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**レイラ
フードを深く被って町の中を歩くのは、以前捕まった時の事を思い出させた。祭りの賑やかな声がより一層、あの眠らない町を彷彿とさせる。
「レイラ、、レイラ、、 どうした?」
陛下に覗き込まれていてはっとした。握った手を ぎゅっ、とすると確かな感触があって、ほっとした。陛下がいるから大丈夫。
「何でもありません。ただ少しだけ圧倒されてしまって。」
「そうか。 、、恐いなら帰るか?」
「とんでもないですっ。せっかく来たのだから楽しみたいです。」
楽しみたいのは本心で、私はわくわくしている。ただ、ほんの少し思い出して足がすくんでしまっただけなのだ。
「向こうの広場で染め物の展示をしているらしい。行ってみるか?」
「はいっ。」
建ち並ぶ建物の壁の、所々に貼られた展示場の案内を見ながら陛下が聞いてきた。私は即答した。
広場は様々な色や模様で埋め尽くされていた。
ずいぶん高い位置まで展示されているから、違う世界に迷いこんだかの様で、気分がとても高揚した。
「すごいっ、すごく綺麗です! わぁ、見てくださいっ、あれなんか、本当に空みたいですね。」
上の方に空色の染め物が風にはためいていて、空に溶けていきそうな色をしている。
はしゃぎながら陛下を覗き見ると、陛下は染め物ではなく、私を見ていた。
「いい笑顔だ。来て良かった。」
「あ、え、ええと、、ありがとうございます。」
何だか恥ずかしくなって、慌ててフードを引っ張った。
町並みを歩く時、さっきよりも少し目線をあげてみると町中も色とりどりの旗がたくさん吊り下げてあって、とても鮮やかだった。
ふと、染めた布を虹の様に並べたお店が目に止まった。
「わぁ、、綺麗」
お店に近づいてみると、
「いらっしゃい。どうぞ手にとって見て下さい。」
と、店員の男の人が話しかけてきた。
「え、ええと、見るだけでもいいですか?」
私は買い物なんてしたことがなくて、どうしていいのか分からない。商品に触れてしまったら買わないといけなくなるのではと警戒した。
「見るだけでもいいですよ。でもうちの染め物は生地にこだわっているので、是非触り心地も確かめて下さいね。」
「ありがとうございます。」
警戒しなくても良さそうで、安心したら頬が緩んだ。
「わあ、お姉さんはとても綺麗な人ですね。どこから来たのですか? あ、これなんか似合いそうだ。触ってみて。」
顔をあげた時に目が合って、薄薔薇色に染まった布を一つ選んで差し出してきた。つい嬉しくなって手を出そうとすると繋いだ方の手がぐいっと引っ張られた。
「わ、わ、、」
バランスが崩れそうになると陛下が腰を抱き止めた。小さいのにしっかりと固定された。
「僕、いたずらしたら駄目だよ、お姉さんが困っているよ。」
「ふん」
「さぁ、どうぞ。」
もう一度差し出されたけれど、陛下は抱いた腰をぐいっと方向転換させた。
「きゃ、」
「結構だ。」
そのまま引っ張るように歩かせられて店は遠のいていく。
「いちいち愛想笑いしなくていい。奴らは商売人だから口が上手いだけだ。気に入ったのがあれば後で屋敷に呼べばいい。」
「え、、あ、、、すみません。分からなくて。」
陛下がぴたりと立ち止まった。
「分からなくても綺麗だと言われただけで、嬉しそうな顔をするのか。」
「いえ、そういうつもりは、、、」
「ふん、帰るぞ」
「、、、はい。」
「不満か?」
「いいえ。」
本当はせっかく陛下と来たのだから、もう少し楽しみたかった。けれど、陛下は機嫌を悪くした様だった。
その時、突然フードが後ろから引っ張られた。
「ひゃっ」
顔が露になって、慌てて下をむいた。
「お姉さん、すごく綺麗だね。隠すなんてもったいない。もっと見せてよ。」
「おい、何だ。」
目の前に回り込んで来て、馴れ馴れしく話し掛けて来たのを、陛下が間に割って入って立ちはだかった。
私はどうしていいか分からず動けなくなってしまった。
「おや、弟君かな? ごめんね、お姉さんに話があるんだ。 お姉さん、今からあっちにある店で、魔力合わせをするんだけど参加してみない? あ、魔力がなくても大丈夫だよ。」
「おい、勝手に話掛けるな。」
「はは、弟君は恐いな。お姉さん、弟君も連れて来ていいからさ。あ、もしかしてもう相手がいるのかな? でもその人が本当にう、、うぐっ、ぐ、ぐ、、」
「え、、?」
男の人が胸を押さえながらその場に崩れていく。
「う、ぐ、、、何を、、ぐ、、」
何が起こっているのか分からなくて恐い。陛下の手を引っ張ろうとして、とても冷たくなっている事に気づいた。
「ウィレム陛下? ウィレム陛下?」
陛下は立ったまま動かないし、男の人は地面で苦しんでいるし、何だかとても恐い。
陛下の顔を見ると目の色が濃く、黒っぽくなっていた。
「ウィレム陛下? やだ、しっかりしてくださいっ、陛下っっ」
声は全然届かないし、押しても引いてもびくともしない。口の端だけが不気味に上がっていた。
「陛下っ、陛下っ!」
陛下が遠くに行ってしまいそうで、何度も名前を呼んだ。気付かせようと一心不乱に唇を押し付けた。
次の瞬間 はっ、と息を飲む音がして陛下の目の色がもとに戻った。
「あ、、あ、、ウィレム陛下、、」
ほっとして涙がぼろぼろ落ちた。
「レイラ、、。」
「うぅ、、うっ、、恐かったです、、」
男の人は地面でうつ伏せに倒れたまま動かなくなっていた。ほっとした拍子に私の魔法は解けていて、いつもの陛下になっていた。周りがざわめいて人だかりが出来初めている。
陛下が大きな声を出した。
「騒がせた、済まない。この者は、罪を犯した。役人はいないか?」
「え、、? ウィレム陛下? どういう、、」
「はい! ここにおります!」
ひょろりとした若い男が手を上げた。
「名前は?」
「ローガンと申します!」
「ふむ、ローガン、後は任せる。」
「かしこまりました、国王陛下!」
深く頭を下げて、倒れた男の人に近寄り身体をひっくり返そうとした。
「レイラ、帰るぞ。」
視界を遮られ、肩を抱かれた。
「え、え?、、あの人は、、?」
「言っただろう、罪を犯した。」
ぐいぐいと引っ張られるようにその場から離れた。私の知らない陛下だと思った。
フードを深く被って町の中を歩くのは、以前捕まった時の事を思い出させた。祭りの賑やかな声がより一層、あの眠らない町を彷彿とさせる。
「レイラ、、レイラ、、 どうした?」
陛下に覗き込まれていてはっとした。握った手を ぎゅっ、とすると確かな感触があって、ほっとした。陛下がいるから大丈夫。
「何でもありません。ただ少しだけ圧倒されてしまって。」
「そうか。 、、恐いなら帰るか?」
「とんでもないですっ。せっかく来たのだから楽しみたいです。」
楽しみたいのは本心で、私はわくわくしている。ただ、ほんの少し思い出して足がすくんでしまっただけなのだ。
「向こうの広場で染め物の展示をしているらしい。行ってみるか?」
「はいっ。」
建ち並ぶ建物の壁の、所々に貼られた展示場の案内を見ながら陛下が聞いてきた。私は即答した。
広場は様々な色や模様で埋め尽くされていた。
ずいぶん高い位置まで展示されているから、違う世界に迷いこんだかの様で、気分がとても高揚した。
「すごいっ、すごく綺麗です! わぁ、見てくださいっ、あれなんか、本当に空みたいですね。」
上の方に空色の染め物が風にはためいていて、空に溶けていきそうな色をしている。
はしゃぎながら陛下を覗き見ると、陛下は染め物ではなく、私を見ていた。
「いい笑顔だ。来て良かった。」
「あ、え、ええと、、ありがとうございます。」
何だか恥ずかしくなって、慌ててフードを引っ張った。
町並みを歩く時、さっきよりも少し目線をあげてみると町中も色とりどりの旗がたくさん吊り下げてあって、とても鮮やかだった。
ふと、染めた布を虹の様に並べたお店が目に止まった。
「わぁ、、綺麗」
お店に近づいてみると、
「いらっしゃい。どうぞ手にとって見て下さい。」
と、店員の男の人が話しかけてきた。
「え、ええと、見るだけでもいいですか?」
私は買い物なんてしたことがなくて、どうしていいのか分からない。商品に触れてしまったら買わないといけなくなるのではと警戒した。
「見るだけでもいいですよ。でもうちの染め物は生地にこだわっているので、是非触り心地も確かめて下さいね。」
「ありがとうございます。」
警戒しなくても良さそうで、安心したら頬が緩んだ。
「わあ、お姉さんはとても綺麗な人ですね。どこから来たのですか? あ、これなんか似合いそうだ。触ってみて。」
顔をあげた時に目が合って、薄薔薇色に染まった布を一つ選んで差し出してきた。つい嬉しくなって手を出そうとすると繋いだ方の手がぐいっと引っ張られた。
「わ、わ、、」
バランスが崩れそうになると陛下が腰を抱き止めた。小さいのにしっかりと固定された。
「僕、いたずらしたら駄目だよ、お姉さんが困っているよ。」
「ふん」
「さぁ、どうぞ。」
もう一度差し出されたけれど、陛下は抱いた腰をぐいっと方向転換させた。
「きゃ、」
「結構だ。」
そのまま引っ張るように歩かせられて店は遠のいていく。
「いちいち愛想笑いしなくていい。奴らは商売人だから口が上手いだけだ。気に入ったのがあれば後で屋敷に呼べばいい。」
「え、、あ、、、すみません。分からなくて。」
陛下がぴたりと立ち止まった。
「分からなくても綺麗だと言われただけで、嬉しそうな顔をするのか。」
「いえ、そういうつもりは、、、」
「ふん、帰るぞ」
「、、、はい。」
「不満か?」
「いいえ。」
本当はせっかく陛下と来たのだから、もう少し楽しみたかった。けれど、陛下は機嫌を悪くした様だった。
その時、突然フードが後ろから引っ張られた。
「ひゃっ」
顔が露になって、慌てて下をむいた。
「お姉さん、すごく綺麗だね。隠すなんてもったいない。もっと見せてよ。」
「おい、何だ。」
目の前に回り込んで来て、馴れ馴れしく話し掛けて来たのを、陛下が間に割って入って立ちはだかった。
私はどうしていいか分からず動けなくなってしまった。
「おや、弟君かな? ごめんね、お姉さんに話があるんだ。 お姉さん、今からあっちにある店で、魔力合わせをするんだけど参加してみない? あ、魔力がなくても大丈夫だよ。」
「おい、勝手に話掛けるな。」
「はは、弟君は恐いな。お姉さん、弟君も連れて来ていいからさ。あ、もしかしてもう相手がいるのかな? でもその人が本当にう、、うぐっ、ぐ、ぐ、、」
「え、、?」
男の人が胸を押さえながらその場に崩れていく。
「う、ぐ、、、何を、、ぐ、、」
何が起こっているのか分からなくて恐い。陛下の手を引っ張ろうとして、とても冷たくなっている事に気づいた。
「ウィレム陛下? ウィレム陛下?」
陛下は立ったまま動かないし、男の人は地面で苦しんでいるし、何だかとても恐い。
陛下の顔を見ると目の色が濃く、黒っぽくなっていた。
「ウィレム陛下? やだ、しっかりしてくださいっ、陛下っっ」
声は全然届かないし、押しても引いてもびくともしない。口の端だけが不気味に上がっていた。
「陛下っ、陛下っ!」
陛下が遠くに行ってしまいそうで、何度も名前を呼んだ。気付かせようと一心不乱に唇を押し付けた。
次の瞬間 はっ、と息を飲む音がして陛下の目の色がもとに戻った。
「あ、、あ、、ウィレム陛下、、」
ほっとして涙がぼろぼろ落ちた。
「レイラ、、。」
「うぅ、、うっ、、恐かったです、、」
男の人は地面でうつ伏せに倒れたまま動かなくなっていた。ほっとした拍子に私の魔法は解けていて、いつもの陛下になっていた。周りがざわめいて人だかりが出来初めている。
陛下が大きな声を出した。
「騒がせた、済まない。この者は、罪を犯した。役人はいないか?」
「え、、? ウィレム陛下? どういう、、」
「はい! ここにおります!」
ひょろりとした若い男が手を上げた。
「名前は?」
「ローガンと申します!」
「ふむ、ローガン、後は任せる。」
「かしこまりました、国王陛下!」
深く頭を下げて、倒れた男の人に近寄り身体をひっくり返そうとした。
「レイラ、帰るぞ。」
視界を遮られ、肩を抱かれた。
「え、え?、、あの人は、、?」
「言っただろう、罪を犯した。」
ぐいぐいと引っ張られるようにその場から離れた。私の知らない陛下だと思った。
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