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久しぶりのアルロです。
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***アルロ(ディランの側近)
好都合なことに、俺はディラン殿下の側近であったにも関わらず、ここアリドゥラムではほとんど知られていなかった。俺を姫様に会わせたくないディラン殿下が、そうしたのだ。
「はっ、皮肉だな。」
厨房から出たゴミの入った樽を担ぎ上げながら、ぼそりと呟いた。ウィレム陛下の周辺となると見知った顔もいるのだが、こうして下働きに混じっていたら視界に入ることもない。
「あ、トムさん、これも後でお願いね。」
顔馴染みになったおばさんだ。
「はい、分かりました。」
愛想笑いを浮かべながら受け答える。
なんと言うべきか、王宮内は「王妃が不在」にしてはえらく落ち着いて見えた。本当に姫様はここにいないのだろうか?
その時、1人の若い娘が、厨房に入って来るのが見えた。
「あぁ、またあの娘か。最近妙に張り切っちゃてさ。」
「誰ですか?」
「ん、あぁ、トムさんは入ったばかりだから知らないんだね。あれはお嬢様のお付きの、ジュリっていう娘でね、ちょっと変わり者で有名なのよ。」
「お嬢様、とは、例の陛下のお気に入りだとかいう方ですか?」
ディラン殿下が手に入れようと躍起になっていた娘のことだ。
「あら、物知りね。どこで聞いたの?」
「あ、あぁ、どこでしたかね?どこか、廊下だったかな?」
余計な事を言ったかと思ったが、おばさんは気にしていない様子で話を続けた。
「ふぅん、まぁ最近は皆話してるからね。アリア様がいなくなったから、ジュリは期待してるのよ。」
ドクンと心臓が鳴った。姫様はやはり、いないのか。
「・・・期待、といいますと?」
「何でも、お嬢様は王妃様になられるって噂よ。」
「は!?」
つい、感情が表面に出てしまう。どういうことだ?早すぎないか?リュムレアムに相談もなく・・・いや、まてよ、・・手紙の内容を思い浮かべる。確か駆け落ちの件を口外しない代わりに口を出すな、という意味合いの事が書かれていた。・・・あぁ、・・・外交の事だと思い込んでいたが、そういうことか。この件にも、口を出すなと。
「トムさん、どうしたの?恐い顔して。」
「・・っ、いや、あの、アリア様は、いったいどうしていなくなったのか、ご存知ですか?」
そう聞いた途端、おばさんの表情が曇り、キョロキョロと辺りを見渡し、声を潜めて口を開いた。
「それは気になっても口に出すものじゃないわよ。どこで誰が聞いてる分からないから。」
「それはどういう?」
「そのまんまの意味よ。気にしちゃいけないってこと。」
「そう言われると気になってしまいますが。」
「ははっ、まあそうだろうけどね。さ、早く持っていってちょうだい。」
背中を思い切り叩かれ、仕方なく歩き出した。
思いの外、口が固い。上手くいかないな。
ゴミを運びながら、口の軽そうな人物はいないだろうかと見渡してみた。外で作業している者よりは中で働く者がいい。おしゃべり好きなのはやはり女か。しかし、俺が急に話しかけても戸惑われるだけだろうな。もっと自然に・・・
厨房に戻ってくると、さっきのおばさんと、若い女中が話し込んでいた。たまに見る顔だが、話した事はない。
「あら、早かったね。後はこれとこれを運んで、休憩に入っていいよ。」
「はい、分かりました。」
答えながら、女中に目をやると、スッとそらされた。堅そうだが、男なれしていなさそうで丁度いいかもしれない。
**
休憩に入る前に、おばさんに声をかけた。こういうことは初めてだが、背に腹はかえられまい。
「おばさん、ちょっといいですか?」
「はいはい、何かしら?」
直前にぐぐっと全身に力を込め、血を頭にのぼらせておいた。顔が火照って照れた様に見えるだろう。
「あの、すみません、さっきの女性が気になってしまって。」
思い詰めた風に伝えるとおばさんは目を丸くして、直後、大声で笑い出した。まぁ、この状況は、演技じゃなく恥ずかしいな。
「さっきのってアネラの事かい?」
「あぁアネラさんと言うのですね。名前まで美しい。」
「あははっ、いいよ、いいよ。聞いておいてあげるよ。丁度アネラも相手がいなかったからね。」
「ありがとうございます。」
「でもトムさんは、てっきり相手がいるのかと思っていたよ。」
「何故です?こんな仕事で相手なんて望めませんよ。」
ゴミ運びの俺にあまりに意外な事を言い出したから、つい言ってしまったが、言った後でアネラの紹介を頼んだ口でそんなことを言うのは失礼だったと気が付いた。が、おばさんは気にしていない。
「はは。そうなのだけどね、トムさんは逞しいし、立ち振る舞いが他とはちょっと違うでしょ?どこかの裕福なぼっちゃんが、社会勉強の為に来たんじゃないかって噂されているのよ。でも、これだけ周りにきゃあきゃあいわれてるのに、見向きもしなかったから。」
この歳で坊っちゃんだとか、社会勉強だとかはちょっと心外だ。だが、
「そういう話はよくあるのですか?その、裕福な坊っちゃんがっていうのは」
「いやだ、妄想よ。ここは女性が多いから、自然とそういう話になっちゃうのよ。でもトムさんだったら裕福じゃなくっても大丈夫よ。」
・・・そういう風に見られているのなら、それを利用した方が早く情報を得られるかもしれない。姫様には軽蔑されるかもしれないが、俺は今、情報が得られていないことを、とても焦っていた。
好都合なことに、俺はディラン殿下の側近であったにも関わらず、ここアリドゥラムではほとんど知られていなかった。俺を姫様に会わせたくないディラン殿下が、そうしたのだ。
「はっ、皮肉だな。」
厨房から出たゴミの入った樽を担ぎ上げながら、ぼそりと呟いた。ウィレム陛下の周辺となると見知った顔もいるのだが、こうして下働きに混じっていたら視界に入ることもない。
「あ、トムさん、これも後でお願いね。」
顔馴染みになったおばさんだ。
「はい、分かりました。」
愛想笑いを浮かべながら受け答える。
なんと言うべきか、王宮内は「王妃が不在」にしてはえらく落ち着いて見えた。本当に姫様はここにいないのだろうか?
その時、1人の若い娘が、厨房に入って来るのが見えた。
「あぁ、またあの娘か。最近妙に張り切っちゃてさ。」
「誰ですか?」
「ん、あぁ、トムさんは入ったばかりだから知らないんだね。あれはお嬢様のお付きの、ジュリっていう娘でね、ちょっと変わり者で有名なのよ。」
「お嬢様、とは、例の陛下のお気に入りだとかいう方ですか?」
ディラン殿下が手に入れようと躍起になっていた娘のことだ。
「あら、物知りね。どこで聞いたの?」
「あ、あぁ、どこでしたかね?どこか、廊下だったかな?」
余計な事を言ったかと思ったが、おばさんは気にしていない様子で話を続けた。
「ふぅん、まぁ最近は皆話してるからね。アリア様がいなくなったから、ジュリは期待してるのよ。」
ドクンと心臓が鳴った。姫様はやはり、いないのか。
「・・・期待、といいますと?」
「何でも、お嬢様は王妃様になられるって噂よ。」
「は!?」
つい、感情が表面に出てしまう。どういうことだ?早すぎないか?リュムレアムに相談もなく・・・いや、まてよ、・・手紙の内容を思い浮かべる。確か駆け落ちの件を口外しない代わりに口を出すな、という意味合いの事が書かれていた。・・・あぁ、・・・外交の事だと思い込んでいたが、そういうことか。この件にも、口を出すなと。
「トムさん、どうしたの?恐い顔して。」
「・・っ、いや、あの、アリア様は、いったいどうしていなくなったのか、ご存知ですか?」
そう聞いた途端、おばさんの表情が曇り、キョロキョロと辺りを見渡し、声を潜めて口を開いた。
「それは気になっても口に出すものじゃないわよ。どこで誰が聞いてる分からないから。」
「それはどういう?」
「そのまんまの意味よ。気にしちゃいけないってこと。」
「そう言われると気になってしまいますが。」
「ははっ、まあそうだろうけどね。さ、早く持っていってちょうだい。」
背中を思い切り叩かれ、仕方なく歩き出した。
思いの外、口が固い。上手くいかないな。
ゴミを運びながら、口の軽そうな人物はいないだろうかと見渡してみた。外で作業している者よりは中で働く者がいい。おしゃべり好きなのはやはり女か。しかし、俺が急に話しかけても戸惑われるだけだろうな。もっと自然に・・・
厨房に戻ってくると、さっきのおばさんと、若い女中が話し込んでいた。たまに見る顔だが、話した事はない。
「あら、早かったね。後はこれとこれを運んで、休憩に入っていいよ。」
「はい、分かりました。」
答えながら、女中に目をやると、スッとそらされた。堅そうだが、男なれしていなさそうで丁度いいかもしれない。
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休憩に入る前に、おばさんに声をかけた。こういうことは初めてだが、背に腹はかえられまい。
「おばさん、ちょっといいですか?」
「はいはい、何かしら?」
直前にぐぐっと全身に力を込め、血を頭にのぼらせておいた。顔が火照って照れた様に見えるだろう。
「あの、すみません、さっきの女性が気になってしまって。」
思い詰めた風に伝えるとおばさんは目を丸くして、直後、大声で笑い出した。まぁ、この状況は、演技じゃなく恥ずかしいな。
「さっきのってアネラの事かい?」
「あぁアネラさんと言うのですね。名前まで美しい。」
「あははっ、いいよ、いいよ。聞いておいてあげるよ。丁度アネラも相手がいなかったからね。」
「ありがとうございます。」
「でもトムさんは、てっきり相手がいるのかと思っていたよ。」
「何故です?こんな仕事で相手なんて望めませんよ。」
ゴミ運びの俺にあまりに意外な事を言い出したから、つい言ってしまったが、言った後でアネラの紹介を頼んだ口でそんなことを言うのは失礼だったと気が付いた。が、おばさんは気にしていない。
「はは。そうなのだけどね、トムさんは逞しいし、立ち振る舞いが他とはちょっと違うでしょ?どこかの裕福なぼっちゃんが、社会勉強の為に来たんじゃないかって噂されているのよ。でも、これだけ周りにきゃあきゃあいわれてるのに、見向きもしなかったから。」
この歳で坊っちゃんだとか、社会勉強だとかはちょっと心外だ。だが、
「そういう話はよくあるのですか?その、裕福な坊っちゃんがっていうのは」
「いやだ、妄想よ。ここは女性が多いから、自然とそういう話になっちゃうのよ。でもトムさんだったら裕福じゃなくっても大丈夫よ。」
・・・そういう風に見られているのなら、それを利用した方が早く情報を得られるかもしれない。姫様には軽蔑されるかもしれないが、俺は今、情報が得られていないことを、とても焦っていた。
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