引きこもりの魔女の話

ともっぴー

文字の大きさ
12 / 12

アレク、魔女に会いに行く(終)

しおりを挟む
**エルシー

時計が0時を指すのを見計らって、私はいそいそと階段を登った。両手にはガラス瓶を数本と紙とペン、それからありったけの干したトカゲを抱えている。
だって、今日は満月だもの。

展望台にはちょうど良い具合に、月の光が降り注いでいた。

「よしよし。」

さっそく紙を広げて魔方陣を描いた。出来上がると同時に、銀の粉が積もり始めた。

「いい感じだわ。」

今夜の月は大きいから、積もるペースも早い。
次に別の紙も広げ、その上にはトカゲを並べた。

「ふふ、最高ね。」

じわじわと光を吸い込んでいくのが分かる。

さて。後はしばらく放置だ。
周りを見渡すと、木がまばらになったところに、陛下達家族が身をくっ付けあって眠っているのが見えた。

「···今日は、騒がしかったわね。」



···········そういえば、と考えた。
陛下は、何の用で訪ねてきたのかしら····


**アレク

今夜は満月か。

魔女が準備してくれた部屋の窓から空を見上げると、銀色の光を照らす満月が浮かんでいた。
ふと、思い出が甦る。
魔女は、今夜もあそこで月を見ているのだろうか。

···そう思ってしまったらいても立っても居られなくなり、ついに部屋を抜け出し気付けば屋上へ続く階段を登っていた。

風のない、静かな夜だ。


「魔···、エルシー。」

声をかけると僅かに肩が揺れ、エルシーが振り返った。
月の光の下での彼女は不思議と可愛らしさが薄らいで、ぐっと女らしく艶かしく見える。

「····。」

近寄ってはいけない気がするのに。これ以上は、と、分かっているのに、どうしても吸い寄せられてしまう。
何故?と言いたそうに瞬くエルシーに、手が届きそうなところまで近付いた。

「話が···、したかったんだ。」

「話?」

「ああ。もうずいぶん話していないだろう。」

「···さっき話したばかりよ?」

聞こえないふりをして、少し俯くエルシーの、長い髪に触れてみた。

「·····髪が、のびたな。」

そう言うと、意外そうに見返して来た。

「そうかしら?私、髪の長さは一定に保っているのよ。」

「髪紐の、位置が変わっている。」

「···ああ。伸びたぶんだけ下がったわね。」

「ふ··、俺が結んだままなんだな。」

リボンが縦結びのままだ。紐も俺があげた。
無関心そうに見えて、こういうところがあるから余計に気になってしまうのだ。

「結び直すのも面倒だったから···あ、か、髪は綺麗よ。ちゃんと清潔にしているもの。」

「本当か?蜘蛛が住んでいそうだぞ?」

「なっ、なによっ、私を誰だと思ってるの!?」

本気で怒り出す姿も····、っと。揺らぐ心を何とか踏み止ませた。

「はは、冗談だ。相変わらず絹の様に美しい。」

「頭、おかしくなったの?」

「ははは。エルシーはいいな、一緒にいると··、一緒にいると··、·····面白い。」

···一気に虚しさが込み上げた。

「疲れてるの?」

思いがけず、エルシーが覗き込んで来た。
あぁ、もう少しだけ、いいだろうか···。
そう思った時には、手が伸びていた。

「髪紐を、結び直してもいいか?」

エルシーはきょとん、として、一拍置いて、頷いた。

「いいけど、本当にどうしたの?」

いいのか?あっけなく許可されると、逆に狼狽えてしまう。この無防備は、わざとなのだろうか。
柔らかな髪に触れると急に欲が膨らんだ。エルシーは俺のことをどう思っているのだろう、髪を触らせるのは、俺だからだと思いたい。

「なぁ、あのドラゴン、何で『陛下』なんだ?」

「へ?ああ、なんとなく?でも、陛下って感じでしょう?」

ドキリとした。

「つ、番もいるんだろう?な、なんて名前なんだ?」

やばいな、ドキドキする。

「え、豚子姫。」

····················

「····ん?豚··?」

「豚子姫よ。あの子、豚が大好きなの。」

「····。そうか···、豚が、好きなのか。」

静かだった空から、風がひゅう、と吹いた。

················

「ねぇ。」

「ん?」

「今度は何の仕事?」

「へ?」

「わざわざ訪ねて来たってことは、断れない仕事なんでしょ?」

「····。」

「違うの?仕事じゃなかったの?」

「え?い、いやいや、仕事だ、仕事だっ。」

仕事?そりゃもちろん用意してるさ。
夢うつつだった気持ちが、現実に引き戻された。

「実はな、国外の相手なんだが···」




予想通りの渋い顔をしながらも、最後は引き受けてくれるのがエル····魔女だ。

「助かるよ、いつもありがとう。」

礼を言うと、魔女はツンと顔を上げた。

「いいけどね。でも、あなたも疲れてるなら言ってちょうだいね。あのクッキー、また作ってあげるから。」


「···あ、ああ、そのときは、よろしく頼むよ。」

「ええ。」

魔女は微笑んだ。


戸惑ってしまう程美しく見えるのは、きっと今夜の満月のせいだろう。
この距離が最善なのだと、心に刻んだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

処理中です...