眠神/ネムガミ 〜 特殊能力の発動要件は「眠ること」。ひたすら睡眠薬をあおって敵を撃破し、大好きな女の子たちを護り抜け!

翔龍LOVER

文字の大きさ
50 / 88

逃走

しおりを挟む
「えっ……石って何? どういうことっ?」
「えっと。一言でいうと、『メデューサ』だよ、こいつきっと」
「えええ~っ???」

 心の中で、ゼウスを使って、さやは俺に向かって叫んだ。
 
「落ち着いて! まず、奴の目は絶対に見ちゃダメだ」
「そっ、そっ、そんなこと言ったって! どうやって? どうやってこの場から逃げんのっ?」
「…………」
「黙んないでよっ!」
「ごめんっ」

 ゼウスでなされた半パニックの会話。
 さやの視界が、ビクッ! と揺れた。

「君のような美しい女性をね、僕はずっと探してたんだ」

 声色を変えないリョウマの声が、逆に不気味に響き渡る。
 ガラスに映り込んだ映像を見ると、リョウマは、後ろからさやの首に手をかけていた。
 鎖骨のあたりを両手で撫でながら、首をさするように触れている。

「ひ……なんとかしてっ。助けて、ネム!」

 ゼウスの通信で、俺に助けを求める声。
 俺は歯をギリギリと噛みしめていた。
 
 一つだけ、よくわからないことがある。俺は攻撃を開始する前に、それを何とか確認したいと思っていた。

 ゼウスに通信している時は、瞳が赤く光る。
 だが……こいつは、今、瞳を青く光らせている。

 単純に考えれば、石化能力の発動中……ということなのだろうが。

 奴のログイン状況は、どうなっているのだろうか?
「インベーダー」を使って仕掛ける洗脳攻撃は、奴がログイン中でなければならない。敵の出方もわからないこの段階で「エレクトロ・マスター」を使うのは、いくら何でも早すぎる。

 青く光る前……つまりさやと喋っていた時は、赤く光っていた。だから、ログイン中である可能性が極めて高いと思うのだが。

 この攻撃は、過去に二度も使っている。リリスにも、ナキにもだ。だから、こいつらはとっくに「最初からゼウスにログインしない」という戦法をとってきてもおかしくないはずなのだ。
 さやのことは既に敵にバレているから、リョウマがグリムリーパーだとすると、初めからさやを標的にして、そういう戦法を今まさに使われていても全く不思議ではない。

 
 どうする?


 さやと一緒に、ガラス窓に映るリョウマを眺める時間が過ぎる。
 リョウマは、さやの首すじに顔を近づけ、さやの耳を、はむ、と唇で優しく噛んだ。

「んっ……」
「さやか。こっちを、向いて」

 リョウマはさやの首に手を回し、さやの顎を掴んで強引に自分のほうへ向かせようとした。
 同時に、俺の意識の中にある、さやの視界映像スクリーンが真っ暗になる。

 さやは、目を閉じたのだ。

「……! お前……」

 静けさに支配された不気味な時間が流れる。
 その空気感と一致する、リョウマのセリフも併せて流された。

「どうして知ってる?」
「ええ? な、何が?」

 目を閉じたまま、すっとぼける、さや。

「いいさ。そのままでいろよ」

 リョウマの声。と、

「んっ! ンンン……」

 さやが、ゼウスを通じてこもったような声をあげる。
 
「さや、どうした!」
「こいつ、わたしにキスしてんの! もう、いやぁ……」

 火山が噴火したかのように、俺の胸のあたりから猛烈な怒気が噴き上がってくる。
 もう、止められなかった。


 ──神の名において、命ずる! 
 リョウマの、意識を乗っ取れ!!!


 バリバリっ、という電撃のような音。同時に、

「グッ……ああああっ!」

 苦しそうに悲鳴をあげるリョウマ。
 さやの視界が回復する。さやは、リョウマを振り切って休憩所を脱出しようとしていた。
 
「誰かっ……」

 叫ぼうとしたものの、さやはその声を止め、俺にゼウスで尋ねた。

「ねえ、ネム。このまま助けを呼んだら、あいつ、みんなを石化するのかな……」
「う……ん。もしかしたら……でも、呼ばないと、さやが」
「そんなのイヤだ。わたし……わたしのせいで、他の人に迷惑かけたくない」
「そんなこと、言ってる場合じゃ……」
「イヤだっ」

 さやが走っている廊下はある程度照度が保たれていて、先がしっかり見えていた。
 が、必死で走っていたからだろう、突如として現れた階段室を危うく通り過ぎかける。さやは、振り向くことなく、すぐさま階段を駆け降りた。

 はあ、はあ、と荒くなった息遣いだけがこだまする夜の病院の中、さやは立ち止まる。

「ねえ、ネム……この病院、結構広くてさ……。雪人のいた病室、一〇階だったの。エレベーターとか、出口の位置、わからない?」

 これについては、さやが自分でゼウスに願えばすぐさま取得できる情報ではあるが、今のさやにそんな余裕はない。
 だから、俺はすぐさまゼウスを使って病院の案内図を取得する。それをさやへ共有すると同時に、今度は「神の力」を持つ俺にしか取得できない情報──すなわちこの病院内の監視カメラ映像も取得した。


 カツン、カツン、と廊下に響く足音。


「……!」
「奴だ」

 リョウマに一撃を喰らわせた直後、やはり奴は、すぐにゼウスとの接続を遮断していた。
 その一事をもって、奴がリリスやナキの仲間だと断じても差し支えないだろう。

 奴のダメージはどのくらいだろうか?
 リリスはともかく、俺の洗脳攻撃を喰らったナキは相当なダメージを負っていそうだった。リョウマにはどのくらい効いたのだろうか?
 
 まるで心臓の音までも聞こえてきそうな、さやの緊張感が伝わってくる。
 俺は、歯噛みした。

 いつもそうなのだ。

 俺はいつも現場にいない。敵と対峙して戦うのは、いつも仲間たち。さやは今、どんなに怖い思いをしているだろうか。

 監視カメラから取得した映像に、歩いているリョウマが映る。
 
「さや、その廊下に居たら、奴に見つかる。トイレに隠れよう」
「うん……」

 さやは、音を立てないように注意しながら、三つあるうちの、一番奥の個室に隠れた。
 
「見つからないかな……」

 ゼウスの通信で伝わってくる、細く、震えた声。それがまさしく、さやの心境を表していた。
 つい最近、ユウキに追いかけられた経験のあるさやは、こういうのがトラウマになっていても不思議じゃない。
 俺は、覚悟を決めて、監視カメラに映るリョウマを睨みつけた。

「もし見つかったら、俺が奴の心臓を止める。その隙に逃げろ」
「え……殺しちゃうの……?」

 こんな異常な状況に、いつの間にか慣れてしまったのだろうか。
 さやの言葉でハッとする。
 俺は、自分の気持ちを正確に表す端的な言葉を出せなかった。

「……どちらにしても、その隙を見て逃げるんだ。逃げてくれたら時間が稼げるから、敵が生きていても、俺はその時間で二錠目を飲める」
「ダメだよ! そんなことしたら、ネムが……」
「大丈夫。きっと死なない」
「…………」

 バアン、と勢いよくドアを開ける音。おそらく、トイレの入口のドアが開けられた。

「キキキ……どこかなぁ……」

 間違いなくリョウマの声だ。
 悦びを抑えきれないような気配が俺にもひしひしと伝わってくる。

 キイイ、というドアを開ける音。
 
「…………ねえ」
「なに?」
「失敗じゃない? ここ」
「どうだろうね」
「だって、逃げ場所、無いじゃない」

 キイイ、というドアを開ける音。

「まあ……でも、外だともっと早く見つかってたよ」
「ふーん。じゃあ、見つからなかったら、一つだけ何でも言うこと聞いてあげる」
「さやのハダカが見たい」
「……即答かよ。だったら、さっさと付き合えばいいじゃん。あんなメンヘラポニーテールはほっといて」

 キイイ、とういドアを開ける音。

 その後すぐに、バアン! と勢いよくドアを開ける音が聞こえ……
 カツン、カツン、という足音が遠ざかる。

「えっ。びっくり」
「だろ? 男子便所まで見ないんだよ、案外」
「いやいやバカじゃないのあいつ。思い込み強すぎでしょ」
「さっきの約束、忘れてないよね?」
「う」
「なんてね。あれは嘘! ホントのお願いは、無事に逃げ切れたら言うわ。せっかくさやを、俺の欲望のまま自由にしていいっていう権利を手に入れたんだから」
「ちょっ……その言い方! なんか怖いんだけど」

 なんにしても、さやは命の危機をやり過ごし、俺は、さやを自由にできる権利を得たのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...