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しおりを挟む***アリア視点***
私はメリッサにジェミューの女の調査を、ミアにはエレノアとハンナの様子を気を付けて見張っていて、とお願いしていた。
ミアの報告によると、特に変わった様子は見られないらしい。何も知らないのか、腹の探り合いをしているのか、どちらかだと思う。まぁ王妃になってしまえば、私1人の力でもエレノア1人くらいなら、すぐに追い出せそうだ。
ところが、届いたお父様からの手紙を読んで呆れた。
「ハンナの妹って、何なのよ。妹がいたなんて聞いてないわ。」
「アリア様、落ち着いて下さい。まだ、決まっていませんし、それに、王妃はアリア様ですから。」
メリッサがおろおろしながら、そう言うけれど、私はとても落ち着いていられない。
「それにしても図々し過ぎるわ。陛下は承諾なさるおつもりなのかしら?」
「それは、、、わかりませんけど、、でも王妃はアリア様ですから」
ハンナを追い払いたかったのに、お兄様の結婚相手としてツェンぺ国が差し出そうとしているのはハンナの妹だった。
ハンナは、何もなかったとは言え、一度アリドゥラムの王妃候補として名を上げた身なので、使い古しの様で申し訳ない、と言って来たのだそうだ。そう言われてしまうと、突っぱねる訳にもいかず、受け入れるしかないのだと。
ツェンぺ国は、アリドゥラムとの繋がりを保ちながらリュヌレアムとも繋がれる事になるのだ。本当に図々しいと思った。
そして、最も腹立たしいのは、私が王妃になった後エレノアとハンナを側室に、と言う話が持ち上がっている、ということだ。何の努力もしていない2人が側室の座を易々と手にするのは気に入らない。阻止しなければ。
「アリア様、気晴らしにお散歩なんていかがですか?今日は天気も良いので気持ちいいですよ。」
ミアが突然提案してきて、少し悩んで、行くことにした。
「、、、行くわ。」
私が1人で苛ついていてもどうにもならない事なのだ。外に出て落ち着こうと思い、メリッサとミアを連れて外に出た。
ふと、気になっていた事を思い出して聞いてみた。
「あ、ねぇ、例のリストを見ていたんだけど、ジェミューの剥製って、何かしら?オリバー商会からの贈り物でそんな記載があったのだけど、まさか本物の遺体ってことはないわよね?」
目を通していたリストの中に、そんな品名が書かれてあったのだ。ジェミューって、人間よね。眼球や頭髪を加工する話は聞いた事があったけれど、剥製、、、ぞっとした。
ぞっとしながらも、ジェミューの、と書いてあったから気になるのだ。
「剥製、ですか。すみません、私も分かりません。メリッサは?」
「すみません、私も聞いた事がありません。」
「あら、あれはリサじゃなくって?」
生け垣の向こうに、いつも装身具やドレスを用立ててくれている娘が見えた。最近は婚礼用の衣装の事で頻繁に出入りしている。
「まぁ、本当ですね。アリア様にご用でしょうか?」
「今日は呼んでいないわ。けど丁度いいわね、剥製の事を聞いてみましょう。」
「はい、分かりました。すぐに呼んで来ますね。」
メリッサがリサの所に行くのを見送って、私はミアを連れて先に部屋に戻った。
「アリア様、リサさんです。」
「失礼致します。アリア様、こんにちは、今日はいかがなさいましたか?」
リサが愛想よく挨拶した。
「聞きたい事があったのよ。リサはジェミューの剥製って、聞いた事があって?」
「え? ええ、存じております。生きているお嬢様程では無いですが、とても珍しいですよ。」
「え、ちょっと待って。生きているお嬢様って誰の事?」
思ってもいない所から、とんでもない発言が出てきて驚いた。
「え? え? あ、す、すみませんっ。アリア様はご存知なのかとおもい、とんだ失礼をっ!!」
床に頭を付けるリサの慌てようにも驚いた。
「リサ、顔を上げなさい。詳しく聞かせて。」
**
リサに、陛下のお部屋で起きている事を、知っている範囲で全て喋らせた。
ジェミューの女に関すること。それから陛下が興味を持たれている細工職人のこと。
「探しても見つからない筈だわ。陛下のへやに潜り込んでいるとはね。」
陛下にもその女にも、心の底から呆れた。
「アリア様、お役にたてず申し訳ありませんでした。まさかあのジュリが、とは思いもよらず、、、」
調査しきれなかったメリッサが、項垂れている。
「いいえ、これは仕方がないわ。誰もジュリみたいな娘が世話しているなんて思わないもの。」
ジュリという使用人は、誰からも信用されていない厄介者で有名らしい。
元々は孤児で、あろうことか王宮に盗みに入ったところを捕らえられ、どういう経緯か、気付いたら使用人として働き始めたようだ。
ジュリの盗みのせいで、罰を受けた者もいるし、自分は陛下のお気に入りだ等と、ありもしない事を言って回るので、誰も相手にしなくなったのだとか。
「陛下もよくこんな者に世話を任せようと思ったわね。それとも、あえてそうしたのかしら、、、でも、分かって良かったわ。」
私を馬鹿にするのも大概にして欲しい。けれど、私は王妃の権利を得たのだから、その地位をより確かな物にする為に頑張らなくてはと思った。
私は陛下の執務室へと向かった。
堂々と。だって私には権利があるから。
***レイラ
リサさんから受け取った小さな箱を開けると、本当に焼き菓子が入っていた。ふっと、拍子抜けした。何だ、心配して損しちゃった。
1つ食べてみると、ホロリと口の中で溶けていった。美味しい。ジュリが部屋に入って来たので、1つ勧めてみた。
「ねぇ、ジュリ、頂いたお菓子、美味しいから食べてみない。」
ジュリはとても驚いていた。
「えっ? 私にですか?」
「そんなに驚かなくても、、、食べたら駄目とか、決まりがあるの?」
「い、いいえ。ありません。でも、お嬢様はお菓子がお好きなんでしょう? それを私になんて、、」
「好きだけど、独り占めするほどじゃないわよ。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
ジュリはおそるおそる受け取り、口に入れて、目を見開いた。
「美味しいっ! とても美味しいですね!」
言いながら、ジュリはぽろりと涙を溢した。
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