眠神/ネムガミ 〜 特殊能力の発動要件は「眠ること」。ひたすら睡眠薬をあおって敵を撃破し、大好きな女の子たちを護り抜け!

翔龍LOVER

文字の大きさ
58 / 88

命の火

しおりを挟む
 俺は、この一連の事件の中でリオにさせたことを思い出す。

 一人暮らしの男の家なんぞに外泊させてしまったのは反省すべきことだし、我を忘れて俺は彼女にとんでもないことを押し付けたのだ。その上、首を絞めるという許されない乱暴まで働いた。
 俺がこれらの件について謝ると、リオは目を細めた。

「……マジで危なっかしすぎるんですけど、二人とも」
「「二人?」」

 タイミング良く、同時に尋ね返す俺とさや。

「二人って言ったら、ネムとさやちゃんしかいないでしょ! ほんと似た者同士だよね」
 
 俺たちは、顔を見合わせ、また笑ってしまう。それでまたしかめっ面をするリオ。「両手を合わせて何度も謝る二人の社会人の前で、腕を組んで呆れる女子高生の図」が展開される。
 リオは、呆れ返ったような顔をして、もういいよ、と俺のことを許してくれた。
 

「ふう……さて」


 リオが帰っていったあと、俺の病室には俺とさやしかいなかった。
 今後のことを話さなければならない。俺は、中原、ミー、さやの三人と通信を繋いで相談をすることにした。

 ノアとルナは、俺の要求を直ちに聞き入れて通信を開通させる。俺は、病室のベッドの上で姿勢を整え、それから話し始めた。

「今回の戦いは、今までと違うところが一つある」
「……ですね」

 相槌を打つ中原。

「敵を、こちらで捕らえましたね」
「そのとおりだ。話によると、リョウマは今現在、この病院に入院している。さやに蜂の巣にされかけて危うく死亡するところだったけど、あいつもアーティファクトだ。おそらく話くらいできるんじゃないか」
「ちゃーんと、死なないようにしましたよっ!」

 口を尖らせて言うさや。
 でも、きっと嘘だ。一部始終を聞いていた俺としては、到底信じることなどできないさやの抗議。まあ、結果として生きているから良しとしよう。 

「ゼウスに尋ねても、強力なセキュリティで縛られて敵のことは一切教えてくれないんだ。でも、あいつの口から直接喋らせれば、きっと情報が手に入る。これは千載一遇のチャンスなんだ」

 そう。こんなことは一度たりとも無かったのだ。
 今までの敵はみんな、死ぬか逃げるかしてしまったから。
 
「でも、俺はミミさんのそばを離れることはできません」

 中原が言うと、自信満々のさやの声が。

「大丈夫。わたしが行く」

 何が大丈夫なの? と思ったであろうみんなの無言の疑問に、さやは答える。

「必ず、吐かせるわ」

 口角を上げながら目を細めるさやは、本当なら可愛い笑顔と評するところ。
 だが、顔とセリフがアンバランスで、俺は震え上がった。

      ◾️ ◾️ ◾️
 
 俺たちは、さやの視覚・聴覚情報を共有し、リョウマとのやりとりを見守ることにした。

 さやは、ICUに出入りする男性看護師にお願いし、リョウマと話がしたいと掛け合った。
 だが、現状では無理だと言われる。
 さやは引き下がらず、ゼウスを使ってなら負担がないんじゃないかと提案したが、意思疎通は体力が必要で命に関わる、と断られた。

 これで諦めるかと思いきや、さやは、その男性看護師のパーソナルスペースにスッと入り、じっと見つめる。相手の顔が赤くなり、目線が飛び飛びになったのを見てとった瞬間、

「お願い」

 と切ない声で一言。


 えっ。


 能力に目覚めてから一段と振り切った感はあるが……
 いったい、どこまでが元々の本性だったのだろうか。
 考えるだけ無駄だ。俺は見て見ぬ振りをすることにした。

 ICUの入口を前にしたさやの視線の先に、警察官がいた。
 その警察官を、男性看護師とともにやり過ごし、さやはリョウマの枕元に立つ。
 リョウマは、鼻から上の部分を、まるでミイラのように包帯でグルグル巻きにされていた。  

「リョウマ」

 さやが声で呼びかける。
 
 返答はない。やはり、まだ意識がないのだろうか……
 と俺が思っていると、さやは、

「返事しないなら右足を切断する」
「ちょっ、起きてる! 起きてるからっ!」

 びっくりした感じのリョウマが、上半身をブルブルっ! と震わせる。身体をクネクネさせながら、必死にさやへ返答した。その様子に、男性看護師は目を見開いて驚愕していた。

「最初から返事しろ。殺すぞ」
「はい」

 リョウマがさやの支配下に収まる。
 というか、俺は最初から支配下に収まっているので、こいつの気持ちはなんとなくわかった。

 絶望しているのではない。
 湧き出る高揚感に、戸惑っているのだ。
 先輩として言おう。
 すぐに慣れる。身を任せるのだ!

「田中真弓のことを教えろ」
「……できない」

 さやは、リョウマの顔の真横──吐息のかかりそうな距離感まで顔を持っていく。
 おもむろにリョウマの股間へ手をやり、耳元でささやいた。

「一つずつ潰す」
「言います」

 秒で降参するリョウマ。

 さやはベッドの横に立ったまま、次の言葉を待っていた。

「これを言ったら、俺、消されるだろうなぁ……」
「自業自得」
「てか、負けてこんなところで捕まってりゃ、それ自体が万死に値するか」

 さやはフウっと息を吐き、

「自分の欲望のために無用な戦いを仕掛け、その結果本来なら目覚めなかったはずのわたしの力を目覚めさせ、自分たちの脅威を増やした。それが万死に値すると言うね、わたしがあなたの上司なら」
「あ──……。なんか言われそう」

 リョウマは会話に間をとる。
 余計な邪魔を入れずにさやが待っていると、やがて静かに話し始めた。

「真弓はね、『命の火』なんだよ」
「…………」
「ギガント・アーマーのね」
「…………なに、それは」

 俺は、その名前に、どこか聞き覚えがあった。
 かなり前に聞いた気がするような、でも、最近だったような。
 思い出せない。なんだったか……

「まだ運用は開始されていないが……地下に作られたその施設は、生きた金属『ネオ・ライム』で作られる巨大な生物要塞さ。有事の際には要人たちがそこへ逃げ込み、敵への反撃の起点となるはずの、国防上の重要拠点だ」
「はあ。それが、なんなの?」
「俺たちの身体は当然だが生きている。そこに同化させると、ネオ・ライムはうまく生命活動を開始するんだが……ネオ・ライムだけで作られたものは、それだけでは生命活動を開始しない」
「…………」
「その上、要塞なんてもの、躯体くたいが巨大すぎた。単に人間と同化させる程度では、全体がきちんと生命活動を開始してくれない。だから、エンジンの中の燃焼室全体に炎を伝播でんぱさせるが如く、ギガント・アーマーを構成するネオ・ライム全体に生命力をみなぎらせる『命の火』が必要なんだ。当然だけど、その役目をする人間は、いったんギガント・アーマーと融合すれば二度と元には戻れない」
 
 想像だにしていなかった話の内容は、俺たちの言葉を奪っていた。

「真弓の能力は『命の火/イグナイター』。ギガント・アーマーを始動させる、点火装置となる人身御供ひとみごくうさ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...