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アリーの特技
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**アリー
「アリーさん、アリーさんって、何か得意な事とか、ないんですか?」
思い詰めた様に豚の身体を藁でこすっていたミラが、突然聞いてきた。
「え?急にどうして?」
「アリーさんって、身体を使う仕事に慣れていませんよね。もっと他に、向いてる仕事がないかなぁ、と思って。」
「慣れていないかしら?私はこういう仕事も楽しいけれど。」
そう言うと、ミラは苦笑いを浮かべた。
「う~ん、体験程度なら十分ですけどね。あっ、料理なんかは出来ますか?」
「さあ、どうかしら?」
体験程度という言葉に少しムッとしたので、素っ気なく答えた。だけれど、ミラは前のめりになって、更に質問を重ねてくる。
「包丁持ったことあります?持ち方、分かります?」
なんなの?急にそんなことを聞かれても・・・
「お裁縫はどうですか?針。持ったことあります?」
「え、今度は針・・・?」
包丁を持つ自分と、針を持つ自分を想像してみた。包丁は、どう持つのかしら?針は・・・、あ、知ってる気がする。指で針を持つ格好をしてみていると、ミラが目を輝かせた。
「針、持ったことあるんですね!?刺繍は!?」
刺繍と聞いて、どんな物か、どのように仕上げていくのかすぐに想像出来るのは、きっと知っているからだと思う、きっと。
ゆるゆると頷いた。
「なんとなくだけど、出来るような気がするわ。でも、刺繍ってお仕事なの?」
「勿論ですよっっ!」
私は、刺繍がお仕事だとは思っていなかった。・・・みたいだ。ミラに教えてもらって初めて、私が使っているお布団も刺繍が細かいから値段も高いのだと知った。勿論、中の羽毛や生地も高級らしいけど。
そんなに高級な品を私が使っていいのかしらと聞くと、ミラはまた苦笑いを浮かべていた。変な事を聞いたのかしら?
でも、とにかく・・
「じゃあ、私、お布団屋さんになれるってことかしら?」
つまりそういう事かしら?感心して言ったのに、ミラは吹き出した。
「いきなりお布団屋さんですか?とりあえず、アリーさんの腕を見せてくださいよ。私、道具持ってきます!」
「え?、今?」
「はい。早い方がいいんです。母にも、こんなことが出来るって教えてあげないと。」
「・・・?」
ミラは妙に張り切ってそそくさと出て行って、私は1人でポツンと残された。足元では順番待ちの豚がブヒブヒとスカートの端を引っ張っている。ちらりと見下ろすと、黒いビーズみたいな目が、私を見詰めた。
「・・・して欲しいの?」
ブヒ。
「・・・仕方ないわね。」
そっと撫でてみると、気持ちよさそうに目を細めた。
「ふふ、かわいい。」
豚って、近くで見ると可愛いのね。
**マーサ
療養施設、ねぇ・・・
そんな話とんでもない、と思ったけど、じっくり考えてみるとどうしても心が揺らいでしまう。アリーさんのことは嫌いじゃない。寧ろ、あの強気な性格は、わりと好感が持てた。
だけど・··、ねぇ。
ノアは訳ありな娘なのだと私に教えてくれた。詳しく教えてくれないのはそれだけ危険なことなのだと、言われなくても分かる。そして信じがたい事に、ノアは、あの娘と一緒にここを出て行こうとしている。
「あの娘さえ、いなくなっちまえば・・なんて、ねぇ。」
・・・思わなくもない。だって、そりゃそうさ。あの娘には悪いけど、自分の子供と他人とでは、重さが違うもの。
ノアが忙しくしている今なら、こっそり施設へやって、いなくなったと言えば・・・・。さっきからずっとそんな事を考えてしまっていた。
駄目・・かねぇ、いけないかねぇ・・。ああ、でも、駄目だろうねぇ。
それこそ本当に、どうしようもない理由でもなければ、難しい。
***
そんな私の心配とはよそに、ミラは、アリーさんとの距離を縮めていっていた。ノアとの接触を減らす為にわざわざミラに世話を任せたのに、仕事でこうも帰って来ないのなら放っておけばよかったと、後悔している。それに普段はだらしのないミラが、変に責任感を発揮してしまっているから・・・、はぁ。
「ねぇミラ、あんたさっきからチョロチョロと、何してるんだい?」
帰って来たかと思えば2階に上がったり、下がったり。手には籠をぶら下げている。
「ひぇっ、・・はは、お母さん。ちょっと、後でね。へへ。」
「変な子だねぇ。その籠には何が入ってるんだい?」
言うが早いか、さっと後ろ手に隠し横歩きになった。
「後でっ、後で、ね。良いことだから。上手くいったらお母さんきっと喜ぶから。」
言い残して、再び外へ出ていくミラを不安に思いながら見送った。ミラが言う事で、本当に良いことだった試しなんてない。
もぐらを掴まえると言って、畑中を水浸しにしたり、虫が来ないようにすると言って、野菜の葉を丸裸してしまったり・・・数えたらキリがないくらいで。
余計な真似をしなければいいのだけど。
「アリーさん、アリーさんって、何か得意な事とか、ないんですか?」
思い詰めた様に豚の身体を藁でこすっていたミラが、突然聞いてきた。
「え?急にどうして?」
「アリーさんって、身体を使う仕事に慣れていませんよね。もっと他に、向いてる仕事がないかなぁ、と思って。」
「慣れていないかしら?私はこういう仕事も楽しいけれど。」
そう言うと、ミラは苦笑いを浮かべた。
「う~ん、体験程度なら十分ですけどね。あっ、料理なんかは出来ますか?」
「さあ、どうかしら?」
体験程度という言葉に少しムッとしたので、素っ気なく答えた。だけれど、ミラは前のめりになって、更に質問を重ねてくる。
「包丁持ったことあります?持ち方、分かります?」
なんなの?急にそんなことを聞かれても・・・
「お裁縫はどうですか?針。持ったことあります?」
「え、今度は針・・・?」
包丁を持つ自分と、針を持つ自分を想像してみた。包丁は、どう持つのかしら?針は・・・、あ、知ってる気がする。指で針を持つ格好をしてみていると、ミラが目を輝かせた。
「針、持ったことあるんですね!?刺繍は!?」
刺繍と聞いて、どんな物か、どのように仕上げていくのかすぐに想像出来るのは、きっと知っているからだと思う、きっと。
ゆるゆると頷いた。
「なんとなくだけど、出来るような気がするわ。でも、刺繍ってお仕事なの?」
「勿論ですよっっ!」
私は、刺繍がお仕事だとは思っていなかった。・・・みたいだ。ミラに教えてもらって初めて、私が使っているお布団も刺繍が細かいから値段も高いのだと知った。勿論、中の羽毛や生地も高級らしいけど。
そんなに高級な品を私が使っていいのかしらと聞くと、ミラはまた苦笑いを浮かべていた。変な事を聞いたのかしら?
でも、とにかく・・
「じゃあ、私、お布団屋さんになれるってことかしら?」
つまりそういう事かしら?感心して言ったのに、ミラは吹き出した。
「いきなりお布団屋さんですか?とりあえず、アリーさんの腕を見せてくださいよ。私、道具持ってきます!」
「え?、今?」
「はい。早い方がいいんです。母にも、こんなことが出来るって教えてあげないと。」
「・・・?」
ミラは妙に張り切ってそそくさと出て行って、私は1人でポツンと残された。足元では順番待ちの豚がブヒブヒとスカートの端を引っ張っている。ちらりと見下ろすと、黒いビーズみたいな目が、私を見詰めた。
「・・・して欲しいの?」
ブヒ。
「・・・仕方ないわね。」
そっと撫でてみると、気持ちよさそうに目を細めた。
「ふふ、かわいい。」
豚って、近くで見ると可愛いのね。
**マーサ
療養施設、ねぇ・・・
そんな話とんでもない、と思ったけど、じっくり考えてみるとどうしても心が揺らいでしまう。アリーさんのことは嫌いじゃない。寧ろ、あの強気な性格は、わりと好感が持てた。
だけど・··、ねぇ。
ノアは訳ありな娘なのだと私に教えてくれた。詳しく教えてくれないのはそれだけ危険なことなのだと、言われなくても分かる。そして信じがたい事に、ノアは、あの娘と一緒にここを出て行こうとしている。
「あの娘さえ、いなくなっちまえば・・なんて、ねぇ。」
・・・思わなくもない。だって、そりゃそうさ。あの娘には悪いけど、自分の子供と他人とでは、重さが違うもの。
ノアが忙しくしている今なら、こっそり施設へやって、いなくなったと言えば・・・・。さっきからずっとそんな事を考えてしまっていた。
駄目・・かねぇ、いけないかねぇ・・。ああ、でも、駄目だろうねぇ。
それこそ本当に、どうしようもない理由でもなければ、難しい。
***
そんな私の心配とはよそに、ミラは、アリーさんとの距離を縮めていっていた。ノアとの接触を減らす為にわざわざミラに世話を任せたのに、仕事でこうも帰って来ないのなら放っておけばよかったと、後悔している。それに普段はだらしのないミラが、変に責任感を発揮してしまっているから・・・、はぁ。
「ねぇミラ、あんたさっきからチョロチョロと、何してるんだい?」
帰って来たかと思えば2階に上がったり、下がったり。手には籠をぶら下げている。
「ひぇっ、・・はは、お母さん。ちょっと、後でね。へへ。」
「変な子だねぇ。その籠には何が入ってるんだい?」
言うが早いか、さっと後ろ手に隠し横歩きになった。
「後でっ、後で、ね。良いことだから。上手くいったらお母さんきっと喜ぶから。」
言い残して、再び外へ出ていくミラを不安に思いながら見送った。ミラが言う事で、本当に良いことだった試しなんてない。
もぐらを掴まえると言って、畑中を水浸しにしたり、虫が来ないようにすると言って、野菜の葉を丸裸してしまったり・・・数えたらキリがないくらいで。
余計な真似をしなければいいのだけど。
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