせてマンションの外を飛び、ミーがいるところより一つ下の階へ先回りして降り立った。
それに気付いたミーは慌てて立ち止まり、一つ上の廊下に出て走る。
いくらか走った頃、ピュン、と音が聞こえた。
「痛つっっ!」
痛そうに叫ぶミーの声。視界が、激しく乱れる。
ミーの目線は、廊下の床スレスレで止まった。
視界は動き、次に映ったのはミー自身の足。ゆったりとしたグレーのスウェットが破れ、ふくらはぎから血が流れて赤く滲む。
顔を上げた視覚映像。自分が走ってきた廊下の向こうから、赤い二つの光とプラチナに輝く二つの翼がゆっくり歩いて追いかけてくる。
「お前はどう足掻いても逃げられない。諦めろ」
宣言した天使の手には、銃が握られていた。
左手に剣、右手にサブマシンガンで武装した天使が、照準をミーに合わせて無表情のまま歩いてくる。
まるでスローモーションを見ているかのようだった。歩行によってわずかに上下するその動きに合わせて、セミロングで鮮やかなバイオレットの髪が揺れる。
二人の男たちも走って階段を駆け下りてきて、天使に追いついた。
「すみませんっ、敵は……」
「捕えなさい」
女は、感情の感じられない冷徹な声で言う。それがまた、俺の心を激しく揺さぶった。
こいつに捕まれば、きっとミーはタダでは済まないだろう。
女の纏う空気が、それを証明している気がするのだ。
「……なんや、なんでこんなことすんねん。お前ら、何なんや」
見上げながら、傷口を押さえて言うミー。
「全ての仲間の居場所を吐いてもらう」
「はあ? 何、言うとんの」
「素直に吐けば、拷問に耐える必要はなくなる」
「ご…………」
拷問。
この国に住む一般人にとって、あまりにも非現実的な言葉。
それがまさに自分に対して使われているとわかった時の、心理的威圧感は計り知れないだろう。
自らの言葉が嘘ではないことを証明するかのように、ミーに向けられた銃火器と剣。
ミーの視界が揺れた。はあ、はあ、と息が切れる。
そのミーの前で、天使の表情は、美しく知的な外見とは対照的とも言える野蛮なものへと変化していく。
「……目も、耳も、舌も、指も、腕も。ああ、死んでしまわないようにしないと」
ミーの視界が見開かれる。
天使の表情は、いつの間にか理性のカケラも見当たらないものに変わっていた。
「ふ。えふ。えふ。えふっ。あなだらけに、してあげる」
天使は、自分の両腕で自分の身体をギュッと強く抱きしめる。自分の腕を、血が出るほどに爪を立てて握りしめ、垂れそうな涎を啜って口を半開きにしたまま、目を見開いてミーのことを覗き込む。
ミーは、床にへたり込みながらも、視線を天使から外すことなく後ずさった。
この場で、こいつらの心臓を止める──。
それはもちろんできるだろう。
だが、俺は、波動の時のことを思い出していた。
あの時、俺は、エレクトロ・マスターを使った直後、すぐにヒュプノスの効果が解除されてしまったのだ。仮にここでこいつらの心臓を止めて、確実に息の根を止められる保証は、あるだろうか。
波動は、耐えきった。
二人の男の方はどうか知らんが、この天使だけは間違いなくアーティファクト。肉体が変質していてもおかしくない。
もしここで全力を使い果たしてヒュプノスの効果が解除されてしまったら、もう一度飲まなければならない。
が、これまでの経験上、力を使い果たしてから俺が完全に目を覚ますまでには、微妙に時間がかかるのだ。
だから、もう一度飲む前に、きっとミーは捕えられてしまうだろう。もし、捕えられれば……
俺は、さっき天使が見せたおぞましい笑みが頭に浮かんで、内臓が痺れるほどに緊張が走る。
そう。電気回路がつながっていないものに、この力を使うのは、用心しないといけないのだ。
……ん? つながっていない……?
俺の頭に閃いた、一つの反撃方法。
俺は、ミーの目を通して本性を表していく天使の表情を見据える。明らかに、勝ちを確信した愉悦の表情だ。
成功するかはわからない。
こいつらは、ゼウスとの通信を、システム管理者の力で加護している。だから、今からやることは、もしかしたら通じないかもしれない。
だが、他に方法は思い付かない。やるしかないのだ。
絶対に、助ける。
ミーの視界に映る闇天使を睨みつけながら、俺は「思い」を、強く、強く固めた。
ノアとルナに確認しようと思ったが、この件については絶対に回答など得られないのを思い出す。俺は、記憶を辿って、自分自身の頭で考えなければならなかった。
奴は中原へ質問した。「波動を殺したか?」と。
中原は何も反応していない。にもかかわらず、次の瞬間「ビンゴ!」と確信めいたように……。
表情だけでは、あれほどの確信は得られないはずだ。つまり奴は、その短い時間になんらかの方法で中原から情報を得たことになる。
仮に、ゼウスとの通信を「神の力」によって保護している俺たちから確証を引き出したのだとしたら、それはシステム管理者の力ではないはず。つまり、「アーティファクトとしての能力」ということになる。
考えられることは────
「中原! 奴が質問した時、何を思い浮かべた!」
「え? なんすか、いきなりそんな……」
「いいから早く!」
「え、えーと……血だらけの、ミーさんを、波動の前で抱きしめているところ……ですかね。……えっ? まさか」
敵に、こちらの正体がバレてしまった。
しかし、今後のことについて検討するのは後!
最優先されるべきは、誰一人として死なせず、この状況から生きて逃げ延びることだ。戦闘配置としては、さやは中原に任せ、俺はミーを助けなければならない。
「ミーっ! おい、返事しろ!」
「…………うん」
ようやくミーは、俺の呼びかけに反応する。
「あれは、何? 誰? 羽、付けとる。仮装?」
「逃げるんだ! あいつはお前を殺しにくる!」
「え……。なんで? どうして?」
「説明してるヒマ、ないんだっ! 早く……」
「はあ? なに慌てて……」
ボケッと答えるミーの前で、「天使」は音もなくスラっと剣を抜く。
俺たちの視覚で捉えたそれは、まさに「剣」。
現実世界において、果たして本物の剣というものを美術館以外で見たことがある人間は、どのくらいいるだろうか。それも、自分に対して抜かれた剣を。
剣は、敵自身の翼が放つキラキラと輝く光を反射して、眩いほどにチカチカと瞬く。
その形は、日本刀とは異なる外国のもの。赤い柄の端には黄色いヒモのようなものがぶら下がっていて、刀身は太い。パッと見た印象では、中国の剣のように思えた。
その天使の背後の闇から、黒いスーツを着た二人の男たちが現れる。
この二人もまた、両目を赤く光らせていた。二人は、どちらも手に銃を握っている。
「えっ……なに? なにっ?」
目の前で大きな刃物を携える、目を赤く光らせた、得体の知れない翼の生えた、見ず知らずの女。
その女の両脇に立つ、屈強そうな、まるでボディガードのような、銃を手に持つ二人の男。
これを見て、ミーもさすがに後ずさる。
もう迷ってる暇はない。
俺は、ポケットの中の睡眠薬……二錠以上は命に関わるという魔薬、ヒュプノスを手に取った。
「ミー、頼む……。お願いだから逃げてくれ。……じゃないと、間違いなく、死ぬ!」
「……うんっ」
返事したミーの視界はグルッと向きを変え、視界は大きく上下動しながらすぐ近くにある階段を降りた。同時に、チュイン、チュインと何かが当たるような金属音がする。
俺はそれを確認した後、水なしで薬をグッと飲み込んだ。
真っ暗な長野の路地で、俺は、身体を丸めて地面に横たわったまま、ぐるぐる回るような感覚に身を任せた。
────…………
意識を回復させた時、いつも思う。
薬を飲んでから、いったいどれだけの時間が経ったのだろうか? 俺の意識が無くなってから、すぐなのだろうか? 感覚的にはまさにそうなのだが。
眠りに落ちてから起きるまでの間に、時間があったような記憶はない。だから、俺は、その間にどのくらいの時間があったのかわからない。
それを俺に教えるようゼウスへ問いかける。俺の問いに答えたノアの言葉は、具体的かつ明瞭だった。
「五秒間」。
それがノアの回答だった。
今、俺の光るアバターがいるのは、紅蓮の光がそこかしこに走る例の子供部屋。このアバターがどこに現れるかについて、自分の意思は介在していないのだろうか、と疑問が湧いたが余計なことを考えている場合ではないのですぐさま雑念を振り払った。
間を置くことなく、俺はすぐさま「思う」。
神の名において命ずる……ゼウスよ、ミーの前に現れたこの天使の能力を教えろ!
俺は、ダメもとで敵情報の取得をゼウスへ命令した。
案の定、俺の発した命令は、水道管が詰まって行手を阻まれる水のように滞り、一向にゼウスへ伝わることはなかった。
俺の頭の中にある仮想映画館には、すでにミーと中原の視界映像スクリーンが上映中だったので、これにさやのを強制的に追加するよう俺はノアとルナへ命ずる。
中原とさやの視界映像は、長野にある夜の温泉街。
中原は、さやを路地に隠したまま敵と向かい合っている。
「中原! ミーが敵に襲われてる。俺はそっちを助けなきゃなんねえ! ……さやのこと、絶対に。絶対に、護ってくれ!!!」
「……了解です。センパイこそ、俺のミミさんを死なせたら、承知しませんから」
「ああ。絶対だ」
「ええ。絶対です」
中原と約束した俺は、中原とさやのいる長野のバトルフィールドから意識をそらし、都内にいるミーのマンションへと意識を向ける。
懸命に走るミーの視界映像は、未だ激しく縦揺れし、屋外階段をすごい速度で駆け降りていた。そういや、中学、高校・大学とバスケをやっていたミーは、確かダッシュ力には自信があったはず。
と……
七階程度のマンションから見える夜の街並みに、突如キラキラと輝く光の群れが舞い降りてくる。
まさに「天使」というのがふさわしい。敵は、自らの翼を優雅に羽ばたかせてマンションの外を飛び、ミーがいるところより一つ下の階へ先回りして降り立った。
それに気付いたミーは慌てて立ち止まり、一つ上の廊下に出て走る。
いくらか走った頃、ピュン、と音が聞こえた。
「痛つっっ!」
痛そうに叫ぶミーの声。視界が、激しく乱れる。
ミーの目線は、廊下の床スレスレで止まった。
視界は動き、次に映ったのはミー自身の足。ゆったりとしたグレーのスウェットが破れ、ふくらはぎから血が流れて赤く滲む。
顔を上げた視覚映像。自分が走ってきた廊下の向こうから、赤い二つの光とプラチナに輝く二つの翼がゆっくり歩いて追いかけてくる。
「お前はどう足掻いても逃げられない。諦めろ」
宣言した天使の手には、銃が握られていた。
左手に剣、右手にサブマシンガンで武装した天使が、照準をミーに合わせて無表情のまま歩いてくる。
まるでスローモーションを見ているかのようだった。歩行によってわずかに上下するその動きに合わせて、セミロングで鮮やかなバイオレットの髪が揺れる。
二人の男たちも走って階段を駆け下りてきて、天使に追いついた。
「すみませんっ、敵は……」
「捕えなさい」
女は、感情の感じられない冷徹な声で言う。それがまた、俺の心を激しく揺さぶった。
こいつに捕まれば、きっとミーはタダでは済まないだろう。
女の纏う空気が、それを証明している気がするのだ。
「……なんや、なんでこんなことすんねん。お前ら、何なんや」
見上げながら、傷口を押さえて言うミー。
「全ての仲間の居場所を吐いてもらう」
「はあ? 何、言うとんの」
「素直に吐けば、拷問に耐える必要はなくなる」
「ご…………」
拷問。
この国に住む一般人にとって、あまりにも非現実的な言葉。
それがまさに自分に対して使われているとわかった時の、心理的威圧感は計り知れないだろう。
自らの言葉が嘘ではないことを証明するかのように、ミーに向けられた銃火器と剣。
ミーの視界が揺れた。はあ、はあ、と息が切れる。
そのミーの前で、天使の表情は、美しく知的な外見とは対照的とも言える野蛮なものへと変化していく。
「……目も、耳も、舌も、指も、腕も。ああ、死んでしまわないようにしないと」
ミーの視界が見開かれる。
天使の表情は、いつの間にか理性のカケラも見当たらないものに変わっていた。
「ふ。えふ。えふ。えふっ。あなだらけに、してあげる」
天使は、自分の両腕で自分の身体をギュッと強く抱きしめる。自分の腕を、血が出るほどに爪を立てて握りしめ、垂れそうな涎を啜って口を半開きにしたまま、目を見開いてミーのことを覗き込む。
ミーは、床にへたり込みながらも、視線を天使から外すことなく後ずさった。
この場で、こいつらの心臓を止める──。
それはもちろんできるだろう。
だが、俺は、波動の時のことを思い出していた。
あの時、俺は、エレクトロ・マスターを使った直後、すぐにヒュプノスの効果が解除されてしまったのだ。仮にここでこいつらの心臓を止めて、確実に息の根を止められる保証は、あるだろうか。
波動は、耐えきった。
二人の男の方はどうか知らんが、この天使だけは間違いなくアーティファクト。肉体が変質していてもおかしくない。
もしここで全力を使い果たしてヒュプノスの効果が解除されてしまったら、もう一度飲まなければならない。
が、これまでの経験上、力を使い果たしてから俺が完全に目を覚ますまでには、微妙に時間がかかるのだ。
だから、もう一度飲む前に、きっとミーは捕えられてしまうだろう。もし、捕えられれば……
俺は、さっき天使が見せたおぞましい笑みが頭に浮かんで、内臓が痺れるほどに緊張が走る。
そう。電気回路がつながっていないものに、この力を使うのは、用心しないといけないのだ。
……ん? つながっていない……?
俺の頭に閃いた、一つの反撃方法。
俺は、ミーの目を通して本性を表していく天使の表情を見据える。明らかに、勝ちを確信した愉悦の表情だ。
成功するかはわからない。
こいつらは、ゼウスとの通信を、システム管理者の力で加護している。だから、今からやることは、もしかしたら通じないかもしれない。
だが、他に方法は思い付かない。やるしかないのだ。
絶対に、助ける。
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