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ジョンとクレア
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**ジョン
畑で作業をしていたら、珍しくクレアが、俺に近付いてきた。
「ジョン、私、手伝おうか?」
心臓が跳び跳ねた。クレアが、俺を?
「い、いいのか?」
「ええ。どうせ家に帰ってもやることないし。」
「そうか、じゃあ、頼む。ありがとう。」
こんな事は子供の頃以来だ。だけど今は、あの時のように、近くに兄さんがいるわけでもない。緊張しながら収穫用の籠を渡すと、そのまま、すぐ俺の近くにしゃがんだ。
「め、珍しいな。クレアが、その、お、俺に話し掛けてくれるなんて。」
「そう?嫌だった?」
「違うっ、あっ、そうじゃなくて・・」
こんなに緊張しているのは俺だけなのか?ドキドキしながらクレアを横目でみたが、顔色を変えることなく作業をしていた。
「ねぇジョン、アリーさんって、どう思う?」
「え?アリーさん?どうって?」
唐突に聞かれ、何を答えればいいのか分からない。
「男の人から見て、どうなのかなぁ?って思って。」
「お、男の人・・って、俺のこと?」
当然の事なのに、クレアに言われると照れてしまう。クレアも俺を男として見てるってことか?
「ジョンも男の人でしょう、違うの?」
「いやっ、いや、勿論男だよ。」
答えるとクレアは俺を見た。いつになく真面目なような、思い詰めたような、
「アリーさん、どう思う?」
「えっ、あっと、しっかりした、女性だよね。」
「他には?可愛いと思う?」
「ん、んーと、可愛い・・かな、いや、可愛いというよりは綺麗?かな、?でも小柄だから・・・」
上手く説明出来ずに、言葉を探していたのだが、そのうち、クレアが不機嫌な顔をしていることに気が付いた。
「あっ、あっと、もも勿論、クレアの方が綺麗だし可愛いと思うけどね。」
「当然でしょ、私の方が若いんだから。」
「そうだよね。当然だ。はは。」
他の女性を褒めたから怒ったのかな。
俺の発言がクレアに影響を及ぼしていることが、思いの他、嬉しく感じてしまう。つい口の端が上がった。
「でも、可哀想。」
「え?アリーさんが?」
「ええ。だって、何も覚えていないなんて、私だったら恐いわ。」
「まぁ、・・確かにそうかもしれないな。」
情けなく笑った兄さんの顔が、浮かんだ。兄さんは、何か知っているのかもしれない。
「ねぇ。手伝ってあげるのはどうかしら?私達、2人で。」
「う、あっと、い、いいのかな?」
2人で、と言われ、思わず声が裏返ってしまった。
「きっとアリーさんを探している家族だっているはずよ。」
「そ、そうだよな。」
悲しそうに言うクレアを見て、それもそうだと思った。だけど、いいのか・・・?
「私、おばさんに相談してみる。」
不安はよぎったが、クレアの一生懸命な気持ちが伝わってきて、俺も頷いた。
「うん、そうだな。相談して、いいって言われたら、俺も手伝うよ。」
「ジョン、ありがとう。」
クレアが俺に向けてくれた笑顔が、とても可愛かった。
***
「お母さんっっ、見て見てっっ!!」
クレアを連れて家に戻ると、なにやらミラが大騒ぎをしている。
「これもっ、これも、これもっ!見て、すごいでしょ!?全部アリーさんがしたのよ。」
「ミラ、何事?」
ミラは、声をかけると勢いよく振り返った。
「あっ、ジョン兄さん、クレアさんもっ、見てこれ、綺麗でしょ?」
ミラが見せびらかしているのは、刺繍だった。
「んん・・・?見にくいな。」
「糸がなかったんだもんっっ。でもよく見て。これ、絶対売り物になるって。」
ミラの横に立つアリーさんは、少しそわそわしている。
顔を近付けると、布の切れっぱしに、細かな模様や、鳥や植物が描かれているのが分かった。
「へぇ、器用なもんだな。クレアも、見る?」
「・・・ええ。」
どうした?急に元気がない。
「マーサ、どうかしら?」
アリーさんが母さんに聞いた。母さんは切れっぱしのうちの1枚を、じっと見詰めている。
「ああ、この腕前なら十分だよ。ジョン、明日糸と布を買ってきておやり。アリーさん、とりあえず小さな物から作ってごらんよ。出来たら町に持って行ってみようじゃないか。」
「やった!アリーさん、やったわ!」
母さんの言葉にミラが跳び跳ね、無理やりにアリーさんの手を持って、振り回した。一緒にいたチビ達も、意味も分からず真似して大騒ぎだ。思わずつられて笑っていると、その騒がしいミラとは離れた場所に、クレアが母さんを引っ張って行くのが見え、耳を傾けた。
「おばさん、これは、どういうことですか?」
「ああ、アリーさんがね、実は刺繍が得意だったんだってさ、それで、刺繍で稼げないかって話だよ。」
「っそれじゃあまるで、ここで暮らしていくみたいじゃないですか!」
「クレア、クレア、落ち着きなさい。大丈夫だから、アリーさんは自分で生活していく力をつけたいんだとさ。」
「でもっ・・」
「クレア、アリーさんが自立出来たら、その方がいいじゃないか。」
「あ・・・・、そっか、そう、ですよね。・・・すみません。」
・・・何を話しているんだろう。ミラ達が騒がしすぎて、上手く聞こえない。
・・・あ、1つ思い当たった。クレアはさっそく母さんに、アリーさんの家族を見付ける手伝いをする提案をしているのかもしれない。
畑で作業をしていたら、珍しくクレアが、俺に近付いてきた。
「ジョン、私、手伝おうか?」
心臓が跳び跳ねた。クレアが、俺を?
「い、いいのか?」
「ええ。どうせ家に帰ってもやることないし。」
「そうか、じゃあ、頼む。ありがとう。」
こんな事は子供の頃以来だ。だけど今は、あの時のように、近くに兄さんがいるわけでもない。緊張しながら収穫用の籠を渡すと、そのまま、すぐ俺の近くにしゃがんだ。
「め、珍しいな。クレアが、その、お、俺に話し掛けてくれるなんて。」
「そう?嫌だった?」
「違うっ、あっ、そうじゃなくて・・」
こんなに緊張しているのは俺だけなのか?ドキドキしながらクレアを横目でみたが、顔色を変えることなく作業をしていた。
「ねぇジョン、アリーさんって、どう思う?」
「え?アリーさん?どうって?」
唐突に聞かれ、何を答えればいいのか分からない。
「男の人から見て、どうなのかなぁ?って思って。」
「お、男の人・・って、俺のこと?」
当然の事なのに、クレアに言われると照れてしまう。クレアも俺を男として見てるってことか?
「ジョンも男の人でしょう、違うの?」
「いやっ、いや、勿論男だよ。」
答えるとクレアは俺を見た。いつになく真面目なような、思い詰めたような、
「アリーさん、どう思う?」
「えっ、あっと、しっかりした、女性だよね。」
「他には?可愛いと思う?」
「ん、んーと、可愛い・・かな、いや、可愛いというよりは綺麗?かな、?でも小柄だから・・・」
上手く説明出来ずに、言葉を探していたのだが、そのうち、クレアが不機嫌な顔をしていることに気が付いた。
「あっ、あっと、もも勿論、クレアの方が綺麗だし可愛いと思うけどね。」
「当然でしょ、私の方が若いんだから。」
「そうだよね。当然だ。はは。」
他の女性を褒めたから怒ったのかな。
俺の発言がクレアに影響を及ぼしていることが、思いの他、嬉しく感じてしまう。つい口の端が上がった。
「でも、可哀想。」
「え?アリーさんが?」
「ええ。だって、何も覚えていないなんて、私だったら恐いわ。」
「まぁ、・・確かにそうかもしれないな。」
情けなく笑った兄さんの顔が、浮かんだ。兄さんは、何か知っているのかもしれない。
「ねぇ。手伝ってあげるのはどうかしら?私達、2人で。」
「う、あっと、い、いいのかな?」
2人で、と言われ、思わず声が裏返ってしまった。
「きっとアリーさんを探している家族だっているはずよ。」
「そ、そうだよな。」
悲しそうに言うクレアを見て、それもそうだと思った。だけど、いいのか・・・?
「私、おばさんに相談してみる。」
不安はよぎったが、クレアの一生懸命な気持ちが伝わってきて、俺も頷いた。
「うん、そうだな。相談して、いいって言われたら、俺も手伝うよ。」
「ジョン、ありがとう。」
クレアが俺に向けてくれた笑顔が、とても可愛かった。
***
「お母さんっっ、見て見てっっ!!」
クレアを連れて家に戻ると、なにやらミラが大騒ぎをしている。
「これもっ、これも、これもっ!見て、すごいでしょ!?全部アリーさんがしたのよ。」
「ミラ、何事?」
ミラは、声をかけると勢いよく振り返った。
「あっ、ジョン兄さん、クレアさんもっ、見てこれ、綺麗でしょ?」
ミラが見せびらかしているのは、刺繍だった。
「んん・・・?見にくいな。」
「糸がなかったんだもんっっ。でもよく見て。これ、絶対売り物になるって。」
ミラの横に立つアリーさんは、少しそわそわしている。
顔を近付けると、布の切れっぱしに、細かな模様や、鳥や植物が描かれているのが分かった。
「へぇ、器用なもんだな。クレアも、見る?」
「・・・ええ。」
どうした?急に元気がない。
「マーサ、どうかしら?」
アリーさんが母さんに聞いた。母さんは切れっぱしのうちの1枚を、じっと見詰めている。
「ああ、この腕前なら十分だよ。ジョン、明日糸と布を買ってきておやり。アリーさん、とりあえず小さな物から作ってごらんよ。出来たら町に持って行ってみようじゃないか。」
「やった!アリーさん、やったわ!」
母さんの言葉にミラが跳び跳ね、無理やりにアリーさんの手を持って、振り回した。一緒にいたチビ達も、意味も分からず真似して大騒ぎだ。思わずつられて笑っていると、その騒がしいミラとは離れた場所に、クレアが母さんを引っ張って行くのが見え、耳を傾けた。
「おばさん、これは、どういうことですか?」
「ああ、アリーさんがね、実は刺繍が得意だったんだってさ、それで、刺繍で稼げないかって話だよ。」
「っそれじゃあまるで、ここで暮らしていくみたいじゃないですか!」
「クレア、クレア、落ち着きなさい。大丈夫だから、アリーさんは自分で生活していく力をつけたいんだとさ。」
「でもっ・・」
「クレア、アリーさんが自立出来たら、その方がいいじゃないか。」
「あ・・・・、そっか、そう、ですよね。・・・すみません。」
・・・何を話しているんだろう。ミラ達が騒がしすぎて、上手く聞こえない。
・・・あ、1つ思い当たった。クレアはさっそく母さんに、アリーさんの家族を見付ける手伝いをする提案をしているのかもしれない。
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