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初戦
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俺は、本人たちから承認を得たことによって、自分の頭の中に視界映像スクリーンを三つ具現化する。
頭の中なのに「具現化する」という表現が正しいかはわからないが、とにかく、それらのスクリーンに映る同じ風景──つまり、電車に乗って、目的地に到着し、リョウマに教えてもらったギガント・アーマーの入口である工事現場のトラ柄フェンス入口に至るまで──を、眺めていた。
フェンスには防音用のようなシートが張られていたが、隙間からのぞくと、敷地内の様子は確認できた。
広い更地のような敷地。そこに、二つの建造物が見える。
一つはプレハブ小屋、もう一つは移動式トイレのような、電話ボックスのような、縦長のコンクリ製の建造物。敷地内に人の姿は見えなかった。
「みんな、気をつけて行けよ。ここからの会話は全部ゼウスでするんだ。俺は今から、一錠目を飲む」
「何錠も飲む前提で話すんな。ネム、お前は勘違いしとる」
突然、ミーに説教される。
「お前の命も一つの命や。あたしらが生きて帰っても、お前が死んだら意味ないんやからな」
「そうだよ。帰って、またみんなでお酒飲むでしょ?」
「そっすよ。またベロベロになるまで飲みましょう! 二錠目はギリギリまで我慢してくださいね」
ホテルのベッドの上で俺の隣に座るリオは、呆れ顔で、声を出さずに口の動きだけで「ほら」と言った。
「ああ。ほんと、心強いよ」
三人へそう返した俺はリオから水を受け取り、ヒュプノスを飲み込んだ。
身体をベッドに倒そうとすると、俺の身体をリオが支える。
意識が薄れてしっかりとは認識できなかったが、たぶんこのとき俺は、ベッドの上で正座するリオに膝枕されたのだと思う。
────…………
視覚が、聴覚が、俺の全てがアバターとして例の子供部屋で徐々に再生されていく。アバターは光り輝き、睡眠によるパワーが宿ったことを俺に理解させた。
意識を取り戻した俺は、三つのスクリーンを見渡す。
さっきと同じく、トラ柄フェンスが映っている。ノアは、俺がいつもの質問をする前に「五秒間だ」と回答した。
「こっちはOKだ」
と俺は三人へゼウス通信で声をかける。
中原は、周囲から見えないようにフェンスにかけられていた南京錠を手で掴んだ。
ゴッ! という鈍い音。中原が見下ろす自分の手には、破壊された南京錠が映っていた。
「通常モードでそれかよ。お前、マジで人間じゃなくなったな」
「便利でしょ」
「犯罪だっての」
トラ柄フェンスの入口を開ける。中原は、念のため敷地内部を見渡して確認したが、やはり先ほど覗いた状況と変わりはない。
「どうする? プレハブ入る?」
「敵は待ってると言うたんや。あたしらが来るのは承知の上なわけやから。普通に行ったらええんちゃうか」
そう言いながら、ミーは剣を包んでいた布を解いた。
過去の教訓が何も生かされていないミー。しゃらくさいことは抜きで、どうしても真っ向勝負で行きたいらしい。
中原は、ガラガラと音をさせながらプレハブ小屋の引き戸を開ける。と……
中には、一人の老人がいた。
作業服を着た老人は、中原たちに気づくと愛想よく手を振って、
「ああ、聞いとるよ」
と、敵であることを隠しもせずに答える。
「そうですか」
「案内するからよ、ちょっと待っとれ。ほれ、このイスに」
老人はヨタヨタと動いて、パイプイスを三つ並べようとする。
「ああ、すみません、やりますから」
中原はイスを並べるのを手伝った。どうやら敵とはいえ、老人に無理をさせるのは中原の矜持に反するらしい。
老人は、そのままプレハブ小屋の出入口へヨロヨロ向かう。
「これからどうなんの? 展開がまるでわからないんだけど」
「ん──……。なんやろな」
雑談するさやの視線の先に、鏡があった。
さやの視界は、特にその鏡に定まったわけではない印象。おそらく、さやは鏡を意識して見ていたわけではない。
だが、その視界をのぞく俺は、鏡の中に、見慣れた赤い光が二つ光っているのに気が付いた。
「敵だ! 後ろっ……」
乾いた破裂音が連続して鳴る。
「ひっ……」
さやが短い悲鳴をあげた時には、中原はウェアウルフとなり、さやとミーの盾となっていた。
銃声に混じってドッ、ドッ、と音がしている。間違いなく、中原が銃弾を背中で受け止めた音だ。
うつむく中原の視界にいるミーの大腿部は、すでに神速の神を宿していた。
ミーの視界が、天井を向く。
視界はまるでコマ送りのように素早く切り替わり、次の瞬間には逆さまになって天井から老人を見る視点へ。
あっという間に流れる映像。再度床からの視点となった視界は誰もいない壁を映す。それまでの間、一瞬だけ、老人の姿が映った気がした。
振り向くミーの視界の中で、老人の持つ銃は真っ二つになっていた。
全く動揺する気配もなく、老人は流れるような動きで、入口横の壁に取り付けてあった刃渡り四〇センチはありそうなナイフを手に取って構える。
ミーの視界は、コマ送りのコマを極端に間抜きしたような感じ。それは、ミーの移動速度の速さを端的に示していた。
瞬間的にゼロになった間合い。
即座にナイフを持つ老人の前腕を掴む。ナイフはカラン、と音を立ててプレハブ小屋の床に跳ね落ちた。
そのまま老人の首の後ろへ手刀を当てたミー。こいつらがなぜこんなに戦闘センスがあるのか謎だが、間違いなくアーティファクトであることが原因だ。
老人は、まるで電池が切れたようにその場で崩れ落ちた。
「こら。お前、使えんやないか」
そう言ったミーの視界はさやに向けられていた。
「あのね。光の弾を出せる以外は、わたしはか弱い普通の女の子なんですぅ、あなたたち妖怪軍団と違って」
「ほんなら、それでさっさと撃てや!」
「な、中原くんが邪魔だったの!」
「すいません!」
老人をものともせずに処理し、ガヤガヤし始める三人。
「やっぱ油断できませんね。いきなり撃ってきたし」
「んー。ほやけど、このジイちゃん、なんのためにゼウスにログインしたんや? だって、それのせいでネムに気付かれたやろ?」
「……確かに。ねえネム、なんでだと思う?」
やはり、嫌な予感は当たったようだ。
俺は、その理由にすぐさま見当がついた。
「きっと、このジイちゃんは操られてる。ゼウスを使って、システム管理者の力で」
しばし無言の三人。
ウロウロとそこら辺を彷徨う視界は、こいつらの動揺を俺に感じさせた。
「そんなアホな……。ほんなら、ゼウスにログインする一般人が全員、あたしらに襲いかかってくるってこと? でも、それやったら最初からそうしたら良かったんちゃうんか?」
どういうことかは俺にもわからない。
ノアとルナが回答できるのかわからないが、ヒントくらいはセーフだろ、と俺は一か八か尋ねてみる。
「おい。なんで敵は最初っから操ってこなかったんだよ」
「言えない」
「杓子定規すぎんだろ。ヒントくらいくれよ」
「そんな問題じゃないんだけど」
はあ……、と深いため息のノア。
「ゼウスは、国の一大事業」
なるほど。
国が自由自在に国民を操れるなんて知れたら、大変だもんな。
できるだけ、知られたくないわけだ。
これから先、問答無用で、こんなふうに襲いかかってくる奴らがたくさんいるのだろう。
俺たちは、互いに聞こえるようにため息をついた。現場にいる三人は視界を見合わせ、先が思いやられて早くも疲れる。
腰を下ろして、しばらく休憩することにした。
頭の中なのに「具現化する」という表現が正しいかはわからないが、とにかく、それらのスクリーンに映る同じ風景──つまり、電車に乗って、目的地に到着し、リョウマに教えてもらったギガント・アーマーの入口である工事現場のトラ柄フェンス入口に至るまで──を、眺めていた。
フェンスには防音用のようなシートが張られていたが、隙間からのぞくと、敷地内の様子は確認できた。
広い更地のような敷地。そこに、二つの建造物が見える。
一つはプレハブ小屋、もう一つは移動式トイレのような、電話ボックスのような、縦長のコンクリ製の建造物。敷地内に人の姿は見えなかった。
「みんな、気をつけて行けよ。ここからの会話は全部ゼウスでするんだ。俺は今から、一錠目を飲む」
「何錠も飲む前提で話すんな。ネム、お前は勘違いしとる」
突然、ミーに説教される。
「お前の命も一つの命や。あたしらが生きて帰っても、お前が死んだら意味ないんやからな」
「そうだよ。帰って、またみんなでお酒飲むでしょ?」
「そっすよ。またベロベロになるまで飲みましょう! 二錠目はギリギリまで我慢してくださいね」
ホテルのベッドの上で俺の隣に座るリオは、呆れ顔で、声を出さずに口の動きだけで「ほら」と言った。
「ああ。ほんと、心強いよ」
三人へそう返した俺はリオから水を受け取り、ヒュプノスを飲み込んだ。
身体をベッドに倒そうとすると、俺の身体をリオが支える。
意識が薄れてしっかりとは認識できなかったが、たぶんこのとき俺は、ベッドの上で正座するリオに膝枕されたのだと思う。
────…………
視覚が、聴覚が、俺の全てがアバターとして例の子供部屋で徐々に再生されていく。アバターは光り輝き、睡眠によるパワーが宿ったことを俺に理解させた。
意識を取り戻した俺は、三つのスクリーンを見渡す。
さっきと同じく、トラ柄フェンスが映っている。ノアは、俺がいつもの質問をする前に「五秒間だ」と回答した。
「こっちはOKだ」
と俺は三人へゼウス通信で声をかける。
中原は、周囲から見えないようにフェンスにかけられていた南京錠を手で掴んだ。
ゴッ! という鈍い音。中原が見下ろす自分の手には、破壊された南京錠が映っていた。
「通常モードでそれかよ。お前、マジで人間じゃなくなったな」
「便利でしょ」
「犯罪だっての」
トラ柄フェンスの入口を開ける。中原は、念のため敷地内部を見渡して確認したが、やはり先ほど覗いた状況と変わりはない。
「どうする? プレハブ入る?」
「敵は待ってると言うたんや。あたしらが来るのは承知の上なわけやから。普通に行ったらええんちゃうか」
そう言いながら、ミーは剣を包んでいた布を解いた。
過去の教訓が何も生かされていないミー。しゃらくさいことは抜きで、どうしても真っ向勝負で行きたいらしい。
中原は、ガラガラと音をさせながらプレハブ小屋の引き戸を開ける。と……
中には、一人の老人がいた。
作業服を着た老人は、中原たちに気づくと愛想よく手を振って、
「ああ、聞いとるよ」
と、敵であることを隠しもせずに答える。
「そうですか」
「案内するからよ、ちょっと待っとれ。ほれ、このイスに」
老人はヨタヨタと動いて、パイプイスを三つ並べようとする。
「ああ、すみません、やりますから」
中原はイスを並べるのを手伝った。どうやら敵とはいえ、老人に無理をさせるのは中原の矜持に反するらしい。
老人は、そのままプレハブ小屋の出入口へヨロヨロ向かう。
「これからどうなんの? 展開がまるでわからないんだけど」
「ん──……。なんやろな」
雑談するさやの視線の先に、鏡があった。
さやの視界は、特にその鏡に定まったわけではない印象。おそらく、さやは鏡を意識して見ていたわけではない。
だが、その視界をのぞく俺は、鏡の中に、見慣れた赤い光が二つ光っているのに気が付いた。
「敵だ! 後ろっ……」
乾いた破裂音が連続して鳴る。
「ひっ……」
さやが短い悲鳴をあげた時には、中原はウェアウルフとなり、さやとミーの盾となっていた。
銃声に混じってドッ、ドッ、と音がしている。間違いなく、中原が銃弾を背中で受け止めた音だ。
うつむく中原の視界にいるミーの大腿部は、すでに神速の神を宿していた。
ミーの視界が、天井を向く。
視界はまるでコマ送りのように素早く切り替わり、次の瞬間には逆さまになって天井から老人を見る視点へ。
あっという間に流れる映像。再度床からの視点となった視界は誰もいない壁を映す。それまでの間、一瞬だけ、老人の姿が映った気がした。
振り向くミーの視界の中で、老人の持つ銃は真っ二つになっていた。
全く動揺する気配もなく、老人は流れるような動きで、入口横の壁に取り付けてあった刃渡り四〇センチはありそうなナイフを手に取って構える。
ミーの視界は、コマ送りのコマを極端に間抜きしたような感じ。それは、ミーの移動速度の速さを端的に示していた。
瞬間的にゼロになった間合い。
即座にナイフを持つ老人の前腕を掴む。ナイフはカラン、と音を立ててプレハブ小屋の床に跳ね落ちた。
そのまま老人の首の後ろへ手刀を当てたミー。こいつらがなぜこんなに戦闘センスがあるのか謎だが、間違いなくアーティファクトであることが原因だ。
老人は、まるで電池が切れたようにその場で崩れ落ちた。
「こら。お前、使えんやないか」
そう言ったミーの視界はさやに向けられていた。
「あのね。光の弾を出せる以外は、わたしはか弱い普通の女の子なんですぅ、あなたたち妖怪軍団と違って」
「ほんなら、それでさっさと撃てや!」
「な、中原くんが邪魔だったの!」
「すいません!」
老人をものともせずに処理し、ガヤガヤし始める三人。
「やっぱ油断できませんね。いきなり撃ってきたし」
「んー。ほやけど、このジイちゃん、なんのためにゼウスにログインしたんや? だって、それのせいでネムに気付かれたやろ?」
「……確かに。ねえネム、なんでだと思う?」
やはり、嫌な予感は当たったようだ。
俺は、その理由にすぐさま見当がついた。
「きっと、このジイちゃんは操られてる。ゼウスを使って、システム管理者の力で」
しばし無言の三人。
ウロウロとそこら辺を彷徨う視界は、こいつらの動揺を俺に感じさせた。
「そんなアホな……。ほんなら、ゼウスにログインする一般人が全員、あたしらに襲いかかってくるってこと? でも、それやったら最初からそうしたら良かったんちゃうんか?」
どういうことかは俺にもわからない。
ノアとルナが回答できるのかわからないが、ヒントくらいはセーフだろ、と俺は一か八か尋ねてみる。
「おい。なんで敵は最初っから操ってこなかったんだよ」
「言えない」
「杓子定規すぎんだろ。ヒントくらいくれよ」
「そんな問題じゃないんだけど」
はあ……、と深いため息のノア。
「ゼウスは、国の一大事業」
なるほど。
国が自由自在に国民を操れるなんて知れたら、大変だもんな。
できるだけ、知られたくないわけだ。
これから先、問答無用で、こんなふうに襲いかかってくる奴らがたくさんいるのだろう。
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