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信じる気持ち
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さやは、ナキとの戦いに勝った。その方法は、俺には思いつかないものだった。
仮に敵を殺すことになっても、自分たちは悪くない。
俺は、ずっとそんな風に考えていた。
なぜなら、殺しにくる敵を倒さないということは、俺たちが殺されることを意味するから。だから、仕方がないんだ、と。
もし、波動の時にさやがいたなら、さやは波動のことも救えたのだろうか。
感傷に浸る時間はない。ミーは、まだ死闘を繰り広げているのだ。
俺は、ミーの視界映像に意識をやった。
相変わらずその映像はブレている。それはつまり、ミーがまだ超高速で移動し続けていることを意味している。
リョウマを直接見ることができないミーは、目線を向ける方向が著しく限られる。その状態では、正確にリョウマを攻撃することができないのだろう。
しかも、映像を見る限り、ミーを狙う銃撃が増えているような気がした。
リョウマが仲間を呼んだのだろうか。いずれにしても、ずっと同じような映像が繰り返されているということは、ミーは動き回って何とか敵の攻撃を回避しているものの、反撃の手立てが見つからないのだ。
「さや。俺は、ミーを助けに行く。まゆは俺が何とかするから、さやはここを脱出して」
さやの視界映像が、ナキから外れた。
「何を言ってるの? わたしだけ逃げられるわけないじゃない!」
「えっと。でも、怪我してるし」
「しばらくすれば治りそうな気がする」
「気がする、って?」
「なんとなくだけど。アーティファクトになったからじゃない?」
「まあ……そうかもしれないけど。そんな状態で……」
「ミーちゃんは、どうなってるの?」
「苦戦してるな。リョウマの目を見れないから、まともに斬撃を当てられないんだ」
「メガネで防げる説は、結局、嘘だったの?」
「試せてないよ。試して失敗だったら即、死亡だし」
「まあ、そうだね。……しゃあないなぁ」
さやは、ナキから手を離す。さやの視界に、さやに抱きしめられていたナキの顔が映る。
ナキは、戦う時に見せていた表情の面影すらないほどに、まるで子供のような顔をしていた。
よく見れば童顔で、外っパネしたブルーの毛先がよく似合う、可愛い女の子だ。
「行くのか」
「うん」
「リョウマか。新堂ミミとかいう仲間を助けるんだな」
「そうだよ……仲間が、危ないんだ。あのクソドレッドのせいで」
さやとナキは、上半身を起こした。
ナキはさやの額に手を伸ばす。
「目を閉じて、心を落ち着けろ」
「何で?」
「いいから」
「あんたを信用するとでも思ってんの?」
「銃口を向けられてもオレを信用した奴が、この程度のことを信用しないはずはないからな」
ナキが屈託なく微笑むところを、俺は初めて見た。
そういや、波動も最期は、そんな笑顔をしてたっけ。
それを思い出した俺は、嫌な記憶が戻ってきた。俺は、さやに波動の最期のことを話す。
話を聞いたさやは、慌ててナキに顔を向けた。
「ねえ。これからどうするの?」
ナキは眉間にシワを寄せ、
「お前に心配してもらうほど落ちぶれてねえよ」
「ほら、あの、自分のやってきた悪い行いが苦になって、思い詰めて、その……」
心眼によってとっくに理解していたであろうナキは、だんだんと目を細めていく。
「はあ? 何言ってんの?」
「だって、国を裏切ったも同然なんでしょ?」
「……まあな」
天井を仰ぐナキ。
ふう、とため息をついて、口元を緩めた。
「どこへでも逃げるさ。もう、ここにいる気にはなれない」
「そう」
ホッとしたような、さやの声。
辛そうに立ち上がり、瞳を紅蓮に光らせる二人。
するとナキは、ことさら真剣な表情を作ってさやに言う。
「気をつけろ」
「もちろん。リョウマの最低野郎は、今度こそ完全にっ……!」
「そうじゃない」
「へ?」
両手を身体の前でグーにして握りしめ、リョウマのことを思い出してテンションが上がっていたさやは、神妙な声で語るナキの声で力を抜く。
「グリムリーパー隊長、エージェント・リリス。このギガント・アーマーの艦長、本田清十郎の忠実なる犬さ」
そうだ。奴はまだ、姿を現していない。
敵の中でも、最も不気味なオーラを纏った人物。
俺は、本田とまゆのいる部屋に意識を戻す。
まゆの命の残り時間を表す数字は、一〇分を切った。
いざとなれば、俺のアバターを、リョウマやリリスとの戦闘現場へ持っていくことはできる。
だが、そこで力を使ってしまえば本田清十郎を倒せない。俺は、すでにヒュプノスを二錠飲んでしまっているのだ。
だから、ミーとさやでリョウマとリリスを倒すことができれば、希望が見えてくるだろう。
さやは、ナキと向かい合う。
互いに見つめ合い、さやは小さくうなずいた。
それに呼応し、ナキも同じようにする。
「リョウマのいる部屋へは、こっちが最短だ」
「うん。ありがと!」
ナキは、柱にもたれながら力なく座り込む。
その姿を見て振り返ったさやを、無造作に手で合図して追っ払った。
さやは足を引き摺りながら、神殿を進んでいく。
俺は、ゆっくりと歩くさやの視界映像を見ながら、身体が、いや、心が温かくなったような気がしていた。
倒すしかないと思ってた。場合によっては殺すしかない、と。
だから、さやが心に傷を負ってしまわないか、心配だったのだ。
でも、さやは、俺が考えてもいなかった方法でナキを突破した。
倒さなくてよかった。殺さなくても、救えたのだ。
何とかなるかもしれない。
俺は、本田と話をしていた時よりも比べ物にならないくらい、仲間を信じたい気持ちになっていた。
仮に敵を殺すことになっても、自分たちは悪くない。
俺は、ずっとそんな風に考えていた。
なぜなら、殺しにくる敵を倒さないということは、俺たちが殺されることを意味するから。だから、仕方がないんだ、と。
もし、波動の時にさやがいたなら、さやは波動のことも救えたのだろうか。
感傷に浸る時間はない。ミーは、まだ死闘を繰り広げているのだ。
俺は、ミーの視界映像に意識をやった。
相変わらずその映像はブレている。それはつまり、ミーがまだ超高速で移動し続けていることを意味している。
リョウマを直接見ることができないミーは、目線を向ける方向が著しく限られる。その状態では、正確にリョウマを攻撃することができないのだろう。
しかも、映像を見る限り、ミーを狙う銃撃が増えているような気がした。
リョウマが仲間を呼んだのだろうか。いずれにしても、ずっと同じような映像が繰り返されているということは、ミーは動き回って何とか敵の攻撃を回避しているものの、反撃の手立てが見つからないのだ。
「さや。俺は、ミーを助けに行く。まゆは俺が何とかするから、さやはここを脱出して」
さやの視界映像が、ナキから外れた。
「何を言ってるの? わたしだけ逃げられるわけないじゃない!」
「えっと。でも、怪我してるし」
「しばらくすれば治りそうな気がする」
「気がする、って?」
「なんとなくだけど。アーティファクトになったからじゃない?」
「まあ……そうかもしれないけど。そんな状態で……」
「ミーちゃんは、どうなってるの?」
「苦戦してるな。リョウマの目を見れないから、まともに斬撃を当てられないんだ」
「メガネで防げる説は、結局、嘘だったの?」
「試せてないよ。試して失敗だったら即、死亡だし」
「まあ、そうだね。……しゃあないなぁ」
さやは、ナキから手を離す。さやの視界に、さやに抱きしめられていたナキの顔が映る。
ナキは、戦う時に見せていた表情の面影すらないほどに、まるで子供のような顔をしていた。
よく見れば童顔で、外っパネしたブルーの毛先がよく似合う、可愛い女の子だ。
「行くのか」
「うん」
「リョウマか。新堂ミミとかいう仲間を助けるんだな」
「そうだよ……仲間が、危ないんだ。あのクソドレッドのせいで」
さやとナキは、上半身を起こした。
ナキはさやの額に手を伸ばす。
「目を閉じて、心を落ち着けろ」
「何で?」
「いいから」
「あんたを信用するとでも思ってんの?」
「銃口を向けられてもオレを信用した奴が、この程度のことを信用しないはずはないからな」
ナキが屈託なく微笑むところを、俺は初めて見た。
そういや、波動も最期は、そんな笑顔をしてたっけ。
それを思い出した俺は、嫌な記憶が戻ってきた。俺は、さやに波動の最期のことを話す。
話を聞いたさやは、慌ててナキに顔を向けた。
「ねえ。これからどうするの?」
ナキは眉間にシワを寄せ、
「お前に心配してもらうほど落ちぶれてねえよ」
「ほら、あの、自分のやってきた悪い行いが苦になって、思い詰めて、その……」
心眼によってとっくに理解していたであろうナキは、だんだんと目を細めていく。
「はあ? 何言ってんの?」
「だって、国を裏切ったも同然なんでしょ?」
「……まあな」
天井を仰ぐナキ。
ふう、とため息をついて、口元を緩めた。
「どこへでも逃げるさ。もう、ここにいる気にはなれない」
「そう」
ホッとしたような、さやの声。
辛そうに立ち上がり、瞳を紅蓮に光らせる二人。
するとナキは、ことさら真剣な表情を作ってさやに言う。
「気をつけろ」
「もちろん。リョウマの最低野郎は、今度こそ完全にっ……!」
「そうじゃない」
「へ?」
両手を身体の前でグーにして握りしめ、リョウマのことを思い出してテンションが上がっていたさやは、神妙な声で語るナキの声で力を抜く。
「グリムリーパー隊長、エージェント・リリス。このギガント・アーマーの艦長、本田清十郎の忠実なる犬さ」
そうだ。奴はまだ、姿を現していない。
敵の中でも、最も不気味なオーラを纏った人物。
俺は、本田とまゆのいる部屋に意識を戻す。
まゆの命の残り時間を表す数字は、一〇分を切った。
いざとなれば、俺のアバターを、リョウマやリリスとの戦闘現場へ持っていくことはできる。
だが、そこで力を使ってしまえば本田清十郎を倒せない。俺は、すでにヒュプノスを二錠飲んでしまっているのだ。
だから、ミーとさやでリョウマとリリスを倒すことができれば、希望が見えてくるだろう。
さやは、ナキと向かい合う。
互いに見つめ合い、さやは小さくうなずいた。
それに呼応し、ナキも同じようにする。
「リョウマのいる部屋へは、こっちが最短だ」
「うん。ありがと!」
ナキは、柱にもたれながら力なく座り込む。
その姿を見て振り返ったさやを、無造作に手で合図して追っ払った。
さやは足を引き摺りながら、神殿を進んでいく。
俺は、ゆっくりと歩くさやの視界映像を見ながら、身体が、いや、心が温かくなったような気がしていた。
倒すしかないと思ってた。場合によっては殺すしかない、と。
だから、さやが心に傷を負ってしまわないか、心配だったのだ。
でも、さやは、俺が考えてもいなかった方法でナキを突破した。
倒さなくてよかった。殺さなくても、救えたのだ。
何とかなるかもしれない。
俺は、本田と話をしていた時よりも比べ物にならないくらい、仲間を信じたい気持ちになっていた。
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