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アレク、魔女に会いに行く(終)
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**エルシー
時計が0時を指すのを見計らって、私はいそいそと階段を登った。両手にはガラス瓶を数本と紙とペン、それからありったけの干したトカゲを抱えている。
だって、今日は満月だもの。
展望台にはちょうど良い具合に、月の光が降り注いでいた。
「よしよし。」
さっそく紙を広げて魔方陣を描いた。出来上がると同時に、銀の粉が積もり始めた。
「いい感じだわ。」
今夜の月は大きいから、積もるペースも早い。
次に別の紙も広げ、その上にはトカゲを並べた。
「ふふ、最高ね。」
じわじわと光を吸い込んでいくのが分かる。
さて。後はしばらく放置だ。
周りを見渡すと、木がまばらになったところに、陛下達家族が身をくっ付けあって眠っているのが見えた。
「···今日は、騒がしかったわね。」
···········そういえば、と考えた。
陛下は、何の用で訪ねてきたのかしら····
**アレク
今夜は満月か。
魔女が準備してくれた部屋の窓から空を見上げると、銀色の光を照らす満月が浮かんでいた。
ふと、思い出が甦る。
魔女は、今夜もあそこで月を見ているのだろうか。
···そう思ってしまったらいても立っても居られなくなり、ついに部屋を抜け出し気付けば屋上へ続く階段を登っていた。
風のない、静かな夜だ。
「魔···、エルシー。」
声をかけると僅かに肩が揺れ、エルシーが振り返った。
月の光の下での彼女は不思議と可愛らしさが薄らいで、ぐっと女らしく艶かしく見える。
「····。」
近寄ってはいけない気がするのに。これ以上は、と、分かっているのに、どうしても吸い寄せられてしまう。
何故?と言いたそうに瞬くエルシーに、手が届きそうなところまで近付いた。
「話が···、したかったんだ。」
「話?」
「ああ。もうずいぶん話していないだろう。」
「···さっき話したばかりよ?」
聞こえないふりをして、少し俯くエルシーの、長い髪に触れてみた。
「·····髪が、のびたな。」
そう言うと、意外そうに見返して来た。
「そうかしら?私、髪の長さは一定に保っているのよ。」
「髪紐の、位置が変わっている。」
「···ああ。伸びたぶんだけ下がったわね。」
「ふ··、俺が結んだままなんだな。」
リボンが縦結びのままだ。紐も俺があげた。
無関心そうに見えて、こういうところがあるから余計に気になってしまうのだ。
「結び直すのも面倒だったから···あ、か、髪は綺麗よ。ちゃんと清潔にしているもの。」
「本当か?蜘蛛が住んでいそうだぞ?」
「なっ、なによっ、私を誰だと思ってるの!?」
本気で怒り出す姿も····、っと。揺らぐ心を何とか踏み止ませた。
「はは、冗談だ。相変わらず絹の様に美しい。」
「頭、おかしくなったの?」
「ははは。エルシーはいいな、一緒にいると··、一緒にいると··、·····面白い。」
···一気に虚しさが込み上げた。
「疲れてるの?」
思いがけず、エルシーが覗き込んで来た。
あぁ、もう少しだけ、いいだろうか···。
そう思った時には、手が伸びていた。
「髪紐を、結び直してもいいか?」
エルシーはきょとん、として、一拍置いて、頷いた。
「いいけど、本当にどうしたの?」
いいのか?あっけなく許可されると、逆に狼狽えてしまう。この無防備は、わざとなのだろうか。
柔らかな髪に触れると急に欲が膨らんだ。エルシーは俺のことをどう思っているのだろう、髪を触らせるのは、俺だからだと思いたい。
「なぁ、あのドラゴン、何で『陛下』なんだ?」
「へ?ああ、なんとなく?でも、陛下って感じでしょう?」
ドキリとした。
「つ、番もいるんだろう?な、なんて名前なんだ?」
やばいな、ドキドキする。
「え、豚子姫。」
····················
「····ん?豚··?」
「豚子姫よ。あの子、豚が大好きなの。」
「····。そうか···、豚が、好きなのか。」
静かだった空から、風がひゅう、と吹いた。
················
「ねぇ。」
「ん?」
「今度は何の仕事?」
「へ?」
「わざわざ訪ねて来たってことは、断れない仕事なんでしょ?」
「····。」
「違うの?仕事じゃなかったの?」
「え?い、いやいや、仕事だ、仕事だっ。」
仕事?そりゃもちろん用意してるさ。
夢うつつだった気持ちが、現実に引き戻された。
「実はな、国外の相手なんだが···」
予想通りの渋い顔をしながらも、最後は引き受けてくれるのがエル····魔女だ。
「助かるよ、いつもありがとう。」
礼を言うと、魔女はツンと顔を上げた。
「いいけどね。でも、あなたも疲れてるなら言ってちょうだいね。あのクッキー、また作ってあげるから。」
「···あ、ああ、そのときは、よろしく頼むよ。」
「ええ。」
魔女は微笑んだ。
戸惑ってしまう程美しく見えるのは、きっと今夜の満月のせいだろう。
この距離が最善なのだと、心に刻んだ。
時計が0時を指すのを見計らって、私はいそいそと階段を登った。両手にはガラス瓶を数本と紙とペン、それからありったけの干したトカゲを抱えている。
だって、今日は満月だもの。
展望台にはちょうど良い具合に、月の光が降り注いでいた。
「よしよし。」
さっそく紙を広げて魔方陣を描いた。出来上がると同時に、銀の粉が積もり始めた。
「いい感じだわ。」
今夜の月は大きいから、積もるペースも早い。
次に別の紙も広げ、その上にはトカゲを並べた。
「ふふ、最高ね。」
じわじわと光を吸い込んでいくのが分かる。
さて。後はしばらく放置だ。
周りを見渡すと、木がまばらになったところに、陛下達家族が身をくっ付けあって眠っているのが見えた。
「···今日は、騒がしかったわね。」
···········そういえば、と考えた。
陛下は、何の用で訪ねてきたのかしら····
**アレク
今夜は満月か。
魔女が準備してくれた部屋の窓から空を見上げると、銀色の光を照らす満月が浮かんでいた。
ふと、思い出が甦る。
魔女は、今夜もあそこで月を見ているのだろうか。
···そう思ってしまったらいても立っても居られなくなり、ついに部屋を抜け出し気付けば屋上へ続く階段を登っていた。
風のない、静かな夜だ。
「魔···、エルシー。」
声をかけると僅かに肩が揺れ、エルシーが振り返った。
月の光の下での彼女は不思議と可愛らしさが薄らいで、ぐっと女らしく艶かしく見える。
「····。」
近寄ってはいけない気がするのに。これ以上は、と、分かっているのに、どうしても吸い寄せられてしまう。
何故?と言いたそうに瞬くエルシーに、手が届きそうなところまで近付いた。
「話が···、したかったんだ。」
「話?」
「ああ。もうずいぶん話していないだろう。」
「···さっき話したばかりよ?」
聞こえないふりをして、少し俯くエルシーの、長い髪に触れてみた。
「·····髪が、のびたな。」
そう言うと、意外そうに見返して来た。
「そうかしら?私、髪の長さは一定に保っているのよ。」
「髪紐の、位置が変わっている。」
「···ああ。伸びたぶんだけ下がったわね。」
「ふ··、俺が結んだままなんだな。」
リボンが縦結びのままだ。紐も俺があげた。
無関心そうに見えて、こういうところがあるから余計に気になってしまうのだ。
「結び直すのも面倒だったから···あ、か、髪は綺麗よ。ちゃんと清潔にしているもの。」
「本当か?蜘蛛が住んでいそうだぞ?」
「なっ、なによっ、私を誰だと思ってるの!?」
本気で怒り出す姿も····、っと。揺らぐ心を何とか踏み止ませた。
「はは、冗談だ。相変わらず絹の様に美しい。」
「頭、おかしくなったの?」
「ははは。エルシーはいいな、一緒にいると··、一緒にいると··、·····面白い。」
···一気に虚しさが込み上げた。
「疲れてるの?」
思いがけず、エルシーが覗き込んで来た。
あぁ、もう少しだけ、いいだろうか···。
そう思った時には、手が伸びていた。
「髪紐を、結び直してもいいか?」
エルシーはきょとん、として、一拍置いて、頷いた。
「いいけど、本当にどうしたの?」
いいのか?あっけなく許可されると、逆に狼狽えてしまう。この無防備は、わざとなのだろうか。
柔らかな髪に触れると急に欲が膨らんだ。エルシーは俺のことをどう思っているのだろう、髪を触らせるのは、俺だからだと思いたい。
「なぁ、あのドラゴン、何で『陛下』なんだ?」
「へ?ああ、なんとなく?でも、陛下って感じでしょう?」
ドキリとした。
「つ、番もいるんだろう?な、なんて名前なんだ?」
やばいな、ドキドキする。
「え、豚子姫。」
····················
「····ん?豚··?」
「豚子姫よ。あの子、豚が大好きなの。」
「····。そうか···、豚が、好きなのか。」
静かだった空から、風がひゅう、と吹いた。
················
「ねぇ。」
「ん?」
「今度は何の仕事?」
「へ?」
「わざわざ訪ねて来たってことは、断れない仕事なんでしょ?」
「····。」
「違うの?仕事じゃなかったの?」
「え?い、いやいや、仕事だ、仕事だっ。」
仕事?そりゃもちろん用意してるさ。
夢うつつだった気持ちが、現実に引き戻された。
「実はな、国外の相手なんだが···」
予想通りの渋い顔をしながらも、最後は引き受けてくれるのがエル····魔女だ。
「助かるよ、いつもありがとう。」
礼を言うと、魔女はツンと顔を上げた。
「いいけどね。でも、あなたも疲れてるなら言ってちょうだいね。あのクッキー、また作ってあげるから。」
「···あ、ああ、そのときは、よろしく頼むよ。」
「ええ。」
魔女は微笑んだ。
戸惑ってしまう程美しく見えるのは、きっと今夜の満月のせいだろう。
この距離が最善なのだと、心に刻んだ。
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