73 / 92
73
しおりを挟む***ジュリ視点***
お嬢様に、涙を流しながら1人になりたい、と言われ、私はどうすることも出来ずに部屋を出た。お嬢様の顔が頭から離れなくて、胸は、ぎゅうぎゅうと押し潰されそうだ。
時間を置いて、もう一度お嬢様を見に行ったとき、お嬢様はまだ泣いていた。
まだ乾きそうにない涙の跡が、どれだけ泣き続けているのかを物語っている。ただでさえ華奢で儚げなお嬢様の身体は触れたら消えてしまうのではないかと思われた。
こんな事なら あんな嘘をつかなければよかった。
夕食も食べられないというお嬢様にはとりあえず寝ていて貰うことにして、私は急いで部屋を出た。陛下がもうすぐ部屋に戻って来てしまう。その前に、どうしたらいいのか聞かないと、、、。私は必死でメリッサを探した。
まず向かったのは さっき会った厨房で、でもそこにメリッサはいなかった。
冷や汗が止まらない。お腹の下の方が、きゅぅ、と冷えてきた。
焦りながら洗濯場を探し、リネン室も探したけどやっぱりどこにもいなくって、、きょろきょろと見渡していたら、突然 窓の向こうの庭にある、温室が目に飛び込んできた。私は滅多に立ち寄らない場所だけど、温室では王妃殿下専用の花を育てていたはず。直感だった。弾かれた様に夢中で走り、たどり着いた先で、私はやっとメリッサを見つけることができた。
「メリッサ! はぁっ、 良かった。あのね、 はぁっ、、はぁっ、、お嬢様に、あの、話を、したのだけど、はぁっ、、お嬢様が突然泣き出してしまってっ。 はぁっ、はぁっ、どうしよう、私、、どうしていいか分からなくって。」
呼吸を整える余裕もなくて、はぁはぁ と息を切らせながら一気に聞いた。
「お嬢様、泣いたの?」
しゃがんで花を見ていたメリッサが、くるりと振り向いた。足元には花びらがたくさん落ちていた。
「ええっ、すごくっ。 はぁっ、私、どうしよう、もうすぐ陛下が戻ってくるのにっ」
メリッサは、大丈夫 と、にっこり微笑んだ。
「ジュリはすごいわ。もうお嬢様の本心を引っ張り出せたのね。」
「え、、、? どうして? 私、失敗したんじゃ、、」
「お嬢様は大丈夫よ。泣いたのは余程びっくりしたからだと思うわ。でも直ぐに逃げ出さないのなら大丈夫。ジュリの言う通り、お嬢様の気持ちは本物だったのね。後は陛下に慰めて貰ったらいいのよ、ね。」
そう言われると、なんだか大丈夫な気がしてきた。メリッサに、すごい と言われ、気分が上昇した、嬉しい。
「私は成功したのね、、? あぁでも、陛下に何て言えば、、 」
「あははっ。」
「え?」
突然メリッサが笑い声を上げたので、思わず目を丸くしていると、彼女は花を1本折ってから立ち上がった。影にかくれていた花壇が露になって、どきりとした。そこに花がほとんど無いのは、元からだったのかしら、、? 足元に散らばった花びらが、違和感を誘うけれど今はそれどころじゃなくてかき消した。
「ふふ。ジュリって本当にお利口さんだわ。あ、お利口さんは失礼だったわね、ええと、素晴らしい人、ね。あのね、陛下に作り話まで伝えると ややこしくなるから、真実の部分だけ、白状なさいな。エレノアの侍女から聞いた、って言うのは忘れないでね。」
「真実の、部分だけ? でも真実って、どこまでなの?」
「あら、私、最初に言ったじゃない。ジェミューの剥製が宝物庫にあるって。そこだけ伝えて、お嬢様が泣いているって言えば、後は陛下がどうにかしてくれるわ。ほら、急いだ方がいいんじゃない?」
「わ、分かったわ! ありがとうっ」
良かった。私は合っている、間違えていない、大丈夫。 、、、大丈夫。
**
ばたばたと1人分の夕食をワゴンに乗せて部屋に滑り込んだら、間も無く陛下が戻ってきた。
「ん? レイラはどうした?」
「あ、ええと、、あの、お嬢様は、今、お休みに、、」
「何故だ?」
いざ目の前で聞かれると緊張してしまう。
「あ、あの、少し気分が優れないようでして、、あの、ええと、、」
「はっきり言え。」
「はい、あの、私、お嬢様がこんなに驚くとは思ってもみなくて、、それで、あの、エレノア様の侍女から聞いた噂話をうっかりお嬢様に話してしまったのです。」
「何をだ?」
陛下が苛立っている。早く言わないとと思うのに、説明するのが難しくて、おたおたしてしまう。
「へ、陛下、あの、すみません、私、ジェミューの剥製がこの王宮の宝物庫にあるっていう話を聞いて、それを、お嬢様に、、」
「は、、、? ジュリ、今、何を言った?」
陛下のお顔を見て、どきっとした。さっきまでの自信は瞬く間に消えていった。やっぱり私は間違えていた? 心臓が縮み上がる。
「あ、、えっと、、へ、陛下? あ、あの、す、すみませんでした。わた、私、、そんなつもりじゃなくて、、ただ、き、聞いた話を、」
「違う、そんなことは聞いていない。レイラに何を言った?」
「あの、あの、宝物庫にジェミューの剥製がある、と。」
「それでレイラは? 今どこにいる?」
「あの、あの、、だから、、お、お休みに。」
陛下の足が即座に寝室へ向かった。
「あのっ、あのっ、寝室じゃありませんっ」
慌てて後ろ姿に呼び掛けると、陛下はドアの取手に掛かった手を ぴたり、と止めた。
「何故だ?」
「え、ええと、1人になりたいと言って、ご自分の、部屋に、、」
「、、、」
「あの、へ、陛下?」
「、、、もういい、下がれ。」
「でもあのっ」
「下がれ。」
部屋を出るときに、一瞬だけ振り返って陛下の顔を盗み見た。
私は、なんて大変な事を、、、 陛下の、今にも泣きそうな顔を、私は 初めて見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる