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***アリア視点***
「そろそろ休憩にしよう。」
シンが立ち止まり、振り返ったかと思うと、おもむろにしゃがみ、手のひらを砂につけた。
くたくたに疲れていた私はその場に座り込んで、ただただそれをぼんやりと見ていた。
だけれど次の瞬間
「へ!?」
「きゃっ、」
「おお」
「ほぉ」
私とミアとノアとオーウェンさんは同時に声をあげた。
シンが触れた辺りの砂が、まるで生き物の様にくねくねと動きだし、くっつきあってはまた、くねくねし、次第に大きくなっていく。
シンの手が砂から離れた時に出来上がっていたのは、大きな四角い箱の様なものだった。
そして箱の壁をそっと撫でるとさらさらと砂が崩れて穴が出来た。砂の、家、、?
「出来た。この中で少し休もう。」
こんなの初めて見た。胸がどきどきする。
「今のは何?」
「アリア様っ、足元を隠して下さい!」
「え? ええ。分かっているわ。」
興奮する心を落ち着けながら、足をスカートの中に折り畳んでシンを見た。
「今の、ってこれの事?」
「ええ。もしかして、シンはすごい人なの?」
私だけじゃなく、ミアもノアもオーウェンさんだって、驚いていたから普通じゃない筈だ。と思ったのだけど、シンは、ぽかんとしていた。
「、、、そんなに驚く事ではないよ。ただ、魔力を使っただけだ。」
魔力、、、。そういえばお兄様が、ジェミューは魔力を繊細に使える、と言っていた事を思い出した。
「でも私は初めて見たわ。こんなすごい事、ジェミューは皆出来るの?」
「得意不得意はあるけど、大抵出来るかな。俺達は居住地を転々と変えるから暮らしていくのに必要なんだ。」
「転々と? それでは今はどこに? シンは場所が分かるの?」
「はは。大丈夫だよ、まだ動いていない筈だし、もし動いていても行き先は知っている。」
ふと、入り口の外に広がる砂漠を見た。行き先が分かっていても迷子になりそうだと思った。
「この広い砂漠でよく迷わないわね。」
「俺は迷わないけど、アリアは迷うだろうね。もしもの時は太陽と影を見たり、砂の山を見たりするんだよ。夜だったら星も目印になる。」
「星が見えるの?」
「砂漠の星は綺麗だよ。今夜観てみるといい。
というか、本気にして1人で歩いたりするなよ? 危険が多い。」
「そんな馬鹿な真似はしないわ。」
そして休憩の後、再び歩き続けた私達は、日が傾き始めた頃にやっと目的地に辿り着いた。
砂に描かれる影が、長く伸びていた。
「何もないわ。」
「うん、大丈夫。」
シンは行ったり来たり、私達の目の前を歩き回り立ち止まった。
「ここだ。ええと、一度、先に1人で行ってくる。オーウェンさん、例のあれを。」
シンに言われてオーウェンさんが背中に背負っていた木箱を渡した。あの木箱だ。
「任せます。」
木箱を持ったシンが、一歩踏み出すと、吸い込まれるようにふっ、と消えて行った。
「消えた? ねぇ、ミア、消えたわ。」
「はい、私も見ました。本当に不思議な種族ですね。」
私は冷静にしていられるミアの方が不思議だった。
「王妃殿下、消えたのではなく隠れたのです。ジェミューは目眩ましの術を使って見付からないようにしているのです。」
「あぁ、、そうなのね。」
その後、残された私達はその場に座り込んで、ただただシンを待った。
傾いていた日は、すっかり沈みかけていて、夕焼け色に染まった世界は本当に美しかった。歩いて来た方向を見ると、私達の足跡の窪みの一つ一つに影が落ち、黒い点々とした線を作っている。頑張って歩いた証なのだけど、それも時間が経てば消えていくのだろうと思うと、虚しくあがいている自分と重なった。
まだかしら、と呟いた時、砂を踏む音がしてシンが現れた。
「待たせて申し訳ない。まだ少し警戒している者もいるけど、とりあえず中へどうぞ。」
立ち上がってシンの促す方向へ足を踏み出した。見えないけれど、たぶん門をくぐったのだと思う。くぐった途端に視界に広がったのは砂の山なんかではなく、小さな村だった。休憩の時にシンが作ったような小さい家でなく、きちんとした建物が並んでいる。真ん中は広場になっているのだけれど、砂漠の筈なのに砂なんてなくて、木も草もはえていた。その広場にテーブルや椅子が並んでいて、たくさんの人が動き回っている。
「不思議、、、」
「オーウェンさんは、こっちで話を。3人は好きに過ごしていて。」
放心している私達に、シンはそう言い残してオーウェンさんと行ってしまった。
「ええと、どうしたらいいのかしら?」
3人で目を見合わせた。
「私は2人の護衛を任されておりますので、付いて行きます。」
ノアがそう言うけれど、どこに行けば、、、。
思い悩んでいたら、広場の方から小さな女の子が駆けてきた。子供だけれど目を奪われそうなくらい美しい。ああ、やっぱりここはジェミューの村なんだと納得した。はぁ、はぁ、と息をきらせて、話し掛けて来た。
「はぁ、はぁ、、シンにーちゃんが、、はぁっ、夕食を、食べててって、、」
「え?」
「はぁっ、今から、、ごはんっ、だから、こっち、」
付いて来るように言われて、女の子の後ろに続いた。ノアが女の子を見て固まり、動かなくなっていたので、ミアが足を踏みつけると、はっとして、違うんですっ、と言いながらあたふたと付いてきた。
さっきシンは警戒している人もいる、と言っていたけれど、思いの外、皆優しく接してくれた。食べ物も美味しい。
お腹も空いていたのでもぐもぐ食べていたけど、ふと、我に返った。私の目的はこんな事ではなかったはず。
***レイラ
ウィレムが私の目の前で服を脱ぎ始めて、慌てた。ついちょっと前に「焦りすぎたか」と言って納得してくれたと思っていたのに、そうではなかったらしい。
「ウィレムっ、ままま待ってっ!!」
「もう十分待っただろう。」
ウィレムの引き締まった上半身が露になった。恥ずかしい。心臓がどくどくとあり得ない早さで鳴っていて、汗ばんできた。
覆い被さって来るのを押し返そうとしたら、引き締まった胸板に触れてしまって身体中から湯気がでた。ウィレムの両手が素早く私の両手を掴んで固定した。組み敷かれてしまった私はなす術もなくさらけ出される。抗議するより前に濃厚な口付けが降ってきた。それを必死で受け止めながら、どうしよう、どうしようと思っているうちに、涙が出てきた。
頭がぐちゃぐちゃする。ここ数日の間で、こういう事の覚悟はしなければと思い始めているけれど、心の準備はまだ出来ていない。それにあの薬はウィレムの指示かもしれないのに、私はジュリに無理やり返した。ウィレムは私が薬を飲むものと思っているのかもしれない。恐くてとても聞けないし、言えないし、本当にぐちゃぐちゃする。
「そんなに嫌なのか?」
泣いている私に気付いて、そう聞かれた。ウィレムの目が見れない。
「ごめんなさい、もう少しだけ、待って下さい、、本当に、もう少しだけ、、」
「ふん、」
「 いっ、、!」
私の両手を一掴みにしたウィレムは身体のあちこちに血が滲むくらいの歯形を残していった。
「そろそろ休憩にしよう。」
シンが立ち止まり、振り返ったかと思うと、おもむろにしゃがみ、手のひらを砂につけた。
くたくたに疲れていた私はその場に座り込んで、ただただそれをぼんやりと見ていた。
だけれど次の瞬間
「へ!?」
「きゃっ、」
「おお」
「ほぉ」
私とミアとノアとオーウェンさんは同時に声をあげた。
シンが触れた辺りの砂が、まるで生き物の様にくねくねと動きだし、くっつきあってはまた、くねくねし、次第に大きくなっていく。
シンの手が砂から離れた時に出来上がっていたのは、大きな四角い箱の様なものだった。
そして箱の壁をそっと撫でるとさらさらと砂が崩れて穴が出来た。砂の、家、、?
「出来た。この中で少し休もう。」
こんなの初めて見た。胸がどきどきする。
「今のは何?」
「アリア様っ、足元を隠して下さい!」
「え? ええ。分かっているわ。」
興奮する心を落ち着けながら、足をスカートの中に折り畳んでシンを見た。
「今の、ってこれの事?」
「ええ。もしかして、シンはすごい人なの?」
私だけじゃなく、ミアもノアもオーウェンさんだって、驚いていたから普通じゃない筈だ。と思ったのだけど、シンは、ぽかんとしていた。
「、、、そんなに驚く事ではないよ。ただ、魔力を使っただけだ。」
魔力、、、。そういえばお兄様が、ジェミューは魔力を繊細に使える、と言っていた事を思い出した。
「でも私は初めて見たわ。こんなすごい事、ジェミューは皆出来るの?」
「得意不得意はあるけど、大抵出来るかな。俺達は居住地を転々と変えるから暮らしていくのに必要なんだ。」
「転々と? それでは今はどこに? シンは場所が分かるの?」
「はは。大丈夫だよ、まだ動いていない筈だし、もし動いていても行き先は知っている。」
ふと、入り口の外に広がる砂漠を見た。行き先が分かっていても迷子になりそうだと思った。
「この広い砂漠でよく迷わないわね。」
「俺は迷わないけど、アリアは迷うだろうね。もしもの時は太陽と影を見たり、砂の山を見たりするんだよ。夜だったら星も目印になる。」
「星が見えるの?」
「砂漠の星は綺麗だよ。今夜観てみるといい。
というか、本気にして1人で歩いたりするなよ? 危険が多い。」
「そんな馬鹿な真似はしないわ。」
そして休憩の後、再び歩き続けた私達は、日が傾き始めた頃にやっと目的地に辿り着いた。
砂に描かれる影が、長く伸びていた。
「何もないわ。」
「うん、大丈夫。」
シンは行ったり来たり、私達の目の前を歩き回り立ち止まった。
「ここだ。ええと、一度、先に1人で行ってくる。オーウェンさん、例のあれを。」
シンに言われてオーウェンさんが背中に背負っていた木箱を渡した。あの木箱だ。
「任せます。」
木箱を持ったシンが、一歩踏み出すと、吸い込まれるようにふっ、と消えて行った。
「消えた? ねぇ、ミア、消えたわ。」
「はい、私も見ました。本当に不思議な種族ですね。」
私は冷静にしていられるミアの方が不思議だった。
「王妃殿下、消えたのではなく隠れたのです。ジェミューは目眩ましの術を使って見付からないようにしているのです。」
「あぁ、、そうなのね。」
その後、残された私達はその場に座り込んで、ただただシンを待った。
傾いていた日は、すっかり沈みかけていて、夕焼け色に染まった世界は本当に美しかった。歩いて来た方向を見ると、私達の足跡の窪みの一つ一つに影が落ち、黒い点々とした線を作っている。頑張って歩いた証なのだけど、それも時間が経てば消えていくのだろうと思うと、虚しくあがいている自分と重なった。
まだかしら、と呟いた時、砂を踏む音がしてシンが現れた。
「待たせて申し訳ない。まだ少し警戒している者もいるけど、とりあえず中へどうぞ。」
立ち上がってシンの促す方向へ足を踏み出した。見えないけれど、たぶん門をくぐったのだと思う。くぐった途端に視界に広がったのは砂の山なんかではなく、小さな村だった。休憩の時にシンが作ったような小さい家でなく、きちんとした建物が並んでいる。真ん中は広場になっているのだけれど、砂漠の筈なのに砂なんてなくて、木も草もはえていた。その広場にテーブルや椅子が並んでいて、たくさんの人が動き回っている。
「不思議、、、」
「オーウェンさんは、こっちで話を。3人は好きに過ごしていて。」
放心している私達に、シンはそう言い残してオーウェンさんと行ってしまった。
「ええと、どうしたらいいのかしら?」
3人で目を見合わせた。
「私は2人の護衛を任されておりますので、付いて行きます。」
ノアがそう言うけれど、どこに行けば、、、。
思い悩んでいたら、広場の方から小さな女の子が駆けてきた。子供だけれど目を奪われそうなくらい美しい。ああ、やっぱりここはジェミューの村なんだと納得した。はぁ、はぁ、と息をきらせて、話し掛けて来た。
「はぁ、はぁ、、シンにーちゃんが、、はぁっ、夕食を、食べててって、、」
「え?」
「はぁっ、今から、、ごはんっ、だから、こっち、」
付いて来るように言われて、女の子の後ろに続いた。ノアが女の子を見て固まり、動かなくなっていたので、ミアが足を踏みつけると、はっとして、違うんですっ、と言いながらあたふたと付いてきた。
さっきシンは警戒している人もいる、と言っていたけれど、思いの外、皆優しく接してくれた。食べ物も美味しい。
お腹も空いていたのでもぐもぐ食べていたけど、ふと、我に返った。私の目的はこんな事ではなかったはず。
***レイラ
ウィレムが私の目の前で服を脱ぎ始めて、慌てた。ついちょっと前に「焦りすぎたか」と言って納得してくれたと思っていたのに、そうではなかったらしい。
「ウィレムっ、ままま待ってっ!!」
「もう十分待っただろう。」
ウィレムの引き締まった上半身が露になった。恥ずかしい。心臓がどくどくとあり得ない早さで鳴っていて、汗ばんできた。
覆い被さって来るのを押し返そうとしたら、引き締まった胸板に触れてしまって身体中から湯気がでた。ウィレムの両手が素早く私の両手を掴んで固定した。組み敷かれてしまった私はなす術もなくさらけ出される。抗議するより前に濃厚な口付けが降ってきた。それを必死で受け止めながら、どうしよう、どうしようと思っているうちに、涙が出てきた。
頭がぐちゃぐちゃする。ここ数日の間で、こういう事の覚悟はしなければと思い始めているけれど、心の準備はまだ出来ていない。それにあの薬はウィレムの指示かもしれないのに、私はジュリに無理やり返した。ウィレムは私が薬を飲むものと思っているのかもしれない。恐くてとても聞けないし、言えないし、本当にぐちゃぐちゃする。
「そんなに嫌なのか?」
泣いている私に気付いて、そう聞かれた。ウィレムの目が見れない。
「ごめんなさい、もう少しだけ、待って下さい、、本当に、もう少しだけ、、」
「ふん、」
「 いっ、、!」
私の両手を一掴みにしたウィレムは身体のあちこちに血が滲むくらいの歯形を残していった。
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