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マーサの不安
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**マーサ
物音がして目を覚ました。耳をすませると、ドンドンと誰かがドアを叩いている気がする。
「ねぇ、ベン」
「・・・」
話し掛けても返事はない。
「ねぇ。ベン。」
もう1度、話し掛けてみた。
「・・・ん」
熟睡しているのが憎らしい。私はロパの世話でゆっくり眠れてないっていうのにさ。
「ベンっ、起きとくれよ。」
「んぁ・・・、あぁ、何だ?」
大きな声を出すと、ようやくベンは気が付いた。
「誰かがドアを叩いてるみたいなんだよ。」
「・・もう夜中だぞ。そんな音・・」
「んもぅ、よく耳をすませておくれよ。」
「・・・うん。あぁ、そうだな。」
ベンにも音が聞こえたらしい。めんどくさそうに、もぞもぞとおきあがった。
「気をつけとくれよ。」
「ああ。」
ベンが部屋を出るのを見送って、私もベッドから下り、眠っているロパをそっと抱き上げた。
向こうでは、ガタガタと錠を外す音が聞こえる。
「助けてっっ、どうしよう!アリーさんがっ!!」
クレアだ。どうしてもこんな夜中に?ロパをベッドに戻し部屋を飛び出そうとした時、夕方のアレが頭をよぎり、つい足がすくんだ。
私が躊躇している間に、2階からジョンとミラが下りて来た。どうやらアリーさんが怪我をしたらしい。すぐにバタバタと、皆が出て行った。
いったい何があったんだろか?どんな怪我だろか?気にはなるけど手当てが必要かと思い、お湯を火にかけ、清潔な布を準備した。必要なら、すぐに誰かが取りにくるだろうから。
**ジョン
階段の下で気を失っているアリーさんを、父さんと一緒に部屋に運び、ベッドに寝かせた。服や床に血が付いているから、どこか怪我をしているのだと思う。
「怪我の具合を見てあげて。俺、手当てに必要なものを取ってくるよ。」
クレアは部屋の隅で、不安そうに立っていた。沸き起こる色々な疑問や不安は、考えないようにした。とにかく、今は急ごう。
走って家に戻ると、母さんが待っていた。
「何があったんだい?」
「階段から、落ちたみたいだ。何か拭くものある?」
出来るだけ平然と、答えた。
「今、お湯を沸かしてるところだよ。怪我してるなら、湯冷ましで綺麗にしてやりなさい。怪我は、酷いのかい?」
「分からない。俺は運んだだけで、後は父さんとミラと、・・クレアが見てるから。」
わざわざクレアと言う必要もない気がしたが、クレアの名だけ言わいでいれば、それはそれで不審に思われるかもしれない。だが、一瞬悩んだせいで、変に間が空き、さらに焦った。
「で、でもっ、大丈夫そうだと思うっ。」
「クレア・・・、そういえば、何だってクレアは、アリーさんのところにいたんだい?」
ギクリとした。
「し、知らないよ。でも、クレアがいたからアリーさんに気付く事ができたんだ。」
自分にも言い聞かせた。
「気付く?こんな、夜中にかい?」
・・・・そう、今は夜中だ。
「母さん、何が言いたいんだ?クレアは母さんが思ってるような娘じゃないよ。」
違う。母さんじゃなくて、俺の方が動揺している。さっき別れた時、クレアは思いつめた顔をしていなかったか?直前まで、アリーさんがいなくなれば、と言ってなかったか?
でも、だとしたら間違いなく俺のせいだ。俺が余計なことを話したから。
「・・・そうだと、いいんだけどねぇ。」
母さんが、力なく答えた。
ふいに、「ジョンは味方じゃないのね。」という、クレアの声が、頭に響いた。
嫌だ。俺は、味方だ。手に、ぐっと力が込もる。
「・・・母さん、アリーさんだけど、隣国に連れていってあげた方がいいんじゃないかな。」
「クレアに言われたのかい?全くあの娘にも困ったもんだね。反省しないどころか・・・・・⋅隣国?ジョン、あんた今、隣国って言ったかい?」
「ああ。母さんが怒ったから最後まで言えなかったけど、クレアはちゃんと、手掛かりを見つけてきたんだ。アリーさんの刺繍の紋章、隣国の王家のものだって。」
「お、王家・・・・?まさか、王族だとでも言う気かい?」
「ええ?そんなまさか。母さん、紋章を知ってたからって誰もが王族なんてありえないよ。母さん?どうしたの?・・・そんなに恐がらなくても。」
顔色が良くない。脂汗が、にじんで見えた。
「母さん・・?」
「それ、誰に聞いたんだい?」
「え?」
「王家の紋章って、誰が教えてくれたんだい?」
「誰って、刺繍を扱う店の主人にだよ。」
「その人は、他に何か言ってたかい?別の誰かにしゃべったかい?」
「いいや、・・・あ、ただ、刺繍をもっとよく見たいから、しばらく貸してくれって言われてたような。」
「いいい今すぐ返してもらってきな。」
「母さん?本当にどうしたの?今はまだ夜中だよ。」
「明日の、朝一番にいって、返してもらってきな。」
「え?」
「つべこべいわずに、そうするんだよっ。ああ、お湯が沸いた。さっさと持って行ってやりな。」
「え、あ、ああ。」
「早くっ。あと、父さんに早く戻ってくるよう言っておくれ。」
「?分かったよ。」
兄さんはあの時、「いろいろあるんだ」と言っていた。そして、母さんにはアリーさんと出て行く事を話している、とも言っていた。
つまり、母さんも、その「いろいろ」を、知っているのか?その「いろいろ」は、あんなに青ざめるほどの事なのか?
翌朝、街に行く時に、兄さんにも伝えた方がいいのでは、と提案したが、母さんは首を縦には振らなかった。
物音がして目を覚ました。耳をすませると、ドンドンと誰かがドアを叩いている気がする。
「ねぇ、ベン」
「・・・」
話し掛けても返事はない。
「ねぇ。ベン。」
もう1度、話し掛けてみた。
「・・・ん」
熟睡しているのが憎らしい。私はロパの世話でゆっくり眠れてないっていうのにさ。
「ベンっ、起きとくれよ。」
「んぁ・・・、あぁ、何だ?」
大きな声を出すと、ようやくベンは気が付いた。
「誰かがドアを叩いてるみたいなんだよ。」
「・・もう夜中だぞ。そんな音・・」
「んもぅ、よく耳をすませておくれよ。」
「・・・うん。あぁ、そうだな。」
ベンにも音が聞こえたらしい。めんどくさそうに、もぞもぞとおきあがった。
「気をつけとくれよ。」
「ああ。」
ベンが部屋を出るのを見送って、私もベッドから下り、眠っているロパをそっと抱き上げた。
向こうでは、ガタガタと錠を外す音が聞こえる。
「助けてっっ、どうしよう!アリーさんがっ!!」
クレアだ。どうしてもこんな夜中に?ロパをベッドに戻し部屋を飛び出そうとした時、夕方のアレが頭をよぎり、つい足がすくんだ。
私が躊躇している間に、2階からジョンとミラが下りて来た。どうやらアリーさんが怪我をしたらしい。すぐにバタバタと、皆が出て行った。
いったい何があったんだろか?どんな怪我だろか?気にはなるけど手当てが必要かと思い、お湯を火にかけ、清潔な布を準備した。必要なら、すぐに誰かが取りにくるだろうから。
**ジョン
階段の下で気を失っているアリーさんを、父さんと一緒に部屋に運び、ベッドに寝かせた。服や床に血が付いているから、どこか怪我をしているのだと思う。
「怪我の具合を見てあげて。俺、手当てに必要なものを取ってくるよ。」
クレアは部屋の隅で、不安そうに立っていた。沸き起こる色々な疑問や不安は、考えないようにした。とにかく、今は急ごう。
走って家に戻ると、母さんが待っていた。
「何があったんだい?」
「階段から、落ちたみたいだ。何か拭くものある?」
出来るだけ平然と、答えた。
「今、お湯を沸かしてるところだよ。怪我してるなら、湯冷ましで綺麗にしてやりなさい。怪我は、酷いのかい?」
「分からない。俺は運んだだけで、後は父さんとミラと、・・クレアが見てるから。」
わざわざクレアと言う必要もない気がしたが、クレアの名だけ言わいでいれば、それはそれで不審に思われるかもしれない。だが、一瞬悩んだせいで、変に間が空き、さらに焦った。
「で、でもっ、大丈夫そうだと思うっ。」
「クレア・・・、そういえば、何だってクレアは、アリーさんのところにいたんだい?」
ギクリとした。
「し、知らないよ。でも、クレアがいたからアリーさんに気付く事ができたんだ。」
自分にも言い聞かせた。
「気付く?こんな、夜中にかい?」
・・・・そう、今は夜中だ。
「母さん、何が言いたいんだ?クレアは母さんが思ってるような娘じゃないよ。」
違う。母さんじゃなくて、俺の方が動揺している。さっき別れた時、クレアは思いつめた顔をしていなかったか?直前まで、アリーさんがいなくなれば、と言ってなかったか?
でも、だとしたら間違いなく俺のせいだ。俺が余計なことを話したから。
「・・・そうだと、いいんだけどねぇ。」
母さんが、力なく答えた。
ふいに、「ジョンは味方じゃないのね。」という、クレアの声が、頭に響いた。
嫌だ。俺は、味方だ。手に、ぐっと力が込もる。
「・・・母さん、アリーさんだけど、隣国に連れていってあげた方がいいんじゃないかな。」
「クレアに言われたのかい?全くあの娘にも困ったもんだね。反省しないどころか・・・・・⋅隣国?ジョン、あんた今、隣国って言ったかい?」
「ああ。母さんが怒ったから最後まで言えなかったけど、クレアはちゃんと、手掛かりを見つけてきたんだ。アリーさんの刺繍の紋章、隣国の王家のものだって。」
「お、王家・・・・?まさか、王族だとでも言う気かい?」
「ええ?そんなまさか。母さん、紋章を知ってたからって誰もが王族なんてありえないよ。母さん?どうしたの?・・・そんなに恐がらなくても。」
顔色が良くない。脂汗が、にじんで見えた。
「母さん・・?」
「それ、誰に聞いたんだい?」
「え?」
「王家の紋章って、誰が教えてくれたんだい?」
「誰って、刺繍を扱う店の主人にだよ。」
「その人は、他に何か言ってたかい?別の誰かにしゃべったかい?」
「いいや、・・・あ、ただ、刺繍をもっとよく見たいから、しばらく貸してくれって言われてたような。」
「いいい今すぐ返してもらってきな。」
「母さん?本当にどうしたの?今はまだ夜中だよ。」
「明日の、朝一番にいって、返してもらってきな。」
「え?」
「つべこべいわずに、そうするんだよっ。ああ、お湯が沸いた。さっさと持って行ってやりな。」
「え、あ、ああ。」
「早くっ。あと、父さんに早く戻ってくるよう言っておくれ。」
「?分かったよ。」
兄さんはあの時、「いろいろあるんだ」と言っていた。そして、母さんにはアリーさんと出て行く事を話している、とも言っていた。
つまり、母さんも、その「いろいろ」を、知っているのか?その「いろいろ」は、あんなに青ざめるほどの事なのか?
翌朝、街に行く時に、兄さんにも伝えた方がいいのでは、と提案したが、母さんは首を縦には振らなかった。
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