救う毒

むみあじ

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7月 グロリオサ

第67話

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リュックから取り出したメイクポーチのチャックを開ける。中に入っているチューブタイプの化粧下地を取り出し、手の甲に適量を出した。ひたすらに視線を感じるものの、構わずに顔に塗りたくる。



暫く集中して化粧をしたかいあってか、いつもよりも随分早く仕上がった。これで俺は平凡顔。


「…すげぇな、詐欺メイクすぎんだろ」
「いや、盛れてないから詐欺メイクではなくね?」
「……なら特殊メイクか…?」


眉を顰めて本気で悩みはじめた諒先輩に笑いながらメイクポーチをリュックにしまい背負って立ち上がる。

変装をした状態になったので、やっと風紀室へ行ける。もう既に外は暗くなりつつある。時計を確認すれば、針は6時半頃を指しているではないか。その事実に驚愕しつつ、さっさと諒先輩と共に保健室を出た。

没収されたジッポライターを返してもらいたくってブツブツと文句を言いつつ、気になっていた事を聞くタイミングを伺う。

それは勿論、あの時近くにいた千秋の事。千秋って約束は破らないから、俺が居なくなってからすぐ風紀に連絡して自分でも探してくれたんだろうから、ありがとうってちゃんと言いたい。


「そういや千秋は?俺の事探してくれたとは思うんですけど、俺がなんともないって知ってるんですか?」
「…あー、直接は連絡してねーけど、知ってはいるんじゃね?風紀室にいんだろ、多分…」



ありゃ、てっきり先輩が直接連絡してると思ってた。諒先輩自身千秋が帰ったか風紀室にいるかはわからないようで、自信なさげにつぶやいた。まぁ多分、帰ってるだろうな

最近の千秋は俺の事心配してるってバレないように頑張ってるんだ。流石に今日の体調不良はそれどころじゃ無かったから気にかけてくれたっぽいけど。照れてるっていうか、1人がいいって思ってるのに心配しちゃってる自分が受け止めきれないか今更意見を曲げられなくて意固地になってる、みたいな状態だと俺は予想している。不器用だよなぁ。


「もしいるとしても、なんでこんな時間まで?」
「あー、そうだな…多分聞き取りじゃねーか?」
「そっか~…結構時間かかるんですね。聞き取りって」
「…言うほど時間かかんねー筈なんだけどな」
「ま、いるかは分かんないし?てか俺的にはもう帰ってると思うんですよね~」


そう言って話しているうちに明かりのついた教室が見えてくる。俺はすかさずいつもの内気モードに切り替え、諒先輩の影にさっと隠れると可笑しそうな笑い声が微かに聞こえた。毎回笑うなこの人。

文句を言う前にガラリと扉は開けられてしまい、すぐに体を縮こませた。風紀室の中は何やら大忙しのようで、何かを書いていた1人の生徒が諒先輩を見た瞬間音を立て立ち上がった。


「おッッッッそいぞ如月!!こっちは人手不足でてんてこまいなんだよ!!!何油売ってんだ!!!」
「油売ってませんって。制裁被害者のアフターケアしてたんですよ」


175㎝以上はあるであろうその人は、大声で叫びながら細いフレームのメガネを掛け直している。三白眼のその人は、目尻を吊り上げているためかひたすらに目つきが悪い。千秋と五分五分。ネクタイの色や言動から分かる通り、諒先輩の一個上、3年生なのだろう。

黒髪七三という髪型に加え、制服を正しく着こなしているから真面目な人かと思ったんだが…3年生、なんだよな…諒先輩に風紀委員長を押し付けた3年生の1人、なんだよな…

というか風紀委員長じゃないのに黒髪七三メガネなのなんでなん?黒髪七三メガネは風紀委員長の特権でしょ??

そんなツッコミを心の中でしているとようやく俺の存在に気がついたようで、視線をこちらへ向けた。


「む?君が北条の件の被害者であり、久道の件の、実質的な原因か?」
「えっ?久道の件、ですか?」


前者はわかる。俺は無傷だけど確かに被害者だ。でも久道の件って何?千秋、なんかしたの?


「なんだ如月。お前話してないのか?」
「あーーー…体調不良が酷かったんで、話すタイミングがなかったんですよ」
「聴取室が空くまでの間にとっとと話せ!!このアホ!!」


怒鳴り声を上げてまた自分の机に戻っていった黒髪七三メガネ先輩をぼんやり見送って、すぐに諒先輩へと視線を戻した。

なんとも言い辛そうな表情をして数度頭を掻いた後、応接用と思わしき机と椅子へ案内される。諒先輩の対面に座れば、眉を下げながら説明を始めた。


「鏡宮がSクラス前のトイレから消えた時にだな、お前のスマホと置き手紙が残ってたんだよ。で、置き手紙の方には第二体育館裏にお前がいるから来いって書いてあってな…俺に一度連絡寄越したあと久道はそっちに直行したんだ」
「…そう、ですか…」
「んで、久道はそこで大暴れしだらしくてだな…この情報はお前を助けてすぐにした電話で報告されたんだが、その後は何も連絡を受けてねーからわかんねーんだよな…」


諒先輩の声が遠くで聞こえる。まるで世界に俺1人になってしまったのかと錯覚するほど、周囲の音が遮断されていった。


俺を餌にして千秋を釣ったのか。そうか、そうか。


俯きながらも、演技なんてものを忘れて薄らと口元に笑みを浮かべる。俺が今抱いているのは、明確な怒りの感情。それは勿論、これを企てた人間に対してのものと、俺自身に対してのものだ。



倉沢くらさわ先輩、久道ってもう寮に返したんですか?」
「はぁ?何言ってる。アイツは誘き寄せられた場所で大暴れしたあと速攻でどこかに走っていったぞ!今もまだ校舎内じゃないか?探させているがいかんせん見つからない。だからこそ人手不足なんだよ分かれ!!!」
「はぁ!?!?それ早く言えっつのッこの元ヤン!!!!」
「るせぇ!!!!テメッ、1年がいる前でバラしてんじゃねぇッ!!!しばくぞ!!!」


ぼーっとしつつ2人の会話を聞きながら、徐に立ち上がる。
そんな俺に気がついた諒先輩は、どうしたのかと俺を見つめてきた。それにしっかりと見つめ返しながら、にっこりと笑えば俺の雰囲気が変わった事に驚いている。


「千秋に電話して、ここに呼んで。今すぐに」
「あ、あぁ、勿論するが…」
「それと、俺、もう演技しませんから。性格は素で行きます」
「はぁ!?」


さらに驚いたようで、大声を出してしまっている。諒先輩の声に釣られるように、倉沢先輩と呼ばれていた先輩も顔を上げ、こちらを見つめた。

左耳に邪魔な茶髪をそっとかける。これは俺が意識を切り替える時によくやるルーティンであり、子供の頃からの癖だ。こうする事でやっと俺は演技から完全に抜け出せる。
もう一度、口元に笑みを浮かべる。イメージするのはニィさんと八剣がたまに浮かべる笑みだ。

氷のように冷たく剣のように鋭い、まるで価値がないと言いたげな微笑み。
2人はきっと、ただの虫ケラにくれてやるにはあまりにも贅沢だと言うだろう。あぁ、全くその通り。

この笑顔を引き出させた虫ケラには、しっかりと対価を払って貰わねばならない。




「俺の周りにも手を出すんだもの。調子に乗りすぎだよ。流石に踏み潰さないと、鬱陶しいでしょ?」


─────────────────
イヨくんは割と結構すんごく俺様。
8月の夏休みまで駆け抜けたいのに書きたいものが割と多くて駆け抜けれません。
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