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逃げる!
しおりを挟むサンノベール村から離れなければ!
ショーン・トゥールークになった俺はひたすら逃げる。
PC上で雑魚モンスター相手に、逃げる、なんて選択肢をしたことはなかったが、逃げ足、もとい、瞬足が役立った。
ショーンの部屋にあったナイフは借りては来たが、殺傷能力には乏しい。
そもそもゲームとリアルでの戦闘がこうも違うとは、と思い知らされる。
草原を走り、たまに木に隠れ、また走る。
モンスターと出くわしたら、速攻、逃げる。
そうこうしていたら木々に囲まれた川に辿り着いた。
顔を洗い、手のひらで掬い水を飲む。
不意に水面に映る自分を見つめた。
金色の髪、ぱっちりとした瞳は水色だ。
優輝はトゥールーク家が水色の瞳を持つ家系だとは知らなかった。
「すっげ、外人みてー」
つい、呆けていた隙に背後に気配を感じた。
振り返ると雑魚モンスターが俺に襲いかかる寸前だ。
「ギャーっ!」
もはや、ここまでか。
まさか、異次元の世界で命を落とすとは...。
が、プギャ!とモンスターが背後から倒された。
「な、何が起こったんだ...?」
「いっちょう挙がり!大量大量」
モンスターを鷲掴みにし、イッシッシ、と狡猾ながら明るい声で男性は背中に背負った籠に自ら倒したモンスターを放り投げた。
Tシャツから覗く、日焼けした黒い肌は筋肉隆々。
頭にはバンダナを巻いた30代と思しき男性は、
「大丈夫かー?おぼっちゃん」
おぼっちゃん、の一言にグキりとする。
ショーン・トゥールークとバレたのだろうか、と冷や汗を流し、尻もちをついたまま男性を見上げた。
「家出か?」
「いえ、僕に家はないので...」
ラスボスの父上、ベック・トゥールークの事もよく知らない。
唐突にこの世界に入り込んでしまい、もうお家に帰りたい。
本物の両親に会いたい。生意気としか思ってなかったはずの弟や妹にも会いたい...。
完全なホームシックだ。
「あ、あー...余計なことを聞いちまったな、面目ねー」
男性が複雑な面持ちで頭を掻いた。
「行く宛がないんなら家に来るか?飯もご馳走するべ」
ごはん!
ぐー、と腹が鳴った。
「ハッハッハ。正直な腹やなあ、ほら、着いてこい。お前、名前は?俺はキール」
キールが手を差し伸べ、握ると尻もちを着いていた優輝、かつショーンが立ち上がる。
「俺は、ゆ、ショ、す、スカイです」
このRPGをやっていた時の仮の名前。
優輝という名はもちろん、ショーンなんて名乗りでもしたら今度こそ命はないかも、と思い出した名前だ。
「スカイかー、いい名前だな。その珍しい瞳の色みたいやな」
並んで歩く気さくなキールの瞳を見ると琥珀色だった。
そうして、キールの住むラトゥーブル村へと歩を進めた。
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