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アルロの情報収集
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**アルロ
「ん・・、ふっ・・」
俺は倉庫の影で、アネラの唇を貪っていた。必死で。だが、もうキツイ。
「アネラ・・、アネラ・・」
唇から離れ、首筋を下から上へと舌で這い、耳元で名前を呟いてみた。少しぎこちないか?心配をよそに、アネラは自ら身体を絡み付かせてきた。もう少し堅い女だと思っていたが、そうでもなかったか。
「や・・・、トム、もっと・・・」
もっとだと?
もう十分だと思って離れようとしたのに、アネラは首に腕を回してきた。仕方なく再び唇を重ねたが、そろそろ気持ち悪い。
いっそ姫様を想像したらいいのだろうかと、目を瞑り、記憶を頼りに成長した姫様を思い描いてみる。
「・・・っく」
絡み付く舌を、慌てて引き離した。これはこれでまずい。理性が飛んで、おかしくなってしまいそうだ。
「トム?どうしたの?」
「アネラ、もう時間じゃないのか?」
「もう少しなら、大丈夫よ。」
「はは、俺が、少しじゃ我慢出来ないから。止めておこう。」
名残惜しそうに見詰められるが、これ以上は本当に無理なんだ。
「ふふ、トムったら。今度はゆっくり時間のある時に会いましょうね。」
「ああ。今日はあと少し、話でもしようか。」
手を、指を絡めて掬い上げ、甲に口付けを落とすと、アネラの上気した息が漏れた。
よし。話を聞き出す絶好のチャンスだ。
それなのに・・・。
「・・・アネラは、最近入ったばかりなのか?」
「ええ。トムさんよりほんの少し前に入ったの。新人仲間でトムさんの事はよく話題になっていたから、こんな風になるなんて、今でも信じられないくらいよ。」
並んで壁に寄り掛かって座っていると、アネラは俺の肩に頭をのせてきた。おばさんが言っていたあの話題か。それはいいとして、こんな風になるなんて、俺こそ信じられない。がっかりだ。完全な人選ミスだった。
「・・・そうか。新人だったか。・・・ん?新人仲間と言ったか?そんなに新人が多いのか?」
はた、と思った。まとめて募集するには中途半端な時期だ。
「ええ。時期外れだけど、急な募集があってね、運良く入れたって訳。入って早々にあなたと会えたから本当に幸運だわ。あっ、私は健康だから何も心配いらないからね。」
健康・・・思った以上に展開が早い。口付けだけでこうなるとは。
急な募集は気になるが、アネラはここまでだな。左手で顔を覆い、悲痛な声を出した。
「アネラ、あぁ・・アネラ。そんな事を言われたら、僕は後ろめたくて君の目が見れないよ。」
「トム?どうしたの?後ろめたいって・・・」
「ごめんよ、アネラ。僕は君に隠していたことがあるんだ。君に受け入れてもらえないんじゃないかと思うと、恐くて。」
「トム・・・、私はきっと気にしないわ。だから言ってみて。」
おれの頬に触れようと伸ばしてきたアネラ手を、ゆっくり払った。
「・・・、僕は、皆が噂しているような金持ちなんかじゃないんだ。寧ろ逆で、とても貧しい。」
「貧しいくらい、何て事ないわよ。こうして2人で働けばいいのだもの。」
「働いたって、無駄なんだ。僕は自分が孤児だったらいいと、何度も思った事がある。家には病気の両親とまだ幼い兄弟達が6人いて、皆が僕を頼りに暮らしているんだ。黙っていたのは、少しでも夢を見ていたかったから。ごめんよ、アネラ。」
アネラの顔は青ざめている。さぁ、どう出るか。わざと手を強く握って距離を詰めた。
「・・・それとも、アネラは僕を見捨てないでいてくれる?」
「・・・あ・・、えっと、わ、私は新人だから、給料も安いし、あまり力になってあげれそうにないわ。あなたのことは、その、好きだけど、あなたの為にはならないかもしれない。」
「アネラ・・」
「ええっと、時間だから、もう行くわね。ごめんねトム。」
いや、いいんだ。走って行くアネラを見送りほっ、と息を吐いた。変な噂が広まる前に、次を探そう。
**
「振られてしまいました。」
情けない様な笑顔を浮かべ、頭を掻きながらおばさんに報告した。とりあえず今は、このおばさん以外につてがない。
「嘘でしょう?アネラ、あんなに喜んでいたのに。」
「はは、難しいですね、残念です。早く身を固めて両親を・・安心させたかったのですが。」
両親を、というところを少し強めに言い、間を空けた。おばさんも子供がいるだろうから、少し、しんみりしてもらおう。
「・・・トムさんはどんな女性が好みなの?やっぱり若い娘かしら?」
「好み、ですか?・・・あ、ええと・・歳は気にしませんが、しっかりした女性がいいですね。僕はしっかりしていませんから。」
伝わるだろうか?勤めの長い、知性のある女性。
「うーん、それだと何人か候補がいるわね。どうする?1人ずつ紹介しましょうか?」
「協力してくださるのですか?」
「結婚したいっていう、いい男がいるんだもの、放ってはおけないわ。それにこういう話は好きなのよ。」
おばさんが、お節介と顔に書いた様な人で良かった。
「ありがとうございます。ですが、いきなり紹介だとお互い意識してしまうので、どの方か教えてもらうだけでいいでしょうか?アネラさんとは結婚を意識し過ぎて上手くいかなかった気がします。」
「そうだったのね、分かったわ。」
申し訳無さそうにするおばさんに申し訳なく思ったが、アネラのようなのは困る。
と、その時おばさんが前方を見て指差した。
「あっ、あの娘なんてどうかしら?サーヤっていうの。少し年は、いっているけど、優しい娘よ。」
指の先には、厨房の隅にある大きなバケツを持って行こうとしている女中がいた。背の高い、細身の女性だ。
「あのバケツは何ですか?」
「布巾とか、前掛けよ。サーヤは洗濯担当の女中なの。」
洗濯担当なら、王宮内のあちこちを行き来しているだろうか。
「僕、ちょっと手伝ってきます。」
「はは、行ってらっしゃい。上手く行くといいねぇ。」
今度こそ情報が欲しい。
姫様の失踪と早すぎる新しい王妃の擁立。まるで失踪を待っていたかのように、あるいは、新しい王妃の為に存在を消されたかの様にも思われる。
それから、王宮のこの落ちついた雰囲気。おばさんが口を閉ざす程の何かがあるのに、ざわついていないのは・・・、時期外れの求人が頭をちらつく。知らないから静かなのではないだろうか。
隠れている「何か」が、姫様の身に危険を及ぼすものでなけれいいのだが。
ふと視界に入った汚れた布巾を掴みとり、祈りながらサーヤに近付いた。
「ん・・、ふっ・・」
俺は倉庫の影で、アネラの唇を貪っていた。必死で。だが、もうキツイ。
「アネラ・・、アネラ・・」
唇から離れ、首筋を下から上へと舌で這い、耳元で名前を呟いてみた。少しぎこちないか?心配をよそに、アネラは自ら身体を絡み付かせてきた。もう少し堅い女だと思っていたが、そうでもなかったか。
「や・・・、トム、もっと・・・」
もっとだと?
もう十分だと思って離れようとしたのに、アネラは首に腕を回してきた。仕方なく再び唇を重ねたが、そろそろ気持ち悪い。
いっそ姫様を想像したらいいのだろうかと、目を瞑り、記憶を頼りに成長した姫様を思い描いてみる。
「・・・っく」
絡み付く舌を、慌てて引き離した。これはこれでまずい。理性が飛んで、おかしくなってしまいそうだ。
「トム?どうしたの?」
「アネラ、もう時間じゃないのか?」
「もう少しなら、大丈夫よ。」
「はは、俺が、少しじゃ我慢出来ないから。止めておこう。」
名残惜しそうに見詰められるが、これ以上は本当に無理なんだ。
「ふふ、トムったら。今度はゆっくり時間のある時に会いましょうね。」
「ああ。今日はあと少し、話でもしようか。」
手を、指を絡めて掬い上げ、甲に口付けを落とすと、アネラの上気した息が漏れた。
よし。話を聞き出す絶好のチャンスだ。
それなのに・・・。
「・・・アネラは、最近入ったばかりなのか?」
「ええ。トムさんよりほんの少し前に入ったの。新人仲間でトムさんの事はよく話題になっていたから、こんな風になるなんて、今でも信じられないくらいよ。」
並んで壁に寄り掛かって座っていると、アネラは俺の肩に頭をのせてきた。おばさんが言っていたあの話題か。それはいいとして、こんな風になるなんて、俺こそ信じられない。がっかりだ。完全な人選ミスだった。
「・・・そうか。新人だったか。・・・ん?新人仲間と言ったか?そんなに新人が多いのか?」
はた、と思った。まとめて募集するには中途半端な時期だ。
「ええ。時期外れだけど、急な募集があってね、運良く入れたって訳。入って早々にあなたと会えたから本当に幸運だわ。あっ、私は健康だから何も心配いらないからね。」
健康・・・思った以上に展開が早い。口付けだけでこうなるとは。
急な募集は気になるが、アネラはここまでだな。左手で顔を覆い、悲痛な声を出した。
「アネラ、あぁ・・アネラ。そんな事を言われたら、僕は後ろめたくて君の目が見れないよ。」
「トム?どうしたの?後ろめたいって・・・」
「ごめんよ、アネラ。僕は君に隠していたことがあるんだ。君に受け入れてもらえないんじゃないかと思うと、恐くて。」
「トム・・・、私はきっと気にしないわ。だから言ってみて。」
おれの頬に触れようと伸ばしてきたアネラ手を、ゆっくり払った。
「・・・、僕は、皆が噂しているような金持ちなんかじゃないんだ。寧ろ逆で、とても貧しい。」
「貧しいくらい、何て事ないわよ。こうして2人で働けばいいのだもの。」
「働いたって、無駄なんだ。僕は自分が孤児だったらいいと、何度も思った事がある。家には病気の両親とまだ幼い兄弟達が6人いて、皆が僕を頼りに暮らしているんだ。黙っていたのは、少しでも夢を見ていたかったから。ごめんよ、アネラ。」
アネラの顔は青ざめている。さぁ、どう出るか。わざと手を強く握って距離を詰めた。
「・・・それとも、アネラは僕を見捨てないでいてくれる?」
「・・・あ・・、えっと、わ、私は新人だから、給料も安いし、あまり力になってあげれそうにないわ。あなたのことは、その、好きだけど、あなたの為にはならないかもしれない。」
「アネラ・・」
「ええっと、時間だから、もう行くわね。ごめんねトム。」
いや、いいんだ。走って行くアネラを見送りほっ、と息を吐いた。変な噂が広まる前に、次を探そう。
**
「振られてしまいました。」
情けない様な笑顔を浮かべ、頭を掻きながらおばさんに報告した。とりあえず今は、このおばさん以外につてがない。
「嘘でしょう?アネラ、あんなに喜んでいたのに。」
「はは、難しいですね、残念です。早く身を固めて両親を・・安心させたかったのですが。」
両親を、というところを少し強めに言い、間を空けた。おばさんも子供がいるだろうから、少し、しんみりしてもらおう。
「・・・トムさんはどんな女性が好みなの?やっぱり若い娘かしら?」
「好み、ですか?・・・あ、ええと・・歳は気にしませんが、しっかりした女性がいいですね。僕はしっかりしていませんから。」
伝わるだろうか?勤めの長い、知性のある女性。
「うーん、それだと何人か候補がいるわね。どうする?1人ずつ紹介しましょうか?」
「協力してくださるのですか?」
「結婚したいっていう、いい男がいるんだもの、放ってはおけないわ。それにこういう話は好きなのよ。」
おばさんが、お節介と顔に書いた様な人で良かった。
「ありがとうございます。ですが、いきなり紹介だとお互い意識してしまうので、どの方か教えてもらうだけでいいでしょうか?アネラさんとは結婚を意識し過ぎて上手くいかなかった気がします。」
「そうだったのね、分かったわ。」
申し訳無さそうにするおばさんに申し訳なく思ったが、アネラのようなのは困る。
と、その時おばさんが前方を見て指差した。
「あっ、あの娘なんてどうかしら?サーヤっていうの。少し年は、いっているけど、優しい娘よ。」
指の先には、厨房の隅にある大きなバケツを持って行こうとしている女中がいた。背の高い、細身の女性だ。
「あのバケツは何ですか?」
「布巾とか、前掛けよ。サーヤは洗濯担当の女中なの。」
洗濯担当なら、王宮内のあちこちを行き来しているだろうか。
「僕、ちょっと手伝ってきます。」
「はは、行ってらっしゃい。上手く行くといいねぇ。」
今度こそ情報が欲しい。
姫様の失踪と早すぎる新しい王妃の擁立。まるで失踪を待っていたかのように、あるいは、新しい王妃の為に存在を消されたかの様にも思われる。
それから、王宮のこの落ちついた雰囲気。おばさんが口を閉ざす程の何かがあるのに、ざわついていないのは・・・、時期外れの求人が頭をちらつく。知らないから静かなのではないだろうか。
隠れている「何か」が、姫様の身に危険を及ぼすものでなけれいいのだが。
ふと視界に入った汚れた布巾を掴みとり、祈りながらサーヤに近付いた。
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