碧の海

ともっぴー

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海を求めてその2

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**杏奈

今、「碧」と呼ばれるその彼は、かつて私に「黒耀」と名乗った。それに、彼は私と同じ悪魔だ。それがなぜ今「碧」と呼ばれるこんな人間の子供になっているのか・・是非とも問いただす必要がある。

いろいろと理由付けて、私は無事、希望通りに黒耀と2人きりになった。ここは少し小さめの応接室で、私達はテーブルを挟んで向かい合うようにソファーに腰を下ろした。黒耀はというと、無言のままだ。とりあえずテーブルに学力検査用の問題用紙を並べた。

「おい。」
「う・・何かしら?」
「何でここにいるんだよ?」

チラリと顔を窺った。無表情か。怒っているわけではなさそうね。うん、大丈夫。くっ、とお腹に力を入れた。

「あのねぇ、何でって、私の方が聞きたいわよ。ここ数十年、ちっとも会いに来てくれなかったわよね。だいたいその姿は何なの?悪魔ともあろう人が、何であんな婆さんのご機嫌なんか取ってんのよ?」
「別に。俺にもいろいろあんだよ。それに、会う必要なんてないだろ。用もないのに。」
「いろいろって何よ? 用がなかったら会ってくれないわけ? 約束、忘れてないでしょうね?」
「約束・・? あぁ、つか、いつの約束だよ。あと、お前質問多すぎね。」
「酷っ、信じられない。いろいろって何よと、用がなかったら会ってくれないのか聞いただけよっ それにっ、約束は約束でしょ。私、ずっと待ってるんだからね。」

危うく涙が出そうになった。私にとっての大事な約束が、黒耀にとってはそうでもないことに。

私はもう、ずっと、ずぅっと前から彼一筋だ。それは出会った瞬間から。
当時私は、鬱陶しいと言われながらも、必死で頑張り、仲良しな友人という地位を得た。そしていつしか、困った時なんかには真っ先に頼ってくれるくらいにまで進展した。無愛想な人なのに、私に対しては笑顔だって見せてくれた。だから、そんなのだから、いつかは私と結婚してくれるって約束をしてくれた時は、私の想いが通じたんだと、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

だけど、彼にとっては「いつか」なんてただの言い訳だったのかもしれない。私達に時間の制限なんて、あってないようなものだから。

「・・・あぁ、悪かった、分かってる。でもまだその時じゃない。悪い。」

私が泣きそうなのに気が付いたのか、黒耀ぼそりと呟くように言った。
「その時って、いつよ!?」って叫べたら、どんなにすっきりするだろう? 「いつまで待てばいいの?」って、聞いてしまえたら、どんなに楽になれるだろう。でも、私はいつも、それ以上は何も言えないのだ。
こんな風になるのならあの時、一緒に人間界を覗きに行こうなんて、言わなければよかった。

「何よ。ムカつくわね。でもまぁ、ちゃんと覚えてるならいいわ。・・・で、ここで一体何をしてるの?」
「別に。」
「あの女は? 見つけたの?」
「・・・ああ。」
「どこよ?」
「知らない。」
「・・・」
「あ、そうだ。お前さ、魔石1個くれないか?」
「魔石なんて、何につかうのよ? 黒耀なら必要ないでしょ?」
「あぁ、ちょっとな。」
「・・・」
「・・・」

本当にムカつく。

「ねぇ、教えてくれなきゃ協力できないんだけど?」
「ん? あ、今回は協力はいい。魔石だけくれ。」
「え・・・?」

弾かれたように、黒耀を見た。協力はいいって・・、今さら私を突き放すつもり?胸が押し潰されそうになった。

「この検査が終わったら、もう関わらないでいいから。」
「そんな、だって、院長ともさっき・・」
「結果さえ出せば満足するだろう。それにもっと欲が出るだらうから、お前じゃ役不足だよ。」
「や、約束は・・」
「さっき言ったろ。ちゃんと分かっている。」

今度こそ、本当に涙が流れた。それなのに、黒耀は見て見ぬふりをしながら黙々と問題用紙に記入していった。

涙でぼやける視界で黒耀を見つめながら、私は、約束がただの口約束だからいけないのだと考えていた。


**碧

杏奈は悪い奴ではないが、多少めんどくさいところがある。だから今回、手段を選ばずあの女人ひとを手に入れてみせる、と決めた時、杏奈には関わらないでおこうと思ったのだ。絶対に反対してくるだろうから。なのにどうしてこう、タイミング悪く現れてくるのか・・・。うんざりだ。
あんなに易々と結婚の約束なんかするもんじゃなかったな、と思う。だけどさ、あんな子供の頃の口約束、いまだに覚えている方が異常なんだよ。

とりあえず俺は、杏奈に色々聞かれてもほとんど答えずにやり過ごした。関わるなと釘を刺したから、大丈夫だろう。



ある日、俺宛てに1通の手紙が届いた。海からの手紙だ。教員が持ってきたその手紙を、俺は奪うようにもぎ取り、部屋に駆け込んだ。教員は驚きはしたが、よほど寂しかったのだろうと涙ぐんだ。まぁ、間違ってはいない。

そして、頃合いを見計らって「1度会いに行ってみたい。」と言ってみれば、すんなりと許可を出された。杏奈の学力検査で満点を採った俺は、以前にも増して信用され、期待されるようになっていた。俺のことを、金の卵か何かだと思っているようだ。

差出人の箇所には住所と、海としか書いていなかったが、教員どもは喜んで情報を差し出した。言うまでもなく、戻って来る気は更々ない。事前に院長の部屋に忍び込んで、神童の俺を欲しがっている数名の人物の手紙を引き抜いておいた。準備は整っている。

ところが出掛ける直前になって、この事を知った院長が慌てて止めに入った。院長が不在の時を狙ったつもりだったが、しっかりと報告は行ったようだ、俺の考えが甘かったか。
花岡誠一は寄付金の事も公にしなかったくらいなので、何か後ろ暗いことがあるのだろうとは思っていた。今までに集めた情報によると花岡誠一は経済界では有名な人物らしかった。

仕方なく俺はその場では素直に言うことを聞き、夜中になってこっそりと抜け出した。いつまでもこんなところに用はない。いざというときの為にと魔石に魔力を貯めておいて良かった。情けないことに今の俺では、魔石無しで力を使うのはキツイ。。
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