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消えたもの
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***アリー
ノアは意外と紳士?だ。口から出る言葉は時々生意気で馴れ馴れしく癪に触るのだけど、昨日の悪夢も時もそうだし、移動中、休憩中、というか四六時中、まるで壊れ物を扱う様に丁寧に接してくる。今だって馬のところまで歩くのに少しよろけただけで、たちまち抱き上げられてしまった。
もう王妃じゃない、とか言っておきながら、ノアはまだ私を王妃だと思っているのではないかしら? ・・・ん?
ぽこん、と疑問が浮かんだ。
私はもう王妃じゃない、のよね? だって逃げたから・・・? あら?でも、居なくなったからって直ぐに王妃じゃなくなるものなのかしら。王妃が失踪なんて今まで聞いた事がないから分からないけれど、とりあえず捜索なんかされるのかしら?内密に。しかも手紙も何も残していない私の場合、自発的かどうかも判断出来ない状態でだから、誘拐とか疑われたりして?あらら、そうするとノアの立場ってかなり危険なのでは?
本当に、私を助ける理由って・・・。もう何度目だろうか、思考を廻らせる度にこの疑問にぶつかってしまう。
「・・・・・・・・」
「アリー、どうしたの?」
「きゃっ・・」
気が付くとノアが至近距離から見つめていて思わず声を上げた。同時に身体がびくっと跳ねて私を抱える腕に力が込められた。
「動くと危ないよ。」
「ええ、ええ、ごめんなさい。」
考え過ぎかしら、ノアはそこまで考えずに行動しているのかも。陛下だって私を探すよりも葬式の準備の方をしていそうだし。
「それで、何か考え事?」
「あ、いえ、そういう訳では・・・ あら・・ノアって、結構鍛えているのかしら? 今、びくともしなかったわね。」
「ん? そりゃあ・・自分言うのも何だけど、王妃殿下の護衛を勤めるくらいだからそれなりにだよ。」
馬の横でノアは ふわり と、私を下ろした。
「そう、よね・・・。ねぇ、それって、凄いことなの?」
「はは、今さら? 強さと信頼がないと任されないよ。」
「信頼・・・」
「誰の?」とは聞けなかった。もし聞いてしまったら・・・。
「手を。」
先に馬に飛び乗ったノアが私に手を差し出した。
「あ・・・」
一瞬だけ躊躇した隙に、小猿ちゃんがノアの腕にぴょん、と乗り、ノアの真似をするように私に向けて小さな手を差し出した。
「ぷっ、ふふふっ、可愛すぎるわ。」
思わず吹き出してしまう。
「まいったな、役目を取られそうだ。でもそれじゃ支えられないからこちらをどうぞ。」
改めてノアが私を見て、私は手を重ねた。ぐいっ、と引っ張られると身体が宙を浮く感覚があって、すとん、とノアの腕に収まった。何度体験しても不思議な感覚で、これはノアが持っている魔力の力らしい。だけど1度に数秒しか使えないから、今までは無意味だと思っていたそうだ。
「ありがとう。」
「ん。」
不安や恐怖強く感じている時に出会った異性には恋愛感情を抱きやすいと聞いた事がある。
今、ノアに対して恋愛感情があるわけではないけれど、その作用のせいか信頼したい気持ちがある。完全に信頼しきれないのは、恐いから。それは、つまり、すでに、裏切りを恐れてしまう程には心を許してしまっっているということなのだ。
胸が押し潰されそうに痛い。
「本当に・・記憶喪失が本当の事だったら良かったのに・・・」
「何? 聞こえなかった」
「ううん、何でもないの。」
風が強く吹いた。だからこっそり呟いた。
こんなモヤモヤした気持ちは声に出して追い出さないと、身体の中で燻ってしまうから。
馬がゆっくりと歩み始めて、また長い1日が始まるのを感じた。
「ちゃんと支えてるから眠っててもいいよ。」
「さっき起きたばかりなのに?」
「あ・・うん、そうだよね、ごめん。」
「ふふ。ねぇ、ノアはきっと、良い人なのよね。」
邪念を取り払おうと大きい声で言うと、不思議と心が軽くなった。
「あ? え? い、良い人・・かな?」
「ええ。すごく、すごく良い人なのだわ。」
「う、う~ん・・良い人、か・・・」
「良い人だわ。ノアは良い人、本当に良い人。」
言う度に心がもっと軽くなった。嫌な事が全て消えて無くなるみたいに。
深く、深呼吸をしたら、ふっ、と生まれ変わったみたいに晴れ晴れとした気持ちになった。
ノアは本当に良い人。だって、記憶喪失の私を、見捨てないでくれているのだもの。
肩に乗っていた小さな温かい存在が、いつの間に消えたことに、私もノアも気付いてはいなかった。
**
ポクポクと山道を通っていると、前方に小さな男の子が立っているのが見えた。こんな山の中に?と、首を兼重ながら後ろのノアを肘でつついた。
「ノア見て、誰かいるわ。」
「ん? あー、本当だ。でも
・・・関わらない方がいいかもな。」
「え? もう目が合っているのだけど。」
「あぁ・・・、直ぐに逸らして。」
呆れた様な、落胆した様な声でノアが呻いたけれど、その後もずっと、その男の子は目を逸らすことなく真っ直ぐに私を見ていて、私もまた、目を逸らせないでいた。
とうとう真横を通りかかる時、男の子は口を開いた。
「ねぇ、助けてよ。」
「えっ!?」
ノアは構わず馬を歩かせた。すると男の子もついて来る。
「ねぇ、助けてってば。聞こえないの?」
「あ、あの、ええと、ノ、ノア、助けてって言ってる。」
「聞こえてる。でもこのまま行こう。関わると・・・って、あっ・・」
私は無理やり手綱を引いた。
「困ってるわ。さすがにこんな小さな子、放っておけないでしょう?」
「いやアリー、不自然・・・あぁ・・」
ノアが何故こんなに渋るのか、世間知らずな私は何一つ気付けなかったのだ。
ノアは意外と紳士?だ。口から出る言葉は時々生意気で馴れ馴れしく癪に触るのだけど、昨日の悪夢も時もそうだし、移動中、休憩中、というか四六時中、まるで壊れ物を扱う様に丁寧に接してくる。今だって馬のところまで歩くのに少しよろけただけで、たちまち抱き上げられてしまった。
もう王妃じゃない、とか言っておきながら、ノアはまだ私を王妃だと思っているのではないかしら? ・・・ん?
ぽこん、と疑問が浮かんだ。
私はもう王妃じゃない、のよね? だって逃げたから・・・? あら?でも、居なくなったからって直ぐに王妃じゃなくなるものなのかしら。王妃が失踪なんて今まで聞いた事がないから分からないけれど、とりあえず捜索なんかされるのかしら?内密に。しかも手紙も何も残していない私の場合、自発的かどうかも判断出来ない状態でだから、誘拐とか疑われたりして?あらら、そうするとノアの立場ってかなり危険なのでは?
本当に、私を助ける理由って・・・。もう何度目だろうか、思考を廻らせる度にこの疑問にぶつかってしまう。
「・・・・・・・・」
「アリー、どうしたの?」
「きゃっ・・」
気が付くとノアが至近距離から見つめていて思わず声を上げた。同時に身体がびくっと跳ねて私を抱える腕に力が込められた。
「動くと危ないよ。」
「ええ、ええ、ごめんなさい。」
考え過ぎかしら、ノアはそこまで考えずに行動しているのかも。陛下だって私を探すよりも葬式の準備の方をしていそうだし。
「それで、何か考え事?」
「あ、いえ、そういう訳では・・・ あら・・ノアって、結構鍛えているのかしら? 今、びくともしなかったわね。」
「ん? そりゃあ・・自分言うのも何だけど、王妃殿下の護衛を勤めるくらいだからそれなりにだよ。」
馬の横でノアは ふわり と、私を下ろした。
「そう、よね・・・。ねぇ、それって、凄いことなの?」
「はは、今さら? 強さと信頼がないと任されないよ。」
「信頼・・・」
「誰の?」とは聞けなかった。もし聞いてしまったら・・・。
「手を。」
先に馬に飛び乗ったノアが私に手を差し出した。
「あ・・・」
一瞬だけ躊躇した隙に、小猿ちゃんがノアの腕にぴょん、と乗り、ノアの真似をするように私に向けて小さな手を差し出した。
「ぷっ、ふふふっ、可愛すぎるわ。」
思わず吹き出してしまう。
「まいったな、役目を取られそうだ。でもそれじゃ支えられないからこちらをどうぞ。」
改めてノアが私を見て、私は手を重ねた。ぐいっ、と引っ張られると身体が宙を浮く感覚があって、すとん、とノアの腕に収まった。何度体験しても不思議な感覚で、これはノアが持っている魔力の力らしい。だけど1度に数秒しか使えないから、今までは無意味だと思っていたそうだ。
「ありがとう。」
「ん。」
不安や恐怖強く感じている時に出会った異性には恋愛感情を抱きやすいと聞いた事がある。
今、ノアに対して恋愛感情があるわけではないけれど、その作用のせいか信頼したい気持ちがある。完全に信頼しきれないのは、恐いから。それは、つまり、すでに、裏切りを恐れてしまう程には心を許してしまっっているということなのだ。
胸が押し潰されそうに痛い。
「本当に・・記憶喪失が本当の事だったら良かったのに・・・」
「何? 聞こえなかった」
「ううん、何でもないの。」
風が強く吹いた。だからこっそり呟いた。
こんなモヤモヤした気持ちは声に出して追い出さないと、身体の中で燻ってしまうから。
馬がゆっくりと歩み始めて、また長い1日が始まるのを感じた。
「ちゃんと支えてるから眠っててもいいよ。」
「さっき起きたばかりなのに?」
「あ・・うん、そうだよね、ごめん。」
「ふふ。ねぇ、ノアはきっと、良い人なのよね。」
邪念を取り払おうと大きい声で言うと、不思議と心が軽くなった。
「あ? え? い、良い人・・かな?」
「ええ。すごく、すごく良い人なのだわ。」
「う、う~ん・・良い人、か・・・」
「良い人だわ。ノアは良い人、本当に良い人。」
言う度に心がもっと軽くなった。嫌な事が全て消えて無くなるみたいに。
深く、深呼吸をしたら、ふっ、と生まれ変わったみたいに晴れ晴れとした気持ちになった。
ノアは本当に良い人。だって、記憶喪失の私を、見捨てないでくれているのだもの。
肩に乗っていた小さな温かい存在が、いつの間に消えたことに、私もノアも気付いてはいなかった。
**
ポクポクと山道を通っていると、前方に小さな男の子が立っているのが見えた。こんな山の中に?と、首を兼重ながら後ろのノアを肘でつついた。
「ノア見て、誰かいるわ。」
「ん? あー、本当だ。でも
・・・関わらない方がいいかもな。」
「え? もう目が合っているのだけど。」
「あぁ・・・、直ぐに逸らして。」
呆れた様な、落胆した様な声でノアが呻いたけれど、その後もずっと、その男の子は目を逸らすことなく真っ直ぐに私を見ていて、私もまた、目を逸らせないでいた。
とうとう真横を通りかかる時、男の子は口を開いた。
「ねぇ、助けてよ。」
「えっ!?」
ノアは構わず馬を歩かせた。すると男の子もついて来る。
「ねぇ、助けてってば。聞こえないの?」
「あ、あの、ええと、ノ、ノア、助けてって言ってる。」
「聞こえてる。でもこのまま行こう。関わると・・・って、あっ・・」
私は無理やり手綱を引いた。
「困ってるわ。さすがにこんな小さな子、放っておけないでしょう?」
「いやアリー、不自然・・・あぁ・・」
ノアが何故こんなに渋るのか、世間知らずな私は何一つ気付けなかったのだ。
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