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***アリア視点***

かなり粗っぽいやり方だったけど、私はマイクから話を聞くことが出来た。しかも彼はオリバー商会の者だから内密にリュヌレアムと繋がる事も出来そうだ。彼と出会ったのは私にとって、本当に幸運だった。

ただ、陛下との会話の内容はとても信じたくないものだった。陛下は争いを望んでいらっしゃる、、? いくら強い国だからといっても、回避出来る争いをそのまま放置なさるなんて。それはつまり、リュムレアムを、、、

はっとした。以前にも頭をよぎった考えだけれど、陛下は本当にリュヌレアムを切ろうとなさっているのでは、、?

ドクドクと心臓が煩く騒ぎ始めて、落ち着け 落ち着け、、、と自分に言い聞かせるように胸を押さえた。

「ほ、他には? マイク、もしかして陛下は新しい取引国について何か仰っていなかったかしら?」

ジェミューの細工の件で焦っていた陛下が思い出される。

「あ、、ええと、、これは伝言を頼まれただけなのですが、、、新しい取引国への最初の便に、新しい品目を1つ追加して欲しい、という事と、あと、数はないが反応を確かめておきたい、と言っていました。」

「最初の便? 数は少ないと言っていたのね?」

最初の便、、、新しい品目の追加、、

それは、品目が多数あるという事で、、。 ぞくりとした。やはり陛下はリュヌレアム以外の国と深く関わろうとしていらっしゃる。私の知らないところで着々と準備を進めていたのだ。
そして新しい品目というのはきっとジェミューの細工の事だ。予定より早くジェミューの細工を披露するために、手元にある完成品を加えるつもりなのだ。
確かにあんなに繊細な細工を見たら、相手国は身を乗り出して来る気がする。私は、部屋の隅に置いてある それ の入った箱をちらりと見た。

「あの、、俺は、今、大丈夫なのでしょうか、、あの、つ、つまり、俺は今、、と、とんでもない事を、?」

「マイクさん、アリア様の前で失礼です。」

「は、はい、すみません。」

ミアが乱暴過ぎたのか、マイクはすっかり怯えていた。でも、可哀想だけれど彼には今後も協力してもらうつもりだ。

「安心してマイク、あなたは私にとって必要な存在なの。悪いようにはしないと約束するわ。それに私は争いを止めたいと思っているだけなの。無駄な犠牲を出すのは良くないことでしょ?」

「は、はい。」

「手紙を書くわ。ミア、道具をお願い。」

「はい、分かりました。」

そうして、直ぐに机の上に道具が準備されたのだけど、私はペンを握って暫くの間 紙とにらめっこをした。万が一、見つかっても誤魔化せるように内容を工夫しないといけないからだ。考えて考えて考えながら、どうにか書き終えてミアに一度 目をとおしてもらった。

手紙には、当たり障りのない挨拶、お父様の体調のお伺い、そして最近の出来事として、こちらに来るときに国から持って来ていた髪紐が擦り切れてしまいそうな事、 その、僅かに繋がった断面を覗いて見ると蒼い糸だと思っていたのが、実は中心は白い糸だったという事。 それから新しい糸を使って繋ぎ直そうと思ったけれど、そうしてしまうと私の髪色と合いそうにない事 を書き連ねている。

「アリア様は蒼い髪紐なんて持っていましたか?」

ミアが ぽかん とした顔で聞いてきた。

「持っていないわよ。ミア、普通に解釈しないで頂戴。伝えたいことを文面に隠してあるのよ。」

「あっ、そうですよね、すみません。」

ミアはもう一度 手紙に目を落とし、右に、左に首を傾けた。

「あのねミア、陛下の事は目の色から 蒼 、ジェミュー迫害の件は潔白だと示す為に 白、そしてリュヌレアムを切って他国と手を結ぼうとしていることを髪紐に例えたの。これでは伝わらないかしら?」

説明するとミアが ぱっと顔を上げた。

「いいえアリア様。教えて頂いて読むと私でも なるほど、と思います。リュヌレアムの国王陛下はアリア様のお父様ですから、きっとお分かりになると思います。」

「ならいいのだけど、、、」

意味が伝わらなくとも、普段しない髪紐の話には疑問を抱く筈で、少なくとも警戒はしていただけると思う。

私は書いた手紙をマイクに託した。難しい事ではない、ただ、リュヌレアムに送る荷物の中に入れてくれればいいのだ。

そうしてマイクはミアに任せ、私はソファーに身を預けた。今 考えないといけない事はもう1つ。手元にある例の品をどう扱うべきかということだ。お父様と連絡が取れるまで時間を稼ぎたいところだけれど危険な上に本当に意味があるのかどうかも分からない。

悩みに悩んだ挙げ句、私は奇策を思いついたのだった。


***リサ視点***

新規の取引国へ向けての最初の荷物を見送った。まずは感触を確かめる、といったところだけど上手く事が進めばこれからどんどん忙しくなる。束の間の休息を楽しむ為に私は部屋に戻ろうとしていたのだけど、一緒に荷物を見送ったサイラスが引き留めてきた。

「リサ」

「なによ?」

あんな事があってから、私達はすっかり公認の仲になってしまっている。その事自体は不思議と嫌ではなくて、くすぐったく思う自分もいるのだけど、でもやっぱり急過ぎて戸惑いもある。それにマルクスさんの事も忘れた訳ではなくて、時々もやもやとした罪悪感が顔を覗かせる。少し気まずくて、つい素っ気なく答えた。

「あの、さ、け、結婚なんだけど、、」

「、、、うん。」

分かってはいるけど、口に出されて どきりとした。

「今の、取引がさ、安定したら、、どうだ?」

「、、、」

「だ、旦那様は直ぐにでも、って言ってるけど、リサは、、急すぎると嫌だろ?」

「うん、、、そうね、ありがとう。」

あんな風に無理やり唇を奪う程の激しさを見せたかと思えば、触れる事もせずにそっと私を気遣ってくる。そんな彼の優しさに胸がきゅぅ、と締め付けられた。だけど次の瞬間にはまた罪悪感がちらついた。胸がもやもやする。
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